景観条例
(令和2年9月1日作成)
【景観法制定以前の動向】
〇 景観法(平成16年法律110号)が平成16年6月に制定された。国土交通省調査によると、景観に関する自主条例は、景観法が制定される前の平成16年3月現在では、470市区町村で524条例が、27都道府県で30条例が制定されていたとされる。景観法制定前の景観条例の制定状況については、伊藤修一郎「自治体発の政策革新−景観条例から景観法へ−」(木鐸社 2006年4月)が詳しい。同書によると、平成14年7月現在の国土交通省調査では、445市区町村が景観条例を制定していたとされるが、「その中にはゴミのポイ捨て禁止条例や生活環境保全条例なども含まれるため、筆者の定義で算定し直した結果」、298市区町村となったとし、それらの条例(条例を入手できない自治体を除く)について、制定年、条例名称、条文数、政策手段等を整理し、一覧表にしている。また、条例内容と政策手段の変遷とその要因等を分析している。なお、筆者は、同書での景観条例とは、「一定地域の眺望の美しさを保全・形成することを主たる目的とし、開発や建築行為等の規制や誘導方策を定めた自主条例」を意味するとしている。以下に記述する景観法制定以前の景観条例の動向の概観は、同書を参考にしている
〇 景観保存のための最初の自主条例は、昭和43年の「金沢市伝統環境保存条例」と「倉敷市伝統美観保存条例」であるとされる。高度成長期における都市の乱開発から歴史的な街並みを保存しようとする機運の高まりや市民運動の活発化が、その背景にあった。昭和41年に古都における歴史的風土の保存に関する特別措置法(古都保存法)が制定されたが、適用範囲が京都、奈良及び鎌倉における一定区域に限られており、その以外の地域で、歴史的景観を保存するための自主条例が制定された。その後、昭和46年に「柳川市伝統美観条例」、昭和47年に「京都市市街地景観条例」、「高山市市街地景観条例」、「萩市歴史的景観保存条例」、昭和48年に「松江市伝統美館保全条例」、「南木曽町妻籠宿保存条例」などが続き、こうした自治体の取組みを受けて、昭和50年の文化財保護法改正により、伝統的建造物群保存地区(伝建地区)制度が導入された。文化財保存法は、伝建地区における規制の内容等については条例に委ねており、一部の自主条例は委任条例に移行したが、伝建地区制度を利用しない自治体も多くみられた
〇 昭和50年代に入り、それまでの歴史的景観の保存のみならず、市域全体について個性的な魅力ある景観を形成、創造するための施策を展開する動きが見られた。昭和53年には「神戸市都市景観条例」が制定され、昭和59年には「名古屋市都市景観条例」、「伊丹市都市景観条例」、「北九州市都市景観条例」、「尼崎市都市美形成条例」が制定された。神戸市条例は、都市景観基本計画の策定、都市景観形成地域の指定と地域景観形成基準の策定、区域内の建築行為等の届出と指導、景観形成市民団体の認定等を規定し、その後に続く4条例は、神戸市条例をベースとしつつ、景観デザイン審査、景観形成に関する協定、景観に関する表彰などの制度を追加していった。昭和60年代以降、都市景観条例を制定する自治体が急増するが、これらの神戸市条例等がそのモデルとなっている。
〇 都道府県の条例で制定が最も早いのは、昭和44年の「宮崎県沿道修景美化条例」である。主要幹線道路の沿道を対象に、植栽の保護を中心とした美観維持を図るものである。こうした沿道景観条例は、昭和63年の「大分県沿道の景観保全等に関する条例」、平成元年の「栃木県ふるさと街道景観条例」等が続いていく。
県全域を対象とした都道府県の条例は、昭和59年の「ふるさと滋賀の風景を守り育てる条例」が最初である。地域・地区の指定と景観形成基準の策定、区域内の建築行為等の届出と指導、大規模建築物等の届出・指導等を定めているが、全県域適用タイプの県条例は、その後、昭和60年の兵庫県の「景観の形成等に関する条例」、昭和62年の「熊本県景観条例」、昭和63年の「埼玉県景観条例」等が制定された。その後、こうした条例を制定する都道府県は増加していった。
〇 昭和60年代のバブル経済期には地方の農山村まで開発が押し寄せ、田園や自然の景観も保全の対象となり、より多くの自治体が景観条例を制定するようになった(昭和61年(山形県)「金山町街並み景観条例」、(北海道)「美しい占冠の風景を守り育てる条例」等)。また、開発を規制・抑制する手段として、景観条例が期待されるようになり、住民に対する説明会・公聴会の開催や大規模開発事業に関する首長との事前協議を求める条例も増えていった(平成2年神奈川県津久井町(現相模原市)の「津久井町住環境整備条例」、大分県湯布院町(現由布市)の「湯布院町潤いのある町づくり条例」等)。
