客引き行為等の規制に関する条例
(令和6年7月11日更新)
【制定状況の概観】
〇 都市部の繁華街での客引き行為等を規制する条例が、指定都市、特別区、その他比較的人口規模が大きい都市を中心に制定されている。
〇 客引き行為等については、風俗営業法や都道府県の迷惑防止条例等でも規制されているが、規制の対象となる業種や行為の態様は限定されている。
例えば、風俗営業法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(昭和23年法律122号))は、風俗営業を営む者に「当該営業に関し客引きをすること」及び「当該営業に関し客引きをするため、道路その他公共の場所で、人の身辺に立ちふさがり、又はつきまとうこと」を禁止している(22条1項1号及び2号)が、「風俗営業」とは「キヤバレー、待合、料理店、カフエーその他設備を設けて客の接待をして客に遊興又は飲食をさせる営業」(2条1項1号)等としており、風俗営業ではない居酒屋、カラオケ店等は対象外となっている(但し、深夜における飲食店営業については、32条3項により規制の対象となっている)。
また、都道府県の迷惑防止条例等については、例えば、東京都の公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例は、何人も、公共の場所において、不特定の者に対し、「人の身体又は衣服をとらえ、所持品を取りあげ、進路に立ちふさがり、身辺につきまとう等執ように客引きをすること」をしてはならない(7条1項4号)等としており、「執ように」客引きすることが規制の対象となっている。
〇 こうした風俗営業法や都道府県の迷惑防止条例等があったとしても、違反事犯は後を絶たず、また、風俗営業法等の規制対象とならない客引き行為等も多く、これらを放置することができないとして、それぞれの自治体の独自の取り組みとして客引き行為等を規制する条例が制定されているのである。
〇 荒木修「客引き行為等に対する市条例に基づく規制とその実効性(2)」(自治実務セミナー2020年1月号)55頁は、こうした客引き行為等を規制する条例(令和元年9月までに制定されたもの)の制定状況と内容について、一覧表にして示している。36条例が掲載されている。また、36条例以外に、旭川市、新潟市及び荒川区でも条例を制定していることが確認でき(新潟市条例及び荒川区条例は、禁止規定や指導規定のみ)、さらに令和元年10月以降令和6年7月1日時点までに、新たに所沢市、静岡市、市川市、岐阜市、千葉市、宮崎市、札幌市、北区、北九州市、足立区及び鹿児島市が条例を制定したことが確認できる。
なお、札幌市は平成17年に「札幌市公衆に著しく迷惑をかける風俗営業等に係る勧誘行為等の防止に関する条例」を制定していたが、これとは別に令和4年3月に新たに「札幌市客引き行為等の防止に関する条例」を制定している。したがって、札幌市は2条例を制定していることとなる。
〇 これらあわせて50条例の制定団体(49団体)を団体種別に見てみると、
都道府県 | 兵庫県 |
指定都市 | 札幌市(2条例)、福岡市、新潟市、大阪市、京都市、川崎市、名古屋市、仙台市、熊本市、浜松市、静岡市、千葉市、 |
特別区 | 千代田区、港区、新宿区、文京区、台東区、墨田区、品川区、大田区、渋谷区、豊島区、荒川区、北区、足立区 |
東京近郊都市 | 武蔵野市、八王子市、国分寺市、立川市、大和市、厚木市、海老名市、柏市、船橋市、松戸市、所沢市、市川市 |
その他の都市 | 郡山市、福島市、青森市、旭川市、いわき市、四日市市、前橋市、岐阜市、宮崎市、鹿児島市 |
となる。
50条例中45条例が客引き行為等を規制する単独条例であるが、八王子市、新潟市、荒川区及び松戸市の条例は安心・安全条例や生活安全条例等の条例に関係規定を置いている。
〇 これらの条例の歴史的な経緯を概観すると、まず、動きは平成10年代から始まる。この動きには、二つの流れがある。
まず、1つ目の流れは、東京都多摩地区の都市の動きである。平成14年に武蔵野市、八王子市、平成16年に国分寺市、平成17年に立川市が条例を制定している。いずれも、規制対象を「つきまとい勧誘行為」や風俗営業や性風俗営業に関する客引き行為等に限定し、罰則は設けていない(八王子市は平成26年に居酒屋、カラオケ店にも対象拡大。立川市は平成27年に全業種に対象拡大、罰則規定追加)。行政指導でもって、「つきまとい勧誘行為」等の防止を図ろうとするものである。
