農作物の種子に関する条例
(令和6年11月18日更新)
【条例制定状況】
〇 主要農作物種子法が平成30年4月に廃止されたが、その後、以下のような道府県が主要農作物の種子に関する条例を制定している(令和6年11月1日時点で確認できているもの)。
兵庫県 | 平成30年3月22日公布 | 平成30年4月1日施行 | 知事提案 | |
新潟県 | 平成30年3月20日公布 | 平成30年4月1日施行 | 知事提案 | |
埼玉県 | 平成30年3月30日公布 | 平成30年4月1日施行 | 議員提案 | |
山形県 | 平成30年10月16日公布 | 平成30年10月16日施行 | 知事提案 | |
富山県 | 平成30年9月28日公布 | 平成31年1月1日施行 | 知事提案 | |
福井県 | 平成31年3月11日公布 | 平成31年4月1日施行 | 知事提案 | |
北海道 | 平成31年3月15日公布 | 平成31年4月1日施行 | 知事提案 | |
宮崎県 | 平成31年3月22日公布 | 平成31年4月1日施行 | 知事提案 | |
岐阜県 | 平成31年3月27日公布 | 平成31年4月1日施行 | 議員提案 | |
鳥取県 | 令和元年7月4日公布 | 令和元年7月4日施行 | 知事提案 | |
長野県 | 令和元年7月16日公布 | 令和2年4月1日施行 | 知事提案 | |
宮城県 | 令和元年10月11日公布 | 令和2年4月1日施行 | 知事提案 | |
栃木県 | 令和元年10月11日公布 | 令和2年4月1日施行 | 知事提案 | |
熊本県 | 令和元年12月20日公布 | 令和元年12月20日施行 | 知事提案 | |
茨城県 | 令和元年12月25日公布 | 令和2年4月1日施行 | 議員提案 | |
石川県 | 令和2年3月26日公布 | 令和2年4月1日施行 | 議員提案 | |
愛知県 | 令和2年3月27日公布 | 令和2年4月1日施行 | 議員提案 | |
鹿児島県 | 令和2年3月27日公布 | 令和2年4月1日施行 | 知事提案 | |
群馬県 | 令和2年6月23日公布 | 令和2年6月23日施行 | 知事提案 | |
三重県 | 令和2年6月30日公布 | 令和2年9月1日施行 | 知事提案 | |
広島県 | 令和2年7月6日公布 | 令和2年7月6日施行 | 議員提案 | |
千葉県 | 令和2年10月20日公布 | 令和2年10月20日施行 | 知事提案 | |
島根県 | 令和2年12月22日公布 | 令和3年4月1日施行 | 知事提案 | |
秋田県 | 令和3年3月12日公布 | 令和3年4月1日施行 | 議員提案 | |
徳島県 | 令和3年3月19日公布 | 令和3年3月19日施行 | 議員提案 | |
岩手県 | 令和3年3月29日公布 | 令和3年4月1日施行 | 議員提案 | |
福島県 | 令和4年3月25日公布 | 令和4年4月1日施行 | 知事提案 | |
山梨県 | 令和4年3月29日公布 | 令和4年4月1日施行 | 議員提案 | |
沖縄県 | 令和4年3月31日公布 | 令和4年4月1日施行 | 知事提案 | |
山口県 | 令和5年3月14日公布 | 令和5年4月1日施行 | 知事提案 | |
長崎県 | 令和5年3月24日公布 | 令和5年4月1日施行 | 知事提案 |
〇 なお、滋賀県は、令和2年12月に、
滋賀県 | 令和2年12月28日公布 | 令和3年4月1日施行 | 知事提案 |
を制定したが、この中で、県は、主要農作物の優良な種子の安定的な生産および供給を促進するため、主要農作物(稲、大麦、はだか麦、小麦及び大豆)の奨励品種の選定、奨励品種に係る原種及び原原種の生産、種子生産ほ場の審査等の措置を講ずるものとする(10条)との規定を置いている。
また、愛媛県は、令和3年3月に、
愛媛県 | 令和3年3月26日公布 | 令和3年4月1日施行 | 知事提案 |
