カスタマーハラスメントに関する条例
(令和6年11月29日更新)
【東京都の条例】
〇 東京都は、令和6年10月11日、カスタマーハラスメントの防止のため、
東京都 | 令和6年10月11日公布 | 令和7年4月1日施行 |
を制定した。
〇 本条例は、「事業者」を「都の区域内(以下「都内」という。)で事業(非営利目的の活動を含む。)を行う法人その他の団体(国の機関を含む。)又は事業を行う場合における個人」、「就業者」を「都内で業務に従事する者(事業者の事業に関連し、都の区域外でその業務に従事する者を含む。)」、「顧客等」を「顧客(就業者から商品又はサービスの提供を受ける者をいう。)又は就業者の業務に密接に関係する者」、「著しい迷惑行為」を「暴行、脅迫その他の違法な行為又は正当な理由がない過度な要求、暴言その他の不当な行為」としたうえで、「カスタマー・ハラスメント」を「顧客等から就業者に対し、その業務に関して行われる著しい迷惑行為であって、就業環境を害するもの」と定義づけている(2条1号~5号)。
〇 そのうえで、「何人も、あらゆる場において、カスタマー・ハラスメントを行ってはならない。」(4条)とし、カスタマー・ハラスメントを禁止している。他方で、「この条例の適用に当たっては、顧客等の権利を不当に侵害しないように留意しなければならない。」(5条)としている。
〇 また、「カスタマー・ハラスメントは、顧客等による著しい迷惑行為が就業者の人格又は尊厳を侵害する等就業環境を害し、事業者の事業の継続に影響を及ぼすものであるとの認識の下、社会全体でその防止が図られなければならない。」及び「カスタマー・ハラスメントの防止に当たっては、顧客等と就業者とが対等の立場において相互に尊重することを旨としなければならない。」ことを基本理念とする(3条)とともに、都、顧客等、就業者及び事業者の責務(6条~9条)を定めている。
〇 さらに、都は、カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針を定め(11条)、指針に基づき、カスタマー・ハラスメント防止施策を実施する(13条)ものとし、事業者は「指針に基づき、必要な体制の整備、カスタマー・ハラスメントを受けた就業者への配慮、カスタマー・ハラスメント防止のための手引の作成その他の措置を講ずるよう努めなければならない。」(14条1項)、就業者は「事業者が前項に規定するカスタマー・ハラスメント防止のための手引を作成したときは、当該手引を遵守するよう努めなければならない。」(14条2項)としている。
〇 事業者や顧客等に対する勧告、命令、公表等の措置や罰則は、規定していない。
〇 カスタマーハラスメントに関して定めた条例としては、全国初のものとなる。
〇 東京都は条例案の作成に先立ち、令和5年10月に「カスタマーハラスメント防止対策に関する検討部会」を設置し、防止対策の具体的な内容を検討し、それを踏まえ、令和6年7月に「東京都カスタマーハラスメント防止条例(仮称)の基本的な考え方」をパブリックコメントに付している(その結果は、「「東京都カスタマーハラスメント防止条例(仮称)の基本的な考え方」への意見募集結果」参照)。
なお、同検討部会の事務局提出資料である「第1回令和5年10月31日(火)資料」、「第2回令和5年12月22日(金)資料」、「第3回令和6年2月6日(火)資料」及び「第4回令和6年4月22日(月)資料」は、カスターハラスメントやその防止のためのルールづくりに関する論点等を整理しているので、参照されたい。
〇 本条例の内容等については東京都HP「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」、東京都の取組み等については東京都HP「TOKYOノーカスハラ支援ナビ」を参照されたい。
【北海道の条例】
〇 北海道は、令和6年11月29日、議員提案により、カスタマーハラスメントの防止のため、
北海道 | 令和6年11月29日公布 | 令和7年4月1日施行 |
を制定した。
〇 本条例は、「顧客等」を「事業者により物品又は役務の提供(公共サービスを含む。)を受け、または受ける可能性のある者又は事業者の業務に関係する者」、「事業者」を「顧客等に物品又は役務を提供する事業(非営利を含む。)を行う法人その他の団体(国や地方公共団体の機関を含む。)又は個人」、「従業者等」を「事業者の役員若しくは使用人その他の従業者又は事業者(個人に限る。)であって、顧客等と直接の契約関係にあるか否かを問わない」としたうえで、「カスタマー・ハラスメント」を「従業者等に対する顧客等からの要求、言動等のうち、その態様や程度が社会通念上不相当なものであ って、当該要求、言動等により、従業者等の就業環境が害される行為」と定義づけている(2条1号、2号、4号、5号)。
〇 そのうえで、顧客等の責務として、「顧客等は、カスタマーハラスメントを行ってはならない。」(5条)とし、カスタマー・ハラスメントを禁止している。
〇 また、カスタマーハラスメント対策は、「顧客等、事業者等、道民それぞれの主体的な取組により推進されなければならない。」、「事業者等がその従業者等をカスタマーハラスメントから保護し、良好な就業環境を守るための取組として適正な対応を行うことが重要であるという認識の下に、各関連法令の趣旨を踏まえて推進されなければならない。」及び「顧客等の苦情の申出等を行う機会を確保することが当該顧客等の利益を擁護するものであるとともに事業者の事業活動の発展に資することを踏まえ、顧客等からの要望の申出や権利行使等が不当に妨げられることのないよう配慮しなければならない。」ことを基本理念とする(3条)とともに、都及び事業者等の責務(4条、6条)並びに道民の役割(7条)を定めている。
〇 さらに、道は、「事業者等が行うカスタマーハラスメント防止に係る取組によりとられることとなるべきカスタマーハラスメントへの適切な対処方法、カスタマーハラスメントの事例、その他の必要な事項を定めた指針を作成し、公表する。」(9条)とするほか、情報収集・情報提供、相談支援体制の整備、人材育成、啓発活動等の施策を講ずる(10条~14条)ものとし、事業者は「道が実施するカスタマーハラスメント対策に協力する。」(6条1項)としている。
〇 事業者や顧客等に対する勧告、命令、公表等の措置や罰則は、規定していない。
【国の取組み】
〇 令和元年6月に「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律」(令和元年6月5日公布)が制定されたことに伴い、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」が改正され、事業主に職場におけるパワーハラスメント防止のために雇用管理上講ずべき措置が義務づけられた(原則として令和2年6月1日施行)。
それに伴い、「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)」が制定された(令和2年1月15日告示、令和2年6月1日適用).
