認知症施策に関する条例
(令和3年1月19日更新)
【制定状況】
〇 認知症に関する施策を推進することを目的とする条例として、令和3年1月19日現在で確認できているものは、
愛知県大府市 | 推進条例 |
平成29年12月26日公布 | 平成30年4月1日施行 |
神戸市 | 平成30年3月30日公布 | 平成30年4月1日施行 (平成31年4月1日改正施行) |
|
愛知県設楽町 | 平成30年9月25日公布 | 平成30年9月25日施行 |
|
愛知県 | 平成30年12月21日公布 | 平成30年12月21日施行 |
|
和歌山県御坊市 | 平成31年3月15日公布 | 平成31年4月1日施行 |
|
島根県浜田市 | 令和元年9月30日公布 | 令和元年9月30日施行 |
愛知県知多市 | 平成31年3月26日公布 | 平成31年4月1日施行 |
名古屋市 | まちづくり条例 |
令和2年3月27日公布 | 令和2年4月1日施行 |
愛知県東浦町 | 令和2年6月26日公布 | 令和2年6月26日施行 |
|
滋賀県草津市 | 令和2年6月29日公布 | 令和2年7月1日施行 |
|
東京都世田谷区 | 令和2年9月30日公布 | 令和2年10月1日施行 |
である。
【大府市の条例】
〇 大府市認知症に対する不安のないまちづくり推進条例は、平成29年12月に制定されたが、認知症に関する施策を推進することを目的とした条例としては全国初のものと言える。
〇 条例制定の経緯と基本的考え方は、「平成19年12月に市内で発生した認知症の人の鉄道事故から、10年が経過しました。この事故は、認知症の人を介護する家族の監督義務の有無をめぐり最高裁判所まで争われたこともあり、多くの国民の関心を集め、様々な課題を私たちに投げかけました。高齢化の一層の進展により、認知症が原因で日常生活や社会生活上の不安を抱える人は今後も増加すると見込まれており、その対応は、今や我が国のみならず世界共通の課題となっています。・・・認知症を予防できるまち、そして認知症になっても安心して暮らすことのできるまちの実現を目指して、この条例を制定します。」(前文)としている。
〇 条例では、基本理念、市民、事業者、地域組織及び関係機関の役割、市の責務を規定する(3条〜8条)とともに、正しい知識の普及に関する施策、予防に関する施策及び認知症の人及びその家族への支援に関する施策を推進する(9条〜11条)こととし、こうした施策を調査、審議する機関として大府市認知症地域支援ネットワーク会議を設置する(12条)こととしている。
〇 大府市の認知症施策の取組状況については、「認知症不安ゼロのまちづくり〜愛知県大府市の取組〜」(令和元年版高齢社会白書第1章第3節 トピックス)を参照されたい。 また、自治体法務研究2018年夏号CLOSEUP先進・ユニーク条例「大府市認知症に対する不安のないまちづくり推進条例」を参照のこと。
【神戸市の条例】
〇 神戸市認知症の人にやさしいまちづくり条例は、理念的な規定のみならず、給付金の支給など具体的な施策に関する規定を盛り込んでいる。
〇 条例制定の経緯と基本的考え方は、「・・・平成28年9月にG7保健大臣会合が神戸市で開催された際に,認知症に関する取組が言及された神戸コミュニケが出され, 平成29年5月に世界保健機関総会にて認知症に関する行動計画であるグローバルアクションプランが採択された。神戸市は,国の認知症施策総合推進戦略(新オレンジプラン)を推進するとともに, この世界的な認知症への取組を実践する中で,市民誰一人として取り残さないとの決意の下,この条例を制定する。」(前文)としている。
〇 条例は、基本理念、市の責務、市民及び事業者の役割、予防及び早期介入、治療および介護の提供、地域の力を豊かにしていくことなどの理念的な規定を置く(3条〜7条、10条、11条)とともに、市長が定める方法によって認知症と診断された者による事故に関して給付金の支給その他必要な施策を講じる(8条)とするとともに、その実施に必要な財源の充てるため個人市民税均等割の超過課税を行う(9条)としていることが、極めて特徴的である。
〇 この条例を踏まえて、神戸市は、全国初となる認知症対策の「神戸市モデル」を実施しており、そのポイントは
@ 65歳以上の市民は、自己負担ゼロで医療機関における2段階方式の認知症診断を受診することができる。
A 認知症と診断された市民は、事故を起こし賠償責任を負うこととなった場合に備え、市の負担で賠償責任保険に加入し、事故時に最高2億円が支給される。
B 神戸市民が認知症の者が起こした事故に遭った場合、市が最高3千万円の見舞金を支給する。
C 以上の事業の財源に充てるため、個人市民税均等割を、令和元年度から令和3年度まで、年額400円引き上げる。
