いじめ防止に関する条例

 

【法施行以前の条例】

〇 いじめ防止対策推進法(平成25年法律第71号)が、平成25年6月に制定されたが、いじめの防止に関する条例は、一部の自治体では法制定前から制定されていた。まず、法施行以前の条例を紹介する。

〇 全国で最初に条例名に「いじめ」という言葉が使われた条例は、

兵庫県小野市

小野市いじめ等防止条例

平成19年12月21日公布

平成20年4月1日施行

 である。

  ただし、条例名は、「いじめ防止」ではなく「いじめ等防止」である。「いじめ等」とは「言葉、文書(電子媒体を含む。)、暴力等による心理的及び物理的な攻撃、無視、差別的な扱い等による精神的な苦痛を与えるもの並びに児童虐待の防止等に関する法律・・・、高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律・・・及び配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律・・・に規定する虐待、暴力等」(2条1号)としており、「学校のいじめだけでなく、児童虐待、高齢者虐待、ドメスティック・バイオレンス(DV)、セクシュアル・ハラスメントなどすべての人権侵害」が含まれる(小野市HP「小野市いじめ等防止条例」)としている。

  基本理念として、「すべての市民は、何人に対しても、いじめ等をしてはならない」(3条1項)としたうえで、市、市民、学校・社会福祉施設及び企業・公的機関の責務(4条〜7条)、家庭及び地域社会の役割(8条、9条)を定め、さらに、基本的施策として、行動計画の策定、いじめ等の相談窓口の設置、啓発活動、いじめ等防止市民会議の設置等(10条〜16条)を規定している。

  いじめ等の防止への市の対応として、「教育部局(学校、教育委員会)だけでなく、市長部局と情報を共有し、水平展開しながら、組織全体で対応」(上記小野市HP)していることを強調している。

〇 全国で最初に子どものいじめ防止に特化した条例は、

岐阜県可児市

可児市子どものいじめの防止に関する条例

平成24年10月3日公布

平成24年10月3日施行

 である(可児市HP「可児市子どものいじめの防止に関する条例」)。

  本条例は、「市全体でいじめ防止に取り組むことを宣言」したものであり、「子どもが安心して生活し、学ぶことができる環境を実現するため、市民がそれぞれの立場から、主体的かつ相互に連携して、いじめの防止に取り組むこと」を示している(上記可児市HP)としている。

  「いじめ」を、「子どもと一定の人間関係のある他の子どもが行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった子どもが心身の苦痛を感じているもの」(2条1号)と定義づけたうえで、基本理念(3条)、市、市立学校、保護者、市民及び事業者の責務(4条〜7条)、啓発・教育、支援及び通報・相談等(9条〜11条)の規定を置いている。特徴的なことは、市に「いじめ防止専門委員会」を設置(12条)し、委員会は、「通報又は相談のあったいじめについて、その解決を図るために必要な調査、審査、審議又は関係者との調整を行い」(13条1項)、市長は、「委員会の調査、調整等の結果を受け、必要があると認めるときは関係者に対して是正要請」(15条1項)するとしたところである。委員会について、「いじめの背景には、社会や家庭の問題など学校以外の要因があり、学校現場だけでなく、幅広く取り組んでいく必要があるという考えから、市長部局(教育委員会とは別組織)に第三者機関を設置」した(上記可児市HP)としている。

  なおいじめ防止対策推進法の施行に伴い、法14条1項に基づく組織として「可児市いじめ問題対策連絡協議会」に関する規定(8条)が追加(平成25年12月20日改正施行)されている。

〇 いじめ問題は、昭和60年ごろから社会問題化してきたが、平成23年10月に滋賀県大津市の中学校が自殺した事件がその後の学校や教育委員会の対応なども含め大きく報道され、教育的、社会的、行政的課題としてさらにクローズアップされた。

  これを受けて、地元大津市において、議員提案により、制定されたのが、

滋賀県大津市

大津市子どものいじめの防止に関する条例

平成25年2月19日公布

平成25年4月1日施行

 である。

  前文で、「子どもの心と体に深刻な被害をもたらすいじめは、子どもの尊厳を脅かし、基本的人権を侵害するもの」であることを明記している。そのうえで、基本理念(2条)を示し、市、市立学校及び保護者の責務を具体的かつ詳細に規定する(4条〜6条)とともに、子ども及び市民・事業者の役割を定めている(7条、8条)。

