盗撮行為に関する条例(迷惑防止条例の改正)

(令和6年3月30日更新)

【盗撮行為の規制の拡大】

〇 まず、読売新聞令和元年12月21日づけの「増えるスマホ盗撮、迷惑防止条例に『盲点』」という見出しの記事を紹介する。

「不特定多数の人が出入りする公共の場や乗り物で盗撮を禁じる条例を改正し、規制場所を拡大する自治体が相次いでいる。スマートフォンなどの普及により、出入りが制限される学校や職場などでも被害が増えているにもかかわらず、取り締まれないケースがあるためだ。読売新聞の調査では、改正したのは(令和元年12月)20日までに31都道府県に上る。
 盗撮行為は『迷惑防止条例』で禁止されており、19日に岐阜県議会、20日に秋田、茨城県議会で改正案が可決された。『不特定または多数』が利用する学校や事務所、貸し切りバスなどにも範囲を広げ、条例を適用できるようにした。塾やスポーツジム、カラオケボックスなども想定しているという。
 秋田県での改正は、秋田市の中学校の教室で4月、男性臨時講師が女性教員のスカート内を小型カメラで動画撮影した事件がきっかけとなった。被害届を受けて捜査した県警は、校舎内を『公共の場所』と解釈することができず、同条例での立件を見送った。県議会では『被害者感情を考えると許せない』『条例の盲点だ』などと意見が続出した。
 迷惑防止条例は1960年代頃から、公衆に著しく迷惑をかけるなどの行為を防ぐのを目的に全国で施行され、盗撮行為の禁止も公共の場所が前提となっていた。しかし、スマホの普及などで盗撮が行われる場所が広がり、SNSなどで画像が拡散するなど被害が深刻化してきた。
 読売新聞の調査では、改正した31都道府県のうち、大阪府はタクシー車内を条文に明記し、福岡県は商業施設の授乳室をホームページで例示するなどしている。2018年2月に改正条例を施行した佐賀県では、同年中の盗撮の摘発が28件と前年から倍増した。
 このほか、千葉、山梨、香川の各県は改正案提出を目指して準備を進めており、山形、高知など7県が『検討中』。一方、青森、広島など6県は『具体的な問題が起きていないため、議論になっていない』などとして検討に入っていない。(以下、省略)」

〇 上記記事によると、令和元年12月に、岐阜県、秋田県及び茨城県で、迷惑防止条例を改正し、盗撮行為の規制場所を拡大した、このような改正をした都道府県は、読売新聞の調査では、令和元年12月20日までに31都道府県である、ということになる。

 その後、京都府も平成元年12月議会で迷惑防止条例を改正し、千葉県、山梨県、香川県及び愛媛県は平成2年3月議会で改正し、さらに神奈川県及び静岡県は令和2年6月議会で、山形県及び三重県は令和2年9月議会で、埼玉県及び鳥取県は令和2年12月議会、群馬県、大阪府及び高知県は令和3年3月議会で、長野県は令和3年12月議会、広島県は令和4年3月議会、青森県は令和4年9月議会で、富山県は令和4年12月議会で、佐賀県は令和5年6月議会で、栃木県は令和6年3月議会で改正している。

 

【岐阜県、秋田県及び茨城県の条例改正の内容】

〇 それでは、岐阜県、秋田県及び茨城県がどのように改正されたか、具体的に見てみる。いずれも条文は改正後のもので、     は改正により追加された条文、(      )は改正前の条文である。

岐阜県

岐阜県迷惑行為防止条例

令和2年4月1日改正施行

第3条 何人も、正当な理由がないのに、公共の場所にいる者又は公共の乗物に乗っている者に対し、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、次の各号のいずれかに掲げる行為をしてはならない。

(3)通常衣服等で覆われている人の下着等の映像を見、又は記録する目的で、写真機、ビデオカメラその他これらに類する機器(以下「写真機等」という。)を設置し、又は通常衣服等で覆われている人の下着等に向けること。

