がん対策に関する条例
(令和7年4月24日更新)
【制定状況】
〇 がん対策条例は、令和7年4月1日時点で確認できるものとして、都道府県では、42道府県で制定されている。未制定は、5都県であり、ほとんどの団体で制定されていることになる。条例制定済みの42都府県のうち、議員提案により制定されたのは33府県であり、知事提案によるものは9府県である。議員提案によるものが多い。
最初に制定されたのは、平成18年の島根県がん対策推進条例(平成18年9月29日公布・施行)である。その後、平成19年に高知県がん対策推進条例と新潟県がん対策推進条例が制定され、平成20年代には平成22年から平成26年を中心として大半の条例が制定された。平成30年には栃木県がん対策推進条例が、平成31年には(兵庫県)がん対策推進条例が、令和7年には宮城県がん対策推進条例が制定されている。
以下、都道府県のがん対策条例について、制定年別に掲げる。なお、条例名の前に※を付したものは議員提案により制定されたものである。
平成18年 | ※島根県がん対策推進条例 |
平成19年 | ※高知県がん対策推進条例 ※新潟県がん対策推進条例 |
平成20年 | ※神奈川県がん克服条例 ※長崎県がん対策推進条例 |
平成21年 | ※奈良県がん対策推進条例 |
平成22年 | ※愛媛県がん対策推進条例 徳島県がん対策推進条例 ※鳥取県がん対策推進条例 ※岐阜県がん対策推進条例 |
平成23年 | ※秋田県がん対策推進条例 京都府がん対策推進条例 ※大分県がん対策推進条例 ※大阪府がん対策推進条例 |
平成24年 | ※山梨県がん対策推進条例 北海道がん対策推進条例 ※宮崎県がん対策推進条例 沖縄県がん対策推進条例 |
平成25年 | ※千葉県がん対策推進条例 ※長野県がん対策推進条例 ※滋賀県がん対策の推進に関する条例 |
平成26年 | ※岡山県がん対策推進条例 佐賀県がんを生きる社会づくり条例 福島県がん対策の推進に関する条例 |
平成27年 | 広島県がん対策推進条例 ※茨城県がん検診を推進しがんと向き合うための県民参療条例 |
平成28年 | ※石川県がん対策推進条例 ※青森県がん対策推進条例 ※山形県誰もががんを知り県民みんなでがんの克服を目指す条例 |
平成30年 | ※栃木県がん対策推進条例 |
平成31年 | 兵庫県がん対策推進条例 |
令和7年 | ※宮城県がん対策推進条例 |
〇 市区町村において制定されているがん対策条例は、令和7年4月1日時点で確認できるものとして、37市区町で制定されている。都道府県に比べて、相対的に制定数は少ない。37市区町の条例のうち、議員提案により制定されたものとして確認できているものは22市である。市区町村の条例においても、議員提案によるものが多い。
市区町村で最初に制定されたのは、平成19年の出雲市がん撲滅対策推進条例(平成19年2月20日公布・施行)である。都道府県も市区町村も、最初にがん対策条例が制定されたのは、島根県ということになる。その後、同じく平成19年に岩出市がん対策推進条例(平成19年12月7日公布・施行)が制定されている。平成22年以降は、概ね毎年1団体から数団体において、制定されている。平成30年には6市で、平成31年には静岡市と松山市で、令和元年には熊谷市と調布市で、令和2年には長泉町で、令和3年には西条市で、令和5年には戸田市で制定されている。地域的に見た場合、北海道、首都圏(千葉県、埼玉県、東京都、神奈川県)、近畿圏(大阪府、京都府、兵庫県、滋賀県、和歌山県)、静岡県、岡山県、島根県、愛媛県において制定されているが、他の地域においては制定されていない。
以下、市区町村のがん対策条例について、制定年別に掲げる。なお、条例名の前に※を付したものは議員提案により制定されたものである。
平成19年 | ※出雲市がん撲滅対策推進条例(島根県) ※岩出市がん対策推進条例(和歌山県) |
平成22年 | ※匝瑳市がん対策推進条例(千葉県) 豊島区がん対策推進条例(東京都) |
平成23年 | ※岡山市がん対策基本条例 ※柏市がん対策基本条例(千葉県) 大阪市がん予防推進条例 |
平成24年 | ※名古屋市がん対策推進条例 ※堺市がん対策推進条例 ※日野市がん対策推進基本条例(東京都) |
平成25年 | ※瀬戸内市がん対策推進条例(岡山県) 東庄町がん対策推進条例(千葉県) |
平成26年 | ※神戸市がん対策推進条例 ※横浜市がん撲滅対策推進条例 さいたま市がん対策の総合的かつ計画的な推進に関する条例 |
平成27年 | 室蘭市がん対策推進条例(北海道) ※伊達市がん対策推進条例(北海道) |