ことであるとしている(以上について、神戸市HP「認知症の人にやさしいまちの推進について」を参照のこと)。
〇 本条例については、自治体法務研究2020年春号CLOSEUP先進・ユニーク条例「神戸市認知症の人にやさしいまちづくり条例」を参照のこと。
【愛知県の条例】
〇 都道府県が制定した条例として、愛知県認知症施策推進条例がある。
〇 条例は、「全ての県民が認知症について『じぶんごと』として取り組み、もって認知症の人が尊厳を保持し、認知症の人及びその家族が安心して暮らすことのできる地域社会の実現に寄与すること」(1条)を目的としたうえで、基本理念、県の責務、市町村、県民、関係機関及び事業者の役割、認知症施策の総合的かつ計画的な推進等、県民の理解等、医療及び介護の提供体制の充実、地域づくりの推進等、相談体制の整備等、認知症研究の促進、財政上の措置などの規定を置いている(愛知県の認知症施策などについては、愛知県HP「高齢福祉課地域包括ケア・認知症対策室」を参照のこと)。
【御坊市の条例】
〇 御坊市認知症の人とともに築く総活躍のまち条例は、「認知症の人の視点に立ち、認知症の人とともにつくった条例」であることが、他の条例にみられない特徴であるとしている。
〇 条例制定過程で、認知症の人の意見を聞き、条文に反映させ、その結果、「施策の実施に当たっては、認知症の人の意見を聴き、計画、実施及び評価する」(4条2項)、「認知症の人は、暮らしやすいまちを築くために、自らの希望、思い及び気づいたことを、身近な人、市、関係機関等に発信する」(5条1項)、「認知症の人は、地域の一員として、自らの意思により社会参加及び社会参画する」(5条2項)などの規定を置き、条例名も「認知症の人とともに築く総活躍のまち条例」としたとしている(以上に関しては御坊市HP「御坊市認知症の人とともに築く総活躍のまち条例」を、 御坊市の取組等については「認知症・総活躍のまちづくり」を参照のこと)。
【名古屋市の条例】
〇 名古屋市は、「地域の多くの人々がボランティアなど認知症の人への支援に積極的に参画してきており、認知症の人と家族にやさしいまちをつくりあげるための土壌が名古屋市にはあります。」(前文)としている。
〇 それを踏まえて、名古屋市認知症の人と家族が安心して暮らせるまちづくり条例では、認知症サポーターの養成や活躍(9条)、認知症の人同士や家族同士のピアサポート(同じ症状や悩みを持ち、同じような立場の人同士の相互支援)の取組み(12条2項)等に必要な施策を推進するとしている。また、成年後見制度の利用の促進などの権利擁護の充実に関する規定(13条)を置いている。
【世田谷区の条例】
〇 世田谷区認知症とともに生きる希望条例は、東日本で初めて制定された条例である。「検討委員会及びワークショップにおいて認知症のご本人に参加していただき、その思いや意見を直接聴き、またパブリックコメントを通じ区民からも様々なご意見を受け、それらを丁寧に議論し制定に至りました。」(世田谷区HP「世田谷区認知症とともに生きる希望条例(令和2年10月制定)」としている。条例の検討経緯については、世田谷区HP「世田谷区認知症とともに生きる希望条例の検討経過」が詳しい。
〇 基本理念、区の責務、住民の参加、地域団体、関係機関及び事業者の役割、基本的施策等のほか、推進体制として、認知症計画の策定(16条)、認知症在宅生活サポートセンターを拠点とした施策の推進(17条)及び認知症施策評価委員会の設置(18条)を規定している。区民は、認知症とともに生きる人の「パートナー」であるという意識を持つよう努めるものとする(5条3項)等の規定も置いている。
【その他の条例】
〇 設楽町、浜田市、知多市、草津市及び東浦町の条例は、いずれも、基本理念、自治体の責務、住民、事業者及び関係機関の役割等を定め、そのうえで、自治体が講ずべき施策について規定している。それに加え、知多市条例は認知症に関する事項を定めた計画(8条)を、草津市条例は行動計画(9条)を、策定するものとしている。なお、草津市条例は「認知症の予防」を「認知症になるのを遅らせることまたは認知症になっても進行を緩やかにすること」(2条2号)と、東浦町条例は「認知症予防等」を「認知症を予防し、及び認知症の進行を緩やかにすること」(2条2号)と、定義づけている。また、浜田市の条例は、議員提案により制定されたものである。
【国の動き】
〇 国では、令和元年6月18日、認知症施策推進関係閣僚会議において、「認知症施策推進大綱」をとりまとめた(なお、国の認知症施策全般については、厚生労働省HP「認知症施策」を参照のこと)。
〇 なお、議員立法による認知症基本法案が国会に提出されている。