  何人も、正当な理由がないのに、学校、事務所その他の不特定若しくは多数の者が利用し、若しくは出入りする場所にいる者又はタクシーその他の不特定若しくは多数の者が利用する乗物に乗っている者(前項に規定する者を除く。)に対し、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、次の各号のいずれかに掲げる行為をしてはならない。

(3)通常衣服等で覆われている人の下着等の映像を見、又は記録する目的で、写真機 等を設置し、又は通常衣服等で覆われている人の下着等に向けること。

 3 何人も、正当な理由がないのに、前2項に規定する場所にいる者又は乗物に乗っている者に対し、衣服等を透かして見る方法により衣服等で覆われている人の下着等の映像を見、又は記録する目的で、衣服等を透かして見ることができる写真機等を設置し、又は人に向けてはならない。

 4 何人も、正当な理由がないのに、住居、浴場、便所、更衣室その他人が公衆浴場、公衆便所、公衆が利用することができる更衣室その他の公衆が)通常衣服等の全部又は一部を着けない状態でいるような場所にいる者に対し、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、次の各号のいずれかに掲げる行為をしてはならない。

(2)当該状態でいる人の姿態の映像を見、又は記録する目的で、写真機等を設置し、又は当該状態でいる人に向けること。  

秋田県

秋田県迷惑行為防止条例

令和2年4月1日改正施行

令和3年4月1日改正施行

第4条 2 何人も、正当な理由がないのに、次に掲げる場所又は乗物において、下着等を撮影し、 又は撮影しようとして写真機その他の機器を人に向け、若しくは設置してはならない

(1)公共の場所又は公共の乗物

(2事務所、教室、貸切バスその他の特定かつ多数の人が集まる場所又は利用する乗物

 3 何人も、正当な理由がないのに、住居、浴場、更衣場、便所その他通常人が衣服の全部又は一部を着けない状態でいる場合がある場所において当該状態でいる人を撮影し、又は撮影しようとして写真機その他の機器を当該状態でいる人に向け、若しくは設置してはならない

 なお、秋田県条例は、令和2年4月1日に改正施行された後、さらに令和3年4月1日に改正施行されている。上記条文は、令和3年4月1日改正施行後のものである。令和3年4月1日改正施行の内容については、秋田県資料「「秋田県迷惑行為防止条例」一部改正案の概要」を参照されたい。

茨城県

茨城県迷惑行為防止条例

令和2年4月1日改正施行

第2条 何人も,道路,公園,駅,興行場,飲食店その他の不特定かつ多数の者が利用し,若しくは出入りすることができる場所(以下「公共の場所」という。)(第3項に規定する場所に該当する場合を除く。)又は汽車,電車,乗合自動車,船舶,航空機その他の不特定かつ多数の者が利用し,若しくは出入りすることができる乗物(以下「公共の乗物」という。)(同項に規定する場所に該当する場合を除く。)にいる他人に対し,みだりに次に掲げる行為をしてはならない。

(3) 人を著しく羞恥させ,又は人に著しく嫌悪の情を催させるような方法で,写真機,ビデオカメラその他これらに類する機器(以下この条において「写真機等」という。)を使用して身体等を撮影し,又は撮影しようとすること。

(4) 衣服等を透かして身体等を見ることができる機器(以下「透視機器」という。)を使用して,他人の身体等の映像を見,若しくは見ようとし,又は他人の身体等を撮影し,若しくは撮影しようとすること。

  何人も,学校,事務所その他の不特定の者若しくは多数の者が利用し,若しくは出入りすることができる場所(公共の場所又は次項に規定する場所に該当する場合を除く。)又はタクシーその他の不特定の者若しくは多数の者が利用し,若しくは出入りすることができる乗物(公共の乗物又は次項に規定する場所に該当する場合を除く。)にいる他人に対し,みだりに前項第2号から第4号までに掲げる行為をしてはならない。