〇 60年代以降、景観条例は統合化、複合化の動きもみられるとされる。まず、景観条例の中に伝建地区の委任条例の規定を組み込む(伝建地区に関する部分とその周辺地区に関する部分を併せて規定)ものが制定された(昭和61年(沖縄県)「竹富町歴史的景観形成地区保存条例」、昭和63年徳島県脇町(現美馬市)の「脇町市街地景観条例」等)。次に、地区計画決定や建築協定締結のための住民参加手続を定めるまちづくり条例と景観条例を組み合わせる条例が見られるようになった(昭和61年「横手市景観まちづくり条例」、平成5年(神奈川県)「真鶴町まちづくり条例」等)。さらに、景観条例と自然環境保全条例や生活環境保全条例とをセットにする条例も制定された(昭和62年浜松市都市景観条例等)。そして、先行して歴史的景観条例を制定した自治体が、改正や新規制定により、都市全体を対象にした景観条例に衣替えをする動きも多くみられた(平成元年「金沢市における伝統環境の保存および美しい景観の形成に関する条例」、平成4年「小樽の歴史と自然を生かしたまちづくり景観条例」、「長野市の景観を守り育てる条例」等)。
〇 このように、自治体は、昭和40年代以降、地域の景観の保全や形成を図るため、それぞれの地域の状況と時代の要請を踏まえ、模索をしながらも、自主条例の制定を進めてきた。年代を経るにつれ、先行する条例をベースにしつつも、工夫が凝らされ、政策手段は豊富化、多様化していった。また、地域によって、歴史的景観、都市景観、田園や自然の景観など、重点の置き方は異なるものの、様々な政策手段を組み合わせ、総合的な施策を展開する傾向も見られた。先行して条例を制定した自治体も、既存条例の改正や新規条例の制定を行い、条例内容は進化を遂げ、発展していった。こうした景観条例が、わが国の景観行政、景観政策を実質的に担ってきたといえる。
〇 これらの景観条例で規定されている項目で比較的多いものとしては、@景観形成の方針や計画の策定、A景観形成区域等の指定、B区域ごとの景観形成基準等の設定、C区域内での届出、協議、D大規模な建築物等の届出、E重要な建築物、樹木等の指定、F条例違反の建築物に対する指導、勧告、公表、G景観形成のための協定、G景観形成のための助成、H景観市民組織の認定、I景観に関する表彰、J景観に関する審議会、などが見られる。
実効性の確保については、一部の条例では同意、許可、承認、命令、罰則等を規定しているが、届出、指導、勧告、公表等とする条例が大部分である。
〇 こうした自治体の自主条例について、国土交通省は、「法律の根拠を持たないことへの限界が指摘された」、この理由として、「規制手法として『届出勧告制』に留まっており、強制力を持たないことなどが挙げられる」とし、「必要な場合に一定の強制力をも行使し得る法制度の創設が求められていた」としていた(国土交通省都市・地域整備局都市計画課「景観法の概要と今後の展開」(自治体法務研究2005年秋号特集「景観条例」))。
【景観法の概要とその施行状況】
〇 景観法(平成16年6月18日公布、同年12月17日一部施行、平成17年6月1日全面施行)は、わが国で初めての景観についての総合的な法律であるとされる。景観法制定以前にも、景観に関する法制度として、都市計画法に基づく美観地区、風致地区、伝建地区等の地域地区制度や、古都保存法等の個別立法が措置されていた。一部自治体はこうした制度を利用したが、制度目的や対象区域は限定的であり、総合的な景観行政を展開することはできず、結果的に多くの自治体では自主条例を制定して、対応せざるを得なかった。
〇 景観法は、景観計画の策定、景観計画区域の設定と行為の規制、景観重要建造物・樹木、景観重要公共施設の整備、景観協議会、景観地区の設定と行為の規制、景観協定の締結、景観整備機構による良好な景観の形成に関する事業等の支援等について規定している。これらの制度の多くは、名称は異なっているものの、これまで自治体が自主条例で培ってきたものが取り入れられている。そのうえで、同法において、自主条例では限界のあった強制力を伴う法的規制の枠組みが設けられ、併せて、自治体の独自性が発揮できるよう、自治体の条例で景観に関する規制内容を詳細に定めること等ができる法的仕組みが導入されたといえる。
