電子自治体・自治体DXに関する条例
(令和6年12月19日更新)
【行政手続のオンライン化・デジタル手続化】
〇 行政手続のオンライン化図るため、「行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律」が平成14年12月13日に公布され、平成15年2月3日に施行された。本法は、法令で行政手続を書面等で行うことが定められている場合でも、個別の法令を改正することなくオンライン化を可能とするための通則法であり、「行政手続オンライン化法」と略称される。後述の通り、令和元年5月に改正されている(令和2年1月7日改正施行)。
行政手続オンライン化法は、地方公共団体の条例又は規則に基づく手続については対象外としているが、「地方公共団体は、地方公共団体に係る申請、届出その他の手続における情報通信の技術の利用の推進を図るため、この法律の趣旨にのっとり、当該手続に係る情報システムの整備及び条例又は規則に基づく手続について必要な措置を講ずることその他の必要な施策の実施に努めなければならない。」(改正前9条1項)としている。「この法律の趣旨にのっとり、・・・条例又は規則に基づく手続について必要な措置を講ずること」という部分は、「行政手続オンライン化法にのっとった行政手続オンライン化条例の制定を要請している」(宇賀克也「行政手続三法の解説(第2次改訂版)」(学陽書房 2016年)225頁)とされている。
〇 総務省自治行政局地域情報政策室「自治体DX・情報化推進概要(地方公共団体における行政情報化の推進状況調査結果)」の「令和4年度(令和5年4月)」16頁及び「令和4年度資料編(総括資料)」「(2)行政サービスの向上・高度化 1行政手続のオンライン化の推進状況 (2)申請・届出等手続をオンライン化するための通則条例の制定状況」によると、令和4年4年1日現在、申請・届出等手続をオンライン化するための通則条例を制定済みの団体は、都道府県は47団体(100%)、指定都市は18団体(90.0%)、特別区は21団体(91.3%)、市は532団体(68.9%)、町村は390団体(42.1%)、市区町村全体では961団体(55.2%)であった。また、通則条例を制定しないで、個別にオンライン化する手続の関係条例を改正することで対応する団体は、市は44団体、町村は97団体、市町村全体で141団体であった。なお、同調査の「令和5年度(令和6年4月)」では、条例制定状況の調査は行われていない。
このような行政手続をオンライン化するための通則条例(以下、「行政手続オンライン化条例」という。)の類型とその分析については、宇賀克也「行政手続と行政情報化」(有斐閣 2006年)300頁以下が詳しいので、参照されたい。
〇 行政手続オンライン化条例について、以下、若干ながら、例を示す。
埼玉県 | 平成16年3月26日公布 | 平成16年4月1日施行 令和3年6月1日最終改正施行 |
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滋賀県 | 平成16年8月10日公布 | 平成16年10月1日施行 令和3年4月1日最終改正施行 |
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埼玉県熊谷市 | 平成18年3月23日公布 | 平成18年3月23日施行 |
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大分県国東市 | 平成18年3月31日公布 | 平成18年3月31日施行 平成28年4月1日最終改正施行 |
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埼玉県嵐山町 | 平成29年3月29日公布 | 平成29年4月1日施行 |
条例名は、ほとんどの条例は、行政手続オンライン化法に倣い、行政手続等における情報通信の技術の利用に関する条例としているが、滋賀県は「インターネット利用による行政手続等に関する条例」とし、大分県国東市は「行政手続オンライン化条例」としている。
〇 行政手続オンライン化法は、令和元年5月に改正され(新旧対照表 令和2年1月7日改正施行)、法律名も「情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律」となった。改正後は、「デジタル手続法」と略称されている。デジタル手続法(概要)は、「情報通信技術を活用した行政の推進について、その基本原則及び情報システムの整備、情報通信技術の利用のための能力又は利用の機会における格差の是正その他の情報通信技術を利用する方法により手続等を行うために必要となる事項を定める」(1条)ものであるが、デジタル技術を活用した行政の推進の基本原則として、①デジタルファースト(個々の手続・サービスが一貫してデジタルで完結する)、②ワンスオンリー(一度提出した情報は、二度提出することを不要とする)、③コネクテッド・ワンストップ(民間サービスを含め、複数の手続・サービスをワンストップで実現する)を掲げる(2条)とともに、行政手続のオンライン化実施を原則とするほか、本人確認や手数料納付もオンラインで実施(電子署名等、電子納付)することを可能とし(6条4項、5項)、また、行政機関間の情報連携等によって入手・参照できる情報に係る添付書類については、添付を不要とする(11条)こと等を規定している。地方公共団体については、「情報通信技術を活用した行政の推進を図るため、条例又は規則に基づく手続について、手続等に準じて電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信技術を利用する方法により行うことができるようにするため、必要な施策を講ずるよう努めなければならない。」(13条1項)としている。
