星空を守る条例

(令和6年3月28日更新)

 

【東京都神津島村の条例】

〇 東京都神津島村は、令和元年12月に、星空に関する条例を二つ制定した。すなわち、

東京都神津島村 神津島村星空公園条例 令和元年12月4日公布

令和2年1月1日施行

東京都神津島村 神津島村の美しい星空を守る光害防止条例 令和元年12月4日公布

令和2年1月1日施行

である。 

〇 二つの条例は、美しい星空を保護することを目的とするもので、神津島村は、これらの条例に基づく取り組みを進めることにより、「星空保護区(ダークスカイパーク)」の認定を目指し(神津島村HP「東京都初!!めざす!☆『星空保護区』認定」)、その結果、令和2年12月1日付で認定を受けた(神津島村HP「東京都初! 星空保護区認定決定」)。「星空保護区」とは、米国のNPO団体「国際ダークスカイ協会(IDA)」が認定する制度で、夜空の暗さや屋外照明の形状・色温度などがIDAの基準をクリアすること、地域住民の理解と賛同が得られること、夜空を体験できるツアーを実施することなどの条件を満たした場合に認定されることになる(上記神津島村HP参照)。

 なお、神津島の星空のことについては、NPO法人神津島観光協会HP「神津島まるごとプラネタリウムー東京の島で星空さんぽー」を参照されたい。

〇 星空公園条例は、神津島村の全区域内を「星空公園」として指定するものである。目的(1条)、指定範囲(2条)、村長等の責務(3条)の3条から構成されている。都市公園や自然公園等国の法令に基づくものや地方自治法244条の公の施設でもなく、「優れた星空を保護するとともに、その利用の増進を図り、もって村民の生活や動植物などへの環境保護の向上に資する」(1条)ために、神津島の全区域を「星空公園」として位置付けることとしたものと考えられる。

〇 美しい星空を守る光害防止条例は、光害から美しい星空を守るため、神津島村の全区域内を対象に、村民等(村民、旅行者及び滞在者)及び事業者に対して、屋外照明及び屋外照明広告看板の設置・運用、屋外アクティビティでの照明器具の使用等に制限を課すものである。

 光害防止の目標を、神津島村の区域内において夜空の明るさ mag/arcsec²(マグニチュードパー平方秒角といい、単位平方秒角あたりの等級を示す。)の数値が前年度よりも悪化しないこと(4条)とし、屋外照明について相関色温度は3,000K(ケルビン)以下でなければならない、照射方向は上方光束がゼロとなるように設置する、点灯時間は施設や店舗等は閉館・閉店時刻をもって消灯する、屋外照明広告看板は日没時刻の1時間後以降から日の出時刻の1時間前まで点灯してはならず日没時刻以降の輝度は100cd/㎡(カンデラ毎平方メートル)以下でなければならないとするなど、極めて専門的でかつ詳細な基準を設けている(10条~12条)。これらの基準は、「星空保護区」の認定を得るために必要なものと考えられる。

 村長は、光害防止のために必要があると認めるときは、立入調査をすることができ(16条)、条例で定められた基準に適合しない行為を行っている者に対して改善命令をすることができ(17条)、改善命令に従わない者に対して、弁明の機会を与え、当該弁明に理由がないと判断した場合には、理由を付してその氏名又は名称及び実情を公表することができる(18条)としている。罰則規定はない。

 目的(1条)、適用範囲(2条)、定義(3条)及び上記の規定(4条、10条~12条、16条~18条)のほか、村、村民等及び事業者の責務(5条~7条)、光害防止審議会(8条)、関係行政機関への協力要請(9条)、適用除外(13条)、国等に関する特例(14条)、光害の監視(15条)等の規定を置いている。

〇 「星空保護区」は、日本では、平成30年3月に沖縄県八重山諸島の西表石垣国立公園が「星空保護区」に認定されているが、同国立公園に改修が必要な屋外照明が多数あることから現時点では暫定認定とされており、自治体(石垣市及び竹富町)は「屋外照明管理計画」を整備し、国立公園内の全ての屋外照明を光害対策型に改修する計画であるとされている(国際ダークスカイ協会HP「日本初の『星空保護区』が誕生」参照)。なお、関連する条例は制定されていない。

 

