公明・適正な選挙の確保に関する条例
(令和7年5月3日更新)
【令和6年に実施された各種選挙での選挙運動を巡る課題】
〇 令和6年4月の衆議院東京15区補欠選挙では他陣営の演説中に大音量の拡声機を使ったり、選挙カーを追い回したりする事案があった。
同年7月の東京都知事選挙ではSNSを駆使した候補が大きく票を伸ばし、また、ポスター掲示場に選挙運動と関係のないポスターが多数掲示される事案があった。
さらに、同年11月の兵庫県知事選挙では他の候補の当選を目的とするいわゆる「2馬力」の選挙運動があり、また、SNSによる偽情報の拡散や誹謗中傷が問題となった。
【令和6年10月鳥取県条例の制定】
〇 こうした状況を受け、鳥取県は6年10月に、公明かつ適正な選挙の確保を図るため、
鳥取県 | 令和6年10月10日公布 | 令和6年10月17日施行 |
を制定し、選挙運動用ポスター以外を公営ポスター掲示場に掲示してはならない、ポスター掲示場に選挙運動用ポスター候補者以外の者が掲示し又は1枚を超えて掲示してはならない、選挙の自由妨害罪に該当する行為等を選管、警察等は関係法令に基づき速やかに停止させるよう努める等の規定を置いた。
〇 同条例は、「日本国憲法及び公職選挙法(・・・)の精神にのっとり、鳥取県内において、国会議員並びに地方公共団体の議会の議員及び長を選出する選挙が、選挙人の自由に表明する意思によって公明かつ適正に行われることを確保するとともに、選挙人の積極的な政治参加を促進するための投票環境の向上並びに主権者教育の推進のための施策について必要な事項を定め、もって民主政治及び地方自治の健全な発展を図ること」(1条)を目的としているが、同条例の概要は、以下の通りである(令和6年9月4日鳥取県知事定例記者会見資料「鳥取県健全な民主主義のための公明かつ適正な選挙の確保等に関する条例(案)」参照)。
(選挙運動用ポスターについて)
① 公選法143条の選挙運動のために使用するポスター以外を、公選法144条の2に違反して公営ポスター掲示場に掲示してはならないものとする。
② 公営ポスター掲示場は、選挙運動用ポスター等をそれぞれ1枚掲示することができるものであり、公選法第144条の2第5項に違反し、公職の候補者以外の者が掲示し、又は1枚を超えて掲示して選挙運動用ポスター等を掲示してはならないものとする。
③ 県及び市町村の選管は、法の規定に違反して選挙運動のために使用する文書図画以外のものがポスター掲示場に掲示されたときは、法の規定による撤去の命令、公営ポスター掲示場を管理する権限に基づく措置等を行うものとする。
(その他選挙運動について)
① 選挙の自由妨害罪に該当する行為等その他急迫不正の侵害行為に対し、 選管、警察等の関係機関は、関係法令に基づき、当該急迫不正の侵害行為を速やかに停止させるよう努めるものとする。
② 関係機関等は、選挙運動における表現の自由を不当に侵害しないようにするものとする。
③ 出納責任者は、選挙運動に関するウェブサイト等による広告料収入等について、公選法第189条に基づく報告書の提出その他適正な管理を行わなければならないものとする。
(主権者教育等について)
① 県及び市町村の選管は、関係機関と連携し、発達段階に応じた主権者教育の充実等主権者教育の推進に努めるものとする。
② 県及び市町村の選管は、地域の実情に応じ、期日前投票所の増設やオンライン投票立会等の投票環境向上策の検討及び実施に努めるものとする。
〇 同条例に関し、鳥取県は、令和6年7月7日に執行された東京都知事選では「利益を得る目的で選挙運動の公営制度を濫用する事例が起こった。その1つとして、選挙運動と無関係のポスターが掲示板を埋め、その掲示スペースを他者へ流用させることから経済的利益を得ることが公然と行われ」、「民主主義や地方自治の信認を脅かす事態」となり、また、同年4月28日に執行された東京都第15区衆院補選では「選挙運動の自由が妨害される事態に対し、選挙運動期間中に妨害を停止させるに至らず」、「選挙運動の自由が脅かされた」としたうえで、
他方、公職選挙法は「候補者は、「選挙運動のために使用するポスター」に限り、ポスター掲示場に各1枚のみ掲示することができる」(144条の2参照)としており、①「選挙運動用ポスターでないものをポスター掲示場に貼ることは法的に認められていない」、②「貼ることができる者は公職の候補者に限られ、それ以外は認められていない」、③「掲示場に貼れるのは1枚のみで、それ以外は認められていない」ため、