〇 デジタル手続法制定に伴い、少なからぬ自治体が、これまでの行政手続オンライン化条例を一部改正し又は全部改正をして条例名も「情報通信技術を活用した行政の推進等に関する条例」等とし、あるいは新規に「情報通信技術を活用した行政の推進等に関する条例」等を制定している。
一部改正したものとして、例えば、
宮城県南三陸町 | 関する条例 |
平成22年3月9日公布 令和元年12月16日改正公布 |
平成22年7月1日施行 令和2年1月7日改正施行 |
茨城県龍ヶ崎市 | 関する条例 |
平成16年6月21日公布 令和元年12月18日改正公布 |
平成16年7月12日施行 令和元年12月18日改正施行 令和3年9月16日改正施行 |
青森県南部町 | 平成29年9月6日公布 令和2年3月3日改正公布 |
平成29年9月6日施行 令和2年3月3日改正施行 |
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川崎市 | 平成18年3月23日公布 令和2年3月23日改正公布 |
平成18年7月24日施行 令和2年4月1日改正施行 |
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東京都 | 平成16年12月24日公布 令和2年10月15日改正公布 |
平成17年1月1日施行 令和3年4月1日改正施行 |
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兵庫県 | 平成16年3月26日公布 令和2年12月14日改正公布 |
平成16年6月25日施行 令和3年4月1日改正施行 |
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福島県南相馬市 | 平成18年1月1日公布 令和3年9月16日改正公布 | 平成18年1月1日施行 令和3年9月16日改正施行 | |
愛媛県宇和島市 | 平成18年3月28日公布 令和4年3月22日改正公布 | 平成18年4月1日施行 令和4年4月1日改正施行 令和5年9月27日改正施行 | 熊本県菊池市 | 平成17年7月8日公布 令和5年3月24日改正公布 | 平成17年7月8日施行 令和5年3月24日改正施行 |
などがある。いずれも条例名は改正後のものである。
また、全部改正したものとして、例えば、
茨城県土浦市 | 令和2年3月27日公布 | 令和2年3月27日施行 令和6年3月28日改正施行 |
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熊本県人吉市 | 令和2年6月24日公布 | 令和2年6月24日施行 |
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北海道伊達市 | 令和3年12月14日公布 | 令和3年12月14日施行 |
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茨城県つくば市 | 令和4年7月15日公布 | 令和4年7月15日施行 |
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徳島県鳴門市 | 令和5年3月14日公布 | 令和5年4月1日施行 |
などがある。土浦市条例は「土浦市行政手続等における情報通信の技術の利用に関する条例」(平成16年制定)を、人吉市条例は「人吉市における情報通信の技術の利用に関する条例」(平成17年制定)を、伊達市条例は「伊達市行政手続等における情報通信の技術の利用に関する条例」(平成19年制定)を、つくば市条例は「つくば市行政手続等における情報通信の技術の利用に関する条例」(平成16年制定)を、鳴門市条例は「鳴門市行政手続等における情報通信の技術の利用に関する条例」(平成24年制定)をそれぞれ全部改正している。
さらに、新規に制定したものとして、例えば、
大阪府枚方市 | 令和2年12月14日公布 | 令和2年12月14日施行 |
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石川県金沢市 | 令和2年12月16日公布 | 令和3年1月1日施行 令和6年4月1日改正施行 |
