歯科保健に関する条例

(令和6年3月4日更新)

【全国の制定状況】

〇 歯科保健に関する条例の制定状況については、8020推進財団が調査し、そのHP「都道府県歯科保健条例制定マップ」で公表している。

 これによると、都道府県については、令和4年6月21日現在、45道府県で制定されている。全国で最初に制定されたのは、平成20年7月の新潟県歯科保健推進条例である。この後、平成21年に3道県で制定され、平成22年から平成26年にかけて一気に制定が進み、平成31年3月には沖縄県歯科口腔保健の推進に関する条例が、令和3年3月には、福井県歯と口腔の健康づくり推進条例が制定されている。平成23年に制定された兵庫県の健康づくり推進条例は、「健康づくりの推進のための施策」の一つとして「歯及び口腔の健康づくり」を規定(12条、13条)していたが、令和4年3月に新たに兵庫県歯及び口腔の健康づくり推進条例が制定された。

 条例未制定の団体は、東京都及び大阪府の2都府である(令和6年1月1日時点においても、同様)。

 45道府県の条例はすべて歯科保健に関する単独条例であり、条例名は、「歯科保健推進」(新潟県)、「歯科口腔保健推進」(長野県)、「歯科口腔保健の推進」(埼玉県、福島県、群馬県、福岡県)を除き、多くは「歯・口腔の健康づくり」、「歯と口腔(口)の健康づくり」等となっている。また、最初に条例名に「歯」、「口腔(口)」及び「健康」を使用したのは、平成21年6月制定の北海道歯・口腔の健康づくり8020推進条例である。なお、長野県歯科保健推進条例は、令和3年10月に改正施行されて、条例名は長野県歯科口腔保健推進条例となっている。

〇 市町村については、同じく上記「都道府県歯科保健条例制定マップ」によると、令和4年6月21日現在、全国173団体で制定されており、その内訳は、市が126団体、特別区が3団体、町が40団体、村が4団体とされる。市町村で最初に制定されたのは平成22年12月の静岡県裾野市の裾野市民の歯や口腔の健康づくり条例である。その後平成23年から27年にかけて全国の多くの市区町村で制定が進められた。平成28年以降も、毎年条例が制定されており、新しいものは、令和4年6月制定(公布)された札幌市の札幌市歯科口腔保健推進条例とされる。

 ただし、「都道府県歯科保健条例制定マップ」における市町村条例の制定状況の記載は必ずしも正確ではなく、令和4年6月21日時点では、173団体以外にも少なくとも、福島県では福島市歯と口腔の健康づくり推進条例(平成31年3月)、栃木県ではさくら市民の歯及び口腔の健康づくり推進条例(平成31年3月)、矢板市民の歯及び口腔に関する健康づくり推進条例(平成31年3月)、上三川町歯及び口腔の健康づくり推進条例(平成31年3月)、高根沢町歯及び口腔の健康づくり推進条例(令和2年3月)、真岡市民の歯及び口腔の健康づくり推進条例(令和2年3月)、那須町民の歯及び口腔の健康づくり推進条例(令和3年6月)、埼玉県では東秩父村歯科口腔保健の推進に関する条例(平成31年3月)、宮代町歯科口腔保健の推進に関する条例(令和元年12月)、狭山市歯科口腔保健の推進に関する条例(令和3年10月)、神奈川県では二宮町歯及び口腔の健康づくり推進条例(平成31年3月)、長野県では小諸市歯科保健推進協議会条例(令和元年6月)、岐阜県では安八町民の歯と口腔の健康づくり推進条例(平成31年3月)、大阪府では堺市歯科口腔保健推進条例(令和3年3月)、熊本県では熊本市歯と口腔の健康づくり推進条例(令和2年3月)の制定が確認できる(()内は、制定(公布)年月)。

 市町村条例の条例名は、その大部分は「歯科口腔保健の推進」または「歯と口腔の健康づくり」となっている。地域的には、栃木県、千葉県、埼玉県、静岡県、愛知県、岐阜県において制定市町村の数が多い。