を制定したが、この中で、県は、主要農作物(稲、はだか麦、小麦及び大豆)の優良な種子の生産、供給及び普及を促進するため、必要な施策を講ずるものとする(18条)との規定を置いている。
福岡県は、令和6年3月に、
福岡県 | 令和6年3月26日改正施行 | 知事提案 |
を改正施行し、主要な施策の一つに、農林水産物の優良な種子、種苗等の安定供給及び品質の確保に必要な施策を追加した(6条2号)。
【法律廃止の経緯など】
〇 主要農作物種子法は、戦後の食糧増産を背景に、稲、麦類及び大豆は、都道府県が主導して優良な種子の生産・普及を進める必要があるとの観点から、昭和27年制定されたものであり、①優良な品種の決定(8条)、②原種及び原原種の生産(7条)、③種子生産ほ場の指定、指定種子生産ほ場及び生産される種子の審査の実施(3条~6条)などの事務を都道府県に義務付けていた。
しかし、①種子生産者の技術水準の向上等により、種子の品質は安定していること、②多様なニーズに対応するため、民間ノウハウも活用して、品種開発を強力に進める必要があるが、都道府県と民間企業の競争条件は対等になっておらず、公的機関の開発品種が大宗を占めていること、③都道府県による種子開発・供給体制を生かしつつ、民間企業との連携により種子を開発・供給することが必要であること、などの理由により、廃止された(主要農作物種子法を廃止する法律は平成30年4月1日施行)。
〇 主要農作物種子法廃止後の都道府県の役割について、農林水産省は、「都道府県に一律の制度を義務付けていた種子法及び関連通知は廃止したものの、都道府県がこれまで実施してきた稲、麦類及び大豆の種子に関する業務を取りやめることを求めているものではない。」(農林水産事務次官通知「稲、麦類及び大豆の種子について(平成29年11月15日発出・令和3年4月1日一部改正)」)としている(主要農作物種子法廃止の経緯等については、農林水産省HP「稲、麦類及び大豆の種子について」を参照のこと)。
【各道県の条例の主な内容】
〇 各道県の条例の内容は、全体傾向としては、概ね以下のようなことが言える。
① 廃止された主要農作物種子法の規定を踏まえ、
a 各道県の主要農作物の優良な種子の安定的な供給を図ることを目的とする。
b 対象の主要農作物は、「稲、大麦、(はだか麦)、小麦及び大豆」とする。
c 種子生産ほ場の指定、種子生産ほ場の審査、指導・勧告、原種及び原原種の生産、優良な品種の決定・試験など規定を置く。
② 新たに条例において、
a 道県の責務、種子生産者の責務等の規定を置く。
〇 もとより、各道県における農作物の生産状況、農作物の種子の生産状況、種子生産における民間事業者の役割についての考え方等により、各道県の条例の内容は異なっている。例えば、
① 対象は、多くの条例は「稲、大麦、(はだか麦)、小麦及び大豆」としているが、これらに加え、北海道条例は「小豆、えんどう、いんげん及びそば」(2条)、長野県条例は「そば」(2条)、宮崎県条例は「そば」(2条)、茨城県条例は「そばその他知事が定める作物」(2条)、千葉県条例は「落花生」(2条2号)、徳島県条例は「あわ、きび、たかえび、ひえ、しこくびえ、そば、ごうしゅいも及びたであい」(2条2号)、岩手県条例は「そば、雑穀、野菜、果樹及び花き」(2条1号)をも対象としている。なお、徳島県条例は、種子の定義を「種子及びごうしゅいもの塊茎」(2条3号)としている。
島根県条例及び沖縄県条例は、対象とする農作物の品種を条例では具体的に規定せず、それぞれ「知事が別に定める」(島根県条例5条)及び「種苗の生産を推進する事業を実施することにより、本県の農業の競争力の強化又は地域の活性化に特に資するものとして知事が認める農作物」(沖縄県条例2条2号)としている。