【沖縄県国頭村の条例】

〇 沖縄県国頭村も、星空保護区の認定を目指し、令和6年3月に、星空に関する条例を制定した。すなわち、

沖縄県国頭村 国頭村星空公園設置条例 令和6年3月22日公布

令和6年3月22日施行

である。 

〇 本条例は、「暗い夜空と暗い自然環境を守るべき資源として保護すると共に、滞在型観光の拠点としてその利用促進を図り、村民の生活や動植物等への環境保全に資すること」を目的とし、村内の4つの観光施設(国頭村森林公園、やんばる学びの森、奥やんばるの里、安田くいなふれあい公園)を星空公園として指定している(1条、2条)。そして、星空公園は「やんばるダークスカイ・フォレスト(Yambaru Dark Sky Forest)」と呼称、表記する(3条)とし、「村長、事業者、指定管理者及び星空公園の利用者は、暗い夜空と暗い自然環境の保全と適正な利用が図られるよう、それぞれの立場において光害の防止に努めなければならない」(4条)としている。

 また、光害防止のため、国頭村屋外照明管理規則(令和6年3月22日公布・施行)を制定し、施設等に対する屋外照明の設置・運用について配慮すべき事項を定めている。

〇 国頭村は、「2022年8月にダークスカイ・ジャパンの下部組織である星空保護推進機構により国頭村内4つの観光施設(国頭村森林公園・やんばる学びの森・奥やんばるの里・安田くいなふれあい公園)を調査したところ、これらの施設が星空保護区に認定された地域に匹敵する「夜空の暗さ」があることがわかりました。 この調査を契機に、国頭村はこれら4つの施設の星空保護区認定を目指すため、生活に必要な灯を維持しつつ、「不必要な光(光害)」の改善に取り組んでいます。」(国頭村HP「国頭村は2024年3月22日にアストロツーリズム専用のホームページ、「やんばるダーク スカイ☆フォレスト(Yambaru Dark Sky Forest)」を開設しました。」)とし、「国頭村内で見ることのできる、四季折々の星座や惑星、流星群などの天体ショーの情報を、星好きな皆様にお届け」するため、専用のホームページ「やんばるダーク スカイ☆フォレスト(Yambaru Dark Sky Forest)」を開設している。

 

【岡山県井原市の条例】

〇 全国最初に、光害を防止し星空を守る条例として、制定されたのは、

岡山県美星町 美しい星空を守る美星町光害防止条例(旧条例) 平成元年11月22日公布

平成元年11月22日施行

である。しかし、美星町は平成17年3月1日に井原市に編入されたため、現在は、

岡山県井原市 美しい星空を守る井原市光害防止条例(新条例) 平成16年12月17日公布

平成17年3月1日施行

令和3年1月1日改正施行

に改められている。新旧条例は、一部内容の変更はあるものの、基本部分はほぼ同じである。

〇 光害から美しい星空を守るため、井原市美星町の区域内を対象に、市民等(市民、旅行者及び滞在者)及び事業者に対して、照明器具の設置及び使用等の制限を課すものである。

〇 新条例は、目的(1条)、適用区域(2条)、定義(3条)、光害防止の目標(4条)、市、市民等及び事業者の責務(5条~7条)、光害防止審議会(8条)、関係行政機関への協力要請(9条)、光害防止モデル地区の指定(10条)、照明器具等の制限及び配光基準(11条)、適用除外(12条)、 国等に関する特例(13条)、新規の公共の屋外照明について(14条)、天体観測等への協力(15条)、照明時間の制限の奨励(16条)、光害防止対策費用の補助(17条)光害の監視(18条)、調査・改善命令・公表(19条~21条)等の規定を置いている。罰則規定はない。

 なお、神津島村の美しい星空を守る光害防止条例も、井原市条例とほぼ同様の条文構成となっており、その制定に当たっては、井原市条例を参考にしたものと考えられる。

〇 光害防止の目標は、旧条例では「国際天文学連合の勧告にならい、人工光による夜空の明るさの増加の程度が、自然の状態の夜空の明るさの1割を越えないようにすること」(3条)としていたが、新条例では「井原市美星町の区域内において、夜空の明るさが前年度の明るさを下回ること」(4条)としている。

 照明器具等の制限及び配光基準は、屋外照明は原則として光源の中心と笠の縁とを結ぶ線が水平又はそれ以下に向くよう設置すること、屋外での投光機の使用は原則として禁止すること、建築物・看板等を照明する場合は下から上に向けて投光することを禁止すること、屋外照明には規則で定めるタイプの光源を使用することを奨励すること、事業所等の屋内照明はできるだけ屋外に光を漏らさないよう配慮しなくてはならないことなどを規定するほか、照明器具の配光基準及び照明器具設置の具体例は、規則で定めることとしている(11条 新条例)。

