行政手続条例・パブリックコメント条例

 

【行政手続条例】

〇 行政手続法(平成5年法律88号)は、行政運営における公正の確保と透明性の向上を図るため、処分、行政指導及び届出に関する手続並びに命令等を定める手続についてルールを定めている。平成5年11月12日に公布、平成6年10月10日に施行されたが、平成17年に意見公募手続等に関する規定(平成18年4月1日改正施行)が、平成26年に行政指導の中止の求め及び処分等の求めに関する規定(平成27年4月1日改正施行)が、それぞれ追加されている。

〇 地方公共団体に関しては、地方公共団体の機関がする処分のうちその根拠となる規定が条例又は規則に置かれているもの、地方公共団体のする行政指導、地方公共団体の機関に対する届出のうちその根拠となる規定が条例又は規則に置かれているもの、地方公共団体の機関が命令等を定める行為に関する手続については、地方自治の尊重を図るため、行政手続法の適用が除外されている(3条3項)。したがって、地方公共団体が行う処分であっても、法律(又はそれに基づく命令等)に基づくものは、行政手続法の対象になる。一方で、地方公共団体が行う行政指導はすべて行政手続法の対象外であり、法律に基づく処分に関連する行政指導についても行政手続法は適用されない。

〇 地方公共団体においても、行政運営における公正の確保と透明性の向上を図ることが必要であることは言うまでもなく、行政手続法46条は、地方公共団体は、この法律の規定の趣旨にのっとり、必要な措置を講ずるよう努めなければならないとし、地方公共団体の自主的な努力により、行政手続の整備が図られることを期待している。

〇 行政手続法46条は、地方公共団体が講じる措置の具体的な形式等について定めていないが、「条例によって住民の手続的権利を保障することが望ましいという判断から、行政手続条例の制定が進み、普通地方公共団体における制定率は、ほぼ100%に達している。」(宇賀克也「行政手続三法の解説(第2次改訂版)」(学陽書房 2016年)194頁)とされている。

〇 総務省は、定期的に行政手続条例等の制定状況を調査している。直近は「地方公共団体における行政手続条例等の制定状況−概要(平成29年10月1日現在)概要 集計表」(平成30年3月28日公表)である。ただし、ほぼ100%の自治体が条例制定をしている状況を踏まえ、条例制定状況そのものの調査ではなく、行政手続法が平成27年4月1日に改正施行され処分等の求め及び行政指導の中止の求めが新たな行政手続として追加されたこと等を踏まえた行政手続条例等の改正の対応状況について調査したものである。これによると、改正施行された2年半後の平成29年10月1日現在で、都道府県は47団体(100%)、指定都市は20団体(100%)、中核市は48団体(100%)、施行時特例市36団体(100%)、その他の市区町村1503団体(91.8%)が行政手続条例は改正済みであるとしており、速やかに条例改正が行われている状況が窺われる。

  なお、インターネットの公開されている各自治体の例規集から確認できている範囲において(令和2年4月時点)は、行政手続条例が制定されていない団体がいくつかある。これらの団体のうち、北海道江差町、福島県泉崎村、山口県和木町、山口県阿武町、高知県須崎市及び高知県大豊町では、行政手続規則が制定されており、岡山県早島町では、行政手続要綱が制定されている。また、新潟県加茂市では、規則、要綱等も制定されていない。

〇 行政手続法が制定されたことを踏まえ、地方自治体は条例制定を進めてきた。条例制定時期の早いものとしては、

鳥取県

鳥取県行政手続条例

平成6年12月19日公布

平成7年4月1日施行

東京都

東京都行政手続条例

平成6年12月22日公布

平成7年4月1日施行

札幌市

札幌市行政手続条例

平成7年2月20日公布

平成7年4月1日施行

東京都葛飾区

葛飾区行政手続条例

平成7年3月10日公布

平成7年4月1日施行

奈良県斑鳩町

斑鳩町行政手続条例

平成7年3月23日公布

平成10年6月1日施行

東京都国立市

国立市行政手続条例

平成7年3月23日公布

平成7年4月1日施行

 などがある。いずれも、行政手続法が施行された後、制定され、施行されている。

〇 一般的に、いずれの自治体の行政手続条例も、ほぼ行政手続法と同様の内容を持っている。他方で、行政手続法3条3項で法の適用除外とされた分野について、条例で、より厳格な手続を規定し、またはより緩和された手続を規定することは、妨げられないとされる(上記宇賀克也著書192頁以下参照)。