〇 景観計画は、景観行政団体(都道府県、指定都市、中核市又は都道府県知事との協議により景観行政事務を処理する市区町村)が策定することとしているが、あらかじめ、公聴会の開催等住民の意見を反映させるために必要な措置を講ずるものとし、条例により手続きを付加することも可能としている(8条、9条)。
景観計画区域は、区域内の建築物等に関して、届出・勧告による規制を行うとともに、必要な場合には、条例で定めた一定の事項について変更命令可能を出すことができるとしている。また、具体的な基準や届出対象行為については、条例で定めるとし、勧告対象の行為は、条例で付加・除外どちらも可能としている(16条〜18条)。
景観地区は、市街地の良好な景観の形成を図るため、都市計画として定める地区であり、市町村が、建築物の形態意匠の制限を定めるとともに、建築物の高さの最高限度又は最低限度、壁面の位置の制限、建築物の敷地面積の最低限度のうち必要なものを定めるとし、景観地区内において建築物の建築等をしようとする者は、当該建築物の形態意匠が景観地区の都市計画で定める建築物の形態意匠の制限に適合することについて市町村長の認定を受けなければならないとしている。また、市町村の条例で、工作物の建設、開発行為等についても必要な制限を定めることができるとし、さらに都市計画区域及び準都市計画区域外の景観計画区域において準景観地区を定めて、条例で景観地区に準ずる制限を定めることができるとしている(61条〜76条)。
景観法の概要については、国土交通省資料「景観法の概要」を参照されたい。
〇 景観法の執行状況については、国土交通省が「景観法の施行状況(平成31年3月31日時点)」を公表している。これによると、平成31年3月31日時点で、景観行政団体は、都道府県45団体、指定都市20団体、中核市54団体、その他の市区町村618団体で、合計737団体であり、また、景観計画策定団体は、都道府県20団体、政令市20団体、中核市50団体、その他の市区町村488団体で、合計578団体である。また、景観地区は29市区町村で50地区が、準景観地区は4市町で6地区が定められている。なお、景観重要建造物615件(2県97市区町)、景観重要樹木261件(58市区町村)、景観協定110件(3県52市区町)、景観協議会 のべ98組織(1県54市町村)、景観整備機構 のべ120法人(21都道府県62市区町村)、地区計画形態意匠条例111地区(26市区町村)、景観農業振興地域整備計画策定団体11団体(11市町村)などとなっている。
【景観法施行後の景観条例】
〇 景観法施行後は、自治体における景観条例の制定は大きく分けると次の4つのタイプに分かれることとなる。すなわち、
@ 景観法の施行条例(施行条例)を制定
A 自治体の自主条例(自主条例)を制定
B 施行条例事項部分と自主条例事項部分との両方含んだ統合条例(統合条例)を制定
C 自主条例と施行条例とを別個に制定
である。なお、景観法のもとにおける景観条例のあり方については、北村喜宣「景観法と条例」(「分権政策法務と環境・景観行政」(日本評論社 2008年12月)230頁以下)が詳しく分析をし、解説をしているので参照されたい。また、景観法施行に伴う自主条例の見直しのあり方については、岸田里佳子「自主条例を活かして景観法に移行する」(景観まちづくり研究会「景観法を活かす」51頁以下)が詳しい。
〇 景観行政ネットは、景観法に基づく景観条例一覧において、景観法に基づく景観条例について地域別に掲載している。それによると、景観行政団体737団体(都道府県45団体、指定都市20団体、中核市54団体、その他の市区町村618団体)のうち、608団体(都道府県38団体、指定都市20団体、中核市53団体、その他の市区町村497団体)が「景観法に基づく景観条例」を制定している(令和2年8月7日確認)こととなる。「景観法に基づく景観条例」の定義は規定していないが、施行条例または統合条例を意味するものと考えられる。
但し、景観行政ネットの調査は景観行政団体を対象にしているが、景観行政団体以外の市区町村でも自主条例を制定している団体がある。因みに、前記の伊藤著書において景観法制定前に自主条例を制定していたとする約300の市区町村(このうち、少なくとも50以上の団体は市町村合併により現在は自治体としては存在しない)の中で現在も存続する団体のうち、50団体程度は景観行政団体となっていないが、これらの団体は引き続き自主条例は制定しているものと考えられる。また、景観法制定後に新たに景観条例を制定した市区町村においても、施行条例や統合条例ではなく、自主条例を制定している団体もみられる。さらに、景観行政団体になった市区町村においても、施行条例や統合条例を制定せず、引き続き自主条例が施行されている団体もある(伊藤著書で示す約300市区町村のうちでは、豊橋市、明石市、春日井市、一宮市、千葉県大多喜町、香川県直島町等である。)。