2つ目の流れは、札幌市、福岡市、郡山市などの動きである。平成17年に札幌市(札幌市公衆に著しく迷惑をかける風俗営業等に係る勧誘行為等の防止に関する条例)、平成18年に福岡市、平成19年に郡山市が条例を制定している。いずれも、規制対象を風俗営業や性風俗営業に関する客引き行為等に限定しており、他の都道府県の迷惑防止条例で規制されているものの当該市が所在する道県の迷惑防止条例では規制の対象となっていない行為等を規制している。いわば「迷惑防止条例の代替やその補完のため」(荒木論文54頁)制定されたものであり、違反行為に対しては、迷惑防止条例と同様に、刑罰としての懲役、罰金等を科している。このタイプの条例は、平成22年に青森市及び福島市、平成26年に旭川市、平成27年にいわき市、四日市市でも制定されている。なお、四日市市は令和3年に条例を改正施行し、刑罰の対象としていない行為については全業種を対象に過料を科すこととした。
〇 平成20年代に入ると、秩序罰である過料を科す条例が現れ、それが一般化し、また、客引き行為等の規制対象を風俗営業や性風俗営業だけではなく、居酒屋やカラオケ店に拡大し、さらにはすべての業種に拡大する条例が現れ、増加していった。
まず、神奈川県内の大和市が平成24年に、同じく厚木市が平成25年に、条例を制定した。これらの条例は、客引き行為等の規制対象を風俗営業や性風俗営業等に限定しているが、違反行為に対して、過料を科すことができるとした。県の迷惑防止条例との関係で刑罰を科することは困難であり、他方で指導、勧告、公表等だけでは実効性を上げることができないと判断し、秩序罰である過料を科すこととしたものと考えられる。
次に、特別区の動きである。平成23年に豊島区(旧条例)、平成24年に荒川区が、それぞれ生活安全条例において風俗営業や性風俗営業等の客引き行為等の禁止を規定した。罰則はない。平成25年に新宿区が条例を制定し、客引き行為について居酒屋、カラオケ店も規制対象を拡大したが、罰則はない(平成28年に過料規定を追加)。平成26年には、千代田区、大田区、墨田区及び渋谷区が条例を制定したが、千代田区及び渋谷区は客引き行為の規制対象を全業種にまで広げているものの罰則規定は設けておらず、大田区は風俗営業や性風俗営業に限定したうえで過料を科し、墨田区は居酒屋やカラオケ店も対象にしてうえで過料を科すこととした。さらに、平成27年に豊島区(新条例)及び品川区、平成28年に港区、平成29年に文京区及び台東区が条例を制定し、この5条例はいずれも過料を科すこととしているが、豊島区、文京区及び台東区は居酒屋やカラオケ店をも、品川区及び港区は全業種を、客引き行為等の規制対象としている。また、令和4年には北区及び足立区が条例を制定し、北区は居酒屋やカラオケ店をも対象にし、足立区は全業種を対象にしたうえで、過料を科している。このように特別区の条例は、罰則の有無、規制の対象等は区によって様々であり、それぞれの地域の繁華街の状況等に照らした規制内容となっているものと考えられる。いずれにしても、平成20年代に特別区において条例制定の動きが拡大した。
指定都市では、平成26年に大阪市が条例を制定した。客引き行為等の規制の対象を全業種としてその違反行為に過料を科すとした。あらゆる業種の客引き行為を規制し、違反行為に対して過料を科す条例としては、全国初のものである。指定都市では、その後、平成27年に京都市、平成28年に川崎市、平成30年に名古屋市、仙台市及び熊本市、令和元年に浜松市、令和2年に静岡市、令和3年に千葉市、令和4年3月に札幌市(札幌市客引き行為等の防止に関する条例)、令和4年10月に北九州市が条例を制定しているが、これらの条例はすべて大阪市と同じタイプの条例である。このタイプの条例については、平成27年に兵庫県、平成29年に前橋市及び船橋市、令和2年に所沢市及び市川市、令和3年に岐阜市及び宮崎市、令和5年に鹿児島市が制定している。
他方、居酒屋やカラオケ店などに対象を限定したうえで過料を科す条例については、いずれも東京近郊都市であるが、平成27年以降、平成27年に海老名市、平成29年に柏市が制定し、同じく平成29年に松戸市が既存条例の改正により制定している。