 なお、令和4年6月21日以降、令和6年1月1日時点で、石川県輪島市の輪島市歯科口腔保健の推進に関する条例(令和4年9月)、岐阜県美濃市の美濃市民の歯と口腔の健康づくり推進条例(令和4年9月)、埼玉県杉戸町の杉戸町歯科口腔保健の推進に関する条例(令和5年3月)、栃木県 那須塩原市の那須塩原市歯及び口腔の健康づくり推進条例(令和5年3月)、愛知県豊山町の豊山町歯と口腔の健康づくり推進条例(令和5年3月)、栃木県大田原市の大田原市歯及び口腔の健康づくり推進条例(令和5年3月)、宮城県村田町の村田町歯科口腔保健推進条例(令和5年9月)の制定が確認できる。

 

【条例制定の経緯等】

〇 全国最初に制定された新潟県歯科保健推進条例は、「県歯科医師会および『子供の歯を守る会』が中心となって,自由民主党県議団,県行政等への働きかけと条例案の具体化に向けた作業が行われ」(深井穫博・大内章嗣「歯科保健推進条例の広がりと今後の展望」(保健医療科学 2011 Vol.60 No.5)369頁)、県議会において議員提案により提出され、平成20年7月に成立したものである。また、「新潟県で議員発議による歯科保健推進条例が制定されたという情報は,ただちに歯科保健行政担当者や都道府県歯科医師会関係者に一種の『コロンブスの卵』をみるような驚きとともに伝わり,2009年(平成21年)6月には,『北海道歯・口腔の健康づくり8020推進条例』が制定されるなど,次々とまさに連鎖していった」(上記深井穫博・大内章嗣論文370頁)とされる。

 条例を制定している45道府県のうち、福島県、山梨県、兵庫県、福岡県及び沖縄県を除く40道府県では、議員提案により制定されている。歯科医師会関係者による県議会関係者等への働きかけにより、各道府県において条例制定が進められていったと見ることができる。

〇 逆に、市町村においては、首長提案による条例が議員提案による条例よりはるかに多い。ちなみに、総務省「地方自治月報」における議員提案による条例に関する調によると、令和2年度末までに議員提案により制定された歯科保健に関する条例は35条例であるが、同じく令和2年度末までに制定された182条例(上記「都道府県歯科保健条例制定マップ」における掲載条例及び地方自治研究機構が確認した条例の合計数)に占める割合は、約2割に過ぎない。約8割が首長提案により制定されていることになる。

 また、三重県伊賀市が平成25年度第1回伊賀市健康づくり推進協議会に提出した「市区町村歯科口腔保健条例の概要」によると、平成25年4月中旬までに首長提案により制定された22市区町村の条例の経緯については、①歯科医師会からの要望(請願なし) 22団体、②首長が歯科医で首長の施策 3団体、③歯科大学との連携のため 1団体(以上、複数回答含む)となっており、首長にも歯科医師会関係者から働きかけがなされていたことが窺える。

〇 歯科口腔保健の推進に関する法律(平成23年法律95号)が、平成23年8月10日に公布・施行された。この法律の制定までの経緯については、上條英之「歯科口腔保健法の制定と背景」(保健医療科学 2011 Vol.60 No.5))に詳しいが、歯科保健医療関係者の間では長年にわたる悲願であったとも言え、「一部の都道府県での条例制定の動きと歯科関係者の熱意も影響し、結果的に議員立法により」(上記上條論文361頁)、制定されるに至ったとされる。

