障害者差別解消に関する条例
【制定状況】
〇 障害者差別解消に関する条例の制定状況については、内閣府が第44回障害者政策委員会(令和元年6月3日)に提出した資料1「障害者差別の解消に関する地方公共団体への調査結果(平成31年4月内閣府障害者施策担当)」27頁以下で示されている。これによると、平成30年4月1日現在で、都道府県が27団体、指定都市が5団体、中核市等が9団体、一般市が21団体、町村が12団体、合計74団体が制定済みとしている。ただし、「障害者差別解消に特化している条例に限定するものではなく、条例の一部において障害者差別解消に係る規定を設けている場合も含む。」としており、また、団体名や条例名は明らかにしていない。
また、同じく内閣府は、「平成29年度障害を理由とする差別の解消の推進に関する国外及び国内地域における取組状況の実態調査報告書」の「2a条例における分野ごとの記述(1)分野ごとの記述の類型・考え方」おいて、都道府県、指定都市及び中核市における障害者差別解消に関する条例の制定状況を示している。これによると、平成29年12月時点で、都道府県が23団体、指定都市が5団体、中核市が6団体、合計34団体が制定している。この34条例については、団体名、条例名が明らかにされており、すべて障害者差別解消に特化した条例と見ることができる。
〇 令和2年10月末時点で障害者差別解消に特化した条例を制定している団体は、インターネットで公開している例規集等から確認できるものとして、都道府県が35団体、指定都市が8団体、中核市が8団体、一般市が32団体、町村が17団体、合計100団体を数えることができる。数が多くなるが、以下、列挙する。
(都道府県)
千葉県 | 平成19年6月29日公布 | 平成19年7月1日施行 | |
北海道 | 及び障がい児が暮らしやすい地域づくりの推進に関する条例 | 平成21年3月31日公布 | 平成22年4月1日施行 |
岩手県 | 平成22年12月14日公布 | 平成23年7月1日施行 | |
熊本県 | 平成23年7月1日公布 | 平成24年4月1日施行 | |
長崎県 | 平成25年5月31日公布 | 平成26年4月1日施行 | |
沖縄県 | 平成25年10月29日公布 | 平成26年4月1日施行 | |
京都府 | いきいきと暮らしやすい社会づくり条例 | 平成26年3月14日公布 | 平成26年4月1日施行 |
茨城県 | 茨城県づくり条例 | 平成26年3月26日公布 | 平成27年4月1日施行 |
鹿児島県 | 平成26年3月28日公布 | 平成26年10月1日施行 | |
富山県 | 輝く富山県づくり条例 | 平成26年12月17日公布 | 平成28年4月1日施行 |
奈良県 | 平成27年3月25日公布 | 平成27年7月1日施行 | |
愛知県 | 平成27年12月22日公布 | 平成27年12月22日施行 | |
山梨県 | 平成27年12月25日公布 | 平成28年4月1日施行 | |
徳島県 | 平成27年12月25日公布 | 平成28年4月1日施行 | |
山形県 | 平成28年3月22日公布 | 平成28年4月1日施行 | |
宮崎県 | 平成28年3月23日公布 | 平成28年4月1日施行 | |
栃木県 | 平成28年3月25日公布 | 平成28年4月1日施行 | |
埼玉県 | 暮らしていける共生社会づくり条例 | 平成28年3月29日公布 | 平成28年4月1日施行 |
岐阜県 | 平成28年3月29日公布 | 平成28年4月1日施行 | |
大阪府 | 平成28年3月29日公布 | 平成28年4月1日施行 | |
愛媛県 | 平成28年3月29日公布 | 平成28年4月1日施行 | |
大分県 | 平成28年3月29日公布 | 平成28年4月1日施行 | |
静岡県 | 平成28年3月29日公布 | 平成28年4月1日施行 | |
福岡県 | 平成29年3月30日公布 | 平成29年10月1日施行 | |
鳥取県 | 平成29年7月7日公布 | 平成29年9月1日施行 | |