〇 以上のことを踏まえつつ、具体的な景観条例の例を、いくつかのグループに分けて、以下に示す。
【北海道内自治体の景観条例】
〇 景観法施行後の景観条例の状況について、北海道内の自治体を例に、概観する。北海道内の自治体では、39団体(北海道及び38市町村)が景観条例を制定している(令和2年8月13日現在で確認できるもの)。39団体のうち、景観行政団体は、18団体(北海道、札幌市、函館市、旭川市及び14市町村)である(以下の表では、●の団体)。また、景観法施行時(平成17年6月1日)以前から景観条例を制定していた団体は、17団体(北海道及び16市町村)である(以下の表では、〇の団体)。これらの39団体の景観条例をタイプ別に整理をすると、以下のようになる。
施行条例 富良野市景観地区条例
統合条例 〇●北海道景観条例 〇●札幌市景観条例 〇●函館市都市景観条例 〇●旭川市景観条例
〇●小樽の歴史と自然を生かしたまちづくり景観条例 ●釧路市景観条例 ●北見市景観条例
●黒松内町ふるさと景観条例 ●長沼町美しい景観づくり条例 ●東神楽町花のまち景観づくり条例
●栗山町景観条例 〇●美しい東川の風景を守り育てる条例 〇●美瑛の美しい景観を守り育てる条例
●かみふらの景観づくり条例 ●清里町景観条例 ●平取町景観づくり条例 〇●中標津町景観条例
自主条例 〇夕張市都市景観条例 登別市景観とみどりの条例 〇ふるさと江差の街並み景観形成地区条例
〇蘭越町こぶし咲くふるさと景観条例 倶知安の美しい風景を守り育てる条例 〇上川町景観まちづくり条例
〇美しい占冠の風景を守り育てる条例 滝上町童話村まちづくり景観条例 〇更別村景観保全条例
〇ふるさと様似の景観づくり条例 〇中札内村豊かな自然を未来につなぐふるさと景観条例
自主条例+施行条例 〇●当別町(美しいまち当別をみんなでつくる条例+景観法施行条例)
〇ニセコ町(ニセコ町景観条例+ニセコ町景観地区条例
〇 景観行政団体が制定する景観条例は、その大部分が、統合条例である。ただし、統合条例のうち、自主条例事項の内容は、団体によってかなり異なる。自主条例事項として、ほぼ全体に共通する項目としては、総則部分(基本理念、自治体、住民、事業者の責務等)、表彰・助成、審議会の設置などがある。ほぼこれらの項目のみを規定している団体も少なくない(釧路市、北見市、長沼町、栗山町、上富良野町、清里町、平取町、中標津町)。
景観法施行時以前から自主条例を制定し法制定後統合条例を制定した団体では、それまでの自主条例の内容を引き継ぐことが多い。例えば、北海道条例は、基本構想の策定、広域景観形成推進地域の指定、広域景観形成指針の策定、公共事業景観形成指針の策定、景観形成阻害物件に対する措置等を、函館市条例は、都市景観形成基本計画の策定、都市景観形成地域の指定、景観形成計画の策定、景観形成街路沿道区域に係る事前協議、伝統的建造物群保存地区に関する事項等を、小樽市条例は、都市景観形成基本計画の策定、地区別景観形成指針の策定、小樽歴史景観区域の指定、登録歴史的建造物・指定歴史的建造物、保存樹木の指定等を、東川町条例は、廃棄物の適正管理、空き地・空き家の適正管理、環境の保全・美化の推進、地下水の保全・適正採取、屋外広告物の適正管理、大規模開発事業の協議・同意等を規定している。
札幌市条例は、平成19年にそれまでの「札幌市都市景観条例」を全部改正したが、さらに平成28年に改正を行い、条例名を「札幌市景観条例」としたうえで、景観まちづくり指針の策定、景観まちづくり推進区域等の規定を追加している。
景観法施行後新たに景観条例(統合条例)を制定した景観行政団体のうち、東神楽町条例は、自主条例事項部分として花のまちづくりと環境美化の推進に関する事項を規定している。
〇 景観法施行時以前から自主条例を制定していた市町村の多く(夕張市、江差町、蘭越町、上川町、占冠村、様似町、中札内村、更別村)は、景観行政団体にならず、自主条例を継続して施行している。また、景観法施行後新たに景観条例を制定した市町村の多く(釧路市、北見市、黒松内町、長沼町、栗山町、東神楽町、東川町、上富良野町、清里村、平取町)は、景観行政団体となり統合条例を制定しているが、一部の市町村(登別市、倶知安町、滝上町)は景観行政団体にならず、景観法を利用せずに、自主条例を制定している。
