犯罪被害者支援に関する条例
(令和3年1月22日更新)
【制定状況】
〇 犯罪被害者等施策に関する条例の制定状況については、警察庁が調査をしている。それによると、令和2年4月1日現在、都道府県は37団体、指定都市は12団体、市区町村(指定都市を除く)は546団体が条例を制定している。このうち、市区町村(指定都市を除く)については、秋田県、岐阜県、滋賀県、京都府、岡山県、佐賀県及び大分県では全市町村が条例を制定しているのに対して、14県では全市町村が条例を制定しておらず、その対応は異なっている(警察庁HP「犯罪被害者等施策」 中「地方公共団体における犯罪被害者等施策に関する基礎資料(令和2年4月1日現在)」)。
〇 また、令和2年度犯罪被害者白書は、犯罪被害者等の支援に特化した条例の制定状況を掲載しており、それによると、令和2年4月1日現在、都道府県は21団体、指定都市は7団体、市区町村(指定都市を除く)は326団体が特化条例を制定している。このうち、市区町村(指定都市を除く)については、秋田県、岐阜県、京都府、岡山県、佐賀県及び大分県では全市町村が特化条例を制定している(令和2年度犯罪被害者白書第4章68頁「トピックス 犯罪被害者等の支援に特化した条例の制定状況」)。なお、都道府県及び指定都市の犯罪被害者等の支援に特化した条例については、警察庁資料「条例の小窓 都道府県・政令指定都市における犯罪被害者等の支援に特化した条例集」を参照のこと。
なお、犯罪被害者等の支援に特化した条例とは「専ら犯罪被害者等の支援に関する事項について定めた条例をいい、犯罪被害者等に対する見舞金支給についてのみ定めた条例も含むが、安全で安心なまちづくりの推進に関する条例等のように、条例の一部に犯罪被害者等のための施策が規定されているものは含まない。」としている。
〇 犯罪被害者等基本法(平成16年法律第161号)は、地方公共団体の責務として、「基本理念にのっとり、犯罪被害者等の支援等に関し、国との適切な役割分担を踏まえて、その地方公共団体の地域の状況に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する」(5条)とし、国と地方公共団体は、相談及び情報の提供等、損害賠償の請求についての援助等、給付金の支給に係る制度の充実等、保健医療サービス及び福祉サービスの提供、安全の確保、居住の安定、雇用の安定、刑事に関する手続への参加の機会を拡充するための制度の整備等、保護、捜査、公判等の過程における配慮等、国民の理解の増進、調査研究の推進等、民間の団体に対する援助並びに意見の反映及び透明性の確保に関して必要な施策を講ずるものとする(11条〜23条)としている。
【個別の条例】
〇 全国最初に犯罪被害者支援に特化した条例として制定されたのが、
埼玉県嵐山町 | 嵐山町犯罪被害者等支援条例 | 平成11年9月8日公布 | 平成12年4月1日施行 (平成9年8月1日適用) |
である。
これは、平成9年9月の場外舟券売り場をめぐる町議襲撃事件及び町議誤認襲撃事件をきっかけに、町に犯罪被害者救済制度検討プロジェクトチームが設置され、検討が進められ、条例制定に至ったものである(嵐山町HP「犯罪被害者等支援条例」参照)。支援金の給付が主な内容で、犯罪被害者に対して傷害支援金を、第1順位遺族に対し遺族支援金を、それぞれ支給することとし、その金額、支給方法、支給制限等を定めている。
〇 都道府県で、最初に犯罪被害者支援に特化した条例として制定されたのが、
宮城県 | 宮城県犯罪被害者支援条例 | 平成15年12月17日公布 | 平成16年4月1日施行 |
である。
これは、議員提案により制定されている。犯罪被害者支援連絡協議会の設置、犯罪被害者支援審議会の設置、犯罪被害者支援推進計画の作成、基本的施策として、被害者支援員の登録、被害者等の支援に従事する者の養成、代理被害(被害者支援員等が被害者等の支援を行う過程で被害者等と同様の心理状態に陥ること等によって受ける強い精神的な被害)の防止、被害者等の平穏な生活の確保及び民間団体の活動の支援、普及啓発として、広報啓発、情報提供等、調査研究及び表彰が規定されている。なお、宮城県HP「宮城県犯罪被害者支援条例」を参照のこと。
〇 指定都市で、最初に犯罪被害者支援に特化した条例として制定されたのが、
岡山市 | 岡山市犯罪被害者等基本条例 | 平成22年12月20日公布 | 平成23年4月1日施行 |
である。