香川県 | 社会づくり条例 | 平成29年10月20日公布 | 平成30年4月1日施行 |
福井県 | 平成30年3月22日公布 | 平成30年4月1日施行 | |
三重県 | 三重県づくり条例 | 平成30年6月29日公布 | 平成30年10月1日施行 |
東京都 | 平成30年7月4日公布 | 平成30年10月1日施行 | |
佐賀県 | 佐賀県をつくる条例 | 平成30年9月26日公布 | 平成30年9月26日施行 |
福島県 | 平成30年12月25日公布 | 平成31年4月1日施行 | |
秋田県 | 平成31年3月15日公布 | 平成31年4月1日施行 | |
群馬県 | 平成31年3月22日公布 | 平成31年4月1日施行 | |
滋賀県 | 平成31年3月22日公布 | 平成31年4月1日施行 | |
石川県 | 令和元年10月1日公布 | 令和元年10月1日施行 |
(指定都市)
さいたま市 | 平成23年3月4日公布 | 平成23年4月1日施行 | |
新潟市 | 平成27年10月1日公布 | 平成28年4月1日施行 | |
横浜市 | 平成28年2月25日公布 | 平成28年4月1日施行 | |
仙台市 | 共に暮らしやすいまちをつくる条例 | 平成28年3月14日公布 | 平成28年4月1日施行 |
北九州市 | 北九州市づくりに関する条例 | 平成29年12月20日公布 | 平成29年12月20日施行 |
福岡市 | ない人も共に生きるまちづくり条例 | 平成30年6月25日公布 | 平成31年4月1日施行 |
名古屋市 | 障害者差別解消推進条例 | 平成30年12月20日公布 | 平成31年4月1日施行 |
広島市 | 令和2年3月24日公布 | 令和2年4月1日施行 |
(中核市)
東京都八王子市 | 八王子づくり条例 | 平成23年12月15日公布 | 平成24年4月1日施行 |
兵庫県明石市 | 暮らせる共生のまちづくり条例 | 平成28年3月24日公布 | 平成28年4月1日施行 |
和歌山県和歌山市 | 平成28年3月28日公布 | 平成28年4月1日施行 | |
島根県松江市 | まちづくり条例 | 平成28年7月4日公布 | 平成28年10月1日施行 |
山形県山形市 | 関する条例 | 平成29年3月23日公布 | 平成29年4月1日施行 |
青森県青森市 | 社会づくり条例 | 平成29年3月24日公布 | 平成29年4月1日施行 |
秋田県秋田市 | まちづくり条例 | 平成29年12月22日公布 | 平成30年4月1日施行 |
福島県福島市 | 福島市づくり条例 | 令和2年3月31日公布 | 令和2年4月1日施行 |
(一般市)
大分県別府市 | 暮らせる条例 | 平成25年9月20日公布 | 平成26年4月1日施行 |
埼玉県新座市 | 平成26年4月1日改正 施行 | ||
東京都国立市 | 『しょうがいしゃがあたりまえに暮らすまち宣言』の条例 | 平成27年9月17日公布 | 平成28年4月1日施行 |
千葉県浦安市 | 関する条例 | 平成28年3月24日公布 | 平成28年4月1日施行 |
三重県名張市 | まちづくり条例 | 平成28年3月28日公布 | 平成28年4月1日施行 |
兵庫県宝塚市 | 平成28年12月20日公布 | 平成29年1月1日施行 | |
石川県白山市 | 平成29年6月23日公布 | 平成29年10月1日施行 | |
宮城県石巻市 | 福祉のまちづくり条例 | 平成29年9月28日公布 | 平成30年4月1日施行 |
東京都立川市 | まちをつくる条例 | 平成29年12月21日公布 | 平成30年4月1日施行 |
京都府長岡京市 | 平成29年12月26日公布 | 平成30年4月1日施行 | |
大分県杵築市 | まちづくり条例 | 平成29年12月28日公布 | 平成30年4月1日施行 |
兵庫県三田市 | 共に生きるまち条例 | 平成30年3月23日公布 | 平成30年7月1日施行 |
島根県浜田市 | まちづくり条例 | 平成30年3月23日公布 | 平成30年7月1日施行 |
