使用料受領事務の委託について

 当市では、福祉センターの夜間・休日の施設管理業務を、シルバー人材センターに委託しており、委託契約の中で、福祉センター内の会議室などの使用料の受領事務も委託しています(使用許可は既になされています。)。具体的には、夜間・休日については、シルバー人材センターの職員が利用者から使用料を受領し、シルバー人材センター名で領収書を発行し、受領した使用料を金庫に保管します。そして、翌営業日に、当市職員が金庫内の現金の額と領収記録を確認して、指定金融機関に入金しています。
 このような使用料受領事務の委託は、収納の一部のみを委託するものであり、地方自治法(以下「法」といいます。)で定める公金の徴収・収納委託には当たらないと理解していましたが、地方自治法の一部を改正する法律(令和5年法律第19号。以下「令和5年改正」といいます。)により、私人の公金取扱いの制限に関する法の規定が改正されたと聞きました。
 令和5年改正により、当市の使用料受領事務の委託について何か影響はあるでしょうか。

(結論)
 令和5年改正で導入された指定公金事務取扱者の指定が必要と考えます。

(理由)
1 私人の公金事務取扱に関する地方自治法の改正について
 令和5年改正において、公金の徴収・収納・支出の私人への委託について、地方公共団体が、公金事務を適切かつ確実に遂行することができる者を指定し、当該指定をした者(指定公金事務取扱者)に対し公金事務を委託するとともに、収納、すなわち、調定し、納入の通知のあった普通地方公共団体の収入を受け入れる行為については、長の判断により原則全ての歳入等について、指定公金事務取扱者へ委託することが可能とされ、令和6年4月1日から施行されています。
 これは、地方から、全ての歳入について私人への委託を可能にしてほしいとの要望があったこと、また、現行制度においては、長が公金事務の受託者の事務の適正を確保する手段が用意されていない、第三者への再委託が想定されていないなどの課題があったことから、これに対応する改正がなされたものです(黒川了威「Q&Aで読み解く指定公金事務取扱者制度」月刊『地方財務』2024年5月号2頁)。
 具体的には、これまでの使用料等に加え、「雑入」に当たるもの、例えば、行政財産の使用等に伴う通信費・複写機使用料、講座受講に係る教材費、保育所等における食事提供費等や、「歳入歳出外現金」に当たるもの、例えば、公営住宅敷金・礼金、災害見舞金等についても、長の判断により私人に収納を委託することが可能となりました(法第243条の2の5第1項)。また、受託者の事務の適正確保については、指定公金事務取扱者の要件を定める(法第243条の2第1項、法施行令第173条)とともに、当該要件や帳簿保存義務(法第243条の2の2第1項)などの義務に反した場合の指定取消権(法第243条の2の3)が定められたほか、長の報告徴求・検査・質問権(法第243条の2の2第2項ないし第5項)、会計管理者による検査、監査委員による検査報告の徴求といった規定が設けられています(法第243条の2第8項ないし第10項)。
 なお、徴収、すなわち、普通地方公共団体の歳入の調定、納入の通知、収入の受入れという一連の事務を委託できる歳入に関しては、従前どおり、法施行令及び個別法令に規定されているものに限定されています(法第243条の2の4第1項)。

2 質問について
 質問のケースでは、指定金融機関への入金は市で行い、シルバー人材センターには使用料の受領のみを委託する内容となっています。
 これは、収納の一連の事務の一部を委託するものですが、法第243条の2第1項は、公金事務を「収納…に関する事務」としており、これには、事務の一部の委託も含まれるものと解されること、法第243条の2第5項は、指定公金事務取扱者から公金事務の一部について委託を受ける者について、同条第6項は、当該公金事務の一部の委託を受けた者からさらにその一部について再委託を受ける者について、それぞれ指定公金事務取扱者と同様の要件を課しているところ、事務の一部の委託の場合に要件充足が不要とすることは、これらの規定と均衡を欠くことになることからすると、事務の一部の委託の場合でも、「公金事務を適切かつ確実に遂行することができる者」(法第243条の2第1項)に委託すべきであるといえます。
 よって、指定公金事務取扱者の指定が必要であると考えます。