〇 以上のことを踏まえ、いくつかのタイプに分けて、それぞれの条例を見ることとする。なお、本稿は荒木論文を参考にしている。,
【あらゆる業種の客引き行為を規制し、過料を科す条例】
〇 まず、あらゆる業種の客引き行為を規制し、過料を科す条例として、以下のようなものがある。
大阪市 | 平成26年5月28日公布 | 平成26年6月1日施行 (一部 平成26年10月1日施行) 令和3年4月1日改正施行 |
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兵庫県 | 平成27年3月19日公布 | 平成27年4月1日施行 (一部 平成27年10月1日施行) |
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京都市 | 平成27年3月27日公布 | 平成27年4月1日 (一部 平成27年9月1日施行) 令和2年4月1日改正施行 |
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東京都品川区 | 条例 |
平成27年3月31日公布 | 平成27年7月1日施行 (一部 平成27年10月1日施行) |
東京都立川市 | 行為及びピンクちらしの配布等の防止に関する条例 |
(平成17年3月30日公布) | 平成27年12月7日改正施行 |
川崎市 | 平成28年3月24日公布 | 平成28年4月1日施行 (一部 平成28年9月1日施行) |
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東京都港区 | 平成28年12月8日公布 | 平成29年4月1日施行 |
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群馬県前橋市 | 平成29年6月29日公布 | 平成29年7月1日施行 (一部 平成29年10月1日施行) |
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千葉県船橋市 | 平成29年8月4日公布 | 平成29年9月1日施行 (一部 平成29年12月1日施行) |
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名古屋市 | 平成30年3月28日公布 | 平成30年4月1日施行 (一部 平成30年10月1日施行) |
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仙台市 | 平成30年12月21日公布 | 平成30年12月21日施行 (一部 平成31年4月1日施行) |
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熊本市 | 平成30年12月27日公布 | 平成30年12月27日施行 (一部 平成31年4月1日施行) |
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浜松市 | 令和元年9月18日公布 | 令和元年11月1日施行 (一部 令和2年4月1日施行) |
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埼玉県所沢市 | 令和2年3月31日公布 | 令和2年4月1日施行 (一部 令和2年10月1日施行) |
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静岡市 | 令和2年12月18日公布 | 令和3年1月1日施行 (一部 令和3年4月1日施行) |
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千葉県市川市 | 令和3年3月26日公布 | 令和3年9月1日施行 (一部 令和3年12月1日施行) |
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岐阜県岐阜市 | 令和3年3月30日公布 | 令和3年4月1日施行 (一部 令和3年10月1日施行) 令和6年4月1日改正施行 |
