自転車の安全利用促進に関する条例
(令和3年1月22日更新)
【最近の動き】
〇 最近、自転車の安全利用促進に関する条例を制定する自治体が増えている。
ちなみに、平成31年以降制定された都道府県の条例は、
和歌山県 | 平成31年3月13日公布 | 平成31年4月1日施行 (一部、令和元年10月1日施行) | |
長野県 | 平成31年3月18日公布 | 平31年3月18日施行 (一部、令和元年10月1日施行) | |
神奈川県 | 平成31年3月26日公布 | 平成31年4月1日施行 (一部、令和元年10月1日施行) | |
静岡県 | 平成31年3月26日公布 | 平成31年4月1日施行 (一部、令和元年10月1日施行) | |
奈良県 | 令和元年10月15日公布 | 令和元年10月15日施行 (一部、令和2年7月1日施行) | |
山形県 | 令和元年12月24日公布 | 令和元年12月24日施行 (一部、令和2年7月1日施行) | |
山梨県 | 令和2年3月30日公布 | 令和2年4月1日施行 | |
福岡県 | 推進に関する条例 | 令和2年3月31日公布 | 令和2年4月1日施行 (一部、令和2年10月1日施行) |
宮城県 | 令和2年7月13日公布 | 令和3年4月1日施行 | |
宮崎県 | 令和2年10月1日公布 | 令和3年4月1日施行 | |
大分県 | 令和2年12月18日公布 | 令和3年4月1日施行 (一部、令和3年6月1日施行) |
である。
〇 これらの条例は、一般的に、自転車の安全利用の促進に関し、基本理念、県の責務、自転車利用者や事業者等の責務、交通安全教育の実施などを規定しているが、それに加えて、自転車利用者等に対して自転車損害賠償保険を義務づけ(長野県、神奈川県、静岡県、奈良県、山形県、山梨県、福岡県、宮城県、宮崎県及び大分県)又は努力義務を課している(和歌山県)。
また、静岡県条例は、「児童及び生徒(中学校、義務教育学校、中等教育学校の前期課程又は特別支援学校の中学部に在学する者に限る。)は、通学のために道路において自転車を利用するときは、乗車用ヘルメットを着用しなければならない。」(9条5項)とし、児童及び中学生に対して自転車通学時のヘルメットの着用を義務付け、奈良県条例は、「高齢者(65歳以上の者をいう。以下同じ。)は、乗車用ヘルメットの着用が生命及び身体の被害の防止等に有用であることを踏まえ、道路において自転車を利用するときは、乗車用ヘルメットを着用するよう努めるものとする。」(13条1項)とし、また、宮崎県条例は、「高齢者は、自転車を運転するときは、乗車用ヘルメットを着用するよう努めなければならない。」(12条2項)として、高齢者に対してヘルメット着用の努力義務を課している。
なお、福岡県条例は、平成29年制定の「福岡県自転車の安全で適正な利用の促進に関する条例」が全部改正され、制定されている。
自転車損害賠償保険加入の義務化の動き】
〇 こうした条例制定の大きな要因として、自転車利用者等に対する自転車損害賠償保険加入の義務化の動きがあげられる。
〇 国土交通省によると、令和2年12月31日現在、都道府県において、条例で義務付けているのが19団体(宮城県、山形県、群馬県、埼玉県、東京都、神奈川県、山梨県、長野県、静岡県、滋賀県、京都府、大阪府、奈良県、兵庫県、愛媛県、福岡県、大分県、宮崎県及び鹿児島県)、努力義務を課しているのが10団体(北海道、茨城県、千葉県、富山県、和歌山県、鳥取県、徳島県、高知県、香川県及び熊本県)であり、また、政令市では、千葉市、名古屋市及び岡山市が義務条例を制定している(地方公共団体の条例の制定状況(令和2年12月31日現在))。なお、義務付けしている条例は、すべて罰則規定は置いていない。
国土交通省は、「近年、自転車利用者が加害者となる事故の損害賠償において、加害者側に高額な賠償命令が出ていることや、加害者に責任無能力者を含む未成年者が多いことを踏まえると、被害者救済の観点から、自転車の利用者等に対して、自転車損害賠償責任保険等への加入を促進する必要がある。」とし、自治体に対して、条例等による損害賠償責任保険等への加入促進を図ることを要請するとともに、標準条例を示している(平成31年2月22日付け自転車活用推進本部事務局長通知「自転車損害賠償責任保険等への加入促進に関する標準条例について(技術的助言)」)。標準条例については、国土交通省HP「自転車損害賠償責任保険等への加入促進について」を参照のこと。)。
