ネット・ゲーム依存症に関する条例

(令和5年12月15日更新)

【香川県ネット・ゲーム依存症対策条例】

〇 香川県は、令和2年3月に

香川県 香川県ネット・ゲーム依存症対策条例 令和2年3月24日公布

令和2年4月1日施行

を、議員提案により、制定した。

〇 条例名が示す通り、ネット・ゲーム依存症対策を推進することを目的としている。特に、「保護者は、・・・子どもが睡眠時間を確保し、規則正しい生活習慣を身に付けられるよう、子どものネット・ゲーム依存症につながるようなコンピュータゲームの利用に当たっては、1日当たりの利用時間が60分まで(学校等の休業日にあっては、90分まで)の時間を上限とすること及びスマートフォン等の使用(家族との連絡及び学習に必要な検索等を除く。)に当たっては、義務教育修了前の子どもについては午後9時までに、それ以外の子どもについては午後10時までに 使用をやめることを目安とするとともに、前項のルールを遵守させるよう努めなければならない。」(18条2項)と規定し、子供のコンピュータゲームの利用時間を平日は60分まで(休日は90分まで)、スマートフォン等の使用は中学生までは午後9時まで(それ以外は、午後10時まで)に制限し、それを保護者に対して努力義務を課している。こうしたことを条例で定める必要性、妥当性等について、条例制定前からマスコミ等で議論を呼んた。

〇 条例制定の背景として、前文において「インターネットやコンピュータゲームの過剰な利用は、子どもの学力や体力の低下のみならずひきこもりや睡眠障害、視力障害などの身体的な問題まで引き起こすことなどが指摘されており、世界保健機関において『ゲーム障害』が正式に疾病と認定されたように、今や、国内外で大きな社会問題となっている。とりわけ、射幸性が高いオンラインゲームには終わりがなく、大人よりも理性をつかさどる脳の働きが弱い子どもが依存状態になると、大人の薬物依存と同様に抜け出すことが困難になることが指摘されている。」との問題認識を示している。

〇 こうしたネット・ゲーム依存症から子供たちを守るため、条例で、基本理念を定め(3条)、県、学校等、保護者及びネット・ゲーム依存症対策に関連する業務に従事する者の責務(4条~7条)並びに県民、市町及び事業者の役割(9条~11条)を明らかにするとともに、ネット・ゲーム依存症対策に関する基本的な施策(正しい知識の普及啓発等、予防対策等の推進、医療提供体制の整備、相談支援等、人材育成の推進及び連携協力体制の整備 12条~17条)を掲げ、併せて、 子どものスマートフォン使用等の家庭におけるルールづくりと遵守等について保護者に対する努力義務を規定(18条)している。罰則規定はない。

〇 条例で使用する用語は、「ネット・ゲーム依存症」を「ネット・ゲームにのめり込むことにより、日常生活又は社会生活に支障が生じている状態」、「ネット・ゲーム」を「インターネット及びコンピュータゲーム」、「オンラインゲーム」を「インターネットなどの通信ネットワークを介して行われるコンピュータゲーム」、「スマートフォン等」を「インターネットを利用して情報を閲覧(視聴を含む。)することができるスマートフォン、パソコン等及びコンピュータゲーム」と、それぞれ定義づけている(2条)。

〇 県議会は、条例素案について、令和元年1月23日から2月6日まで、県民及び事業者に対して意見公募(パブリック・コメント)を実施し、3月17日、その結果とそれに対する考え方(香川県ネット・ゲーム依存症対策条例(仮称)(素案)について提出されたご意見とそれに対する考え方)を公表している。それによると、県民から2615件の意見が出され、賛成は2269件、反対が334件、事業者からは71件の意見が出され、賛成は0件、反対は67件としている。

 なお、上記資料によると、パブリック・コメントでの県民や事業者の意見に対する考え方として、

 条例制定の必要性について、「世界保健機関で認定された『ゲーム障害』は、ゲームのコントロールができない状態や、問題が起きているにもかかわらずゲームを続ける状態などが12ケ月以上続く場合であると理解しており、インターネットやコンピュータゲームの過剰な利用は、自分で自分の欲求をコントロールできなくなる依存症につながることや、睡眠障害、ひきこもりといった二次的な 問題まで引き起こすことなどが指摘されており、若者が陥りやすく、一度そのような状態になると抜け出すことが困難となるため、その対策は急務であると考えています。」(5頁等)とし、

 保護者の責務について、「ネット・ゲーム依存の対策に当たっては、社会全体で対応を行っていく必要があり、県においても総合的な対策に取り組む必要がありますが、子育ての第一義的責任は父母などの保護者にあることから、保護者に対し、子どもをネット・ゲーム依存症から守る第一義的責任を有することを自覚していただくものです。保護者が子育ての悩みを一人で抱え込まないよう、不安や孤立感などを和らげることを通じて、自己肯定感を持ちながら子どもとしっかりと向き合える環境を整えることで、保護者が子育てや子どもの成長に喜びや生きがいを感じることができるよう支援することが必要であると考えています。」(30頁)とし、