 照明時間は、屋外照明は午後10時から翌朝日の出までの間消灯することを奨励するものとしている(15条 新条例)。

〇 旧条例は、米国のキットピーク国立天文台に近いアリゾナ州ツーソン市で1972年(昭和47年)に制定された条例を参考にしているとされている(井上繁「まちづくり条例―その機能と役割」(ぎょうせい 1998年1月)264頁)。

〇 条例前文を読むと、旧美星町の条例立案者の思いが伝わってくる。少し長くなるが、参考までに掲載する。

 「美星町には、流れ星の伝説と、その名にふさわしい美しい星空がある。天球には星座が雄大な象形文字を描き、その中を天の川が流れている。さらに、地平線から天の川と競うように黄道光が伸び、頻繁に流れ星がみられる。また、夜空の宝石ともいえる星雲や星団は、何千年、何万年以上もかかってその姿を地上に届けている。これら宇宙の神秘をかいま見ることができる環境は、町民のみならず全人類にとってかけがえのない財産となっている。しかし、宇宙は今、光害によってさえぎられ、視界から遠ざかって行こうとしている。人工光による光害の影響は半径100㎞以上にも及び人々から星空の美と神秘に触れる機会を奪うだけでなく過剰な照明は資源エネルギーの浪費を伴い、そのことが地球をとりまく環境にも影響を与えている。また、過剰な照明により、夜の安全を守るという照明本来の目的に反するのみならず、動植物の生態系にも悪影響を与えることも指摘されている。 近隣には主要な天文台が設置されているとおり、町の周辺は天体観測に最も適した環境にあり、町はこれまで『星の郷づくり』に取り組んできた。そして、今後も多くの人々がそれぞれに感動をもって遙かなる星空に親しむよう宇宙探索の機会と交流の場を提供することが町及び町民へ与えられた使命と考える。このためわが美星町民は 町の名に象徴される美しい星空を誇りとしてこれを守る権利を有し 義務を負うことをここに宣言し、全国に先がけてこの条例を制定する。」(旧条例前文 新条例もほぼ同じ)

〇 なお、井原市も「星空保護区」認定を目指し、様々な活動に取り組み、令和3年11月1日付で認定を受けた(井原市HP「アジア初となる「星空保護区(コミュニティ部門)」に認定」)。

 

【群馬県高山村の条例】

〇 美星町条例に続いて、制定されたのが、

群馬県高山村 高山村の美しい星空を守る光環境条例 平成10年3月20日公布

平成10年10月1日施行

である。高山村に県立ぐんま天文台が建設されたことを契機として、条例が制定された。

〇 条例の目的、内容、構成などは、美星町条例とかなりの程度似ている。

 

【鳥取県の条例】

〇 都道府県で制定されている条例として、

鳥取県 鳥取県星空保全条例 平成29年12月26日公布

平成30年4月1日施行

がある。

〇 目的は、「県内随所で天の川を観測することができる鳥取県の美しい星空が見える良好な環境について、これが清浄な大気と光害の少なさによってもたらされることを踏まえ、光害の防止に関して、行政、県民等及び事業者の責務及び役割を明らかにし、県民生活及び事業活動に必要な照明を確保しつつ必要な規制を行うとともに、星空環境を観光及び地域経済の振興や環境教育に活用することを推進する」(1条)こととしている。

〇 光害の防止に関する規制は、①全県を対象に、投光器やレーザーを原則として禁止する(7条)、②星空保全地域を指定し、当該地域に係る星空保全照明基準を定め、照明器具を設置・使用する者に当該基準の遵守を義務付ける(9条~12条)、の二つの態様であり、いずれの場合も、知事は、規定に違反する者に対して勧告をすることができ、勧告に従わない場合は鳥取県景観審議会の意見を聴いて命令をすることができ(8条、14条)、命令違反の者に対しては5万円以下の過料に処する(22条、23条)としている。井原市条例など他の条例とは異なり、罰則規定を置いている。

 一方で、県は、①全県を対象に、星空環境を活用した環境教育等を推進する(18条、19条)、②星空保全地域を対象に、星空保全照明基準への適合に要する費用の補助、地域振興の支援等を行う(15条~17条)こととしている。