大阪府茨木市 | 平成30年3月27日公布 | 平成30年4月1日施行 | |
埼玉県所沢市 | 平成30年3月30日公布 | 平成30年7月1日施行 | |
東京都小金井市 | 小金井市条例 | 平成30年6月29日公布 | 平成30年10月1日施行 |
三重県四日市市 | 平成30年7月4日公布 | 平成30年7月4日施行 | |
福岡県直方市 | 平成30年7月5日公布 | 平成30年7月1日施行 | |
香川県さぬき市 | 生きる社会づくり条例 | 平成31年3月18日公布 | 平成31年4月1日施行 |
山形県長井市 | まちづくり条例 | 平成31年3月20日公布 | 平成31年4月1日施行 |
岐阜県関市 | 平成31年3月22日公布 | 平成31年4月1日施行 | |
山形県米沢市 | まちづくり条例 | 平成31年3月25日公布 | 平成31年4月1日施行 |
栃木県栃木市 | 平成31年3月26日公布 | 平成31年7月1日施行 | |
大分県日田市 | まちづくり条例 | 平成31年3月26日公布 | 平成31年4月1日施行 |
山形県東根市 | 令和元年6月21日公布 | 令和元年6月21日施行 | |
東京都日野市 | 令和元年9月30日公布 | 令和2年4月1日施行 | |
青森県三沢市 | まちづくり条例 | 令和2年2月25日公布 | 令和2年4月1日施行 |
宮城県塩竈市 | 福祉のまちづくり条例 | 令和2年3月5日公布 | 令和2年4月1日施行 |
山形県酒田市 | まちづくり条例 | 令和2年3月17日公布 | 令和2年4月1日施行 |
山形県鶴岡市 | 令和2年3月25日公布 | 令和2年4月1日施行 | |
大分県臼杵市 | 臼杵市づくり条例 | 令和2年3月25日公布 | 令和2年4月1日施行 |
岐阜県飛騨市 | まちづくり条例 | 令和2年3月30日公布 | 令和2年3月30日施行 |
(町村)
北海道新得町 | 社会参加可能な地域づくりの推進に関する条例 | 平成27年12月3日公布 | 平成28年4月1日施行 |
山形県川西町 | まちづくり条例 | 平成29年6月20日公布 | 平成29年6月20日施行 |
福島県三春町 | ための条例 | 平成29年12月11日公布 | 平成30年10月1日施行 |
山形県飯豊町 | まちづくり条例 | 平成29年12月13日公布 | 平成29年12月13日施行 |
大分県日出町 | 暮らせるまちづくり条例 | 平成30年3月7日公布 | 平成30年4月1日施行 |
香川県土庄町 | まちづくり条例 | 平成30年3月15日公布 | 平成30年4月1日施行 |
和歌山県湯浅町 | 平成30年12月18日公布 | 平成31年4月1日施行 | |
山形県真室川町 | まちづくり条例 | 平成30年12月25日公布 | 平成30年12月25日施行 |
福岡県遠賀町 | 関する条例 | 平成31年3月19日公布 | 平成31年4月1日施行 |
福岡県芦屋町 | 関する条例 | 平成31年3月20日公布 | 平成31年4月1日施行 |
福岡県岡垣町 | 平成31年3月22日公布 | 平成31年4月1日施行 | |
福岡県水巻町 | 平成31年3月22日公布 | 平成31年4月1日施行 | |
香川県小豆島町 | まちづくり条例 | 平成31年3月25日公布 | 平成31年4月1日施行 |
山形県河北町 | まちづくり条例 | 令和2年3月13日公布 | 令和2年4月1日施行 |
山形県小国町 | まちづくり条例 | 令和2年3月19日公布 | 令和2年4月1日施行 |
山形県高畠町 | まちづくり条例 | 令和2年3月24日公布 | 令和2年4月1日施行 |
山形県白鷹町 | まちづくり条例 | 令和2年3月25日公布 | 令和2年4月1日施行 |