  何人も,住居,浴場,更衣場,便所その他人が通常衣服の全部又は一部を着けないでいるような場所にいる他人に対し,みだりに次に掲げる行為をしてはならない。

(2)写真機等を使用して,人の姿態を撮影し,又は撮影しようとすること。

(3)透視機器を使用して,他人の身体等若しくは人の姿態の映像を見,若しくは見ようとし,又は他人の身体等若しくは人の姿態を撮影し,若しくは撮影しようとすること。

  何人も,前3項に規定する行為(写真機等又は透視機器を使用して行う行為に限る。)をする目的で,写真機等又は透視機器を設置してはならない

〇 3県の条例は、書きぶりは異なるものの、改正後は、

a 公共の場及び公共の乗物での下着等の盗撮

b 学校、事務所、タクシーその他の特定かつ多数の人が集まる場所又は利用する乗物での下着等の盗撮

c 住居、浴場、更衣場、便所その他通常人が衣服の全部又は一部を着けない状態でいる場合がある場所での盗撮

のいずれをも、禁止の対象にしている。

 なお、改正前は、岐阜県条例はa及びcのうちの公衆浴場、公衆便所等を、秋田県条例はa及びcを、茨城県条例はaのみを、それぞれ禁止の対象としており、3県において、その禁止対象は異なっていた。

 また、改正後も、岐阜県条例及び茨城県条例は透視機器による撮影等を禁止しているが、秋田県条例は透視機器に関する規定は置いていない。

 さらに、罰則については、改正後は、岐阜県条例は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金、写真機等を使用して被写体の映像を記録したものであるときは1年以下の懲役又は100万円以下の罰金、常習者の場合は、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金、秋田県条例及び茨城県条例は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金、常習者の場合は1年以下の懲役又は100万円となっており、県によって罰則は異なる。

 

【全国の状況】

〇 迷惑防止条例は、名称は異なるものの、47都道府県とも有しており、すべての都道府県において、盗撮禁止の規定を有している。その基本的な内容を、令和6年3月議会終了後の時点で比較すると、以下のようになる。

a 公共の場及び公共の乗物での下着等の盗撮

b 学校、事務所、タクシーその他の特定かつ多数の人が集まる場所又は利用する乗物での下着等の盗撮

c 住居、浴場、更衣場、便所その他通常人が衣服の全部又は一部を着けない状態でいる場合がある場所での盗撮

のうち、いずれを禁止の対象にしているかについては、

a、b及びcを禁止するもの

北海道、青森県(令和5年2月1日改正施行)、秋田県、山形県、宮城県、福島県、茨城県、
栃木県(令和6年7月1日改正施行)、群馬県(令和3年7月1日改正施行)、埼玉県、千葉県、
東京都、神奈川県、新潟県、富山県(令和5年4月1日改正施行)、石川県、福井県、山梨県、
長野県(令和4年2月1日改正施行)、岐阜県、静岡県、愛知県、三重県、京都府、
大阪府(令和3年4月20日改正施行)、兵庫県、和歌山県、岡山県、
広島県(令和4年6月1日改正施行)、鳥取県、島根県、山口県、徳島県、香川県、愛媛県、
高知県(令和3年7月1日改正施行)、福岡県(bは「公衆の目に触れるような場所」での盗撮)、
佐賀県(令和5年10月1日改正施行)、長崎県、熊本県、大分県、沖縄県

a、b及びcのうちの公衆浴場、
公衆便所等を禁止するもの

滋賀県、宮崎県(bは「公衆の目に触れるような場所」での盗撮)、鹿児島県

a及びcを禁止するもの

奈良県

aを禁止するもの

岩手県

〇 なお、上記読売新聞記事は「犯罪被害者支援弁護士フォーラム事務次長の上谷さくら弁護士は『スマホの普及で誰もがカメラを持ち歩く時代に、都道府県によって盗撮行為への対応が分かれるのはおかしい』と条例改正の必要性を指摘。その上で『『盗撮罪』を創設するなどして全国一律に取り締まることも検討すべきだ』と話している。」としている。