② 栃木県条例は、奨励品種の優良な種苗の安定的な供給の促進を目的(1条)とするとともに、「いちごその他の園芸作物」(2条)をも奨励品種の対象としている。また、鹿児島県条例は、主要農作物の優良な種苗の安定的な生産及び供給を目的(1条)とするとともに、主要農作物に稲,麦及び大豆のほか、「さとうきび」(2条1号)をも対象とし、福島県条例は、奨励品種の優良な種苗の安定的な供給の促進を目的(1条)とするとともに、「県が品種改良を行った野菜、果樹、花き、そば、オタネニンジン、きこの及び桑」(2条2号、3号)をも奨励品種の対象とし、山口県条例は、種苗の品質の確保及び種苗の安定的な生産を目的(1条)とするとともに、「園芸作物(野菜、果樹及び花き)」(2条2号、6条1項)をも奨励品種の対象としている。
島根県条例は農作物の種子及び種苗の安定的な確保(1条)、沖縄県条例は良質な種苗の安定的な供給(1条)を、目的としている。
③ 種子計画は、多くの条例は知事又は県が策定することとしているが、鳥取県条例は、原則知事が種子計画を定める(5条)が、指定種子改良団体が指定された特定農産物の種類について種子計画を策定する(14条、15条)、長野県条例は、種子管理団体の長が県と協議の上で種子計画を策定する(8条)、栃木県条例は、種苗生産等計画策定者が知事と協議して種苗生産等計画を策定する(4条)、山梨県条例は、種子管理団体の長が知事と協議して種子計画を策定する(6条)としている。
鹿児島県条例、島根県条例、沖縄県条例及び山口県条例は、計画策定に関する規定は置いていない。
④ 原種及び原原種の生産については、兵庫県条例、埼玉県条例、北海道条例、岐阜県条例、宮崎県条例、熊本県条例、愛知県条例、群馬県条例、広島県条例、千葉県条例、秋田県条例、徳島県条例、岩手県条例及び山梨県条例は、道県が生産するとし、他の県条例(長野県を除く)は、県が生産することとするものの、県が指定した県以外の者が経営するほ場において生産することができる等としている。また、長野県条例は、原原種は県が生産し、原種は種子管理団体が生産する(9条)としている。
福島県条例は「県は、種苗生産計画に基づき原種苗及び原原種苗の生産その他必要な措置を講ずるものとする。」(10条2項)との規定を置き、山口県条例は「知事は、奨励品種の優良な種苗の生産のため、原種苗(・・・)及び原原種苗(・・・)の生産その他必要な措置を講ずるものとする。」(7条2項)との規定を置いている。
沖縄県条例は、原種及び原原種の生産に関する規定は置いていない。
⑤ 多くの条例は、知事が種子生産ほ場の指定と審査を行うこととしているが、長野県条例、宮城県条例及び広島県条例は、指定ではなく届出(長野県10条、宮城県11条、広島県9条)と、岐阜県条例は、指定ではなく設置の指導(岐阜県条例7条)としている。また、山口県条例は、種苗を生産する者からの請求があったときに審査を行う(8条1項)としている。なお、秋田県条例及び福島県条例は、指定に関する規定は置かず検査(秋田県8条、福島県11条)の規定を置き、埼玉県条例、栃木県条例及び沖縄県条例は、種子生産ほ場の指定、審査等に関する規定は置いていない。
⑥ 以上のスキームとは別に、長野県条例は伝統野菜等の種子について生産等に係る支援の規定(13条)を置き、広島県条例は野菜等農作物も特定品種に加え知事の種子保存義務の対象にしている(12条)。また、岩手県条例は伝統野菜等の種子の保存に関する県の努力義務の規定(10条)を置き、山梨県条例及び山口県条例は伝統的に栽培された在来種の保存、活用等に関する規定(山梨県条例10条、山口県条例11条)を置いている。
⑦ 北海道条例、栃木県条例、福島県条例及び山口県条例は、知的財産権保護の規定(北海道条例14条、栃木県条例9条、福島県条例14条、山口県条例12条)を置いている。
などである。
〇 なお、神山智美「種子法廃止と2020年度種苗法改正案から考える行政の役割と種子条例・種苗条例の今後(上)」(自治総研2020年7月号)は鹿児島県条例までの18道県の条例の比較、分析を行っている。
また、日本の種子(たね)を守る会HPの「主要農作物種子法(種子法)廃止と種子条例制定の動きについて」は、「条例比較表(令和元年12月15日作成)」及び「種子条例MAP(令和6年4月1日現在)」を掲載している。