山林火災・林野火災の予防に関する条例

(令和7年8月29日更新)

【足利市の条例】

〇 栃木県足利市は、令和4年3月に、山林火災の予防のため、

栃木県足利市

足利市の美しい山林を火災から守る条例

令和4年3月25日公布

令和4年4月1日施行

を制定した。

〇 前文で、令和3年2月21日に発生した「西宮林野火災は、市がこれまでに経験したことのない規模となり、今後の山林火災対応に大きな教訓を残した。」としたうえで、「この西宮林野火災の教訓を後世に伝えるとともに、二度とこのような山林火災を発生させないよう火災予防活動に努めるほか、防災体制の一層の充実を図るため」、本条例(以下「足利市山林火災予防条例」という。)を制定するものとしている。

 基本理念(3条)、市、市民、入山者及び山林関係者の責務(4条~7条)を定めるとともに、市民等(市民、入山者及び山林関係者)に対して、山林の屋外での喫煙と火の使用を禁止している。

〇 喫煙については、市民等は、山林の屋外において喫煙してはならない(8条1項本文)と規定している。ただし、車内又は吸殻容器が設置され、山林関係者により喫煙が認められた場所は対象外(8条1項ただし書)とし、その場合でも点火用具(マッチ、ライター等)の取扱い及び吸殻の始末を適切に行なわなければならない(8条2項)としている。

 火の使用については、市民等は、山林の屋外においてたき火、煙火又は裸火の使用をしてはならない(9条1項本文)と規定している。ただし、住宅、寺院及び事業所の敷地内の場合は対象外(9条1項ただし書)とし、この場合でも、風勢等によって他に延焼する恐れがあると認められるとき又は火災警報が発令されたときは、火の使用を禁止するとともに火を使用している場合は直ちに消火しなければならず(9条2項)、また、火を使用する場合は、残火、取灰及び火粉を適切に始末するとともに、消火を確認するまでその場を離れてはならない(9条3項)としている。

 違反行為に対して、勧告・命令等の行政処分や罰則等の規定は置いていない。

〇 足利市山林火災予防条例の内容等については足利市HP「『足利市の美しい山林を火災から守る条例』が制定されました!!」を、また、西宮林野火災とその対応については足利市HP「災害記録誌「足利市西宮林野火災の記録~火災の概況と本市等の対応~」」を参照されたい。火災の原因は、「何者かのタバコの不始末による出火と推定する」(「足利林野火災の概要①」(消防庁「より効果的な林野火災の消火に関する検討会」第1回会議 資料4)とされている。

〇 なお、足利市は、足利市山林火災予防条例とは別に、火災予防に関して、

栃木県足利市

足利市火災予防条例

平成2年3月26日公布

平成2年5月23日施行

を制定している。

 足利市火災予防条例は、喫煙やたき火等に関しては、劇場、百貨店等火災が発生した場合に人命に危険を生ずるおそれのある場所や重要文化財等の建造物で消防長が指定する場所における喫煙を禁止する(23条1項)とともに、可燃物の近くにおけるたき火を禁止する(25条1項)ほか、火災に関する警報の発令中における山林、原野等の屋外での喫煙、屋外のたき火等を禁止している(29条)。

 足利市火災予防条例は、火災予防全般に関して規定を置き、喫煙やたき火に関して、場所や時期を限定して禁止しているのに対して、足利市山林火災予防条例は、山林火災の予防に特化し、山林における喫煙やたき火等を原則として禁止している。

 足利市火災予防条例と足利市山林火災予防条例は、一般法と特別法の関係に立つものと考えられる。

〇 山林火災予防に特化した条例は、他の自治体では確認できない。また、山林における喫煙やたき火等を原則として禁止する条例も、他の自治体では確認できない。

 

【消防法と火災予防条例】

〇 全国の市町村(東京都内で東京都に消防事務を委託している市区町村は東京都、一部事務組合等で消防事務を広域処理している市町村は当該一部事務組合等)は、足利市と同様に、火災予防条例を制定している。

〇 消防法は、一定の規制事項については、その内容を市町村条例に委任する旨の規定を置いている。

 例えば、9条では「かまど、風呂場その他火を使用する設備又はその使用に際し、火災の発生のおそれのある設備の位置、構造及び管理、こんろ、こたつその他火を使用する器具又はその使用に際し、火災の発生のおそれのある器具の取扱いその他火の使用に関し火災の予防のために必要な事項は、政令で定める基準に従い市町村条例でこれを定める。」(9条)と規定し、火を使用する設備の位置、構造及び管理の基準等やその他火災の予防のために必要な事項は、政令で定める基準に従い市町村条例で定めるものとしている。