平成28年 | ※大津市がん対策推進条例(滋賀県) ※越谷市がん対策推進条例(埼玉県) 砂川市がん対策推進条例(北海道) |
平成29年 | ※苫小牧市がん対策推進条例(北海道) |
平成30年 | 貝塚市がん対策推進条例(大阪府) 浦安市がん対策の推進に関する条例(千葉県) ※横須賀市がん克服条例(神奈川県) |
平成31年 | ※静岡市がん対策推進条例 ※松山市がん対策推進条例(愛媛県) |
令和元年 | ※熊谷市がん対策推進条例(埼玉県) ※調布市がん対策の推進に関する条例(東京都) |
令和2年 | 長泉町がん対策推進条例(静岡県) ※函館市がん対策推進条例(北海道) |
令和3年 | 西条市がん対策推進条例(愛媛県) |
令和5年 | 戸田市がん対策推進条例(埼玉県) |
【制定の経緯】
〇 がん対策条例は、がん患者の団体などが首長や議会議員に働きかけて制定されることが多いとされる。最初に制定された島根県では、「がんが昭和59年以降本県における死亡原因の第1位を占めている中、平成15年8月に『がんと共に生きる会』の島根代表を務めておられた佐藤均氏からがん医療向上の請願書が県議会に提出されるなどがん患者・家族の皆様の切実な願いを受けて、平成18年9月に全議員の提案により『島根県がん対策推進条例』を制定しました。」(佐々木雄三「島根県がん対策推進条例改正について」(島根県がん情報サロン便り2015・2・26号))とされている。また、県議会議員による条例制定の動きの前には「がん条例制定などを盛り込んだ要望書を、県庁のがん対策を担当する部署の部長宛に提出した。4カ月が経ち、やっと来た県庁からの回答は『条例を作ることはできない』という、けんもほろろなもの。特にがん対策に積極的に取り組んでいるわけでもなく、行政が議会に提案するかたちでの条例を制定するつもりもなかったのだ。しかし、患者たちの思いに議員が動いた。」(日本医療政策機構がん政策情報センター「全国に広がるがん条例制定の動き(下)」(がんなびレポート平成22・6・3))とされている。なお、島根県条例の制定経緯等については、自治体法務研究2007年夏号CLOSEUP先進・ユニーク条例「島根県がん対策推進条例」を参照されたい。
また、日本医療政策機構がん政策情報センター「全国に広がるがん条例制定の動き(上)」(がんなびレポート平成22・6・2)によると、愛媛県ではNPO法人愛媛がんサポート「おれんじの会」等の関係団体が、沖縄県では「沖縄県がん患者会連合会」が、奈良県では乳がん患者会の「あけぼの奈良」・「奈良県のホスピスとがん医療をすすめる会」等の県内がん患者団体が、徳島県では患者会の「ガンフレンド」等の関係団体が、秋田県では「患者団体連絡協議会」が、条例制定の要望書を県議会等に提出して、条例制定が進められたとしている。
なお、前記「全国に広がるがん条例制定の動き(下)」は、各地のがん関係者が条例制定に向けて行ってきた取組みの例をまとめたものとして、「がん条例制定に向けて、あなたができること」を掲載しているので、参考までに以下に示す。
1 調査
・県のがん条例の有無を調べる
・県のがん対策やがん対策推進計画の内容を調べる
・県議会の厚生労働委員である議員を調べる
2 情報発信
・県議会議員に、他県のがん条例の制定状況を知らせる
・地元メディアに、他県のがん条例の制定状況を知らせる
3 アクション
・がん患者団体やその連合会を設立し、団体の活動を開始する
・がん条例を求める活動について、地元メディアに取材を依頼する
・県内の関係者を集めて、がん条例を求めるシンポジウムを開催する
4 要望
・知事に、がん対策の推進とがん条例制定を要望する
・県議会議員に、がん条例制定を進める、超党派のがん議連の設置を要望する
〇 がん対策基本法(平成18年法律98号)が、平成18年に議員立法により制定された(平成18年6月23日公布・平成19年4月1日)された。島根県条例の制定とほぼ同じ時期である。同法は、「がんが国民の疾病による死亡の最大の原因となっている等がんが国民の生命及び健康にとって重大な問題となっている現状」等に鑑み、「がん対策の一層の充実を図るため、がん対策に関し、基本理念を定め、国、地方公共団体、医療保険者、国民、医師等及び事業主の責務を明らかにし、並びにがん対策の推進に関する計画の策定について定めるとともに、がん対策の基本となる事項を定めることにより、がん対策を総合的かつ計画的に推進すること」(1条)を目的としている。地方公共団体は、「基本理念にのっとり、がん対策に関し、国との連携を図りつつ、自主的かつ主体的に、その地域の特性に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。」(4条)とされ、都道府県には都道府県がん対策推進計画の策定を義務付けている(12条1項)。