  市は、行動計画を策定する(9条)ほか、何人も、子どものいじめに関し、市に相談、通報又は情報の提供をすることができる(11条)とし、あわせて相談体制を整備(12条1項)するとともに、「いじめを未然に防止し、いじめから子どもを守るため、いじめに係る情報の一元化を図り、関係機関等との相互の連携及び迅速かつ適切な対応ができるよう組織体制を強化」(12条2項)し、また、「市立学校におけるいじめに係る相談体制の充実のため、スクールソーシャルワーカー、スクールカウンセラー等の配置に努める」(12条3項)ものとしている。なお、12条2項に基づき、市長部局にいじめ対策推進室が設置されている。

  さらに、市長の附属機関として、相談等を受けたいじめについて、必要な調査、調整等を行うため、「大津の子どもをいじめから守る委員会」を設置し(14条)、市長は、委員会からの調査等の結果の報告を受け、関係者に対して「是正の要請を行うことができる」(16条1項)としている。

  なお、いじめ防止対策推進法の施行に伴う法30条2項の付属機関に関して、大津市いじめに関する重大事態再調査委員会条例(平成30年3月26日公布 平成30年4月1日施行)を本条例とは別に制定している。

  大津市のいじめ対策については、大津市HP「いじめ対策ポータル」を参照のこと。

  

【いじめ防止対策推進法の制定】

〇 上記の平成23年に発生した大津市中学生自殺事件が契機となり、議員立法により、いじめ防止対策推進法(平成25年法律71号)が制定された(平成25年6月28日公布 平成25年9月28日施行)。

〇 同法は、「いじめが、いじめを受けた児童等の教育を受ける権利を著しく侵害し、その心身の健全な成長及び人格の形成に重大な影響を与えるのみならず、その生命又は身体に重大な危険を生じさせるおそれがあるもの」としたうえで、「児童等の尊厳を保持するため」、「いじめの防止等のための対策を総合的かつ効果的に推進すること」を目的としている(1条)。また、「いじめ」の定義を、「児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」(2条1項)とし、さらに「児童等は、いじめを行ってはならない」との禁止規定を置いている。

〇 地方公共団体に関しては、「基本理念にのっとり、いじめの防止等のための対策について、国と協力しつつ、当該地域の状況に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する」(6条)とし、文部科学大臣が定める「いじめ防止基本方針」を参酌して、その地域の実情に応じて、「地方いじめ防止基本方針」を定めるよう努める(12条)とともに、「条例の定めるところにより、学校、教育委員会、児童相談所、法務局又は地方法務局、都道府県警察その他の関係者により構成されるいじめ問題対策連絡協議会を置くことができる」(14条1項)、「教育委員会に附属機関として必要な組織を置くことができる」(14条3項)としている。また、学校における、いじめの早期発見のための措置、いじめの防止等の対策のための組織の設置、いじめに対する措置、校長及び教員による懲戒、出席停止制度の適切な運用に関する規定等を置く(15条〜27条)とともに、学校の設置者又はその設置する学校は、重大事態に係る事実関係を明確にするため調査を行う組織を設け(28条1項)、公立学校において重大事態が発生した場合、学校は、その旨を当該地方公共団体の長に報告しなければならず(30条1項)、報告を受けた地方公共団体の長は、附属機関を設けて調査を行う等の方法により、調査を行うことができ(30条2項)、その結果を議会に報告しなければならない(30条3項)、私立学校において重大事態が発生した場合、学校は、その旨を都道府県知事に報告しなければならず(31条1項)、報告を受けた都道府県知事は、附属機関を設けて調査を行う等の方法により、調査を行うことができる(32条2項)としている。

〇 いじめ問題に対する政府の対応については、文部科学省HP「いじめの問題に対する施策」を参照のこと。

 

【法施行後に制定された条例】

〇 いじめ防止対策推進法制定後、多くの自治体でいじめ防止に関する条例が制定されるようになった。そうした条例は大きく2つのタイプに分かれる。

  一つは、法に定める条例事項に関してのみ規定する法施行条例ともいうべきタイプである。

  もう一つは、法に定める条例事項のみならず、基本理念、自治体等の責務や役割、自治体の施策等を規定した総合条例ともいうべきタイプである。

〇 法施行条例のタイプとしては、例えば、以下のようなものがある。

鳥取県八頭町

八頭町いじめ問題調査等委員会条例

平成26年1月21日公布

平26年1月21日施行

福岡県春日市

春日市いじめ防止等対策推進条例

平成26年3月18日公布

平成26年4月1日施行

徳島県

いじめ防止対策推進法施行条例

平成26年3月20日公布

平成26年4月1日施行

  八頭町条例は、法28条1項に規定する組織として「八頭町いじめ問題調査委員会」の設置及び法30条2項に規定する附属機関として「八頭町いじめ問題検証委員会」の設置を、春日井市条例は、法14条1項に規定する組織として「春日市いじめ問題対策連絡協議会」の設置、法14条3項に規定する教育委員会の附属機関として「春日市いじめ防止等対策推進委員会」の設置及び法30条2項に規定する市長の附属機関として「春日市いじめ防止等調査委員会」の設置を、徳島県条例は、法14条1項に規定する組織として「徳島県いじめ問題等対策連絡協議会」の設置、法14条3項に規定する教育委員会の附属機関として「徳島県いじめ問題等対策審議会」の設置並びに法30条2及び第31条2項に規定する知事の附属機関として「徳島県いじめ問題調査委員会」の設置を、それぞれ規定している。

