就労困難者への就労支援に関する条例

(令和5年12月14日更新)

【就労支援に関する条例】

〇 障害者の雇用の促進等に関する法律は、障害者について、事業主に対して一定雇用割合の雇用を義務づける一方で、それを達成した事業主に調整金を交付するなどの措置を講じ、就労を支援し、雇用の安定を図っているが、障害者のみならず、生活困窮者、ひとり親、引きこもりの人、刑務所出所者等就労を希望するものの就労が困難な人々全体を対象として、就労の支援を促進することを目的とした条例が、最近制定されている。

静岡県富士市

富士市ユニバーサル就労の推進に関する条例

平成29年2月22日公布

平成29年4月1日施行

大阪府

大阪府障害者等の雇用の促進等と就労の支援に

関する条例

 

平成31年4月1日改正施行

東京都

都民の就労の支援に係る施策の推進と

ソーシャルファームの創設の促進に関する条例

令和元年12月25日公布

令和元年12月25日施行

などである。

 

【富士市条例】

〇 富士市ユニバーサル就労の推進に関する条例は、議員提案により平成29年2月に制定された。

〇 「ユニバーサル就労」という表現を使っており、これは「様々な理由により働きたくても働くことができない状態にある全ての人が自ら選択した仕事に従事すること」(2条1号)と定義づけられているが、もともと「社会福祉法人生活クラブが発案した言葉で、商標登録されています。富士市は、生活クラブより許諾を受け、ユニバーサル就労という言葉を使用していくことにしました。」(富士市HP「ユニバーサル就労とは」)としている。

 条例制定の経緯等については、「平成26年11月、ユニバーサル就労を拡げる親の会から『親も子も安心して暮らせる環境整備』について、市民1万9千人の署名を添えて市に要望されたことが契機となり、その推進に向けて動き出すことになりました。その後、富士市議会ユニバーサル就労推進議員連盟と行政が検討を重ねた結果、平成29年4月、市議会議員発議による全国で初めての『富士市ユニバーサル就労の推進に関する条例』が施行され、市民の誰もが生きがいを持ち、働くことができる仕組みづくりとしてスタートしました。」(上記富士市HP)としている。

〇 本条例は、前文で、「私たちのまち富士市は、豊富な地下水と豊かな自然に恵まれ、紙・パルプ産業などの製造業を中心に農林業や水産業など、様々な産業が成長し、発展してきた。人々が多様な産業に携わり豊かな市民生活を築いてきた反面、障害のある人をはじめ、就労意欲がありながら様々な理由により働きたくても働くことができない状態にある人たちは、自らの能力を発揮するため働く場を求めてきたが、こうした人たちに就労の機会が十分に提供されているとは言えない。市民の誰もが社会を構成する一員として活躍し、自立した生活を送ることができる社会を実現するためには、就労意欲のある全ての人に就労の機会が提供されるよう、環境を整備していかなければならない。」との問題認識を示している。

 12条の条文で構成され、目的(1条)、定義(2条)、基本理念(3条)の後、市、市民、事業者及び事業者団体の責務(4条~7条)を規定するとともに、財政上の措置、推進体制の整備、関係行政機関との連携、顕彰等(8条~12条)を定めており、理念的な規定となっている。

〇  本条例を踏まえ、富士市では、ユニバーサル就労相談窓口やユニバーサル就労支援センターを設置し、就労支援のための取組を実施しているが、その内容等については、富士市HP「ユニバーサル就労」を参照のこと。また、本条例については、自治体法務研究2018年春号CLOSEUP先進・ユニーク条例「富士市ユニバーサル就労の推進に関する条例」を参照されたい。

 

【大阪府条例】

〇 大阪府は、平成31年4月に大阪府障害者等の雇用の促進等と就労の支援に関する条例(ハートフル条例)(平成21年10月30日公布)を改正し、障害者だけでなく、ひとり親、生活困窮者等の就職困難者に対する就労支援を進めることとした。