〇 当別町は、景観行政団体になったうえで、従前からあった自主条例とは別に、施行条例を制定している。自主条例である「美しいまち当別をみんなでつくる条例」が基本条例的なものであることによるものと考えられる。
富良野市及びニセコ町は、景観行政団体となっていないが、景観地区に係る施行条例を制定している。景観法上、景観地区に係る施行条例は景観行政団体でない市町村も制定することができる。
倶知安町も、景観行政団体ではないが、景観地区を指定している。しかし、景観地区に係る施行条例は制定せず、自主条例において、景観法63条に基づく計画の認定手続と連携した規定を置いている。
〇 小樽市は、昭和58年に市独自の歴史的まちづくりをめざす「小樽市歴史的建造物及び景観地区保全条例」を制定し、平成4年には、前条例を廃止したうえで、「小樽の歴史と自然を生かしたまちづくり景観条例」を制定し、総合的な都市景観条例に衣替えをした。さらに、景観法の制定等を踏まえ、平成20年に全面改正を行い、現条例に至っている。
函館市条例は、平成7年に伝建地区保存条例と都市景観条例の複合型条例として制定され、平成20年に景観法の制定等を踏まえ改正されている。
占冠村条例は、昭和62年に制定されたが、地方における自然景観の保存、形成のための景観条例として、先駆け的存在である。景観形成指針の策定、景観形成地区の指定、地区景観形成基準の作成、行為の届出、景観協定などに関する規定を置いている。景観行政団体にはなっていない。
【先駆的団体の景観条例】
〇 これまで自治体が進めてきた景観行政の中で先駆的役割を果たしてきた団体のいくつかについて、現在の景観条例の内容等を紹介する。
石川県金沢市 | 平成21年3月24日公布 | 平成21年10月1日施行 | |
京都市 | 昭和47年4月20日公布 | 平成8年5月24日改正施行 平成17年6月1日改正施行 平成19年9月1日改正施行 | |
神戸市 | 昭和53年10月20日公布 | 平成2年4月1日改正施行 平成18年2月1日改正施行 | |
横浜市 | 平成18年2月15日公布 | 平成18年4月1日施行 | |
宮崎県 | 昭和44年4月1日公布 | 昭和44年9月10日施行 | |
平成29年3月29日公布 | 平成29年4月1日施行 | ||
滋賀県 | 昭和59年7月19日公布 | 平成12年4月1日改正施行 平成21年3月27日改正施行 |
などである。
〇 金沢市条例「金沢市における美しい景観のまちづくり関する条例」は、金沢市のメインの景観条例としては3代目となる。初代は、昭和43年に制定された「金沢市伝統環境保存条例」である。歴史的街並み保存条例であり、全国最初の景観条例であった。2代目は、総合的、計画的な都市景観づくりを目的とした景観条例として平成元年に制定された「金沢市における伝統環境の保存および美しい景観の形成に関する条例」である。さらに、景観法制定を踏まえて、平成21年に制定されたのが現条例である。
金沢市は、単一の景観条例ではなく、景観に関連する条例を数多く制定し、これらの条例群によって、景観の維持、形成を図ってきたところに特徴がある。すなわち、昭和52年に文化財保護法の委任条例として「金沢市伝統的建造物群保存地区保存条例」を制定したほか、自主条例として、平成6年に「金沢市こまちなみ保存条例」、8年に「金沢市用水保全条例」、9年に「金沢市斜面緑地保全条例」、14年に「金沢の歴史的文化資産である寺社等の風景の保全に関する条例 」、17年に「金沢市における美しい沿道景観の形成に関する条例 」、「金沢市における夜間景観の形成に関する条例」、21年に「金沢市における美しい景観のまちづくり関する条例」、31年に「金沢市における美しい眺望景観の形成に関する条例」などを制定し、多面的な景観行政を展開してきている。
金沢市の景観行政については、金沢市「金沢景観50年のあゆみ」を参照されたい。
〇 京都市条例「京都市市街地景観整備条例」は、昭和45年制定の「京都市風致地区条例」に続いて、昭和47年に制定された。歴史的な街並み保存の規定のほか、都市計画法上の美観地区に関して承認制を採用し、また特別保全修景地区の指定・届出、巨大工作物規制地域の指定・届出等を定め、独自の景観行政を先導的に進めた。