〇 こうした自治体の障害者差別解消に関する条例の制定時期を見る場合、平成18年12月13日に国連総会で採択され平成20年5月3日に発効した障害者の権利に関する条約(障害者権利条約)と平成25年6月26日に公布され平成28年4月1日に施行された障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律65号 障害者差別解消法)が重要な要素となる。
全国で最初に制定されたのは、平成19年6月29日公布の千葉県条例である。障害者差別解消法よりも約6年早く制定されている。障害者権利条約は、日本国政府として当時の外務大臣が平成19年9月28日に署名しているので、ほぼ同じようなタイミングで制定されたことになる。国連での障害者権利条約の締結に向けての動きが、日本国内における様々な関係者の障害者の権利に関する意識を高め、議論が活発化し、それぞれの地域における条例制定の動きに結びついたと考えられる。千葉県の条例制定の後、都道府県では、北海道、岩手県、熊本県及び長崎県が、市町村では、さいたま市及び八王子市が、平成25年6月26日の障害者差別解消法の公布に先行して条例を制定している。
障害者差別解消法は公布された後、約3年後の平成28年4月1日に施行された。かなり長い準備期間が設けられた。多くの都道府県が、この約3年の間に条例を制定している。18府県で制定された。他方、市町村で、この間条例を制定したのは、既存の条例を改正したのも含めて、11団体であり、多くの市町村(52団体)は、法律施行の28年4月1日以降制定している。都道府県においても、法律施行後も、制定の動きがみられる。
【条約及び法律の内容】
〇 各条例の内容を概観する前に、まず、障害者権利条約と障害者差別解消法を見てみる。
〇 障害者権利条約は、障害者の人権及び基本的自由の享有を確保し,障害者の固有の尊厳の尊重を促進することを目的として、障害者の権利の実現のための措置等を規定している。具体的には、障害に基づくいかなる差別も禁止すること、障害に基づく差別には、合理的配慮(障害者の権利の確保のために必要・適当な調整で、過度の負担を課さないもの)の否定を含むこと、すべての障害者のあらゆる人権及び基本的自由の完全な実現を確保・促進すること等を明記したうえで、身体の自由,拷問の禁止,表現の自由等の自由権的権利及び教育,労働等の社会権的権利について締約国がとるべき措置等を規定している。
〇 条約に基づく国内法の整備として、平成23年8月の障害者基本法の改正、平成24年6月の「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」(障害者総合支援法)の制定(障害者自立支援法の改正)及び平成25年6月の「障害者の雇用の促進等に関する法律」の改正とともに、平成25年6月に障害者差別解消法が制定された。
改正後の障害者基本法は、「全ての国民が、障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのっとり、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現」(1条)すべきことを目的規定で明確にしたうえで、差別の禁止として、「何人も、障害者に対して、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない。」(4条1項)と明記するとともに、「社会的障壁の除去は、それを必要としている障害者が現に存し、かつ、その実施に伴う負担が過重でないときは、それを怠ることによって前項の規定に違反することとならないよう、その実施について必要かつ合理的な配慮がされなければならない。」(4条2項)と規定している。
障害差別解消法は、障害者基本法の理念を踏まえ、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本的な事項、行政機関等及び事業者における障害を理由とする差別を解消するための措置等を定める」(1条)ものであり、「不当な差別的取扱いの禁止」を行政機関等及び事業者に義務付け、「合理的な配慮の提供」を行政機関等には義務付け、事業者には努力義務を課している(7条、8条)。政府は基本方針を策定(6条)するとともに、国の行政機関等に職員対応要領の策定を義務付け(9条)、地方公共団体の行政機関等には努力義務を課し(10条)、事業者には主務大臣が事業分野別の対応指針を定める(11条)ものとしている。また、国と地方公共団体は、相談及び紛争の防止等のための体制の整備(14条)、啓発活動(15条)等を行うとともに、地域における連携の場として障害者差別解消支援地域協議会を組織することができる(17条)としている。