〇 この条例改正は、大阪府における大阪府における「行政の福祉化」の取組の一つとしてなされている。

 「行政の福祉化」とは、「府政のあらゆる分野において、福祉の視点から総点検し、住宅、教育、労働などの各分野の連携のもとに、施策の創意工夫や改善を通じて、障がい者やひとり親家庭の父母、高齢者などの雇用、就労機会を創出し、『自立を支援する取組』であり、全庁的に進めているもの」(大阪府HP「行政の福祉化」)とされ、平成15年7月に全庁の組織として「行政の福祉化推進会議」が設置されている。

 平成29年度には、大阪府社会福祉審議会行政の福祉化推進検討専門部会が設置され、「大阪府における行政の福祉化の推進のための提言」が取りまとめられた。同提言は、オール大阪で「ユニバーサル就労」を推進していくべきこと(21頁)、ソーシャルファーム(社会的課題の解決を目的としたサービスや商品などの提供等を行う企業等のうち、障害者など就職困難者の安定雇用・賃金の確保も目的とした活動を行うもの)を支援すること(24頁)等についても、言及している。

 この提言を踏まえ、「障がい者だけでなく、働く意思と能力がありながら様々な事情により働くことができない状態にある人たちの働く機会が十分に提供されているとはいえない状況を改善するために、ひとり親、生活困窮者など、障がい者を含む就職困難者に働く機会を提供する事業主の取組みを社会全体で促進することと、あわせて、雇用の定着をさらに進めていくことをめざして、平成31年4月にハートフル条例を改正」(上記大阪府HP)したとしている。

〇 改正のポイントは、①条例の対象を、障害者から、ひとり親、生活困窮者など就職困難者に拡大(1条、2条等)、②事業主の責務として、障害者以外の就職することが困難な者について、雇用の機会の創出及び拡大を図るとともに、一人一人の事情に配慮しながら働きやすい職場環境を整備し、府が実施する施策に協力するよう努めることを追加(4条3項)、③「障害者等の職場環境整備等支援組織」(障害者等の特性、事情等に配慮した働きやすい職場環境の整備等に資するため、事業主とその雇用する障害者等との間に立って支援する法人)の認定制度を創設(11条の2)、④総合評価一般競争入札等の公契約等において、事業主が障害者等の雇用・就労支援に資する取組を行っていることを勘案(障害者等の職場環境整備等支援組織の活用を含む)する規定を新設、等である(大阪府作成「改正ハートフル条例 チラシ」参照)。

 特に④については、大阪府では、公共施設における清掃等業務発注において、評価項目に障害者やひとり親家庭の父母の雇用などの視点を盛り込んだ総合評価入札制度を導入しており、一定の効果があった(上記「大阪府における行政の福祉化の推進のための提言」16頁以下)としており、条例上の制度として位置付けたものと考えられる。

 

【東京都条例】

〇 東京都は、令和元年12月に 都民の就労の支援に係る施策の推進とソーシャルファームの創設の促進に関する条例を制定した。

〇 本条例では、前文も含めて、①ダイバーシティ、②ソーシャル・インクルージョン、③ソーシャルファームという3つの外来語が使われている。この3つの言葉が、本条例の趣旨や内容を物語っているとも言える。

〇 すなわち、前文は、「東京は、日本の首都として、また世界有数の国際都市として発展を続けている。国内外から多様な人々が集い、多岐にわたる仕事を通じて社会経済活動を営んでいることが、東京の成長の原動力となっている。東京が活力ある都市として今後も持続的に発展していくためには、誰もが生き生きと働き活躍できるダイバーシティを実現し、互いの個性を尊重して認め合う共生社会を目指していく必要がある。そのためには、東京都と都民、事業者等が相互に理解を深め、社会の一員として共に活動しながら支え合うソーシャル・インクルージョンの考え方に立って、希望する全ての都民の就労を支援していかなければならない。特に、この考え方は、就労を希望しながらも様々な理由から就労に困難を抱え、職に就けていない方や就労の継続が困難な方を支援していく上で重要である。」とし、東京においてダイバーシティの実現が必要であり、そのためには、ソーシャル・インクルージョンの考え方に基づき、就労困難者に対する就労支援を推進することが重要であるとの基本認識を示している。