しかし、バブル経済下で活発化する様々な開発が京都の景観に与える影響が問題視され、平成7年には全面改正がなされた。改正後の条例は、3制度8施策から構成され、誘導型制度として美観地区、建造物修景地区及び沿道景観形成地区が、施策型制度として歴史的景観保全修景地区、界隈景観整備地区及び歴史的意匠建造物が、支援型制度として市街地景観協定及び景観整備活動支援が定められた。併せて、山麓部の景観の保全を図るために、自然風景保全地区の指定と許可等を規定する「京都市自然風景保全条例」が制定された。
平成17年には景観法施行に併せて条例改正がなされたが、京町家や京三山の眺望の消失などにより「京都らしい景観が失われつつある」との危機感を背景に、平成19年にこれまでの景観政策を抜本的に見直した「新景観政策」が実施された。すなわち、@建築物の高さ規制の見直し、A建築物等のデザイン基準や規制区域の見直し、B眺望景観や借景の保全の取組、C屋外広告物対策の強化、D京町家などの歴史的建造物の保全・再生を柱として、施策を進めることとし、そのために、「京都市市街地景観整備条例」、「京都市風致地区条例」、「京都市自然風景保全条例」等が改正されるとともに、新たに「京都市眺望景観創生条例」及び「京都都市計画(京都国際文化観光都市建設計画)高度地区の計画書の規定による特例許可の手続に関する条例」が制定された。
平成23年には「景観政策の進化」、令和元年には「新景観政策の更なる進化」が発表され、それぞれ関係条例が改正された。京都市の景観行政と景観条例は、その時代状況に応じつつ、絶えず見直しが図られてきている。
なお、昭和51年には「京都市伝統的建造物群保存地区条例」が制定されている。京都市の景観行政については、京都市HP「京都の景観政策」を参照されたい。
〇 神戸市条例「神戸市都市景観条例」は、昭和53年に制定された。景観を「まもる」だけなく、「そだて」,「つくる」ことをめざすものであり、その後に続く都市景観条例のモデルとなったものである。上記【景観法制定以前の動向】で記した独自の景観規制誘導施策のほか、法律に基づく伝建地区と美観地区に関する規定も置いている。平成2年には、都市景観行政の新たな展開を図るため、改正が行われ、地域要件や届出要件の拡大等が行われるとともに、景観影響建築行為に対するデザイン協議、景観形成重要建築物、景観形成市民協定に関する規定などが盛り込まれた。平成18年には、景観法を活用するために必要な改正がなされている。
〇 横浜市も、都市景観行政では先駆的存在である。昭和40年代後半から、都市デザイン活動を積極的に進めてきたが、その手法は、神戸市とは異なり、条例によらず、要綱に基づく「街づくり協議」と事業者との「街づくり協定」によるものであった。こうした取り組みは具体的な成果をあげていたが、あくまでも事業者の任意の協力が前提となっていたため、景観法の制定も踏まえ、これまでの協議制度を条例に位置付け、景観法を活用しつつ実効性の確保を図ることとし、平成18年に「横浜市魅力ある都市景観の創造に関する条例」が制定された。条例の内容等については、横浜市HP「横浜市魅力ある都市景観の創造に関する条例(景観条例)」や国吉直行・谷口智行「横浜型都市景観形成制度による新たな取組」(ジュリスト1314号(2006年6月)79頁以下)を参照されたい。
〇 宮崎県条例「宮崎県沿道修景美化条例」は、沿道の修景、美化を図るものであり、都道府県として最初の景観条例である。宮崎県では観光資源の保護・開発と県土の美化推進が積極的に進められており、そうした取り組みの中から、昭和44年に制定された。これまで一部改正はなされてきたが、現在も施行されている。他方で、県下全域を対象とした景観条例は長年制定されてこなかったが、平成29年に「美しい宮崎づくり推進条例」が制定された。宮崎県は、県下すべての市町村が景観行政団体になっており、県としては景観行政団体になっていない(同様の都道府県は、他に愛媛県のみ)。そのため、同条例は、基本理念、県等の責務、推進計画の策定、基本施策の推進等を定めた自主条例となっている。
〇 滋賀県条例「ふるさと滋賀の風景を守り育てる条例」は、都道府県として最初に県全域を対象にした景観条例である。昭和54年に「滋賀県琵琶湖の富栄養化に防止に関する条例」が制定されたが、琵琶湖を中心とした自然環境や生活環境の保全を図るという同様の考えに立って、昭和59年に制定された。【景観法制定以前の動向】で記したような内容を有していたが、平成12年に環境影響調査制度が導入されている。さらに、景観法施行を踏まえ、平成20年に改正され、現行条例に至っている。
【景観法施行後早期に景観計画を策定した団体の景観条例】
〇 景観法施行後早い段階で景観計画を策定し、積極的に取組みを進めたとされる自治体のいくつかについて、それぞれの景観条例の内容等を紹介する。