【条例の内容―法律制定前の条例を中心に】
〇 法律制定前に制定された、千葉県、北海道、岩手県、熊本県、長崎県、さいたま市及び八王子市の条例は、それぞれ関係者や議会などで議論、検討を重ねながら、制定が進められていった。それぞれの内容、記述の形式などは、「手作り」の工夫がなされ、特徴があり、もとより法律の規定とも異なっている。こうした先駆的な条例が、法律制定後に制定された各条例にも影響を与えていると言える。まず、これらの条例について概観する。
〇 千葉県の障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり条例は、「千葉県では条例制定に向けて、県民から『差別に当たると思われる事例』を募集し、教育、雇用など広範な分野に当たり、約800事例がよせられ、それを皮切りに、『障害者差別をなくすための研究会』を設置し、様々な角度から検討を加えていった。タウンミーティングの開催などを通して、条例案は詰められていったが、一時は一部の経済界をはじめとする人たちの反対もあり、廃案の危機にさらされたが、条例を求める市民の強い働きかけもあって、改めて議会に再上程、可決に至った。あらゆる階層の市民を議論に巻き込むことにとって、この条例は成立することができたということができる。」(太田修平「障害者差別禁止千葉県条例 千葉県条例を第一歩として」(法学館憲法研究所HP))とされる。
本条例は、2条2項本文で、差別の定義を「次の各号に掲げる行為(以下「不利益取扱い」という。)をすること及び障害のある人が障害のない人と実質的に同等の日常生活又は社会生活を営むために必要な合理的な配慮に基づく措置(以下『合理的な配慮に基づく措置』という。)を行わないこと」としたうえで、同項1号から8号で、「不利益取扱い」の具体的内容として、福祉サービス、医療、商品及びサービス提供、労働者の雇用、教育、施設及び公共交通機関の利用、不動産の取引並びに情報の提供等の8分野にわたって15行為を列挙している。そして、8条本文で「何人も、障害のある人に対し、差別をしてはならない。」とし、何人に対しても差別すなわち「不利益取扱い」及び「合理的な配慮に基づく措置を行わないこと」を禁止しているが、同条但書きで、「不利益取扱いをしないこと又は合理的な配慮に基づく措置を行うことが、社会通念上相当と認められる範囲を超えた人的負担、物的負担又は経済的負担その他の過重な負担になる場合においては、この限りでない。」としている。また、「地域相談員」の委託及び「広域専門指導員」の委嘱(14条〜19条)、「地域相談員」による相談(20条)、「調整委員会」による助言及びあっせん等(21条〜28条)を規定している。
〇 北海道の北海道障がい者及び障がい児の権利擁護並びに障がい者及び障がい児が暮らしやすい地域づくりの推進に関する条例は、議員提案により制定されたが、「検討の過程で、各会派ごとに、タウンミーティング、アンケート調査などそれぞれで工夫をこらした取組が行われた。また、最終的には条例案が一本化され、しかも、全ての会派の賛成により可決・成立した点が注目される。」(自治体法務研究2010年夏号CLOSEUP先進・ユニーク条例「北海道障がい者及び障がい児の権利擁護並びに障がい者及び障がい児が暮らしやすい地域づくりの推進に関する条例」参照)とされる。
本条例は、千葉県条例とは異なり、差別の禁止等障害者に対する権利擁護のみならず、障害者の暮らしやすい地域づくり、障害者に対する就労の支援等など、障害者支援に関する幅広い内容を規定している。一方で、差別などに関して特に定義規定は設けておらず、また、行政機関である北海道には「不当な差別的取扱いの禁止」と「合理的な配慮」を義務付けている(19条)が、事業者や道民には「不当な差別的取扱いの禁止」を義務付けているものの「合理的な配慮」については努力義務(19条の2及び20条)としている。
