職員への自宅待機命令と給与等の支給について

 当市の職員が、私生活上の犯罪で逮捕され、マスコミにより報道されました。勾留された後、被疑事実を認め被害者と示談が成立して釈放されたことや、自分がしたことに間違いないということについて、本人と弁護人からの報告があり、現在は有給休暇を取得中です。
 懲戒処分を決定する前に出勤させた場合、職場における混乱や市民からの苦情等が明確に予想されるため、当面の間、当該職員に対して自宅待機命令を発することを検討しています。
 当市には自宅待機命令について定めた条例はありませんが、このような自宅待機命令を発することは可能でしょうか。また、自宅待機させる場合、当該職員にテレワーク等で担当させることのできそうな業務が特にありませんが、給料等は支給すべきでしょうか。

(結論)
 合理的な必要性が認められる場合は、自宅待機命令は可能ですが、自宅で担当させることのできる業務がない場合でも、原則として給料等は支給すべきです。

(理由)
1 自宅待機命令について
 地方公務員法は、自宅待機命令の可否、要件、手続等について定めを置いていませんが、合理的な必要性が認められる一定の場合において、公務の運営上必要であるとして自宅待機命令を発することは、任免権者の適切な裁量行使として可能であると考えられます。例えば、職務上の犯罪が行われ、当該職員の勤務を継続させることが懲戒事由の調査において支障となる場合や、私生活上における犯罪であるが、その内容・性質、当該職員の地位や担当業務、報道の状況や社会的影響の大きさなど諸般の事情に照らして、懲戒処分の決定前に当該職員を職場に復帰させることで公務に支障を生じさせるおそれがある場合などは、合理的な必要性があると考えられます。
 一方で、地方公務員法第29条第4項は「職員の懲戒の手続及び効果は、法律に特別の定めがある場合を除くほか、条例で定めなければならない。」としており、法律や条例に定めのない懲戒を行うことはできませんから、実質的に見て停職に当たるような自宅待機をさせることはできません。
 また、自宅待機中、当該職員にテレワークや研修等、自宅でできる業務を与えることができず、結果として当該職員が具体的な労務の提供をしなかったとしても、自宅待機自体が職務命令によるものである以上は、原則として給料等は支給する必要があります。職務命令に従った対応をしていることで任用関係に基づく労務の提供をしたことになるため、職務専念義務違反にも当たらないものと解されます。

2 判例の動向
 この点について、大津地判令和2年10月6日は、自宅待機命令を受けた職員が、当初は年次有給休暇を取得した取扱いをされたものの、その後無給となった期間についての給料等の支払いを求めた事案において、「原告は、被告の服務規律に従い、被告がした職務命令に従った対応をしているのであるから、原告と被告の任用関係に基づく労務の提供をしたと認めるのが相当であり、仮に、原告が具体的な労務の提供をしていないとしても、それは被告が自宅待機中になし得る労務を原告に与えなかった結果にすぎない」、「本件自宅待機命令が、原告の被告に対する給料請求権を失わせる効果をもたらすものというのであれば、それは原告に対する不利益処分として、地方公務員法の29条4項に従って法律や条例で定めなければならないのであるが、職員が無給となる自宅待機命令について定めた法律や条例上の根拠がないことは前提事実のとおりである。法律や条例上の根拠がないまま、事実上懲戒処分同様の効果をもたらす措置を講じることは許され」ないとして、給料等を支給しないことは違法であると判示しました。ただし、勤勉手当については、条例上、任命権者の定める成績率を乗じた金額が支給されることとなっており、任命権者が当該職員の不正の内容を踏まえ成績率をゼロと定めたことについて、当該成績率の判断に裁量権逸脱濫用はないとしています。
 同裁判例は、「不正行為をめぐる社会的影響が大きかった」といったことだけでは、懲戒処分と同様の影響を及ぼす措置(すなわち無給での自宅待機命令)を講じることは許されないともしています。民間の労使関係については、使用者が賃金支払い義務を免れるためには、労働者を就労させないことについて「不正行為の再発、証拠湮(隠)滅のおそれなどの緊急かつ合理的な理由又はこれを実質的な出勤停止処分に転嫁させる懲戒規程上の根拠」が必要であるとされています(名古屋地判平成3年7月22日)。法に基づくべき公法上の任用関係においては、緊急性や合理性について、民間の場合と同等以上に厳格に考えるべきでしょう。

3 自宅待機命令の期間、起訴休職への切替え
 自宅待機命令の期間は、自宅待機させることの合理的な必要が認められる最短の期間とすべきであり、「懲戒処分を決定する前に出勤させた場合、職場における混乱や市民からの苦情等が明確に予想される」という本件の理由からすれば、懲戒処分を決定するのに必要な期間のみということになります。なお、正式起訴された場合は起訴休職(地方公務員法第28条第2項)の方法で休職させることが可能ですから、その時点で懲戒処分を決定できていないのであれば、自宅待機から起訴休職に切り替えることになります。

〇地方公務員法
(降任、免職、休職等)
第28条 略
2 職員が、次の各号に掲げる場合のいずれかに該当するときは、その意に反して、これを休職することができる。
一 心身の故障のため、長期の休養を要する場合
二 刑事事件に関し起訴された場合
3・4 略
(懲戒)
第29条 1~3 略
4 職員の懲戒の手続及び効果は、法律に特別の定めがある場合を除くほか、条例で定めなければならない。