 同法は、「歯科疾患の予防等による口腔の健康の保持(以下「歯科口腔保健」という。)の推進に関し、基本理念を定め、並びに国及び地方公共団体の責務等を明らかにするとともに、歯科口腔保健の推進に関する施策の基本となる事項を定めること等により、歯科口腔保健の推進に関する施策を総合的に推進し、もって国民保健の向上に寄与すること」(1条)を目的とし、国と地方公共団体は、歯科口腔保健に関する知識等の普及啓発、定期的に歯科検診を受けること等の勧奨、障害者等が定期的に歯科検診を受けること等のための施策、口腔の健康に関する調査及び研究の推進等を講じる(7条~11条)こととされ、歯科口腔保健の推進に関する基本的事項の策定を、国には義務づけ(12条)、都道府県には努力義務を課している(13条)。

 なお、法律制定後においても、都道府県、市町村のいずれにおいても、条例制定は進められた。

〇 法律や条例制定の背景には、歯科口腔保健施策の充実を求める関係者の熱意があったと考えられるが、条例や法律の制定が歯科保健事業予算の確保や地域歯科口腔保健推進体制の整備に与えた影響について分析した論文がある。田村光平・堀江博・今村知明「都道府県における歯科保健条例の制定が歯科保健事業予算に与えた影響」(ヘルスサイエンス・ヘルスケア Volume 13,No.1 2013)、神光一郎・川崎弘二・土居貴士・上根昌子・神原正樹「歯科保健条例および歯科口腔保健法制定後の地域歯科口腔保健推進体制の実態について」(日本公衆衛生雑誌62巻6号 2015年6月15日)等である。

 

【条例の内容】

〇 これまで制定された条例は、一般的には、目的、基本理念、自治体・関係者の責務、計画の作成、基本的施策の実施、財政上の措置等が規定されている。

〇 条例の具体例として、都道府県の条例と市町村の条例について、最初に制定された条例、法施行後制定された条例及び最近制定された条例を、それぞれ一つずつ紹介する。

新潟県

新潟県歯科保健推進条例

平成20年7月22日公布

平成20年7月22日施行

三重県

みえ歯と口腔の健康づくり条例

平成24年3月27日公布

平成24年3月27日施行

兵庫県

歯及び口腔の健康づくり推進条例

令和4年3月31日公布

令和4年4月1日施行

静岡県裾野市

裾野市民の歯や口腔の健康づくり条例

平成22年12月22日公布

平成22年12月22日施行

名古屋市

名古屋市歯と口腔の健康づくり推進条例

平成25年3月29日公布

平成25年3月29日施行

宮城県村田町

村田町歯科口腔保健推進条例

令和5年9月29日公布

令和5年10月1日施行

〇 上記6条例のうち、県条例は、市町村との関係について、新潟県条例は、市町村の役割(4条)のほか、市町村長は市町村歯科保健計画を定めることができ、県は市町村に対して必要な支援を行う(10条)と規定しているのに対して、三重県条例は、市町の役割(6条)、連携・協力・調整(9条)及び助言・情報提供(10条)の規定を、また、兵庫県条例は、市町の責務(4条)の規定を、それぞれ置いている。

 基本的施策については、新潟県条例(11条)では11項目、三重県条例(11条)では16項目について規定している。兵庫県条例は、生涯にわたる歯及び口腔の健康づくり(8条)、乳幼児期から高齢期までの歯及び口腔の健康づくり(9条~12条)、口腔衛生の管理及び口腔機能の維持に配慮を要する者に対する歯及び口腔の健康づくり(13条)に分けて、それぞれの施策を具体的に規定している。

 市町村条例も、基本的施策について、裾野市条例(7条)では8項目、名古屋市条例(6条)では15項目、村田町条例(9条)では12項目を、具体的かつ比較的詳細に列挙している。また、裾野市条例は住民歯科保健推進会議の設置(8条)について、村田町条例は歯科口腔保健推進委員会の設置(11条)について規定している。なお、名古屋市条例は、市の責務として、「歯と口腔の健康づくりに関する施策を総合的かつ計画的に策定し、及び実施するもの」(2条)としているが、計画策定の規定は置いていない。

 新潟県条例の内容、実施状況等については、新潟県HP「『新潟県歯科保健推進条例』のページ」を参照のこと。



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