滋賀県近江八幡市 | 平成22年3月21日公布 | 平成22年3月21日施行 | |
神奈川県小田原市 | 平成17年12月16日公布 | 平成18年4月1日施行 | |
岐阜県各務原市 | 平成18年3月29日公布 | 平成18年10月1日施行 | |
神奈川県秦野市 | 平成17年12月13日公布 | 平成18年4月1日施行 | |
長野県 | 平成4年3月19日公布 | 平成4年4月1日施行 平成18年4月1日改正施行 | |
長野県小布施町 | 平成17年12月20日公布 | 平成18年4月1日施行 | |
神奈川県真鶴町 | 平成5年6月16日公布 | 平成6年1月1日施行 | |
平成18年3月7日公布 | 平成18年6月1日施行 |
などである。
〇 近江八幡市は、平成17年7月29日に全国で最初に景観計画(市内全域ではなく、水郷地域を対象)を策定した団体である。現条例「近江八幡市風景づくり条例」は、安土町との市町村合併に伴い平成22年3月に制定されているが、合併前の旧近江八幡市は、平成17年に旧条例「近江八幡市風景づくり条例」を制定し、同年4月1日に施行させた。旧近江八幡市は、平成17年3月に景観行政団体になっており、旧条例は、平成17年に制定されているが、「規制に関することは条例からすべてを外し、景観法の景観計画で規制することとし、条例では自主施策のみを謳った」(自治体法務研究2005年秋号条例制定の事例CASESTUDY「滋賀県近江八幡市 歴史・文化を生かした景観まちづくり」)としている。自主条例であり、市町村合併後制定された現条例も同様の内容となっている。風景計画の策定、風景づくり協定の締結、風景資産の登録眺望風景保全地区の指定と建築等の行為の事前協議、公共事業風景づくり指針の策定等を規定している。
〇 小田原市は、平成17年12月16日に全市域を対象とした全国最初の景観計画を策定した。平成5年に旧条例「小田原市都市景観条例」を制定し、市域全域における大規模建築物等の建築行為の届出・指導、景観形成地区の指定と同地区内における建築行為の建築行為の届出・指導、助成措置等を定めていたが、景観法を踏まえ、実効性のある景観政策を進めるため、新条例「小田原市景観条例」を制定した。景観計画の策定と同じ日である平成17年12月16日に公布した。新条例は、旧条例の制度を景観法に基づき移行させるなどの法施行条例事項と新たに創設した眺望景観確保促進区域制度や景観評価員制度などの自主条例事項を含む統合条例となっている。小田原市条例の内容等については、藤川眞行「小田原市における景観政策の制度づくり」(ジュリスト1314号(2006年6月)72頁以下)を参照されたい。
〇 各務原市は、中部圏では最初に景観計画を策定した。景観法公布後施行前の平成16年10月1日に自主条例である旧条例「各務原市景観条例」を制定・公布した。「景観法の施行を待ち、はじめから法律に依拠した形での条例制定を選択しなかった理由」として、「高層マンションの出現が、住民の景観に対する意識を高めるきっかけとなり」、「まず一歩でも取り組みを進めることが大切だと考えた」(自治体法務研究2005年秋号特集景観条例「景観行政団体の取組みと効果--岐阜県各務原市における経緯と考え」)としている。旧条例は、景観基本計画の策定、景観審議会の設置等の規定が置かれていたが、景観計画の策定作業に合わせて、新条例「各務原市都市景観条例」が検討され、景観計画とほぼ同時期の平成17年3月29日に公布された。新条例は、景観計画、景観重要建造物、景観重要樹木、景観形成住民協定、景観形成住民団体認定、表彰・助成等を規定した統合条例である。
〇 秦野市条例「秦野市景観まちづくり条例」は、景観計画の策定日である平成18年4月1日に施行された。秦野市の景観政策は、秦野市が「京都や鎌倉に代表されるような大きな特徴を持つ街ではなく、いわゆる“普通のまち”である」(松岡紀子「秦野市の景観行政の取組」」(ジュリスト1314号(2006年6月)86頁)ことから、「生活美観」をキーワードとして、日々の生活における身近な取組みから景観まちづくりの輪を広げていくことを基本としている(秦野市HP「景観まちづくり条例・ふるさと秦野生活美観計画」)。条例で、景観法第16条第1項に定める届出の手続きの事前協議手続として「生活美観創出協議」を定めるとともに、景観法の施行に係る事項や市独自の制度(地域景観拠点、庭先協定、景観まちづくり市民会議など)を規定している。秦野市条例については、前記松岡解説や秦野市HPを参照されたい。