〇 もとより、こうした自転車損害賠償保険加入の義務化は、一部自治体において、国の要請に先行して行われていた。最初に義務規定を置いたのは、
兵庫県 | 自転車の安全で適正な利用の促進に関する条例 | 平成27年3月19日公布 | 平成27年4月1日施行 (一部、平成27年10月1日施行) |
である。
本条例の制定経緯について、「県下の交通事故件数は、自転車関係事故の件数も含めて年々減少傾向にあるものの、歩行者と自転車の事故については、平成16年から平成25年までの10年間で1.9倍に増加しており、自転車側に対して、高額な損害賠償事例も見られる状況にあるなど、自転車の安全な利用への促進が喫緊の課題となっていました。こうした状況を踏まえ、県では自転車の交通安全利用等の対策強化を図るため、平成26年5月に、自転車利用者、自転車販売業者、損害保険関係者、行政関係者、大学関係者などの自転車の安全に関わる有識者などで構成する、『自転車の安全な利用等の関する検討委員会』、委員会内に保険関係の有識者で構成する、『自転車保険専門部会』を設置し、検討委員会は計3回、保険専門部会は計4回開催され、最終的に平成27年1月に提言がとりまとめられました。その検討結果から、検討委員会では、県において自転車の安全利用等に関する条例を制定するとともに、自転車利用者及び事業者等が一体となった県民運動として取り組むことにより、県民総ぐるみで自転車の安全利用を促進していかなければならないとの『兵庫県における自転車の安全利用等に関する提言』がとりまとめられ、この提言を踏まえ条例案が平成27年2月の県議会に上程され、『自転車の安全で適正な利用の促進に関する条例』が平成27年3月に制定されたのです。」(兵庫県HP「自転車の安全で適正な利用の促進に関する条例」制定の経緯)としている。
なお、小学生が運転する自転車が歩行中の62歳女性と衝突し、歩行者の女性が重体となった事案に関し、神戸地方裁判所平成25年7月4日判決において、当該小学生の母親に対して9500万円の賠償命令が認められたことが、条例検討の要因の一つのとなっているものと考えられる。
条例の内容や運用等については、兵庫県HP「自転車の安全で適正な利用の促進に関する条例」について」を参照されたい。また、自治体法務研究2015年冬号CLOSEUP先進・ユニーク条例「兵庫県自転車の安全で適正な利用の促進に関する条例」を参照のこと。
【条例の制定状況】
〇 公益財団法人日本交通管理技術協会は、自転車の安全利用促進に関する条例の制定自治体の一覧(自転車の安全利用促進に関する条例の制定自治体)をホームページ上で示している。それによると、令和2年4月1日現在では、102自治体となっており、都道府県が22団体、市区町村が80団体となっている。
同資料によると、最初に制定されたのは、
東京都板橋区 | 板橋区自転車安全利用条例 | 平成15年3月6日公布 | 平成15年4月1日施行 |
である。また、都道府県で最初に制定されたのは、
京都府 | 京都府自転車の安全な利用の促進に関する条例 | 平成19年10月16日公布 | 平成19年10月16日施行 (一部、平成20年4月1日施行) |
であるが、京都府条例は、平成29年7月に改正され、 平成30年4月1日から自転車損害賠償保険の加入を義務付けている。
〇 なお、最近制定された市町村の条例としては、
東京都足立区 | 足立区自転車の安全利用に関する条例 | 令和元年10月23日公布 | 令和2年1月1日施行 (一部、令和2年4月1日施行) |
愛知県豊田市 | 豊田市自転車の安全で適正な利用の促進に関する条例 | 令和2年3月18日公布 | 令和2年4月1日施行 (一部、令和2年10月1日施行) |
愛知県春日井市 | 春日井市自転車の安全な利用の推進に関する条例 | 令和2年3月17日公布 | 令和2年4月1日施行 (一部、令和2年10月1日施行) |
などがある。なお、足立区条例、豊田市条例及び春日井市条例は、自転車利用者等に対して自転車損害賠償保険の加入を義務付けている。
〇 自転車の安全利用促進については、自治体法務研究2013年冬号特集「自転車の安全利用と自治体の対応」を参照されたい。