〇 総合条例のタイプとしては、例えば、以下のようなものがある。

香川県宇多津町

宇多津町いじめ防止条例

平成26年3月20日公布

平26年3月20日施行

北海道滝川市

滝川市子どものいじめの防止等に関する条例

平成26年3月26日公布

平成26年4月1日施行

千葉県

千葉県いじめ防止対策推進条例

平成26年3月25日公布

平成26年4月1日施行

  いずれも、基本理念、いじめの禁止、自治体、学校・学校の教職員、保護者、住民等の責務や役割を定めるとともに、法により努力義務が課された当該自治体いじめ防止基本方針及び学校いじめ防止基本方針の作成、法の規定に基づくいじめ問題対策連絡協議会やいじめ対策調査会の設置等について規定している。

  これらの規定のほか、滝川市条例は、学校におけるいじめの防止、いじめの早期発見等のための措置等、関係者との連携等、人材の確保・資質の向上、インターネットを通じて行われるいじめに対する対策の推進等、啓発活動、いじめに対する措置、校長・教員による懲戒、出席停止制度の適切な運用等、学校相互間の連携協力体制の整備、学校評価における留意事項及び重大事態が発生した場合の対処(14条〜36条)等の規定を置き、また、千葉県条例は、相談・情報収集体制の充実、予防・早期発見、人材の確保・資質の向上、啓発、ネットいじめ対策及び調査研究等(13条〜18条)、重大事態への対処及び知事の調査(20条、21条)等の規定を置いている。

 

【最近制定された都道府県条例】

〇 上記の条例の具体例は、法施行後の早い段階で制定されたものであるが、最近(平成30年以降)においても、条例を制定する自治体は多い。法施行条例のタイプも、総合条例のタイプも、それぞれ制定されている。

〇 そうした中で、都道府県では、既に法施行条例が制定されているにもかかわらず、それとは別に新たに基本理念、自治体等の責務や役割、自治体の施策等を規定した条例を制定する動きがある。以下のようなものである。

三重県

三重県いじめ防止条例

平成30年3月22日公布

平成30年4月1日施行

宮城県

宮城県いじめ防止対策推進条例

平成30年11月30日公布

平成30年12月1日施行

茨城県

茨城県いじめの根絶を目指す条例

令和元年12月25日公布

令和2年4月1日施行

 である。

  三重県では三重県いじめ問題対策連絡協議会条例三重県いじめ対策審議会条例及び三重県いじめ調査委員会条例(いずれも、平成26年3月27日公布・施行)が、宮城県ではいじめ問題対策連絡協議会条例、いじめ防止対策調査委員会条例及びいじめ調査結果検証等委員会条例(いずれも、平成27年3月27日公布、平成27年4月1日施行)が、茨城県では茨城県いじめ再調査委員会条例(平成26年6月20日公布・施行)が、既にそれぞれ制定されていたが、こうした既存の条例を存置させたうえで、三重県は知事提案により、宮城県及び茨城県は議員提案により、新たな条例を制定した。

  各条例とも、基本理念、いじめの禁止、県、学校・学校の教職員、保護者、県民等の責務や理念を定めるとともに、県いじめ防止基本方針及び学校いじめ防止基本方針の作成、いじめの早期発見のための措置、インターネットを通じて行われるいじめに対する対策の推進、啓発活動、学校相互間の連携協力体制の整備、重大事態への対応等に関する規定を置いている。

  条例制定という形で、県、学校関係者、家庭、地域社会等が連携協力していじめ問題に取り組む決意を、改めて示したものと言える。

 