  宇賀克也「行政通則法における地方公共団体の位置付け」(総務省地方自治法施行70周年記念自治論文集(平成30年3月)131頁以下)は、「大半の行政手続条例における処分・届出に係る規定は、同法のそれと内容的に異なるわけではない。しかし、一部の行政手続条例においては、同法以上の手続保障を与える注目すべき規定がみられ、単に同法の規定を引き写したのではなく、あるべき手続保障について自主的に検討を行った成果がみられる」(136頁)とし、また、「行政指導に係る行政手続条例の規定には、同法四章の行政指導の規定と異なる内容・表現のものがみられる」(139頁)として、それぞれその具体例を挙げているので、参照されたい。

 

【パブリックコメント条例】

〇 行政手続法は、平成18年4月1日改正施行され、意見公募手続すなわちいわゆるパブリックコメントに関する規定が追加されたが、総務省は地方公共団体における意見公募手続制度の制定状況についても定期的に調査している。直近は、「地方公共団体における意見公募手続制度の制定状況(平成29年10月1日現在)概要 集計表」(平成30年3月28日公表)である。これによると、平成29年10月1日現在、都道府県は46団体(97.9%)、指定都市20団体(100%)、中核市48団体(100%)、施行時特例市35団体(97.2%)、その他の市区町村892団体(54.5%)が意見公募手続制度(条例のみならず、規則、要綱、要領、指針等を制定方式とするものを含む)を制定済みである。なお、都道府県において意見公募手続制度が制定されていない1団体は、東京都である。未制定の理由は、「既存の仕組み(議会、各種の委員会・懇談会、広報広聴活動等)により意見聴取を実施しているため」とされている。

  意見公募手続制度を制定済みの団体のうち、条例を制定形式としている団体は、都道府県は4団体、指定都市は9団体、中核市は11団体、施行時特例市20団体、その他の市区町村は193団体で、合計237団体となっている。行政手続条例がほぼ100%の自治体で制定されているのに対して、条例で意見公募手続を規定する自治体は、全体の1割強に過ぎない。多くの自治体は、要綱等により対応している。

〇 上記調査では、意見公募手続を規定する条例を、意見公募手続条例、行政手続条例及びその他の条例の3つのタイプに分け、それぞれの制定状況についても調べている。これによると、以下の表のとおりである。

      

都道府県

指定都市

中核市

施行時特例市

その他の市区町村

意見公募手続条例

0

3

6

5

54

68

行政手続条例

3

2

0

0

16

21

その他の条例

1

4

5

15

123

148

条例制定団体数

4

9

11

20

193

237

(参考)全団体数

47

20

48

36

1637

1788

 

〇 パブリックコメント制度は、国においては、平成11年3月23日に閣議決定された「規制の設定または改廃に係る意見提出手続」により導入され、平成18年の改正行政手続法施行により法定化された。制度の名称を、平成11年閣議決定では「意見提出手続(いわゆるパブリック・コメント手続)」としていたのに対して、平成18年の改正行政手続法では「意見公募手続」としている。

  現在の行政手続法による意見公募手続のアウトラインは、@行政機関が、命令等(政令、府省令、告示、審査基準、処分基準、行政指導指針)を定めようとする場合は、その案と関連資料を公示し、一般の意見を求めなければならない(39条1項)、A意見提出期間は、公示の日から30日以上(39条3項)、B行政機関は、命令等を定める場合は、提出された意見を十分に考慮しなければならない(42条)、C行政機関は、命令等を定めた場合は、命令等の公布と同時期に、命令等の題名、提出意見、提出意見を考慮した結果等を公示しなければならない(43条1項)、D@及びAの公示は、情報通信技術を利用する方法により行う(現在、政府の電子政府の総合窓口「e‐Gov パブリックコメント」において実施)(45条)、となっている。

