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遺留金取扱条例

                                                  (令和2年5月29日作成)

【神戸市の条例】

〇  神戸市が、平成30年3月に、

神戸市

神戸市遺留金取扱条例

平成30年3月30日公布

平成30年4月1日施行

を制定した。同様の内容を持つ条例は、これまでない。

〇 条例は、目的(1条)、定義(2条)、遺留金の保管(3条)、調査等(4条)、費用(5条)、残余遺留金の引取りの申出(6条)、検察官に対する通知(7条)及び施行細目の委任(8条)の8条から構成される。

〇 「遺留金」を「行旅病人及行旅死亡人取扱法(明治32年法律第93号。以下「法」という。)第1条第1項に規定する行旅死亡人(以下単に「行旅死亡人」という。)その他死体の埋葬又は火葬を行う者がない者又は判明しない者であって,相続人のあることが明らかでないもの(以下「身寄りなき死亡者」という。)が遺留した金銭」(2条)と定義づけたうえで、「遺留金の適正な取扱いに関し必要な事項を定めること」(1条)を条例の目的としている。

〇 本条例は、一見すると、極めて事務的な内容の条例のように思えるが、久元喜造神戸市長は、自らのブログ(平成30年1月25日)「身寄りのない方が遺されたお金は・・・」において、その条例制定の意図を語っている。少し長くなるが、引用する。

  「ひとり暮らしのお年寄りが増える中、ひっそりと亡くなる方が増えています。まったく身寄りのない方、親族などと連絡がとれない方のほか、実のお子さんがおられても『いっさい関わりたくない』 と連絡すら拒まれるケースもあります。このような場合、葬祭を行うのは、自治体です。
 行旅病人及行旅死亡人取扱法、墓地・埋葬等に関する法律の規定に基づき、自治体が埋火葬を行いますが、その費用は、故人が持っておられた現金、遺留金を充て、不足するときは自治体が負担します。残された遺留金は、相続人に引き渡さなければなりません。
 民法の規定によれば、引き取り手が不在である場合は、家庭裁判所に相続財産管理人の選任申し立てを行います。しかしながら、申し立ての際に求められる予納金は、家庭裁判所により、30万円や50万円、ときには100万円にもなり、遺留金が不足する場合には、相続財産管理人の選任申し立てを行うことが困難です。このような場合には、少額の遺留金が自治体に残されます。遺留金は、神戸市には所有権がありませんから、本来持っていてはいけないお金なのですが、現実には、何の法的根拠がないまま増え続け、神戸市の場合、平成29年3月末現在で4600万円余りとなっています。
 指定都市市長会では、遺留金を保管する根拠法を制定し、各自治体の実情に応じて有効に活用できる仕組みづくりを国に提言していますが、実現に至っていません。そこで、神戸市では、全国では初めて、遺留金の取扱いに関する条例の制定を検討しています。家族のありようが変容しているのに、制度が現状に追い付いていない中、自治体の模索が続きます。」

  なお、本条例の制定の背景、内容等については、自治体法務研究2018年秋号CLOSEUP先進・ユニーク条例「神戸市遺留金取扱条例」を参照されたい。

〇 条例のポイントの一つめは、これまで市町村において法令の根拠なく保管してきた遺留金について、歳入歳出外現金(地方自治法第235条の4第3項)として保管するとして、条例に自治体による保管の根拠規定を置いた(3条)ことである。

  市町村が身寄りなき死亡者の遺留金を保管せざるを得ない理由、背景は、概ね以下のとおりである。

@ 身寄りがない者が死亡し、相続人や親族、遺言執行者など葬祭を行う者が明らかにならなかった場合は、行旅病人及行旅死亡人取扱法 7条、墓地、埋葬等に関する法律9条1項、生活保護法18条のそれぞれの規定により、市町村が埋火葬を行う。

A 身寄りなき死亡者が所持していた現金は、埋火葬に要した費用に充て、それでも残った場合、残る現金が遺留金となる。

B  この遺留金について、まず、市町村が相続人調査を行い、相続人に引き渡す。

C  引き渡しができない場合や相続人が判明しない場合は、市町村が家庭裁判所に相続財産管理人の選任申し立てを行うが、その際、予納金が必要となる。

D  遺留金が予納金に満たないときは、相続財産管理人選任することができず、遺留金がそのまま残ることとなり、市町村が保管せざるを得ない。

E  行旅死亡人については行旅病人及行旅死亡人取扱法12条で保管の根拠が定められているが、 墓地、埋葬等に関する法律及び生活保護法については特段の定めがない。

F  したがって、行旅死亡人の場合を除き身寄りなき死亡者の遺留金を、市町村が法令の根拠なく保管せざるを得なかった。

〇 条例のポイントの二つめは、市町村が保管する遺留金について、その所有権は当該市町村にはないものの、相続人等の調査費用に充てることができる旨、条例で明記した(5条)ことである。

  埋火葬に要する費用を遺留金から充てることについては、行旅病人及行旅死亡人取扱法11条、墓地、埋葬等に関する法律9条2項、生活保護法76条などで定められているが、調査費用については、特段の規定はない。しかし、相続人調査には、手間と時間を要し、市町村職員の大きな負担となっている。そこで、こうした調査費用を遺留金の中から支出することができるようにしたものである。

  なお、神戸市遺留金取扱条例施行規則5条は、調査費用の算定項目を、@戸籍謄本の交付を受けるのに要した費用、A通信費、B相続財産の管理人の選任に要した費用、C相続人調査に要する人件費として市長が別に定める額、Dその他これに類するものとして告示に定める費用、としている。

〇 指定都市市長会は、「身寄りのない独居死亡人の遺留金の取り扱いに関する指定都市市長会要請」(平成29年5月23日自治体)において、以下の3点を国に要請している。

@  指定都市をはじめとする地方自治体の意見を十分聞きながら、独居死亡人の遺留金の取り扱いに関する根拠法を国の責任において早急に整備すること。

A  その際、独居死亡人に関する対応は、すべて地方自治体の事務として行っていることに鑑み、遺留金は国ではなく地方自治体に帰属させること。

B  その実現までの間、独居死亡人の葬祭や遺留金の処理に要する費用のうち、地方自治体の負担部分については、全額を国庫負担とすること。

〇 本条例の制定により、遺留金の保管について条例上の根拠ができたこと及び相続人の調査費用に充てることができるとしたことは、大きな意義は有するものの、 市町村において遺留金を保管せざるを得ないこと、身寄りなき死亡者の相続人調査には市町村にとって多大な労力を要すること、遺留金の使途は限定的であり市町村として有効に活用できないことには、変わりはない。

  本条例の制定には、遺留金問題を市民に明らかにするとともに、国に対して問題の所在の理解と法制上の解決を求めるという、神戸市としての意図が込められていたのではないか、そう思えてならない。

 




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