〇 岩手県、熊本県、長崎県、さいたまし市及び八王子市の条例についてみると、障害者に対する差別に関する禁止行為等をどのように規定するかについては、対応が分かれる。さいたま市の誰もが共に暮らすための障害者の権利の擁護等に関する条例は、千葉県条例と同じく、差別の定義規定において、禁止されるべき行為を8分野にわたり12行為を列挙している(2条8号)。一方、熊本県の障害のある人もない人も共に生きる熊本づくり条例は、定義規定ではなく、不利益取扱いの禁止行為として、11分野13行為(8条)を、長崎県の障害のある人もない人も共に生きる平和な長崎県づくり条例は、差別の禁止行為として、個別の条建てをして10分野にわたり(10条〜19条)、具体的に列挙している。 また、八王子市の障害のある人もない人も共に安心して暮らせる八王子づくり条例は、定義や禁止行為ではなく、合理的な配慮の対象として、10項目を掲げている(7条1項)。岩手県の障がいのある人もない人も共に学び共に生きる岩手県づくり条例は、不利益な取扱いに関して、具体的な行為を規定していないが、その定義を「障がいがあることを理由として不利な区別、排除及び権利の制限をすること並びに障がいのない人と実質的に同等の日常生活又は社会生活を営むことができるようにするための必要かつ合理的な配慮(社会通念上相当と認められる程度を超えた人的負担、物的負担、経済的負担その他の過重な負担を課するものと認められる場合を除く。)をしないこと。」(2条2号)とし、「合理的な配慮」をしないことも「不利益な取扱い」に含めている。
「不当な差別的取扱いの禁止」と「合理的な配慮」を誰を対象にして義務付けるかということについては、岩手県、熊本県、長崎県及びさいたま市の条例は、千葉県条例と同様に、何人に対しても義務付けている。すなわち、岩手県条例は「何人も、障がいのある人に対し、不利益な取扱いをしてはならない。」(7条)、熊本県条例は「何人も、次に掲げる行為(以下『不利益取扱い』という。)をしてはならない。」(8条本文)、長崎県条例は「何人も、次条から第19条までに定めるもののほか、あらゆる分野において、障害のある人に対して、差別をしてはならない。」(9条)、さいたま市条例は「何人も、障害者に対し、差別をしてはならない」(9条)と規定し、定義規定等を含めて見た場合、何人に対しても「不当な差別的取扱いの禁止」と「合理的な配慮」を義務付けていることになる。一方、八王子市条例は、「何人も、障害者に対し、差別をしてはならない。」(6条)と規定しているが、「合理的な配慮」については、市及び事業者に対して義務付けている(7条1項)ものの、市民に対しては努力義務(7条2項)としている。
また、熊本県条例、長崎県条例、さいたま市条例及び八王子市条例は、解決のための手続として、相談、助言、あっせん等の規定を置いている。
さらに、さいたま市条例及び八王子市条例は、差別の禁止等障害者に対する権利擁護に関する規定のみならず、障害者の自立及び社会参加のための支援に関する規定(さいたま市条例)や移動手段の確保、情報伝達、医療・リハビリテーション、教育・保育・療育等に関する規定(八王子市条例)を置いている。
なお、岩手県条例及び長崎県条例は、議員提案により制定されている。
【条例の内容―法律制定後の条例も含めて】