〇 一方、自治体では、国における平成11年の閣議決定の動きなどを踏まえ、平成12年ごろから一部の県で要綱等により実施され(滋賀県民政策コメント制度に関する要綱(平成12年4月1日施行)など)、その後平成13年ごろから一部市町村で条例化されていった(横須賀市市民パブリック・コメント手続条例(平成13年9月20日公布)、石狩市行政活動への市民参加の推進に関する条例(平成13年9月27日公布)など)。こうした自治体では、国における制度の法制化に先立って、条例化がなされたこととなる。さらに、平成18年4月1日に行政手続法が改正施行され、意見公募手続が法制化されたので、自治体でも行政手続条例が改正され、また、パブリックコメント条例、市民参加条例などが制定されるなど、パブリックコメント制度の条例化が進められていった。

〇 総務省調査では、条例のタイプを、@意見公募手続条例、A行政手続条例、Bその他の条例の3つのタイプに区分している。

@  意見公募手続条例  パブリックコメント制度に特化した単独条例のタイプである。例えば、

神奈川県横須賀市

横須賀市市民パブリック・コメント手続条例

平成13年9月20日公布

平成14年4月1日施行

埼玉県新座市

新座市パブリック・コメント手続条例

平成14年6月25日公布

平成14年7月1日施行

神戸市

神戸市民の意見提出手続に関する条例

平成16年3月31日公布

平成16年10月1日施行

東京都葛飾区

葛飾区行政手続条例

平成7年3月10日公布

平成7年4月1日施行

三重県四日市市

四日市市パブリックコメント手続条例

平成17年10月12日公布

平成17年10月12日施行

東京都三鷹市

三鷹市パブリックコメント手続条例

平成18年3月30日公布

平成18年4月1日施行

千葉県木更津市

木更津市意見公募手続に関する条例

平成18年9月30日公布

平成18年9月30日施行

川崎市

川崎市パブリックコメント手続条例

平成18年12月14日公布

平成19年4月1日施行

東京都杉並区

杉並区区民等の意見提出手続に関する条例

平成21年12月9日公布

平成22年4月1日施行

高知県香美市

香美市パブリックコメント手続条例

令和元年6月6日公布

令和元年6月26日施行

 などがある。

  条例の名称は、パブリック・コメント、パブリックコメント、意見提出手続、意見公募手続などが使われている。パブリックコメントに特化した単独条例であるので、パブリックコメントの方法等について詳細に定めている。