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北海道北見市 | 令和3年9月22日公布 | 令和3年10月29日施行 令和6年4月1日改正施行 |
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東京都調布市 | 令和4年3月24日公布 | 令和4年4月1日施行 |
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仙台市 | 令和4年12月22日公布 | 令和4年12月22日施行 |
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沖縄県宜野湾市 | 令和4年12月22日公布 | 令和4年12月22日施行 |
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北海道音更町 | 令和5年3月20日公布 | 令和5年4月1日施行 |
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東京都東大和市 | 令和5年3月20日公布 | 令和5年4月1日施行 |
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大阪府箕面市 | 令和5年3月29日公布 | 令和5年4月1日施行 |
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沖縄県豊見城市 | 令和5年3月31日公布 | 令和5年3月31日施行 |
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東京都北区 | 令和6年3月27日公布 | 令和6年4月1日施行 |
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佐賀県鹿島市 | 令和6年3月28日公布 | 令和6年3月28日施行 |
などがある。北区条例は「東京都北区行政手続等における情報通信の技術の利用に関する条例」(平成17年制定)が廃止されて制定されている。
いずれの条例も、デジタル手続法を踏まえ、オンラインでの本人確認を可能とする条項、手数料納付について電子納付による手法を可能とする条項、添付書類の省略を可能とする条項等を置いている。
これらの規定のほか、東京都条例は、情報通信技術を活用した行政の推進に当たって行政手続等に係る一連の行程が情報通信技術を利用して行われるようにすること等を基本原則とするデジタルファーストを旨として行うことを規定する(3条)ほか、都による推進計画の策定(4条)、都の機関による情報システムの整備等(5条)、情報通信技術の利用のための能力又は利用の機会における格差の是正(12条)、区市町村との連携等(13条)の規定を置き、出資等法人が行う手続等における情報通信技術の活用についても努力義務化している(14条)。
兵庫県条例は、デジタル手続法2条を踏まえた基本原則を規定する(3条)ほか、県による情報システム整備計画の策定(4条)、県の機関による情報システムの整備等(5条)、情報通信技術の利用のための能力等における格差の是正(12条)、民間事業者と行政機関等との連携等(13条)及び民間手続における情報通信技術の活用の促進のための環境整備等(14条)の規定を置いている。
なお、川崎市条例の改正(新旧対照表)の考え方は川崎市資料「川崎市行政手続等における情報通信の技術の利用に関する条例の一部改正に向けた考え方(案)について」を、枚方市の条例制定にあわせたオンライン化の取組みについては枚方市資料「オンライン化へ加速!」を、金沢市条例の内容等については自治体法務研究2022年春号条例制定の事例CASESTUDY「金沢市情報通信技術を活用した行政の推進に関する条例」を参照されたい。
〇 政府は、令和2年12月25日に「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」を閣議決定した。同基本方針は、「社会のデジタル化を強力に進めるため、施策の策定に係る方針等を定める高度情報通信ネットワーク社会形成基本法・・・の全面的な見直しを行うとともに、デジタル社会の形成に関する施策を迅速かつ重点的に推進する新たな司令塔としてデジタル庁(仮称)を設置することが必要である。」とするとともに、「デジタル社会の形成に当たっては、国及び地方公共団体において、相互に連携しつつ、情報システムの共同化・集約の推進など、デジタル技術の活用を積極的に推進するために必要な措置を講ずることとする。」等としている。また、同日、「デジタル・ガバメント実行計画」及び「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」を策定した。
これらを踏まえ、「デジタル社会形成基本法」、「デジタル庁設置法」、「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」及び「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律」が制定された(いずれも、令和3年5月19日公布、令和3年9月1日施行)。各法律の内容等については、内閣官房HP「国会提出法案(第204回 通常国会)」及び総務省HP「新規制定・改正法令・告示 法律」を参照されたい。