 また、22条4項では火災に関する警報が発せられたときは「警報が解除されるまでの間、その市町村の区域内に在る者は、市町村条例で定める火の使用の制限に従わなければならない。」(22条4項)と規定し、火災に関する警報の発令中における火の使用の制限については、条例で定めるものとしている。

 これらの消防法の委任規定に基づき、また、自治体として火災予防上必要な事項を定めるため、火災予防条例が制定されている。

〇 総務省消防庁は、全国の自治体に対して、「火災予防条例(例)」を示している(昭和36年11月22日付け自消甲予発第73号により「火災予防条例準則」が示され、平成12年11月22日付け消防予第257号により「火災予防条例(例)」と名称が改められている。その後も、法令の改正等により、順次改正されている。)。

 この火災予防条例(例)は、消防組織法37条に基づく助言として発出され、執務の参考にすべきものとされている。

〇 火災予防条例(例)では、喫煙やたき火等に関して、次のような規定を置いている。

 

(喫煙等)
第23条 次に掲げる場所で、消防長(消防署長)が指定する場所においては、喫煙し、若しくは裸火を使用し、又は当該場所に火災予防上危険な物品を持ち込んではならない。ただし、特に必要な場合において消防長(消防署長)が火災予防上支障がないと認めたときは、この限りでない。
一 劇場、映画館、演芸場、観覧場、公会堂若しくは集会場(以下「劇場等」という。)の舞台又は客席
二 百貨店、マーケツトその他の物品販売業を営む店舗又は展示場(以下「百貨店等」という。)の売場又は展示部分
三 文化財保護法(昭和25年法律第214号)の規定によつて重要文化財、重要有形民俗文化財、史跡若しくは重要な文化財として指定され、又は旧重要美術品等の保存に関する法律(昭和8年法律第43号)の規定によつて重要美術品として認定された建造物の内部又は周囲
四 第1号及び第2号に掲げるもののほか、火災が発生した場合に人命に危険を生ずるおそれのある場所     (2項以下 略)

(空地及び空家の管理)
第24条 空地の所有者、管理者又は占有者は、当該空地の枯草等の燃焼のおそれのある物件の除去その他火災予防上必要な措置を講じなければならない。
2 空家の所有者又は管理者は、当該空家への侵入の防止、周囲の燃焼のおそれのある物件の除去その他火災予防上必要な措置を講じなければならない。

(たき火)
第25条 可燃性の物品その他の可燃物の近くにおいては、たき火をしてはならない。
2 たき火をする場合においては、消火準備その他火災予防上必要な措置を講じなければならない。

(がん具用煙火)
第26条 がん具用煙火は、火災予防上支障のある場所で消費してはならない。
2 がん具用煙火を貯蔵し、又は取り扱う場合においては、炎、火花又は高温体との接近を避けなければならない。
3 火薬類取締法施行規則(昭和25年通商産業省令第88号)第91条第2号で定める数量の5分の1以上同号で定める数量以下のがん具用煙火を貯蔵し、又は取り扱う場合においては、ふたのある不燃性の容器に入れるか、又は防炎処理を施したおおいをしなければならない。

(火災に関する警報の発令中における火の使用の制限)
第29条 火災に関する警報が発せられた場合における火の使用については、次の各号に定めるところによらなければならない。
一 山林、原野等において火入れをしないこと
二 煙火を消費しないこと。
三 屋外において火遊び又はたき火をしないこと。
四 屋外においては、引火性又は爆発性の物品その他の可燃物の附近で喫煙をしないこと。
五 山林、原野等の場所で、火災が発生するおそれが大であると認めて市(町・村)長が指定した区域内において喫煙をしないこと。
六 残火(たばこの吸殻を含む。)、取灰又は火粉を始末すること。
七 屋内において裸火を使用するときは、窓、出入口等を閉じて行なうこと。

(火災とまぎらわしい煙等を発するおそれのある行為等の届出)
第45条 次の各号に掲げる行為をしようとする者は、あらかじめ、その旨を消防長(消防署長)に届け出なければならない。
一 火災とまぎらわしい煙又は火炎を発するおそれのある行為
二 煙火(がん具用煙火を除く。)の打上げ又は仕掛け
三 劇場等以外の建築物その他の工作物における演劇、映画その他の催物の開催
四 水道の断水又は減水
五 消防隊の通行その他消火活動に支障を及ぼすおそれのある道路工事
六 祭礼、縁日、花火大会、展示会その他の多数の者の集合する催しに際して行う露店等の開設(対象火気器具等を使用する場合に限る。)

 