〇 障害差別解消法は、例えば、「合理的な配慮」に関しては、事業者に対して努力義務とし、一般住民に対しては特段の規定は置いていないが、上記の通り、障害差別解消法制定以前に制定された自治体の条例では、事業者に対して義務付け、住民に対しても義務付けまたは努力義務を課しているものが多い。また、法律では、差別については特に定義規定は置いていないが、条例では、差別の定義や禁止の対象となる行為等について個別分野ごとに具体的に規定している。こうした条例と法律との関係が問題になりうるが、法6条1項に基づき策定された障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(平成27年2月24日閣議決定)は、「地方公共団体においては、近年、法の制定に先駆けて、障害者差別の解消に向けた条例の制定が進められるなど、各地で障害者差別の解消に係る気運の高まりが見られるところである。法の施行後においても、地域の実情に即した既存の条例(いわゆる上乗せ・横出し条例を含む。)については引き続き効力を有し、また、新たに制定することも制限されることはなく、障害者にとって身近な地域において、条例の制定も含めた障害者差別を解消する取組の推進が望まれる。」(2基本的な考え方(3)条例との関係)としており、上乗せや横出しの規定を有する既存の条例は引き続き効力を有し、新たに上乗せや横出しの規定を有する条例を制定することも制限されない旨、明記している。
〇 前記「障害者差別の解消に関する地方公共団体への調査結果(平成31年4月内閣府障害者施策担当)」は、障害差別解消法の制定及び施行後制定された条例を含む、平成30年4月1日現在制定されている74条例(特化条例以外のものも含む)について、「合理的な配慮」及び「差別の定義」に関して、規定の状況を調査し、その結果を示している。
これによると、「合理的な配慮」については、事業者に対して、義務付けているものは13条例(都道府県9条例、中核市1条例、一般市3条例)、特定の条件を満たせば義務とするものは4条例(指定都市3条例、中核市1条例)、努力義務とするものは57条例であるとしている(29頁)。
また、住民に対して、「合理的な配慮」を義務付けているものは13条例(都道府県9条例、中核市1条例、一般市3条例)、努力義務とするものは19条例(都道府県4条例、中核市4条例、一般市7条例、町村4条例)、特に規定していないものは42条例であるとしている(31頁)。
具体例を示すと、「合理的な配慮」について、滋賀県の滋賀県障害者差別のない共生社会づくり条例(6条、2条3号)、明石市の明石市障害者に対する配慮を促進し誰もが安心して暮らせる共生のまちづくり条例(10条、3条3号)、宝塚市の宝塚市障害者差別解消に関する条例(4条、2条3号)は、事業者にも住民にも義務付け、秋田県の秋田県障害者への理解の促進及び差別の解消の推進に関する条例(9条)は、事業者に義務付け住民には努力義務を課し、東京都の東京都障害者への理解促進及び差別解消の推進に関する条例(7条2項)、茨木市の茨木市障害のある人もない人も共に生きるまちづくり条例(7条2号)は、事業者に義務付け住民については特に規定せず、石川県の障害のある人もない人も共に暮らしやすい石川県づくり条例(9条3項)は、事業者と住民に努力義務を課し、三重県の障がいの有無にかかわらず誰もが共に暮らしやすい三重県づくり条例(11条2項)、福岡市の福岡市障がいを理由とする差別をなくし障がいのある人もない人も共に生きるまちづくり条例(8条2項)は、事業者に努力義務を課し住民については特に規定していない。
また、仙台市の仙台市障害を理由とする差別をなくし障害のある人もない人も共に暮らしやすいまちをつくる条例は「事業者は、障害者を雇用する場合において、障害者から障害者でない者との均等な機会の確保又は均等な待遇その他の取扱いの確保を求められた場合であって、その実施に伴う負担が過重でないときは、合理的配慮をしなければならない。」(9条2項)とし、名古屋市の名古屋市障害のある人もない人も共に生きるための障害者差別解消推進条例は「事業者は、その事業を行うに当たり、過重な負担にならない範囲で、合理的配慮をするよう努めなければならない。」(10条1項)及び「事業者は、障害者を雇用する場合において、過重な負担にならない範囲で、合理的配慮をしなければならない。」(10条2項)として、それぞれ事業者が障害者を雇用する場合は「合理的な配慮」を義務付けている。なお、両条例とも、住民については特に規定していない。