A 行政手続条例   行政手続法の改正を踏まえ、行政手続条例を改正し、パブリックコメントを規定するタイプである。例えば、

神戸市

神戸市行政手続条例

平成18年4月1日改正施行

埼玉県八潮市

八潮市行政手続条例

平成19年4月1日改正施行

石川県金沢市

金沢市行政手続条例

平成19年4月1日改正施行

福岡県

福岡県行政手続条例

平成19年4月1日改正施行

千葉県

千葉県行政手続条例

平成20年4月1日改正施行

 などがある。

  いずれも、改正行政手続法が施行された平成18年4月1日以降、施行されている。法の規定とほぼ同様の規定となっている。3つのタイプのうち、数としては最も少ない。  

B  その他の条例  市民参加条例や自治基本条例にパブリックコメント制度を規定するタイプである。

a 市民参加条例にパブリックコメント制度を規定するものとしては、例えば、

北海道石狩市

石狩市行政活動への市民参加の推進に関する条例

平成13年9月27日公布

平成14年4月1日施行

北海道旭川市

旭川市市民参加推進条例

平成14年7月4日公布

平成15年4月1日施行

東京都狛江市

狛江市の市民参加と市民協働の推進に関する基本条例

平成15年3月31日公布

平成15年4月1日施行

石川県金沢市

金沢市における市民参加及び協働の推進に関する条例

平成17年3月25日公布

平成17年4月1日施行

群馬県伊勢崎市

伊勢崎市市民参加条例

平成18年3月27日公布

平成18年4月1日施行

鳥取県

鳥取県民参画基本条例

平成25年3月26日公布

平成25年3月26日施行

 などがある。

  一般的に市民参加条例は、市民参加の方法として、審議会、意見交換会、公聴会、説明会、アンケートの実施等を掲げており、その一つとしてパブリックコメント手続を規定しているものである。したがって、条文数も少なく、手続等も比較的簡潔に規定しているものが多い。

b 自治基本条例にパブリックコメント制度を規定するタイプとしては、例えば、

東京都杉並区

杉並区自治基本条例

平成14年12月3日公布

平成15年5月1日施行

神奈川県愛川町

愛川町自治基本条例

平成14年7月4日公布

平成15年4月1日施行

川崎市

川崎市自治基本条例

平成16年12月22日公布

平成17年4月1日施行

東京都三鷹市

三鷹市自治基本条例

平成17年10月1日公布

平成18年4月1日施行

 などがある。

  一般的に自治基本条例は、それぞれの自治体の仕組みの基本ルールを定めており、パブリックコメントに関して規定する場合、基本的考え方のみを規定し、具体的には別な条例や要綱等に委ねているのが多い。例えば、杉並区自治基本条例は「政策等に係る区民等の意見提出手続」について規定(28条)したうえで杉並区区民等の意見提出手続に関する条例が制定され、川崎市自治基本条例は「パブリックコメント手続」について規定(30条)したうえで川崎市パブリックコメント手続条例が制定され、三鷹市自治基本条例は「パブリックコメント」について規定(16条)したうえで三鷹市パブリックコメント手続条例が制定され、それぞれ具体的な手続等が定められている。なお、上記自治基本条例のうち愛川町自治基本条例は、パブリックコメント制度を詳細に規定している(17条〜23条)。

〇 それぞれの条例に規定されるパブリックコメント制度は、基本的には国の制度と同様のスキームとなっている。特に、A行政手続条例のタイプは、法の規定とほぼ同様の規定となっている。

  パブリックコメントを求める者と対象案件について3つのタイプの条例を比較すると、A行政手続条例のタイプは、「広く一般の意見を求める」との規定を置き、対象案件は規則等(規則、告示、審査基準 処分基準 行政指導指針としている。これに対して、@意見公募手続条例やBその他の条例のタイプは、「市民等から意見を求める」とするものが多く、その場合、「市民等」とは、市内に住所を有する者、市内の事務所又は事業所に勤務する者、市内の学校に在学する者等とするものが多い。また、対象案件は、当該自治体が作成する基本的計画や権利義務を制限する条例などとするものが多い。逆に、規則等(規則、告示、審査基準 処分基準 行政指導指針)を対象とするものは少ない。当該自治体にとって基本的な政策、方針等について、あらかじめ市民等の意見を聞くこととしているものである。

  なお、神戸市は神戸市行政手続条例及び神戸市民の意見提出手続に関する条例、金沢市は金沢市行政手続条例及び金沢市における市民参加及び協働の推進に関する条例と、2つの条例でパブリックコメント制度を規定しているが、それぞれ前者は広く一般から規則等について意見を聞き、後者は市民等(金沢市条例は市民)から基本的な政策、方針等について意見を聞くこととしている。

〇 上記総務省調査(概要及び集計表)では、全国自治体の条例等の制定状況、制定形式、条例のタイプ、対象案件、告知方法、募集の手段等を掲載している。

  また、出石稔「パブリックコメント(意見公募手続)条例」(自治体法務研究「比較解説 自治立法のトレンドC」2008年夏号)は、これらのパブリックコメント条例について、詳細に分析をするとともに、内容について考察し、解説しているので、参照されたい。なお、本稿はこの出石稔解説を参考にしている。