 NHK・みんなでプラス・性暴力を考えるvol.188「47都道府県別 「迷惑防止条例」と盗撮 <2022年9月30日版>」は、「日本には盗撮行為を取り締まる実効的な法律はなく、主に各都道府県などが定める『迷惑防止条例違反』として扱われます。条例ゆえに、地域によって処罰の対象となる盗撮行為も、罰則もばらばら。」としたうえで、47都道府県の条例の規定状況を取りまとめているので、参照されたい。

 

【国の動き】

〇 法務省の「性犯罪に関する刑事法検討会」は、令和3年5月に「報告書」を取りまとめた。この報告書には、「⑻ 性的姿態の撮影行為に対する処罰規定の在り方 ア 処罰規定 他人の性的な姿態を同意なく撮影する行為や画像を流通させる行為を処罰する規定を設けるべきか」に関する議論がまとめられ(39頁以下)、小括として「今後の検討に当たっては,被害者の意思に反する性的姿態の撮影行為を処罰する規定を設ける場合には,処罰の必要性のある範囲に限定するとともに,その要件の明確性に留意しつつ,適切な構成要件の在り方について更に検討がなされるべきである。」等としている(42頁、43頁)。

〇 令和3年9月16日に法務大臣が法制審議会に対して、性犯罪に対処するための法整備に関する諮問(諮問第117号)を行った。この諮問事項には、「第三 相手方の意思に反する性的姿態の撮影行為等に対する適切な処罰を確保し、その画像等を確実に剝奪できるようにするための実体法及び手続法の整備 一 性的姿態の撮影行為及びその画像等の提供行為に係る罪を新設すること。」が含まれている。

〇 令和5年2月17日に法制審議会は、諮問第117号に対して「要綱(骨子)案」を決定し、法務大臣に答申した。この要綱(骨子)案は、「性的姿態の撮影行為及びその画像等の提供行為等に係る罪」として、撮影罪、提供罪・公然陳列罪、保管罪、影像送信罪及び記録罪の新設を提示している(10頁~14頁)。

〇 以上を踏まえて、令和5年6月に「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」が制定された(令和5年6月23日公布・令和5年7月13日(一部 公布後1年以内)施行)。

 同法は、性的姿態等撮影罪、性的撮影記録提供等罪、性的撮影記録保管罪、性的姿態等撮影送信罪及び性的姿態等撮影記録材罪を定めている。このうち、性的姿態等撮影罪は、正当な理由がないのに、ひそかに、性的姿態等(人の性的な部位(性器若しくは肛こう門若しくはこれらの周辺部、臀でん部又は胸部)又は人が身に着けている下着(通常衣服で覆われており、かつ、性的な部位を覆うのに用いられるものに限る。)のうち現に性的な部位を直接若しくは間接に覆っている部分、そのほかわいせつな行為又は性交等がされている間における人の姿態)のうち、人が通常衣服を着けている場所において不特定又は多数の者の目に触れることを認識しながら自ら露出し又はとっているものを除いたものを撮影する行為等に対して、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金を科する(2条)ものである。

 法務省は、同法と都道府県の迷惑防止条例等との関係について、「例えば、いわゆる盗撮行為については、これまでも、各都道府県のいわゆる迷惑防止条例や、児童買春等処罰法のひそかに児童ポルノを製造する罪などにより処罰対象とされてきたものはありました。しかし、迷惑防止条例は、都道府県ごとに処罰対象が異なりますし、児童ポルノ製造罪も、保護の対象は児童のみであり、必ずしも、これらの条例や法律だけでは対応しきれない事例が存在します。性的姿態撮影等処罰法では、そのような事例も含めて、意思に反して自分の性的な姿を他の機会に他人に見られないという権利利益を守るため、意思に反して性的な姿を撮影したり、これにより生まれた記録を提供する行為などを処罰することとされています。」(法務省HP「性犯罪関係の法改正等 Q&A」性的姿態撮影等処罰法関連 「Q2 この法律で処罰対象となる行為は、これまで処罰できなかったのですか。」)としている。



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