内閣府の「平成30年度障害を理由とする差別の解消の推進に関する国外及び国内地域における取組状況の実態調査報告書」の「2.4.2事業者の合理的配慮提供の義務化について」において、平成30年度までに制定された条例(中核市以上の特化条例)のうち事業者への合理的配慮を義務付けている条例一覧を掲載しているが、その中で、「『平成29年度障害を理由とする差別の解消の推進に関する国外及び国内地域における取組状況の実態調査報告書』では、『2016年4月の障害者差別解消法施行以前に条例を制定した地方公共団体では、事業者の合理的配慮を義務付けていることが多いが、2016年4月の障害者差別解消法施行以後は、事業者の合理的配慮を努力義務とする地方公共団体が増えている』と指摘している。2018年度(平成30年度)に入り義務化に踏み切る地方公共団体が現れたことは、この傾向が変化していく可能性を示している。」としているが、上記で示した滋賀県、秋田県、東京都、石川県及び名古屋市の条例は平成30年後以降に制定されたものである
〇 「差別の定義」については、前記「障害者差別の解消に関する地方公共団体への調査結果(平成31年4月内閣府障害者施策担当)」(32頁)は、74条例中、「差別」の定義規定があるの(「障害者差別」、「障害を理由とする差別」等の定義規定がある場合も含む)は39条例(都道府県16条例、指定都市4条例、中核市5条例、一般市12条例、町村2条例)、定義規定にないものは35条例であるとしている。
また、内閣府の「平成30年度障害を理由とする差別の解消の推進に関する国外及び国内地域における取組状況の実態調査報告書」の「2.4.1差別の定義について」において、平成30年度までに制定された条例の中から「差別」の定義の一覧表を掲載しているが、「初期の条例は、差別の定義に関する記述ぶりにある程度ばらつきがあるのに対し、徐々に、障害者差別解消法の条文に類似した表現の条例が増える傾向が見られる。」としている。
〇 禁止される差別、不利益取扱い又は必要とされる合理的配慮の具体的な分野や行為について、法律制定前に制定された条例では、前述の通り、千葉県条例及びさいたま市条例が差別の定義規定において、熊本県条例及び長崎県条例が差別や不利益取扱いの禁止事項として、八王子市条例は合理的配慮の対象として、それぞれ規定していたが、法律制定後も、同様の規定を置く条例は少なくない。
定義規定において示すものとして、新潟市条例及び滋賀県条例が、差別や不利益取扱いの禁止事項として示すものとして、沖縄県、京都府、鹿児島県、奈良県、山梨県、山形県、栃木県、埼玉県、大分県、福井県、仙台市、北九州市、福岡市、名古屋市、名張市、栃木市、日野市、塩竈市及び三春町の条例が、合理的配慮の対象として示すものとして、福岡県、別府市、国立市、名張市、松江市、青森市、立川市、長岡京市、杵築市、浜田市、小金井市、四日市市、日野市、臼杵市及び日出町の条例がある。
それぞれの条例で個別に記述される分野は、福祉、医療、商品サービス、雇用、教育、建物・交通、不動産等が多いが、条例によって項目や内容は異なっている。
〇 法律は、相談や紛争解決に関し、「国及び地方公共団体は、障害者及びその家族その他の関係者からの障害を理由とする差別に関する相談に的確に応ずるとともに、障害を理由とする差別に関する紛争の防止又は解決を図ることができるよう必要な体制の整備を図るものとする。」(14条)と規定しているが、多くの条例では、相談、調査、助言、あっせん、勧告等の手続きや体制を具体的に定めている。
内閣府の「平成29年度障害を理由とする差別の解消の推進に関する国外及び国内地域における取組状況の実態調査報告書」の「2.Ⅽ相談・紛争解決に関する地方公共団体の取組(1)差別に関する相談・事案解決の全体像」は、平成29年12月時点において制定されている条例(中核市以上の特化条例)における相談・事案解決のための体制について、その一覧表を掲載している。
また、内閣府が第44回障害者政策委員会(令和元年6月3日)に提出した参考1「条例の有無等による相談対応の状況」は、条例の有無による相談件数の多寡や相談体制の相違について、調査し、その結果を示している。