本条例は、二次的被害に関する規定を置き、「二次的被害」を「被害にあったことによる経済的な損失,精神的な苦痛,身体の不調,周囲の人々のうわさ及び中傷並びにマスメディアの報道等によるプライバシーの侵害等」(2条5号)と定義づけたうえで、「市民等は,犯罪被害者等の被った心身の苦痛,生活上の不利益等に対する理解不足その他不用意な言動による二次的被害の発生の防止に努めなければならない。」(5条1項)としている。また、犯罪被害者等の支援のための総合窓口を設置する(6条)ほか、保健医療・福祉サービスの提供、住居の提供、雇用の安定、民間支援団体に対する支援、市民等の理解の増進等に関する規定を置いている。なお、岡山市HP「犯罪被害者等支援」を参照のこと。
〇 立替支援金制度や再提訴等費用補助制度に関する規定を置く条例として、
兵庫県明石市 | 明石市犯罪被害者等の支援に関する条例 | 平成23年3月29日公布 | 平成23年4月1日施行 |
がある。
本条例は、平成26年4月1日改正施行により、裁判などで確定した賠償金が支払われない場合に300万円を上限に市が立て替える制度が規定(14条)され、また、平成30年4月1日改正施行により、加害者から賠償金が支払われないまま時効になるケースを防ぐために時効前に再び裁判を起こす(再提訴)費用を補助することが規定(13条3項)された。なお、条例の内容及び運用等については、明石市HP「犯罪被害者等支援」「誰もが安心して 暮らせるやさしいまちへ 犯罪被害者支援条例改正」を参照のこと。
〇 大阪府は、平成31年3月に、
大阪府 | 大阪府犯罪被害者等支援条例 | 平成31年3月20日公布 | 平成31年4月1日施行 |
を制定した。
制定に先立って設置された犯罪被害者等支援条例懇話会での検討資料がホームページ上で公開されているが、第2回懇話会(平成30年8月28日開催)に提出された資料2「平成30年に制定された5道県の条例項目対比一覧」及び資料4「犯罪被害者等基本法及び5道県の条例における『二次的被害』に関する条文」は、平成30年3月及び4月に施行された大分県犯罪被害者等支援条例、福岡県犯罪被害者等支援条例、埼玉県犯罪被害者等支援条例、北海道犯罪被害者等支援条例及び滋賀県犯罪被害者等支援条例について、規定項目とそのうちの二次的被害に関する条文の比較を行っているので、参考にされたい。
〇 令和の時代に入ってから制定されたものとして、令和3年1月22日時点で確認できている条例は、
都道府県条例としては
長崎県 | 長崎県犯罪被害者等支援条例 | 令和元年7月16日公布 | 令和元年7月16日施行 |
青森県 | 青森県犯罪被害者等支援条例 | 令和元年12月13日公布 | 令和元年12月13日施行 |
高知県 | 高知県犯罪被害者等支援条例 | 令和2年3月27日公布 | 令和2年4月1日施行 |
東京都 | 東京都犯罪被害者等支援条例 | 令和2年3月31日公布 | 令和2年4月1日施行 |
熊本県 | 熊本県犯罪被害者等支援条例 | 令和2年12月22日公布 | 令和2年12月22日施行 |
新潟県 | 新潟県犯罪被害者等支援条例 | 令和2年12月25日公布 | 令和3年4月1日施行 |
徳島県 | 徳島県犯罪被害者等支援条例 | 令和2年12月25日公布 | 令和3年4月1日施行 |
である。
指定都市条例としては
大阪市 | 大阪市犯罪被害者等の支援に関する条例 | 令和2年3月27日公布 | 令和2年4月1日施行 |
である。
また、指定都市以外の市区町村では、40以上の団体で制定されている。例えば、
長崎県島原市 | 島原市犯罪被害者等支援条例 | 令和元年7月12日公布 | 令和元年7月12日施行 |
岐阜県多治見市 | 多治見市犯罪被害者等支援条例 | 令和元年9月30日公布 | 令和元年10月1日施行 |
三重県四日市市 | 四日市市犯罪被害者等支援条例 | 令和元年10月4日公布 | 令和元年10月4日施行 |
東京都中野区 | 中野区犯罪被害者等支援条例 | 令和2年3月26日公布 | 令和2年4月1日施行 |
兵庫県南あわじ市 | 南あわじ市犯罪被害者等支援条例 | 令和2年3月27日公布 | 令和2年4月1日施行 |
奈良県桜井市 | 桜井市犯罪被害者等支援条例 | 令和2年3月31日公布 | 令和2年4月1日施行 |
群馬県大泉町 | 大泉町犯罪被害者等支援条例 | 令和2年6月17日公布 | 令和2年6月17日施行 |
静岡県島田市 | 島田市犯罪被害者等支援条例 | 令和2年7月10日公布 | 令和2年8月1日施行 |
などである。
〇 なお、条例の制定状況について論じたものとして、仲律子「犯罪被害者等に関する条例の制定状況について」(鈴鹿大学・鈴鹿大学短期大学部紀要 人文社会・社会科学編第2号2019)がある。
また、被害者が創る条例研究会は、「市町村における犯罪被害者等基本条例案」を公表している。