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千葉市 | 令和3年9月24日公布 | 令和3年9月24日施行 (一部 令和4年4月1日施行) |
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宮崎県宮崎市 | 令和3年9月30日公布 | 令和3年9月30日施行 (一部 令和4年1月1日施行) |
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札幌市 | 令和4年3月30日公布 | 令和4年4月1日施行 (一部 令和4年7月1日施行) |
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北九州市 | 令和4年10月12日公布 | 令和4年10月12日施行 (一部 令和4年12月16日施行) |
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東京都足立区 | 令和4年12月22日公布 | 令和5年4月1日施行 |
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鹿児島県鹿児島市 | 令和5年8月23日公布 | 令和5年10月1日施行 |
〇 これらの条例が規制の対象としている「客引き行為等」は、「客引きをし、若しくは役務に従事するよう特定の人を勧誘し、又はこれらの行為を行うために相手方となるべき者を待つこと」(大阪市条例2条1項)である。より具体的には、①客引き行為(不特定の者の中から相手方を特定して、客となるように誘う行為)、②客待ち行為(客引き行為をする目的で、相手方となるべき者を待つこと)、③勧誘行為(役務に従事するよう特定の者を勧誘すること)、④勧誘待ち行為(勧誘行為をする目的で、相手方となるべき者を待つこと)(京都市条例2条1号)である。京都市条例以降に制定された条例のほとんどが、京都市条例と同様に4区分に分けた定義規定を置いている。
〇 このうち、「客引き行為」に関して、いずれの条例も、業種は問わず、あらゆる業種の行為を対象にしている。
〇 また、「客引き行為」に関して、ほとんどの条例は、あらゆる態様の行為を対象にしている(「客待ち行為」も同様)。
ただし、公共の場で行われることが前提となり、「相手方を特定して行われる行為」で「客となるように誘う行為」が対象となる。「相手方を特定して行われる行為」とは、通行人等の中から、特定の人に、(a)近付いて行う、(b)寄り添いながら行う、(c)足を止めさせて行うなどの行為で、「客となるように誘う行為」とは、お客となるよう、(a)お店を探しているか尋ねる、(b)交渉を持ちかける、(c)店へ誘うなどの行為であるとされる。したがって、通行人等不特定の者に対して行う、(a)ティッシュ、チラシ等を配布する行為、(b)看板を持って、宣伝する行為、 (c)呼びかける行為(例えば、「ただいまタイムセールス中ですよ」、「いらっしゃい、いらっしゃい」など)は、「客引き行為」に該当しないとされる(名古屋市資料「名古屋市客引き行為等の禁止等に関する条例(概要)」参照)。
なお、大阪市条例及び兵庫県条例は、市内や県内全域においては、「拒絶の意思を示している者に対し、客引きをし、又は役務に従事するよう勧誘する行為」及び「客引きをし、又は役務に従事するよう特定の人を勧誘する行為を行うために、他人の進路に立ちふさがり、通行人に追随し、路上においてたむろし、その他人の通行を妨げる行為」に限定しているが、「禁止区域」においてはこうした限定はない。
一方、川崎市及び熊本市条例は、「立ち塞がり、追随し、呼び掛ける等平穏な通行又は利用を妨げるような態様」(川崎市条例2条1項ウ)等とやや限定的な規定ぶりとなっている。
〇 次に、「勧誘行為」は、一般的にスカウト行為ともいわれる。前橋市条例では、「勧誘行為」、「勧誘待ち行為」ではなく、「スカウト行為」、「スカウト対象待ち行為」と規定している(2条2号エ及びオ)。