 23条~26条の規定は、消防法9条の委任規定に基づき定められている。なお、これらの規定に違反する行為に対して、火災予防条例(例) は、勧告・命令等の行政処分や罰則等の規定を置いていない。消防法46条が消防法9条の3に基づく条例に一定の罰則を設けることができる旨を規定しているのに対して、消防法は消防法9条に基づく条例については罰則に関して何ら規定を置いていないこと等の理由により、消防法9条に基づく条例の規定に違反した者に対する罰則を当該条例で定めることはできないと解されている(総務省消防庁監修「逐条解説 消防法」(東京法令 平成15年3月)210頁)。

 29条の規定は、消防法22条4項の委任規定に基づき定められているが、消防法22条4項に違反した行為に対しては消防法44条18号により30万円以下の罰金又は拘留を科すものとされている。

 45条の規定は、火災とまぎらわしい煙等を発するおそれのある行為等をする場合には、消防長(消防署長)への届出を義務づけるものであるが、多くの消防本部ではたき火を「火災とまぎらわしい煙又は火炎を発するおそれのある行為」(1号)として届出の対象としている(「大船渡市林野火災を踏まえた消防防災対策のあり方に関する検討会報告書」資料11「火災警報等に関するアンケート調査結果」86頁~89頁及び資料12「消防本部における火災警報等及びたき火の届出に関する取組の例について」97頁・98頁参照)。

〇 喫煙やたき火等に関して、足利市火災予防条例(23条~26条、29条)は火災予防条例(例)とほぼ同様の規定を置いている(23条~26条、29条、45条)。また、例えば、東京都火災予防条例(23条、25条、25条の2、26条、29条、60条)や横浜市火災予防条例(28条、30条~32条、35条、75条)も火災予防条例(例)とほぼ同様の規定を置いている。全国の他の自治体の火災予防条例も、火災予防条例(例)を参考にして、それに倣った規定を置いているものと考えられる。

〇 消防法9条は、「火の使用に関し火災の予防のために必要な事項は、政令で定める基準に従い市町村条例でこれを定める。」と規定しており、火災の予防に関する条例は「政令で定める基準」に従い定められなければならないとされている。喫煙やたき火等の火の使用に関する事項については、具体的な基準は定められていないが、消防法施行令5条の3は「法第9条に基づく条例の規定は、火災の予防に貢献する合理的なものであることが明らかなものでなければならないものとする。」と規定しており、火災の予防に貢献する合理的なものであることが明らかなものであれば、地域の実情を踏まえて自治体の独自な判断より定めることができるとしている。

〇 足利市山林火災予防条例は、足利市の山林火災の発生状況等を踏まえて、山林火災の予防に貢献する合理的なものとして、制定されたものと考えることができる。

〇 なお、消防法23条は「市町村長は、火災の警戒上特に必要があると認めるときは、期間を限って、一定区域内におけるたき火又は喫煙の制限をすることができる。」と規定し、違反行為に対しては30万円以下の罰金又は拘留を科す(消防法44条18号)としている。

 

【森林法と条例】

〇 森林法は、森林における火災の防止に関連して、火入れに関して規定を置いている。

 すなわち、「森林又は森林に接近している政令で定める範囲内にある原野、山岳、荒廃地その他の土地においては、その森林又は土地の所在する市町村の長の許可を受けてその指示するところに従つてでなければ火入れをしてはならない。ただし、国又は地方公共団体が火入れをする場合は、この限りでない。」(21条1項)と規定している。

 市町村長の許可手続等について、火入れに関する条例を定めている市町村は多い。例えば、足利市は、

栃木県足利市

足利市火入れに関する条例

昭和59年6月13日公布

昭和59年6月13日施行

を制定している。

〇 また、森林法は、「前二条に規定するものの外、都道府県は、条例をもつて森林における火災の予防その他危害防止のため必要な定をすることができる。」(23条)と規定し、火入れに関する事項以外で、都道府県は森林火災の予防その他危害防止のため条例を制定できるとしている。

 前述のとおり、消防法9条は火の使用に関して火災の予防のために必要な事項は市町村条例で定める旨規定をしており、森林法23条の規定は森林火災の予防のためには都道府県も条例を制定することができるとする趣旨と考えられる。

 ちなみに、公有林等の火災予防に関して規定を置く都道府県条例はあるもの(例えば、岐阜県公有林緑化県行造林条例5条1項1号)、広く森林の火災予防に関して規定を置く都道府県条例は確認できない。

〇 なお、森林法は、火を失して他人の森林を焼燬した者には50万円以下の罰金を科し、火を失して自己の森林を焼燬し、これによつて公共の危険を生じさせた者も同様とし(203条)、21条1項に違反した者には20万円以下の罰金を科し、21条1項に違反して他人の森林を焼燬した者には30万円以下の罰金を科す(205条)としている。