〇地方自治法
(指定公金事務取扱者)
第243条の2 普通地方公共団体の長は、公金の徴収若しくは収納又は支出に関する事務(以下この条及び次条第1項において「公金事務」という。)を適切かつ確実に遂行することができる者として政令で定める者のうち当該普通地方公共団体の長が総務省令で定めるところにより指定するものに、この条から第243条の2の6までの規定の定めるところにより、公金事務を委託することができる。
2~4 略
5 指定公金事務取扱者は、第1項の規定により委託を受けた公金事務の一部について、公金事務を適切かつ確実に遂行することができる者として政令で定める者に委託をすることができる。この場合において、指定公金事務取扱者は、あらかじめ、当該委託について普通地方公共団体の長の承認を受けなければならない。
6 前項の規定により公金事務の一部の委託を受けた者は、当該委託をした指定公金事務取扱者の許諾を得た場合であつて、かつ、公金事務を適切かつ確実に遂行することができる者として政令で定める者に対してするときに限り、その一部の再委託をすることができる。この場合において、指定公金事務取扱者は、あらかじめ、当該再委託について普通地方公共団体の長の承認を受けなければならない。
7 略
8 会計管理者は、指定公金事務取扱者について、定期及び臨時に公金事務の状況を検査しなければならない。
9 略
10 監査委員は、第8項の規定による検査について、会計管理者に対し報告を求めることができる。
(指定公金事務取扱者の帳簿保存等の義務)
第243条の2の2 指定公金事務取扱者は、総務省令で定めるところにより、帳簿を備え付け、これに公金事務に関する事項を記載し、及びこれを保存しなければならない。
2 普通地方公共団体の長は、前条、この条及び第243条の2の4から第243条の2の6までの規定を施行するため必要があると認めるときは、その必要な限度で、総務省令で定めるところにより、指定公金事務取扱者に対し、報告をさせることができる。
3・4 略
5 第3項に規定する権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。
(指定公金事務取扱者の指定の取消し)
第243条の2の3 普通地方公共団体の長は、指定公金事務取扱者が次の各号のいずれかに該当するときは、総務省令で定めるところにより、第243条の2第1項の規定による指定を取り消すことができる。
一 第243条の2第1項に規定する政令で定める者に該当しなくなつたとき。
二 前条第1項の規定に違反して、帳簿を備え付けず、帳簿に記載せず、若しくは帳簿に虚偽の記載をし、又は帳簿を保存しなかつたとき。
三 前条第2項又は第243条の2の6第3項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をしたとき。
四 前条第3項の規定による立入り若しくは検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は同項の規定による質問に対して陳述をせず、若しくは虚偽の陳述をしたとき。
2 普通地方公共団体の長は、前項の規定により指定を取り消したときは、その旨を告示しなければならない。
(公金の徴収の委託)
第243条の2の4 普通地方公共団体の長が第243条の2第1項の規定によりその徴収に関する事務を委託することができる歳入は、他の法律又はこれに基づく政令に特別の定めがあるものを除くほか、政令で定めるものとする。
2~4 略
(公金の収納の委託)
第243条の2の5 普通地方公共団体の長が第243条の2第1項の規定によりその収納に関する事務を委託することができる歳入等は、次の各号のいずれにも該当するものとして当該普通地方公共団体の長が定めるものとする。
一 指定公金事務取扱者が収納することにより、その収入の確保及び住民の便益の増進に寄与すると認められるもの
二 その性質上その収納に関する事務を委託することが適当でないものとして総務省令で定めるもの以外のもの
2・3 略

〇地方自治法施行令
(指定公金事務取扱者等の要件)
第173条 地方自治法第243条の2第1項、第5項及び第6項(同条第7項の規定により適用する場合を含む。)に規定する政令で定める者は、次の各号に掲げる要件のいずれにも該当する者とする。
一 地方自治法第243条の2第1項に規定する公金事務(次号において「公金事務」という。)を適切かつ確実に遂行することができる財産的基礎を有すること。
二 その人的構成等に照らして、公金事務を適切かつ確実に遂行することができる知識及び経験を有し、かつ、十分な社会的信用を有すること。

〈参考文献〉
・ 松本英昭『新版逐条地方自治法』第9次改訂版(学陽書房)
・ 黒川了威「Q&Aで読み解く指定公金事務取扱者制度」月刊『地方財務』2024年5月号2頁~18頁
・ 城戸彩花「行政通知の読み方・使い方―地方自治法施行令等の一部を改正する政令及び地方自治法施行規則等の一部を改正する省令の公布及び施行について(通知)」季刊『自治体法務研究』2024年秋号79頁~83頁
・ 神谷美来・黒川了威「地方自治法の一部を改正する法律について(下)」月刊『地方自治』令和5年8月号19頁~44頁