「勧誘行為」も、公共の場で行われる「相手方を特定して行われる行為」であることが前提であり、「役務に従事する者となるように誘う行為」とは、仕事に従事するよう、(a)職を探しているか尋ねる、(b)交渉を持ちかける、(c)職場へ誘うなどの行為とされる(上記名古屋市資料参照)。
「勧誘行為」に関して、立川市、川崎市、港区、熊本市及び足立区の条例を除く他の条例は、業種は問わず、あらゆる態様の行為を対象にしている(「勧誘待ち行為」も同様)。
立川市、川崎市、港区、熊本市及び足立区の条例は、(a)人の性的好奇心に応じて人に接する役務、(b)専ら異性に対する接待をして酒類を伴う飲食をさせる役務、(c)わいせつな映像の被写体となることなどに限定している。
〇 「客待ち行為」及び「勧誘待ち行為」については、ほとんどの条例は「客待ち行為」を「客引き行為をする目的で、相手方となるべき者を待つこと」等と、「勧誘待ち行為」を「勧誘行為をする目的で、相手方となるべき者を待つこと」等としているが、岐阜市条例(令和6年4月1日改正施行後)は、それらに加えて、「客待ち行為」として「客となろうとする者から声をかけられる目的で、うろつき、又はとどまる行為」をも、「勧誘待ち行為」として「役務に従事しようとする者から声をかけられる目的で、うろつき、又はとどまる行為(他人の通行を妨げるものに限る。)」をも対象にしている。
〇 すべての条例は、規制の違反行為に対して、最終的に罰則として過料を科すことができるとしている。過料を科すまでの手続きは、
大阪市、兵庫県、京都市、川崎市、前橋市、名古屋市、熊本市、浜松市、所沢市、市川市、岐阜市、宮崎市、札幌市(札幌市客引き行為等の防止に関する条例)及び鹿児島市の条例は、①禁止区域等の指定、②禁止区域等における違反行為に対する指導、③指導に従わない場合に勧告(警告)、④勧告(警告)に従わない場合に命令、⑤命令違反に対して公表、⑥命令違反に対して過料を科す(禁止区域等→指導→勧告(警告)→命令→公表・過料)こととしている。
仙台市、静岡市、千葉市及び北九州市の条例は、違反行為に対して、指導を前置せず、市長は勧告を行う(禁止区域→勧告→命令→公表・過料)こととしている。
船橋市条例は、命令行為はなく、勧告に従わない場合には公表をし、過料を科す(規制区域→指導→勧告→公表・過料)こととし、品川区条例は、同じく命令行為はないが、勧告の前に警告をする(特定地区→指導→警告→勧告→公表・過料)こととしている。
足立区条例は、重点地区を指定し、指導、警告、公表を行い、過料を科す(重点地区→指導→警告→公表・過料)こととしている。
立川市条例及び港区条例は、禁止区域等の設定はせず、市内・区内全域を対象にしている(指導→(警告)→勧告→命令→公表・過料)。
なお、大阪市及び兵庫県の条例は一定の客引き行為等について市内・県内の全域にわたり禁止し、品川区及び足立区の条例はすべての客引き行為等について区内の全域にわたり禁止しているが、全域での違反行為に対しては指導までとしている。
また、大阪市条例及び名古屋市条例は、禁止区域とは別に、客引き行為等の適正化のための対策を市民等と協働して重点的に取り組む区域として、重点区域等を指定することができるとし、禁止区域は重点区域のうちから指定することができるとしている。
立川市条例は、客引き行為等を防止するために特別な措置を講ずる必要があると認める区域を重点地区として指定することができるとしている。
〇 規制の実効性を高めるため、ほとんどの条例は、客引き行為等を実際に行う者のみならず、客引き行為等をさせる者をも、規制の対象としている。また、一部の条例では、客引き行為等を受けた者を客として受け入れることや役務に従事させることを禁止(客引き行為等を用いた営業の禁止)している。違反行為を行う店舗等に土地・建物を貸し付けている所有者や管理者に対する対策(オーナー対策)として、公表した場合は公表の事実やその内容を所有者等に通知することができるとし、さらには、貸与契約に違反行為をしない旨等の条項を盛り込むことを努力義務としているものもある。
また、規制の手続に関して、一部の条例は、禁止区域等の指定に当たっての審議会の意見聴取や住民や事業者からの意見提出に関して規定し、また、ほとんどの条例は、公表に当たっての意見陳述の機会付与に関して規定している。