〇 そのうえで、本条例では、就労を希望する全ての都民に対する就労の支援について、基本理念(3条)、都の責務(4条)、都民、事業者及び市区町村の役割(5条~7条)並びに都民及び事業者に対する支援等(8条及び9条)について規定し、さらに、具体的な施策として、ソーシャルファームの創設と認証に関する規定(10条及び11条)を置いている。

〇 「ソーシャルファーム」とは、「事業者による自律的な経済活動の下、就労困難者と認められる者の就労と自立を進めるため、事業からの収入を主たる財源として運営しながら、就労困難者と認められる者を相当数雇用し、その職場において、就労困難者と認められる者が他の従業員と共に働いている社会的企業」(10条)と定義づけられているが、1970年代にイタリアで誕生し、現在では、ドイツ、イギリス、フランスなどに広がり、ヨーロッパ全体で約1万社、韓国でも約2千社存在し、就労困難者対して就労する場を提供する一方で、一般企業と市場で競争できる優れた製品やサービスを提供しており、就労困難者は他の労働者と同じ労働条件で働くことが原則となっているとされている(東京都就労支援のあり方を考える有識者会議報告書「東京都における就労支援のあり方について」(令和元年11月)6頁)。

〇 なお、本条例では、「就労困難者」を「就労を希望しながら、様々な事由により就労することが困難である者であって、その者の配慮すべき実情等に応じた支援が必要なもの」と定義づけている(2条2号)が、これについては、「『就労を希望しながらも様々な要因から就労が困難になっている方』の例は数多くあり、障害者、生活困窮者、ひとり親、児童養護施設退所者、刑務所出所者等、ひきこもりといった方などが候補になると考えられるが、育児中、介護中、病気療養中など一時的に就労が困難となる方もおり、範囲を定めることは 容易ではない。条例では具体的に列挙するのではなく 、概括的な表現にとどめ、今後実施するそれぞれの支援事業において、各事業に適した対象者を具体的に定めていけば良いと考えられる。」とされた(上記東京都有識者報告書6頁)ことを踏まえたものと考えられる。

 【ユニバーサルを条例名で使用する条例】

〇 富士市条例は条例名で「ユニバーサル」という言葉を用い、また、大阪市条例では条例制定前に提出された「大阪府における行政の福祉化の推進のための提言」において「ユニバーサル就労」という考え方が示されていた。

 「ユニバーサル」とは、通常「普遍的な」、「一般的な」、「すべてに共通している」等の意味で使用されているが、これまで全国の条例では、例えば浜松市ユニバーサルデザイン条例(平成14年12月17日公布 平成15年4月1日施行)のように、障害者、高齢者等を含むすべての人々が使いやすく、暮らしやすい施設づくり、まちづくりをめざす「ユニバーサルデザイン」に関する条例が制定されてきている。

〇 兵庫県では、福祉のまちづくり条例(平成4年10月9日公布 平成5年10月1日施行)により、バリアフリー、ユニバーサルデザインの考え方に基づき、公共施設や、道路、公園、鉄道駅舎などについて、高齢者や障害のある人の利用に配慮した整備を進めてきたが、それをさらに進め、障害者、高齢者等を含むすべての人々が、医療、福祉、就労、教育等の社会の幅広い分野において、地域社会の一員として尊重され、活動できる社会を築くため、

兵庫県

ユニバーサル社会づくりの推進に関する条例

平成30年3月22日公布

平成30年4月1日施行

を制定した。条例の考え方などについては、兵庫県HP「めざすべき「ユニバーサル社会」とは」を参照されたい。

〇 なお、国では、ユニバーサル社会の実現に向けた諸施策の総合的かつ一体的な推進に関する法律(平成30年12月14日公布・施行)が議員立法により制定されている。法律において、「ユニバーサル社会」とは「障害の有無、年齢等にかかわらず、国民一人一人が、社会の対等な構成員として、その尊厳が重んぜられるとともに、社会のあらゆる分野における活動に参画する機会の確保を通じてその能力を十分に発揮し、もって国民一人一人が相互に人格と個性を尊重しつつ支え合いながら共生する社会」(2条1号)と定義づけている。



条例の動きトップに戻る