デジタル社会形成基本法37条1項に規定する重点計画として、令和4年6月7日に「デジタル社会の実現に向けた重点計画」が閣議決定され、この重点計画等を踏まえ、総務省は令和4年9月2日に「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画【第2.0版】」(最新は「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画【第3.0版】」(令和6年4月24日))を策定した。
政府におけるデジタル改革の取組み等については、総理官邸HP「デジタル改革」、デジタル庁HP「政策」及び総務省HP「地方行政のデジタル化」を参照されたい。
【e-文書での保存等】
〇 行政手続オンライン化法により行政文書等の作成を電子的に行うことが認められても、法令上民間事業者等が書面の保存等を義務づけられていれば、行政手続のオンライン化は進まなくなる。そのため、法令で書面による保存義務等が定められている場合でも個別の法令を改正することなく電子文書での保存等を可能とする通則法として、「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律」が制定された(平成16年11月19日公布 平成17年4月1日施行)。「e-文書化法」と略称される。
e-文書法は、地方公共団体の条例又は規則に基づいて民間事業者等に対して義務付けられている書面の保存等については対象外としているが、「地方公共団体は、条例又は規則に基づいて民間事業者その他の者が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用の推進を図るため、この法律の趣旨にのっとり、条例又は規則に基づく書面の保存等について必要な措置を講ずることその他の必要な施策の実施に努めなければならない。」(7条1項)としている。行政手続オンライン化法・デジタル手続法と同様、地方公共団体に対して、e-文書法にのっとったe-文書条例の制定を要請していることとなる。
〇 前記「自治体DX・情報化推進概要(地方公共団体における行政情報化の推進状況調査結果)」の「令和4年度(令和5年4月)」16頁及び「令和4年度資料編(総括資料)」「(2)行政サービスの向上・高度化 1行政手続のオンライン化の推進状況 (3)e―文書条例の制定状況」によると、令和4年4年1日現在、e-文書条例を制定済みの団体は、都道府県は40団体(85.1%)、指定都市は3団体(15.0%)、特別区は1団体(4.3%)、市は43団体(5.6%)、町村は49団体(5.3%)、市区町村全体では96団体(5.5%)であった。なお、同調査の「令和5年度(令和6年4月)」では、条例制定状況の調査は行われていない。
〇 e-文書条例について、以下、若干ながら、例を示す。
大阪府 | 平成17年3月29日公布 | 平成17年4月1日施行 平成23年4月1日施行 |
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栃木県大田原市 | 平成27年12月25日公布 | 平成28年4月1日施行 令和2年4月1日改正施行 |
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広島県東広島市 | 情報通信の技術の利用に関する条例 |
令和3年3月2日公布 | 令和3年4月1日施行 令和5年4月1日改正施行 |
大分県九重町 | 平成19年3月23日公布 | 平成19年3月23日施行 令和2年6月22日改正施行 |
【マイナンバーの利用等】
〇 マイナンバー及びマイナンバーカードは、デジタル・ガバメントの基盤であるとされる。これらの制度の根拠法は、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」である。「マイナンバー法」とも「番号法」とも略称される。平成25年5月31日公布され、平成27年10月5日(一部は、平成28年1月1日等)に施行されたが、「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」による個人情報保護法の一部改正等に併せて改正され、令和4年4月1日等に改正施行されている。