〇 兵庫県条例は、「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」を制定し、客引き行為等に対して上記の東京都迷惑防止条例と同様な規定を置いているが、それとは別に「客引き行為等の防止に関する条例」を制定している。前者は「大衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等を防止し、もって県民生活の安全と秩序を維持すること」(1条)を目的とし、後者は「何人も安心して公共の場所を通行し、又は利用することができるようにするために公共の場所における客引き行為等の防止に関して必要な事項を定めることにより、安心で快適な地域社会の実現に寄与すること」(1条)を目的としている。都道府県で客引き行為等を規制する条例を制定しているのは、兵庫県のみである。なお、市町村との関係については、「客引き行為等の防止に関する措置を規定する条例を制定している市町の区域であって、当該条例の規定により、客引き行為等の防止に関する措置が効果的に講じられていると認められる市町の区域におけるこの条例の規定の適用については、規則で定める。」(13条)としている。
〇 秦博美「客引き規制」(行政課題別条例実務の要点(第一法規(令和2年7月)1769頁以下)は、熊本市条例について、従業員に指導・監督等を行う事業者の努力義務(4条2項)、禁止区域指定の際の審議会の意見聴取(6条2項)、客引き行為等を用いた営業の禁止(8条)、オーナー対策(13条)、過料の両罰規定(25条)などの「進化した客引き条例の標準装備ともいえる項目」のほか、公表に当たっての意見陳述や証拠提出の機会の付与(12条2項)、貸与に係る契約上の措置の努力義務(14条)などを規定しているとしたうえで、「全国で同種の条例が伝播するごとに、後発効果とでもいう現象が起こり、条例は確実に進化・深化し、完成度を増す実例がここにあるように思われる」(同書1769の13頁)としている。
〇 京都市条例は、平成27年3月に制定されているが、一部の悪質な客引き行為者によって客引き行為等が繰り返されるため、令和2年4月に改正施行し、公表範囲の拡大、オーナー対策の追加、両罰規定の導入を行っている(京都市HP「「京都市客引き行為等の禁止等に関する条例」の一部改正について」参照)。
大阪市条例は、平成26年5月に制定されているが、客引き行為等の違反行為についての対策を強化するため、令和3年4月に改正施行し、過料処分を受けた者が再び違反行為を行った場合は指導・勧告を経ずして命令を行うことができるとした(大阪市HP「大阪市客引き行為等の適正化に関する条例の取組み状況について」参照)。
岐阜市条例は、令和3年3月に制定されているが、「条例の規定上による指導の限界や岐阜市が抱える特殊事情を勘案した条例改正の必要性が高まり」、令和6年4月に改正施行し、客待ち行為として「客となろうとする者から声をかけられる目的で、うろつき、又はとどまる行為(他人の通行を 妨げるものに限る。)」を追加するとともに、禁止区域において店舗等の事業者等が客引き行為等を行う者を利用する等をして客を店舗等に立ち入らせること等も禁止行為の対象とした(岐阜市HP「岐阜市客引き行為等の禁止等に関する条例」参照)。
【客引き行為の規制対象業種を限定し、過料を科す条例】
〇 次に、客引き行為等を規制する条例で、業種を限定したうえで、過料を科す条例として、以下のようなものがある。
神奈川県大和市 | に関する条例 |
平成24年3月29日公布 | 平成24年4月1日施行 (一部 平成24年6月1日等施行) |
神奈川県厚木市 | 平成25年12月27日公布 | 平成26年4月1日施行 |
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東京都大田区 | に関する条例 |
平成26年3月14日公布 | 平成26年7月1日施行 (一部 平成26年10月1日施行) |
東京都墨田区 | 平成26年6月30日公布 | 平成26年12月1日施行 |
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東京都豊島区 | 平成27年3月20日公布 | 平成27年4月1日施行 (一部 平成27年10月1日施行) |
