公共施設の名称変更による著作者人格権の侵害について

 当市では、公共施設の改修に合わせ、民間企業と連携したネーミングライツの導入を進めています。
 今回改修を予定している公共施設は、20年ほど前に市内の小学生から名称を募集し、「にこにこ交流館」という名称が採用された経緯があります。ただし、当時の応募に際しては、著作権譲渡や著作者人格権の不行使に関する同意書は取得しておらず、命名者であるAとは現在連絡が取れていません。
 今回のネーミングライツにおいては、「にこにこ交流館」という旧来の名称の前に「企業名」を表記した形(例えば、△△ホールディングスであれば、「△△にこにこ交流館」)とする予定です。このように、旧来の名称(にこにこ交流館)に企業名を加える形で名称変更を行う場合、命名者Aの著作者人格権(具体的には同一性保持権、著作権法第20条第1項)を侵害することになるのでしょうか。

(結論)
 著作者人格権を侵害するとはいえません。

(理由)
1 著作物性について
  著作権法第2条第1項第2号では、「著作者」を「著作物を創作する者」と定義しており、著作権及び著作者人格権は、「著作者の権利」として位置付けられています(同法第17条第1項)。したがって、ある表現が「著作物」に該当しない場合には、その創作者には「著作者の権利」としての著作者人格権が発生せず、著作者人格権の侵害が問題となることはありません。
  それでは、「著作物」とはどのようなものなのでしょうか。
  著作権法第2条第1項第1号では、著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文学、学術、芸術又は音楽の範囲に属するもの」と定義しています。このうち、取り分け重要なのが「創作的」に表現したものという点、すなわち創作性です。
 著作権法には創作性の定義が明文で規定されているわけではありませんが、著作物が創作者による独自の精神的作業の成果であることから、創作性が認められるためには、高度な独創性や芸術性までは必要とされないものの、創作者の個性が表れていることが必要と解されています。したがって、ごく短い表現や、日常的で平凡な表現については、そのような個性が認められず、創作性が否定される場合が多いです。

2 「にこにこ交流館」の著作物性について
 本件の「にこにこ交流館」という名称は、一般的な形容詞と名詞の組合せで構成された、ごく平易で汎用的な表現にとどまるものであり、創作者の個性が表れているとはいえません。そのため、創作性があるとは認められず、著作物には該当しないと考えられます。
 したがって、それを創作したAには著作者人格権は発生していませんので、その名称の一部を変更して企業名を冠した形で使用したとしても、Aの著作者人格権を侵害することにはならないと考えられます。
 なお、名称の変更に当たっては、創作に対する一定の敬意を表する観点から、創作者に事情を説明するなどの対応を取ることが本来は望ましいですが、本件ではAと連絡が取れない状況にあることから、このような対応を取ることができなくても、やむを得ないものといえます。

〇著作権法
(定義)
第2条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
 一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
 二 著作者 著作物を創作する者をいう。
 三~二十五 略
2~9 略
(著作者の権利)
第17条 著作者は、次条第1項、第19条第1項及び第20条第1項に規定する権利(以下「著作者人格権」という。)並びに第
21条から第28条までに規定する権利(以下「著作権」という。)を享有する。
2 著作者人格権及び著作権の享有には、いかなる方式の履行をも要しない。
(同一性保持権)
第20条 著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。
2 略

〈参考文献〉
中山信弘『著作権法[第4版]』(有斐閣)
半田正夫・松田政行編『著作権法コンメンタール1[第2版]』(勁草書房)