「選挙管理委員会は、公選法に則り営利目的での掲示場使用は認められないと明確に警告し、公選法やポスター掲示場の管理権に基づき、 ポスターの撤去を求めるなど適切に対応すべき」であり、「公選法第225条の選挙の自由妨害罪の適切な適用を含め、現行の公選法の解釈運用を徹底することで、公明かつ適正な選挙を確保すべき」(令和6年7月18日鳥取県知事定例記者会見資料「公選法の解釈運用を徹底し公明かつ適正な選挙を守るため条例制定を検討」参照)であるとしている。
〇 同条例は、現行の公職選挙法の解釈・運用と徹底及び選挙管理委員会の権限行使の円滑化を図ることを狙いとしている(上記令和6年9月4日鳥取県知事定例記者会見資料参照)。
【令和7年3月公職選挙法の改正】
〇 令和6年に実施された各種選挙での選挙運動を巡る課題を踏まえ、国会でも、公職選挙法の改正が議論され、「最近における選挙運動をめぐる状況に鑑み、選挙の適正な実施の確保に資するため、ポスター掲示場に掲示するポスターの記載に関する義務を定めるとともに、ポスター掲示場に掲示したポスターにおいて営業宣伝をした者に対する罰則を設ける必要がある」として、議員立法により、令和7年3月に、「公職選挙法の一部を改正する法律」が制定された(令和7年4月2日公布・同年5月2日施行)。
〇 同公職選挙法改正法は、ポスター掲示場に掲示するポスターに関し、「その表面に、当該ポスターを使用する公職の候補者の氏名を、選挙人に見やすいように記載しなければならない。」とするとともに、公職の候補者は「他人若しくは他の政党その他の政治団体の名誉を傷つけ若しくは善良な風俗を害し又は特定の商品の広告その他営業に関する宣伝をする等いやしくも当該掲示場に掲示される当該ポスターとしての品位を損なう内容を記載してはならない。」と規定し(改正後144条の4の2第1項及び第2項)、あわせて、ポスター掲示場に掲示したポスターにおいて特定の商品の広告その他営業に関する宣伝をした者は、百万円以下の罰金に処する(改正後235条の3第2項)と規定した。
〇 また、SNSによる偽情報の拡散や誹謗中傷、「2馬力」の選挙運動等を念頭に、附則に「選挙に関するインターネット等の利用の状況、公職の候補者間の公平の確保の状況その他の最近における選挙をめぐる状況に対応するための施策の在り方については、引き続き検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする。」(附則3項)と規定している。
【選挙運動に関する公職選挙法と条例】
〇 なお、公職選挙法は、自治体の議会議員又は長の選挙運動に関して、自治体は、国政選挙の場合に準じて、条例で定めるところにより、ポスター掲示場の設置、選挙公報の発行又は選挙運動用自動車の使用、ビラの作成若しくはポスターの作成の公費負担をすることができる(ポスター掲示場の設置については144条の2第8項(ただし、都道府県知事選挙については144条の2第1項により設置を義務づけ)、選挙公報の発行については172条の2(ただし、都道府県知事選挙については167条1項により発行を義務づけ)、選挙運動用自動車の使用の公費負担については141条8項、ビラの作成の公費負担については142条11項、ポスターの作成の公費負担については143条15項)としている。
この公職選挙法の規定に基づき、多くの自治体は、関連する条例を制定している。例えば、
東京都 | 昭和56年6月18日公布 | 昭和56年6月18日施行 | |
昭和38年3月16日公布 | 昭和38年3月16日施行 | ||
公費負担に関する条例 | 平成5年3月31日公布 | 平成5年3月31日施行 | |
東京都武蔵野市 | 設置に関する条例 | 昭和57年12月20日公布 | 昭和57年12月20日施行 |
関する条例 | 昭和34年3月26日公布 | 昭和34年3月26日施行 | |
公費負担に関する条例 | 平成6年6月28日公布 | 平成6年6月28日施行 | |
東京都神津島村 | 関する条例 | 平成27年3月10日公布 | 平成27年3月10日施行 |
公費負担に関する条例 | 令和3年12月2日公布 | 令和3年12月2日施行 | |
東京都青ヶ島村 | 平成17年5月23日公布 | 平成17年5月23日施行 |
などである。