 「平日は60分まで」などの利用時間の根拠について、「令和元年11月に国立病院機構久里浜医療センターから公表された全国調査結果において、平日のゲームの使用時間が1時間を超えると学業成績の低下が顕著になることや、香川県教育委員会が実施した平成30年度香川県学習状況調査において、スマートフォンなどの使用時間が1時間を超えると、使用時間が長い児童生徒ほど平均正答率が低い傾向にあるという結果などを参考に、基準として規定したものです。」(60頁等)とし、

 条例制定の法令に抵触する懸念などについて、「家庭で決めたルールを保護者が子どもに遵守させるよう努めていただくものであり、憲法の理念や法令上の規定に反したものではないと考えています。」 (73頁)などとしている。

〇 高松地方裁判所は、令和4年8月30日、本条例に係る損害賠償請求事件に関し、「必要以上に権利を制限し、憲法に違反する」との原告の訴えに対して、「条例は原告らの権利の制約を課すものではない」として、請求棄却の判決を言い渡した。この判決に対して、原告が控訴しなかったため、判決は確定している。

〇 なお、本条例の内容等については、香川県HP「ネット・ゲーム依存を予防するために」及び自治体法務研究2020年夏号CLOSEUP先進・ユニーク条例「香川県ネット・ゲーム依存症対策条例」を参照されたい。

 

【ゲームの使用時間や依存に関して規定するその他の条例】

〇 これまでに制定された全国の条例の中に、ゲームの使用時間や依存に関して規定するものが、わずかながらある。

〇 まず、ゲームの使用時間については、

北海道日高町

日高町生きる力を育む早寝早起き朝ごはん運動の推進

に関する条例

平成28年2月1日公布

平成28年4月1日施行

がある。

 「保護者は、基本理念にのっとり、テレビの視聴時間、インターネットやゲームなどの使用時間を適切に管理し、子どもの適切な睡眠時間を確保するなど早寝早起き朝ごはん運動を実践し、子どもの健全な生活習慣の確立に努めます。」(4条2項)との規定を置いている。

 本条例は、子どもたちを健全に育成するため早寝早起き朝ごはん運動を推進することを目的としており、そのため、ゲームなどの使用時間を適切に管理し、子どもの適切な睡眠時間を確保することなどを、保護者の責務とするものである。

 

〇 次に、ゲームへの依存に関しては、まず、

京都市 子どもを共に育む京都市民憲章の実践の推進に関する条例 平成23年3月23日公布

平成23年4月1日施行

がある。

 「保護者は、電子・映像メディア(インターネットその他の高度情報通信ネットワーク、テレビジョン放送又は映画、アニメーション、コンピュータゲームその他の文字、図形、色彩、音声、動作若しくは映像若しくはこれらを組み合わせたものに係る情報を記録した電磁的記録(電子的方式,磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られた記録をいう。)に係る記録媒体をいう。以下同じ。)に対して、子どもが過度に依存しないよう良好な家庭環境を形成するよう努めなければならない。」(27条1項)との規定を置いている。

 本条例は、子どもを共に育む京都市民憲章(平成19年2月5日)の実践に関し必要な事項を定めるものであり、憲章の実践に関する緊急の方策の一つとして、電子・映像メディア依存対策を掲げている。

〇 また、

長崎県 長崎県子育て条例 平成20年10月14日公布

平成20年10月14日施行

がある。

 「県は、市町や企業などと連携して、保護者に、電子ゲームや情報機器類への依存がもたらす弊害などの情報を提供するなど、必要な取組を進めます。」(15条3項)との規定を置いている。

 本条例は、子育て支援に関し、基本的な考え方を定め、県、保護者等の役割を明らかにするとともに、県の施策の基本となる事項を定めるものであるが、県による家庭教育への支援の一つとして、電子ゲーム等への依存に伴う弊害等に関する情報提供を掲げている。

 

〇 なお、いわゆる青少年保護条例等で、インターネットの利用時間等に関し規定を置くものがある。例えば、

鳥取県 鳥取県青少年健全育成条例 昭和55年12月25日公布

平成30年3月27日最終改正施行

 「保護者は、その監護する青少年がインターネットにおいて流通する情報を適切に取捨選択して利用し、及び適切にインターネットによる情報発信を行う能力・・・を習得するよう努めるとともに、当該青少年の年齢及びインターネットを適切に活用する能力の状況に応じ、ペアレンタルコントロール(青少年のインターネットの利用を管理するためにその保護者が次に掲げる措置をとることをいう。)を適切に行うよう努めなければならない。
  (1) インターネットを利用できる時間及び場所を制限し、保護者がインターネットの利用の状況を把握すること。(以下略)」(12条の2)

兵庫県 青少年愛護条例 昭和38年3月31日公布

平成30年10月1日最終改正施行

 「何人も、青少年のインターネットの利用に伴う危険性、過度の利用による弊害等について認識し、青少年のインターネットの利用に関する基準づくりが行われるよう、その支援に努めなければならない。
  2 前項に規定する基準は、その内容に次に掲げる事項を含むものとする。
  (1) インターネットの過度の利用等を防止するためのその利用の時間に関する事項 (以下略)」(24条の5)

である。

 なお、兵庫県条例の関係部分の規定については、自治体法務研究2016年秋号CLOSEUP先進・ユニーク条例「青少年愛護条例の一部改正〜青少年のインターネットの利用に関する基準づくり〜」を参照のこと。



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