同法は、条例で定める事項として、マイナンバー(個人番号)の独自利用(9条2項)、同一自治体の他機関へのマイナンバーを含む個人情報(特定個人情報)の提供(19条11号)及びマイナンバーカード(個人番号カード)の独自利用(18条1号)を規定している。すなわち、マイナンバーの独自利用及び庁内連携については、「地方公共団体の長その他の執行機関は、福祉、保健若しくは医療その他の社会保障、地方税・・・又は防災に関する事務その他これらに類する事務であって条例で定めるものの処理に関して保有する特定個人情報ファイルにおいて個人情報を効率的に検索し、及び管理するために必要な限度で個人番号を利用することができる。」(9条2項)とし、また、同一団体の他機関への特定個人情報の提供については、「地方公共団体の機関が、条例で定めるところにより、当該地方公共団体の他の機関に、その事務を処理するために必要な限度で特定個人情報を提供するとき」は特定個人情報の提供が可能(19条11号)としている。さらに、マイナンバーカードの独自利用については、個人番号カードは、市町村の機関が、条例で定めるところにより、個人番号カードのカード記録事項が記録された部分と区分された部分に、地域住民の利便性の向上に資するものとして条例で定める事務を処理するために必要な事項を電磁的方法により記録して利用することができる(18条1号)としている。
〇 以上の規定を踏まえ、新たな条例の制定がなされている。そうした条例の若干の例を示すと、
山形県 | 平成27年12月25日公布 | 平成28年1月1日施行 令和6年7月9日最終改正施行 |
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埼玉県 | 平成27年7月14日公布 | 平成28年1月1日施行 令和4年7月1日最終改正施行 |
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東京都青梅市 | 平成27年10月1日公布 | 平成28年1月1日施行 令和6年10月1日最終改正施行 |
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愛知県一宮市 | 平成27年9月25日公布 | 平成28年1月1日施行 令和6年5月27日最終改正施行 |
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東京都三宅村 | 番号の利用等に関する法律に基づく個人番号の利用 及び特定個人情報の提供に関する条例 |
令和2年11月12日公布 | 令和2年11月12日施行 令和6年5月27日最終改正施行 |
群馬県前橋市 | 令和4年12月13日公布 | 令和5年4月1日施行 令和6年5月27日最終改正施行 |
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長崎県佐世保市 | 番号の利用等に関する条例 |
令和4年12月21日公布 | 令和5年4月1日施行 令和6年10月1日最終改正施行 |
島根県津和野町 | 令和5年3月7日公布 | 令和5年4月1日施行 |
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沖縄県那覇市 | 令和5年3月23日公布 | 令和5年4月1日施行 令和6年5月27日最終改正施行 |
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岡山市 | 平成27年9月28日公布 | 平成28年1月1日施行 令和6年11月30日最終改正施行 |
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新潟県三条市 | 平成27年9月28日公布 | 平成28年1月1日施行 令和6年3月26日改正施行 |
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静岡県長泉町 | 令和3年12月10日公布 | 令和3年12月10日施行 |
などである。
山形県、一宮市及び津和野町の条例は、マイナンバーの独自利用及び庁内連携(法9条2項関係)について規定し、埼玉県、青梅市、前橋市、佐世保市及び那覇市の条例は、マイナンバーの独自利用及び庁内連携(法9条2項関係)並びに同一団体の他機関への特定個人情報の提供(法19条11号関係)について規定している。前橋市条例は、「前橋市個人番号利用条例」(平成27年制定)が全部改正されて、制定されている。また、佐世保市条例は、「佐世保市特定個人情報の保護等に関する条例」(平成27年制定)が廃止されて、制定されている。
また、岡山市、三条市及び長泉町の条例は、マイナンバーカードの独自利用(法18条関係)について規定している。
【官民データの活用】
〇 「官民データ活用推進基本法」が、平成28年12月14日に公布・施行された。同法は、「官民データ活用の推進に関する施策を総合的かつ効果的に推進」(1条)することとしており、また、「官民データ」を「電磁的記録・・・に記録された情報・・・であって、国若しくは地方公共団体又は独立行政法人・・・若しくはその他の事業者により、その事務又は事業の遂行に当たり、管理され、利用され、又は提供されるもの」(2条1項)と定義づけている。「官民データ活用推進基本計画」の策定を政府に義務づけ(8条)、「官民データ活用推進計画」の策定を都道府県には義務づけ、市町村には努力義務を課している(9条)。行政手続に係るオンライン利用の原則化(10条1項)やマイナンバーカードの普及・活用(13条1項)等についても、規定している。
〇 官民データの活用推進に関する条例としては、