 なお、本条例の内容、運用等については、鳥取県HP「星空環境・保全」を参照のこと。また、鳥取県は、同県を「星取県」としてPRしている(鳥取県HP「CATCH the STAR 鳥取県」参照)。

 

【その他の条例】

〇 他に光害を防止し星空を守る条例としては、

岡山県浅口市 浅口市日本一の天体観測適地を守る条例 平成30年3月23日公布

平成30年4月1日施行

熊本県山都町 山都町星空環境保全条例 令和2年3月9日公布

令和2年3月9日施行

がある。

 浅口市条例は、「浅口市が晴天率が高く、大気が安定しているため、優れた天体観測適地として広く認められ、世界最先端の観測が行われていることを踏まえ、観測に影響を与える光(以下「光害」という。)の防止に努めることで、浅口市の美しい星空環境を守ること」(1条)を目的とするが、3条から構成され、目的のほかは、市の役割(2条)並びに市民及び市内事業者の役割(3条)を規定している。

 山都町条例は、「山都町が天文台を有する町として、天体観測に適した環境を後世へ引き継いでいく必要があることを踏まえ、町民の生活と生産に必要な照明を確保しつつ光害の防止を図ること」(1条)を目的とする。8条から構成されている。「町は、天文の啓発等その他の理由により必要があると認めるときは、町民及び事業者に対して生活や事業活動に支障のない範囲において、照明器具等の減灯又は消灯を求めることができる。」(4条)とするとともに、照明器具の使用に関して、屋外照明はその用途に応じた適正かつ必要最小限の光とし上方に光が漏れないよう遮光された照明器具を使用すること、 建築物等及び屋外広告物の外観を照射する目的で設置する照明器具はその目的とする対象物のみを照射すること、屋内照明はできる限り屋外に光が漏れないよう使用することの3点について努力義務を規定している(6条)。なお、本条例は、平成30年度の子ども議会において提案があったことを踏まえて制定されている(山都町HP「山都町星空環境保全条例を制定しました」参照)。

〇 生活環境条例などで、光害防止等に関する規定を置く条例は、少なくない。例えば、

岡山県 岡山県快適な環境の確保に関する条例 平成13年12月21日公布

平成14年4月1日施行

 屋外照明設備の設置・使用に関して光害防止の努力義務を課すこと、投光器の使用を禁止すること等を規定(20条~24条)

熊本県 熊本県生活環境の保全等に関する条例 昭和44年4月1日公布 

昭和44年4月1日施行

 屋外照明設備の設置・使用に関して光害防止の努力義務を課すこと、サーチライト等の使用を禁止すること等を規定(87条~92条)

兵庫県 景観の形成等に関する条例 昭和60年3月27日公布

昭和60年4月1日施行

平成25年12月13日改正施行

 星空景観形成地域の指定、星空景観の形成を阻害する行為の禁止、星空景観形成照明基準、改善命令等を規定(21条の2~21条の9)

長野県

良好な生活環境の保全に関する条例

昭和48年3月30日公布

昭和48年4月1日施行

令和3年10月18日改正施行

 屋外照明設備の使用に際して光害防止の努力義務を課すこと、サーチライト等の使用を禁止すること等を規定(51条~52条の3)

浜松市 浜松市音・かおり・光環境創造条例  平成16年3月23日公布

平成16年10月1日施行

 照明器具等の減灯等の協力要請、照明器具等の設置等における配慮、営業時間外における減灯又は消灯の奨励、投光器等の使用の制限等を規定(10条~15条)

〇 サーチライト等の使用規制に特化した条例も制定されている。例えば、

東京都八王子市 八王子市サーチライト等の使用規制に関する条例 平成16年9月28日公布

平成16年10月1日施行

 サーチライト等(サーチライト、レーザー、スポットライト及び投光器)の使用を原則として禁止すること等を規定

東京都清瀬市 清瀬市サーチライト等の使用規制に関する条例    平成17年9月30日公布

平成17年10月1日施行

 サーチライト等(サーチライト、レーザー等の投光器)の使用を原則として禁止すること等を規定

 

【参考】

〇 以上の条例を含む星空保全条例の制定状況等については、鈴木颯汰・上河原献二「星空保全条例の制定動向と制定契機について」(環境情報科学学術研究論文集35号 令和3年11月)を参照されたい。



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