 

【大船渡市林野火災とそれを踏まえた林野火災における予防・警報のあり方等】

〇 令和7年2月26日に大船渡市赤崎町字合足地内で発生した林野火災は、それまでの記録的な降水量の少なさ、発生日前後の乾燥、強風、地形等の影響により急激に拡大し、火災の覚知から約2時間で延焼範囲は600ha以上にも達し、最終的には約3370haとなり、我が国の林野火災としては昭和39年以降最大、約60年ぶりの記録的な大規模なものとなった。

〇 この大船渡林野火災を踏まえて、総務省消防庁は令和7年4月に「大船渡市林野火災を踏まえた消防防災対策のあり方に関する検討会」を設置し、同検討会は同年8月に「大船渡市林野火災を踏まえた消防防災対策のあり方に関する検討会報告書」を取りまとめた(総務省消防庁HP「大船渡市林野火災を踏まえた消防防災対策のあり方に関する検討会」参照)。

〇 同報告書は、第Ⅱ章「大船渡市林野火災を踏まえた消防防災対策のあり方」のうち第1「林野火災における予防・警報のあり方」1「予防・警報のあり方」として、「林野火災の発生の大半がたき火や火入れといった人為的な要因によるものであることから、まず、平時においては、森林法に基づく火入れの許可制度の周知を行うとともに、たき火の届出制度を火災予防条例(例)に明確に位置付けることなどを通じて、各消防本部がたき火や火入れの実施を把握し、これらを行う者に対して防火指導(場合によっては消防法第3条に基づく措置等)を行うことが必要である。」、「また、実際に林野火災の予防上危険な気象状況になった際には、平時からの取組に加えて、気象庁が二次細分区域(概ね市町村)を明示して火災気象通報を発出するとともに、段階に応じて、各市町村は、火災気象通報も踏まえて、強い制限・罰則を伴わない注意喚起等の仕組みとして創設する(仮称)林野火災注意報や、消防法に基づく火災警報のうち、林野火災の予防を目的とした(仮称)林野火災警報を的確に発令し、防火指導の強化や火の使用制限の徹底等を行うことが必要である。」等としている。

 このうち、⑴「たき火の届出制度」については、「火災予防条例(例)第45条において、火災とまぎらわしい煙等を発するおそれのある行為等の届出が規定されているが、たき火を当該規定に基づく届出の対象としているか否かは市町村により異なる状況にあることを踏まえ、火災予防条例(例)において、たき火が届出の対象であることを明確に位置付け、各消防本部による把握を徹底し、消火準備等の防火指導につなげることが必要である。」、「この場合において、林野火災の発生の危険性に応じ、届出対象地域として林野周辺の地域を指定したり、届出の対象時期を特定の時期に限定したりするなど、地域特性に応じた取組とすることもできる仕組みとすることが考えられる。また、こうした地域指定は、林野火災のハザードマップとしても機能することから、平時からの住民への注意喚起に活用することが考えられる。」(7頁)としている。

 また、⑶「(仮称)林野火災注意報の創設と的確な発令」については、「(仮称)林野火災警報を発令する前段階において、消防本部が強い制限・罰則を伴わず(林野周辺における住民の努力義務等)に林野火災予防に係る注意喚起等を行う仕組みである(仮称)林野火災注意報を創設し、火災予防条例(例)上に位置付けるとともに、具体的な発令指標を設定することで、的確な発令を促すことが必要と考えられる(発令指標の設定(案)は、消防庁が運用通知で示すことが考えられる。)。」(8頁)等とし、さらに、⑷「(仮称)林野火災警報の的確な発令」については、「消防法に基づく火災警報のうち、林野火災予防を目的としたものについて、(仮称)林野火災警報との通称を用いることとし、林野火災の発生・延焼危険度に着目した具体的な発令指標を設定するとともに、火災予防条例(例)において(仮称)林野火災警報発令時の火の使用制限の対象地域を林野火災の発生の危険性に応じて限定することを可能とすることで、林野火災予防に着目した的確な発令を促すことが必要である(発 令指標の設定(案)は、消防庁が運用通知で示すことが考えられる。)。」(9頁)、「火災予防条例(例)を改正し、火の使用制限の項目に係る規定ぶりを整理しつつ、(仮称)林野火災注意報も含め、林野火災の発生の危険性に応じて対象地域を限定することを可能とすることで、(仮称)林野火災注意報や(仮称)林野火災警報の的確な発令を促すことが必要である。」(10頁)等としている 。



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