横浜市 | 横浜市官民データ活用推進基本条例 | 平成29年3月28日公布 | 平成29年3月28日施行 |
北九州市 | 北九州市官民データ活用推進基本条例 | 平成29年12月20日公布 | 平成29年12月20日施行 |
がある。
両条例とも、法律では努力義務としている官民データ活用推進計画の策定を義務づけている。また、両条例とも、議員提案により制定されている。
【デジタルを活用したまちづくり・スマートシティの推進】
〇 デジタルを活用したまちづくりやスマートシティを推進することを目的とした条例も制定されている。例えば、次のような条例である。
浜松市 | 浜松市デジタルを活用したまちづくり推進条例 | 令和4年6月1日公布 | 令和4年7月1日施行 |
奈良県吉野町 | 吉野町デジタル変革条例 | 令和4年9月16日公布 | 令和4年9月16日施行 |
岡山県総社市 | 総社市デジタルで人にやさしいまち推進条例 | 令和4年12月21日公布 | 令和4年12月21日施行 |
宮崎県都城市 | 都城市スマートシティ推進条例 | 令和5年3月22日公布 | 令和5年4月1日施行 |
奈良県 | 地域デジタル社会の構築により県民の幸福な生活の実現と 地域の持続的な発展を図る条例 |
令和5年3月27日公布 | 令和5年4月1日施行 |
北海道釧路市 | 釧路市デジタル行政推進条例 | 令和5年9月15日公布 | 令和5年10月1日施行 |
栃木県真岡市 | 真岡市未来変革デジタル条例 | 令和5年12月21日公布 | 令和5年12月21日施行 |
栃木県 | 栃木県デジタル社会形成推進条例 | 令和6年3月25日公布 | 令和6年4月1日施行 |
富山県 | 富山県デジタル変革推進条例 | 令和6年3月25日公布 | 令和6年3月25日施行 |
〇 浜松市条例は、「デジタルを活用したまちづくりが市民の利便性の向上に資するとともに人口減少及び少子高齢化をはじめとする社会課題に対応する上で極めて重要であるとの認識の下」、「デジタルを活用したまちづくりの推進に関する基本原則及び基本的な事項を定め、市の責務及び市民等の役割を明らかにすることによって、市民生活の質の向上及び都市の最適化(効果的かつ効率的な都市の計画、整備並びに管理及び運営をいう。)を図り、もって全ての市民が安全及び安心で幸せに暮らし続けることができる持続可能な都市を築くこと」(1条)を目的としている。基本原則(3条)を定めるとともに、市に基本指針の策定を義務づけている(6条)。
浜松市条例の内容等については、浜松市HP「令和4年7月1日に、浜松市デジタルを活用したまちづくり推進条例が施行されました」及び自治体法務研究2023年夏号CLOSEUP先進・ユニーク条例「浜松市デジタルを活用したまちづくり推進条例」を参照されたい。
〇 吉野町条例は、「吉野町におけるデジタル化の推進に関する基本理念を定め、町の責務及び町民の役割を明らかにするとともに、デジタル化の推進に関する基本原則を定めることにより、デジタル化の推進によって吉野町を活性化し、持続可能な地域社会への変革を行うこと」(1条)を目的としている。理念(3条)、基本原則(6条)を定めるとともに、町に全体方針の策定を義務づけている(7条)。
吉野町条例の内容等については、吉野町HP「吉野町デジタル変革条例・全体方針」を参照されたい。
〇 総社市条例は、「デジタル情報を適正かつ効果的に活用した人にやさしいまちづくりに関する基本理念を定め,市の責務及び市民等の役割を明らかにするとともに、これを推進することにより、全ての市民が幸せに暮らし続けることができるまちの実現に寄与すること」(1条)を目的としている。基本理念(3条)を定めるとともに、市に基本指針の策定を義務づけている(6条)。
総社市条例の内容等については、総社市HP「総社市デジタルで人にやさしいまち推進条例の施行について」を参照されたい。
〇 都城市条例は、「スマートシティ」を「デジタル技術を活用し地域の抱える諸課題の解決を行い、新たな価値を創出し続ける人間中心の安全で安心なまち」(1条)と定義づけたうえで、スマートシティの推進に関して、基本原則(3条)を定めるとともに、市の役割(4条)、市民等の役割(5条)、推進体制(6条)等を規定している。
都城市条例の内容等については、都城市HP「都城市スマートシティ推進条例を制定しました」を参照されたい。
〇 奈良県条例は、「地域デジタル社会の構築に関する基本理念を明らかにしてその方向性を示し、地域デジタル社会の構築の取組を総合的かつ計画的に推進するため、この条例を制定する。」(前文)としている。基本理念・基本原則(4条、5条)を定めるとともに、県の責務(6条)、事業者・県民の役割(7条、8条)、基本的施策(9条~15条)、その他の施策(16条~19条)を規定している。
〇 釧路市条例は、「デジタル行政に関する基本原則その他の基本的事項を定めることにより、その着実な推進を図り、もって持続可能な地域社会の形成に寄与すること」(1条)を目的としている。基本原則(3条)を定めるとともに、市に推進方針の策定を義務づけている(4条)。