〇 長野県は、都道府県として初めて景観計画を策定した。長野県条例「長野県景観条例」は平成4年に制定されたが、景観計画の策定にあわせて、平成17年10月に改正され、18年4月から改正施行がなされた。景観法の規定に基づき景観計画の策定、行為の規制、景観重要建造物等の指定等に関する事項を規定しているが、景観計画には、景観育成重点地域や景観育成特定地区等を定め、また、独自制度として景観資産の指定、公共事業景観育成指針の策定、景観育成住民協定の認定等を規定している。なお、令和2年4月1日現在、県下77市町村のうち、44団体が景観行政団体になっている。
〇 小布施町は、昭和62年に「環境デザイン協力基準」を定め、また、平成2年に「小布施町うるおいのある美しいまちづくり条例」を制定し、歴史や風土を大切にした家づくり、町並みづくりを進めてきたが、平成18年2月1日には長野県の市町村では中核市の長野市を除き初めて景観行政団体となり、町独自の景観行政をさらに進めることとした。それに合わせて、条例を全面改正し、平成18年4月1日から施行している。条例では、景観法に基づいた規定のほか、環境デザイン協力基準の策定、まちづくりデザイン委員会の設置、住まいづくり相談所の開設、景観づくり活動団体の認定等を定めている。
〇 真鶴町は、平成5年6月に「真鶴町まちづくり条例」を制定した。同条例は、別名「美の条例」とも言われているものである。8つの「美の原則」を規定したうえで規則で「美の基準」を定めることとするとともに、「土地利用規制規準」の策定、建設行為の届出、事前協議等について規定している。平成17年1月に全国で最初に「その他の市区町村」として景観行政団体になり、景観法施行後も積極的に進めているが、特に「真鶴町まちづくり条例」の改正はせず、「美の基準」と「土地利用規制規準」は景観計画に景観法8条3項の「景観計画区域における良好な景観の形成に関する方針」として位置付けている。また、別途、施行条例である「真鶴町景観法に基づく届出行為等に関する条例」を制定している。
〇 なお、資料として少し古くなるが、景観法施行後の自主条例から景観計画への制度の移行状況を調査したものとして松井大輔・岡崎篤行「自主条例から移行した法定景観計画における制度内容の進展状況と課題」(都市計画論文集No.44-3(2009年10月))があり、都道府県の景観条例の制定状況を調査したものとして野村優太ほか5名「都道府県による景観条例の制定状況と運用実態」(日本建築学会九州支部研究報告54号(2015年3月))がある。また、国土交通省は「景観計画策定の手引き(平成31年3月)」を作成している。
【平成に入ってから制定された条例】
〇 平成の時代に入ってから制定された景観条例を紹介する。
群馬県みなかみ町 | 令和元年6月17日公布 | 令和元年10月1日施行 | |
千葉県館山市 | 令和元年6月26日公布 | 令和元年11月1日施行 | |
大分県豊後大野市 | 令和元年7月10日公布 | 令和元年10月1日施行 | |
熊本県八代市 | 令和元年7月24日公布 | 令和元年9月1日施行 | |
宮崎県高原町 | 令和元年9月11日公布 | 令和元年9月11日施行 | |
宮崎県美郷町 | 令和元年9月11日公布 | 令和元年10月1日施行 | |
徳島県上勝町 | 令和元年9月20日公布 | 令和元年10月1日施行 | |
大阪府大東市 | 令和元年9月25日公布 | 令和2年1月1日施行 | |
愛媛県久万高原町 | 令和元年9月25日公布 | 令和元年10月1日施行 | |
鹿児島県指宿市 | 令和元年9月30日公布 | 令和元年9月30日施行 |
などである。
〇 いずれの条例も、景観計画の策定に合わせて、制定されている(美郷町については、景観計画の策定は未確認)。みなかみ町条例は、平成17年制定の「美しいみなかみの風景を守り育てる条例」を廃止したうえで、制定されている。
〇 いずれも統合条例となっている。自主条例事項部分については、全ての条例は自治体、住民、事業者の責務等を規定し、また、多くの条例は景観まちづくり団体の認定、表彰・助成、審議会の設置等を規定している。なお、上勝町条例は景観計画の目標と景観形成の方針を定め、みなかみ町条例、館山市条例、指宿市条例は景観アドバイザーの設置を、豊後大野市条例は空地等に係る要請を、それぞれ規定している。
〇 なお、景観条例に関しては、自治体法務研究2005年秋号特集「景観条例」を参照のこと。