【条例の内容】
〇 平成18年に全国最初に制定された島根県がん対策推進条例は、現在、14条から構成され、目的(1条)、県の責務(2条)、県民の役割(3条)、保健医療福祉関係者の役割(4条)、事業者の役割(5条)、がん医療の水準の向上(6条)、県民に対するがん医療に関する情報の提供(7条)、がんの予防及び早期発見の推進(8条)、小児がん対策の推進(9条)、緩和ケアの推進(10条)、患者会等の活動の支援(11条)、就労の支援(12条)、県民の理解及び関心を深めるための施策(13条)、がん教育の推進(14条)となっている。しかし、2条~5条、9条、12条及び14条は平成26年の改正で追加されており、制定当初は、がん医療水準の向上、県民への情報提供、予防と早期発見、緩和ケアの推進、患者会等の活動支援及び県民の理解促進について、その理念を示す比較的シンプルな内容であったと言える。
〇 島根県条例以降に制定された都道府県の条例は、先行する県の条例を参考にして、多岐にわたるがん施策を条文に入れる傾向が見られ、条文数も増える傾向にある。例えば、平成20年制定の長崎県がん対策推進条例では医師等の医療従事者の育成・確保(5条)、骨髄移植の促進(7条)及びがん登録の推進(9条)が、平成22年制定の愛媛県がん対策推進条例では在宅医療の推進(10条)及び県がん対策推進委員会の設置(12条)が、徳島県がん対策推進条例では女性特有のがん対策の推進(6条)が、平成23年制定の大阪府がん対策推進条例では肝炎肝がん対策の推進(10条)及び小児がん対策の充実(12条)が、平成24年制定の北海道がん対策推進条例難治性がん対策の推進(14条)及び後遺症対策の推進(17条)が、沖縄県がん対策推進条例では離島・へき地のがん医療の確保(15条)が、 富山県がん対策推進条例では就労の支援(23条)及び受動喫煙の防止対策の推進(12条)が、それぞれ規定されている。都道府県条例の中で最も直近である平成31年制定の兵庫県のがん対策推進条例は、高齢のがん患者に係るがん対策の推進(13条)、石綿による健康被害に起因するがんに係るがん対策の推進(16条)、先端医療等に係る研究の推進(18条)、治療と就学の両立(22条)、がん患者等の負担の軽減に資する商品及びサービスの開発及び提供(24条)等についても、規定している。
なお、兵庫県健康づくり審議会対がん戦略部会平成30年度第1回会議(平成30年12月6日)参考資料1「がん対策に関する条例の制定状況」は、兵庫県条例より前に制定された都道府県条例の内容比較一覧表を掲載している。
〇 市区町村で全国最初に平成19年に制定された出雲市がん撲滅対策推進条例は、11条から構成され、がん予防対策の推進(6条)、がん検診の受診率の向上等(7条)、がん対策に関する広報等(8条)、患者会等の活動の支援(9条>)、国、県等との連携(10条)、財政上の措置(11条)等について規定しているが、特に、出雲市内にある都道府県がん診療連携拠点病院について、その役割(4条)と連携強化及び支援(5条)についての規定を置いている。また、同じく平成19年に制定された岩出市がん対策推進条例は、8条から構成され、がん医療の水準向上、がんの予防・早期発見、患者会等の活動援支援、市民の理解促進などについて、理念的な規定を置いている。早い時期に制定された条例は、都道府県条例と同様に、比較的シンプルで条文も少ないが、制定時期が後になるほど、様々ながん施策が規定されるようになり、条文数も増える傾向にある。また、指定都市の条例は、一般市区町村の条例よりも、多様ながん施策が規定される傾向が見られる。
〇 がん対策に関する計画については、がん対策基本法は、都道府県には策定を義務付ける一方で、市区町村には特に規定を置いていないが、豊島区がん対策推進条例、さいたま市がん対策の総合的かつ計画的な推進に関する条例、世田谷区がん対策推進条例、大津市がん対策推進条例、越谷市がん対策推進条例、苫小牧市がん対策推進条例、静岡市がん対策推進条例及び熊谷市がん対策推進条例は、市に計画の策定を義務付け、また、日野市がん対策推進基本条例はがん対策推進基本計画を健康増進計画において定め、調布市がん対策の推進に関する条例はがん対策に関する施策等を市民健康づくりプランに位置付けるものとしている。
〇 市区町村条例の中でも、大津市がん対策推進条例及び静岡市がん対策推進条例は、条文数は多く(大津市条例26条、静岡市条例23条)、他の条例に比べて比較的充実した内容を規定している。