〇 真岡市条例は、「デジタル技術を適正かつ効果的に活用した誰一人取り残さないやさしいまちづくり(・・・)に関する基本原則を定め、市の責務及び市民等の役割を明らかにするとともに、これを推進することにより、市民一人一人が自分らしく暮らし続けることができる未来への変革に寄与すること」(1条)を目的としている。基本原則(3条)を定めるとともに、市に基本方針の策定を義務づけている(6条)。
真岡市条例の内容等については、真岡市HP「デジタル技術で自分らしく。真岡市未来変革デジタル条例」を参照されたい。
〇 栃木県条例は、「デジタル社会の形成に関する施策を総合的に推進し、もって県民生活の向上及び活力ある地域社会の実現に寄与すること」(1条)を目的ととしている。基本理念(3条)を定めるとともに、県の責務(4条)、県と市町村との協力(5条)、事業者・県民の役割(6条、7条)、基本計画の策定(8条)、基本的な施策等(9条~14条)を規定している。
栃木県条例の内容等については、栃木県HP「栃木県デジタル社会形成推進条例について」を参照されたい。
〇 富山県条例は、「デジタルによる変革を総合的かつ計画的に推進し、もって本県経済の持続的かつ健全な発展と県民の幸福な生活の実現に寄与すること」(1条)を目的ととしている。基本理念(3条)を定めるとともに、県の責務(4条)、町村との連携(5条)、県民・事業者の役割(6条、7条)、実施計画の策定(8条)、基本的施策(9条~14条)、推進体制の整備(15条)を規定している。
富山県条例の内容等については、富山県HP「富山県デジタルによる変革推進条例」を参照されたい。
【AIの活用】
〇 神戸市は、令和6年3月に「神戸市におけるAIの活用等に関する条例」を制定した。
神戸市 | 令和6年3月29日公布 |
令和6年9月27日施行 |
本条例は、AIを「人工知能関連 技術(人工的な方法による学習、推論、判断等の知的な機能の実現及び人工的な方法により実現した当該機能の活用に関する技術)」(2条1号)と定義づけたうえで、「本市におけるAIの活用等に関する基本的な指針の策定、リスクアセスメントの実施、市民及び事業者によるAIの効果的な活用その他市が実施すべき責務を定めること等により、市民の権利利益を保護しつつ効果的かつ効率的な市政を推進するとともに、市民及び事業者によるAIの効果的な活用を促進」する(1条)としている。
基本理念として、人間の尊厳、基本的人権及び社会の多様性の尊重、個人及び社会が抱える様々な課題の解決を図り持続可能な社会を実現するためのAIの積極的な活用、安全性及びプライバシーの十分な配慮、不当な差別をもたらすことがないよう公平性の確保やAIの判断についての透明性の確保等の8項目を定め(3条)、基本指針として、市におけるAI活用に関する基本的な事項、リスクアセスメントに関する事項、市民及び事業者がAIを効果的に活用するための施策の実施に関する基本的な事項、市立学校AIを適正に活用するための教育に関する基本的な事項等を定めることとしている(5条2項)。リスクアセスメントについては、市は「AIを活用するに当たっては、当該活用について 、あらかじめ、当該AIの活用が市民の権利利益に影響を与える可能性及びその大きさを評価し、行政運営を効率化しつつ市民の権利利益に与える危害を可能な限り低減するための手法を検討しなければならない。」とし、その対象となる処分等を規定している(6条)。
また、生成AIを「AIを用いて、質問その他の電子計算機に対する指令に応じて当該AIの有する知的な機能の活用により得られた結果を文書、画像、音声 、動画 、プログラムその他これらに類するものにより自動的に回答するよう作成されたプログラム」(2条2号)と定義づけたうえで、「市長は、安全性が確認されたものとして別に定める場合を除き、本市の機関等(・・・)の職員が職務上知り得た情報のうち神戸市情報公開条例 (・・・)第10条各号に掲げる情報を含む指令を、生成AIその他これに類するもの(以下「生成AI等」という。)に対して与えないよう措置しなければならない。」(7条1項)するとともに、「受託事業者等は、受託事業等を処理するに当たって知り得た情報のうち神戸市情報公開条例第10条各号に掲げる情報を含む指令を、生成AI等に対して与えようとするときは、あらかじめ、市に協議し、その同意を得なければならない。」(9条2項)としている。
神戸市条例の内容等については自治体法務研究2024年秋号CLOSEUP先進・ユニーク条例「神戸市におけるAIの活用等に関する条例」を、神戸市のAIの利活用の取組み等については神戸市HP「AIの利活用」を参照されたい。
なお、神戸市は、令和5年5月に「神戸市情報通信技術を活用した行政の推進等に関する条例」を改正し(令和5年5月30日改正施行)、ChatGPTの利用の制限に関する規定を置いた(令和5年5月30日改正施行後2条の2)が、本条例が施行された段階で当該規定は削除された。
【その他】
〇 なお、自治体法務研究2020年秋号は「スマート自治体への転換と自治体法務」を、自治体法務研究2022年春号は「どう進める?自治体DX」を、それぞれ特集にしているので、参考にされたい。