同指針は、カスタマーハラスメントに関して、事業主は、「顧客等からの著しい迷惑行為(暴行、脅迫、ひどい暴言、著しく不当な要求等)により、その雇用する労働者が就業環境を害されることのないよう、雇用管理上の配慮として」、例えば、①相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、②被害者への配慮のための取組(メンタルヘルス不調への相談対応、行為者に対して1人で対応させない等)を行うことが望ましく、また、③被害防止のための取組(マニュアル作成や研修の実施等、業種・業態等の状況に応じた取組)を行うことが有効と考えられる、としている。
〇 令和3年1月には「顧客等からの著しい迷惑行為の防止対策の推進に係る関係省庁連携会議」が設置され、カスタマーハラスメント対策のあり方について検討が進められ、令和4年2月に厚生労働省により「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」や「カスタマーハラスメント対策リーフレット」が作成された(厚生労働省HP「「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」等を作成しました!」参照)。また、令和5年度には、カスタマーハラスメント対策企業向け研修動画が作成されている(厚生労働省HP「ハラスメント対策研修動画」参照)。
〇 なお、令和6年6月21日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2024~賃上げと投資がけん引する成長型経済の実現~」においては、「カスタマーハラスメントを含む職場におけるハラスメントについて、法的措置も視野に入れ、対策を強化する。」(30頁)と記述されている。
【他の自治体の取組み】
〇 秋田県の「秋田県多様性に満ちた社会づくり基本条例」(令和4年3月25日公布、令和4年4月1日施行)は、「何人も、他人に対して、優越的な関係を背景として、不当な要求をすることその他の不当な行為をしてはならない。」(3条2項)と規定し、9条に基づき策定された「多様性に満ちた社会づくりに関する指針」(令和4年4月策定)において、カスタマーハラスメントの具体例と判断に当たって配慮すべき点を提示している。
すなわち、顧客や取引先から従業員に対する行為の具体例として「・土下座の強要 ・長時間にわたる謝罪の要求 ・大声で威嚇する、暴言を吐く ・一方的で不当な要求の執ような繰り返し ・人格を傷つける発言 ・福祉サービスの男性利用者から、女性職員への卑わいな会話」を掲げ、判断に当たって配慮すべき点として「○カスタマーハラスメントは、労働者の疲弊や仕事のストレス要因になり得るものです。 ○要求内容や要求態度が社会通念に照らし著しく不相当である悪質なクレームや迷惑行為は、場合によっては強要罪、恐喝罪等の犯罪として処罰されることもあります。 ○自らの行動が社会に影響を与えることの自覚を持ち、社会の担い手として、モラルとマナーを備えて行動する「自立した消費者」であることが求められています。 ○また、企業にとっては、その他の通常の顧客等へのサービス低下や、労働者が大きなストレスを受ける職場である場合、離職率の増加や人材が集まらないこととなる可能性もあります。 ○これらの行為については、労働者に大きなストレスを与えるものであり、労働者を保護する観点から事業主による相談体制の整備、被害者のケア、対応マニュアルの整備等の対策が必要とされています。」と記述している。
〇 自治体の職員に対する不当要求行為に対する対策については、少なからぬ自治体で条例が制定されている。
例えば、滋賀県守山市の「守山市不当要求行為等対策条例」(平成15年9月22日公布、平成15年10月1日施行、令和2年4月1日最終改正施行)は、不当要求行為等に、職務を遂行する職員に対し、自らの要求を直接的または間接的に実現するため、違法または暴力行為その他の社会的常識を逸脱した手段を用いる「ア 身体の一部や器具を使って、故意に職員を傷つけようとする行為、イ 職員が恐怖を感じ、反論し得ない状況に追い込む程度の脅迫行為、ウ 正常な業務が遂行できない程度のけんか行為、エ 粗野または乱暴な言動により職員に嫌悪の情を抱かせる行為、オ 正当な権利行使を装い、金銭および権利を不当に要求する行為」(2条1項5号)を含め、「何人も、職員に対して不当要求行為等をしてはならない。」(4条)としたうえで、不当要求行為等対策委員会の設置(5条)、不当要求行為等の行為者への警告等(6条)、対策責任者の設置(7条)等を定めている。
不当要求行為対策に関する条例については、「職員倫理、コンプライアンス、公益通報等に関する条例」を参照されたい。
〇 その他、自治体におけるカスタマーハラスメント対策については、山谷清秀「「カスハラ」とはいかなる問題であるのかー 続・自治体におけるカスタマーハラスメント対策の実態と課題ー」(自治総研2024年7月号)、山谷清秀「カスタマーハラスメントにどう対応するのか」(自治体法務研究2024年秋号)が詳しい。
〇 首長等や議員によるハラスメントに関する条例については、「首長等や議員によるハラスメントに関する条例」を参照されたい。