【寝屋川市条例】

〇 いじめ防止に関する条例で、これまで各自治体で制定されてきたものと少し異なる内容を持つタイプのものが、令和元年12月に制定された。すなわち、

大阪府寝屋川市

寝屋川市子どもたちをいじめから守るための条例

令和元年12月23日公布

令和2年1月1日施行

 である。寝屋川市も寝屋川市執行機関の附属機関に関する条例で教育委員会の付属機関として寝屋川市いじめ問題対策委員会が設置されていたが、本条例が新たに制定された。

〇 基本理念(3条)、市、保護者、地域住民及び学校の責務(4条〜7条)、いじめの禁止等(8条)及び相談・申出(9条、10条)を規定しているところは、他の条例と基本的には異ならないが、「市長は、申出があった事案について、関係する児童等及びその保護者に聞き取りを行う等、必要な調査を行うことができる」(11条1項)とし、市長は、調査の結果、いじめ又はそのおそれがあると認めるときは、学校その他関係する寝屋川市の機関に対し、児童等に対する見守りその他学校内におけるいじめの防止のための環境整備、懲戒、出席停止、児童等の学級替え、児童等の転校の相談及び転校の支援等の措置を講ずべきことを勧告することができる(13条)とし、さらに、「市長は、児童等の命と尊厳を守るために必要と認めるときは、警察署、児童相談所その他関係機関に通報するものとする」(15条)としている。

〇 可児市条例や大津市条例は、いじめの相談等があった場合は、市長の付属機関である第3者委員会が調査し、その調査結果を受けて、関係者に対して是正要請を行うこととしているが、寝屋川市条例は、申出があった場合、市長(市長部局の組織)が直接調査し、懲戒、出席停止、児童等の学級替え等の具体的事項について学校等に対して勧告するとしている。また、警察署、児童相談所等への通報の規定を置いている。

  なお、法律は、重大事態が発生した場合、学校設置者又は学校が調査を行い(28条1項)、調査報告を受けた自治体の長は、「附属機関を設けて調査を行う等の方法により」、当該調査結果について調査を行うことができ(30条2項)、自治体の長及び教育委員会は、調査結果を踏まえ、自らの権限及び責任において、必要な措置を講ずるものとする(30条5項)としている。また、30条2項の規定は、「地方公共団体の長に対し、地方教育行政の組織及び運営に関する法律・・・第21条に規定する事務を管理し、又は執行する権限を与えるものと解釈してはならない」(30条4項)とし、校長及び教員は教育上必要があると認めるときはいじめを行っている児童等に対して懲戒を加え(25条)、市町村の教育委員会はいじめを行った児童等の保護者に対して当該児童等の出席停止を命ずる等の措置を講ずる(26条)としている。

〇 寝屋川市は、「児童等の命と尊厳を守るため、市長部局の監察課がいじめの初期段階から事案に関与する『行政的アプローチ』、被害者の告訴・訴訟等の法的手続を支援する『法的アプローチ』、及び学校で児童等の見守りなどを行う『教育的アプローチ』による本市独自のいじめ対策を推進し、いじめゼロを目指します」(令和2年度市政運営方針)としている。なお、いじめ問題に対する寝屋川市の取組みの考え方については、「広報ねやがわWeb版 令和元年12月号(テキスト形式)特集1 本気でいじめを抑え込む」を参照のこと。また、本条例については、自治体法務研究2020年秋号CLOSEUP先進・ユニーク条例「寝屋川市子どもたちをいじめから守るための条例」を参照されたい。

 

【令和2年以降に制定された市町村条例】

〇 令和2年以降に制定された市町村条例のうち、総合条例のタイプで、令和2年10月9日現在確認できるものとして、以下のようなものがある。

島根県出雲市

出雲市いじめの防止等に関する条例

令和2年1月1日公布

令和2年4月1日施行

山形県南陽市

南陽市いじめ防止対策の推進に関する条例

令和2年3月6日公布

令和2年4月1日施行

岐阜県下呂市

下呂市いじめ防止等対策推進条例

令和2年3月23日公布

令和2年4月1日施行

山形県長井市

長井市いじめ防止対策の推進に関する条例

令和2年3月24日公布

令和2年3月24日施行

岐阜県美濃市

美濃市いじめ防止対策に関する条例

令和2年3月24日公布

令和2年4月1日施行

福島県相馬市

相馬市いじめ防止等に関する条例

令和2年3月27日公布

令和2年4月1日施行

三重県志摩市

志摩市いじめ防止対策推進条例

令和2年3月30日公布

令和2年4月1日施行

山形県小国町

小国町いじめ防止対策の推進に関する条例

令和2年6月1日公布

令和2年6月10日施行

 

〇 条例の内容は自治体により異なるが、基本理念、いじめの禁止、市(町)、学校・学校の教職員、保護者、住民等の責務や役割などを定めるとともに、市(町)いじめ防止基本方針や学校いじめ防止基本方針の作成、いじめ問題対策連絡協議会やいじめ対策調査会の設置等について規定しているものが多い。

 




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