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神奈川県海老名市 | 客引き行為等の防止に関する条例 |
平成27年6月23日公布 | 平成27年7月1日施行 (一部 平成27年10月1日施行) |
東京都新宿区 | に関する条例 |
(平成25年6月19日公布) | 平成28年4月1日改正施行 |
東京都文京区 | に関する条例 |
平成29年6月22日公布 | 平成29年7月1日施行 (一部 平成29年10月1日施行) |
千葉県柏市 | 平成29年6月23日公布 | 平成29年6月23日施行 (一部 平成29年11月1日施行) |
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東京都台東区 | に関する条例 |
平成29年6月28日公布 | 平成29年10月1日施行 |
千葉県松戸市 | (平成15年12月19日公布) | 平成30年4月1日改正施行 |
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東京都北区 | に関する条例 | 令和4年6月21日公布 | 令和4年7月1日施行 (一部 令和4年10月1日施行) |
〇 規制対象とする「客引き行為」については、大和市、厚木市及び大田区の条例は、風俗営業や性風俗営業を対象にしている。
一方、墨田区、豊島区、海老名市、新宿区、文京区、柏市、台東区、松戸市及び北区の条例は、居酒屋(客に酒類を伴う飲食をさせる行為を提供する営業)及びカラオケ店(個室を設けて当該個室において客に専用装置による伴奏音楽に合わせて歌唱を行わせる施設を提供する営業)を対象にしている。なお、海老名市を除く条例は店舗型性風俗特殊営業(ファッションヘルス等)、新宿区条例、柏市条例及び松戸市条例は無店舗型性風俗特殊営業(デリバリーヘルス等)、墨田区条例、松戸市条例及び北区条例は店舗型性風俗特殊営業以外の性風俗店(専ら人の身体に接触する役務を提供する営業等)、台東区条例は18歳未満の児童への物品販売営業を対象に加えている。
墨田区条例は、対象業種の限定は「重点地区」においてのみとし、区域全域については業種を問わず「執ような客引き行為」を対象としている。
〇 また、規制対象とする「勧誘行為」については、(a)人の性的好奇心に応じて人に接する役務、(b)専ら異性に対する接待をして酒類を伴う飲食をさせる役務、(c)わいせつな映像の被写体となることなどの勧誘に限定している。なお、これらの行為のほか、大和市条例は「つきまとい行為」、厚木市は「執ように行う勧誘」を対象に加えている。また、海老名市条例は、これらの「勧誘行為」を「つきまとい勧誘行為」(身体又は衣服を捕らえ、所持品を取り上げ、進路に立ち塞がり、身辺につきまとう等の手段により、拒絶の意思を示している者に対して行う勧誘行為)に限定し、柏市条例及び松戸市条例は、(c)わいせつな映像の被写体となることは対象に含めていない。
〇 すべての条例は、規制の違反行為に対して、最終的に罰則として過料を科すことができるとしている。過料を科すまでの手続は、海老名市条例以外の条例は、命令行為はなく、勧告または警告に従わない場合に公表ができ、過料を科すことができるとしている。
具体的には、新宿区、豊島区、文京区、柏市及び台東区の条例は、特定区域等→指導→警告→勧告→公表・過料としている。なお、市内・区内の全域にも客引き行為等を規制しているが、指導以下の手続は特定区域等のみを対象にしている。
大和市、厚木市、大田区及び北区の条例も、市内・区内の全域にも客引き行為等を規制しているが、市域・区域の全域については指導を行い、重点地区等については、大和市条例は指導→警告・勧告→公表・過料、厚木市条例は指導→勧告→公表・過料、大田区条例及び北区条例は指導→警告→勧告→公表・過料としている。また、松戸市条例は、市内全域に関しては指導及び勧告を行い、重点区域は指導→勧告→公表・過料としている。
墨田区条例は、市内全域と重点区域とで規制内容を変えているが、市内全域の違反行為に対しても、指導→警告→公表・過料を行うことができるとしている(重点区域も、指導→警告→公表・過料)。
一方、命令手続がある海老名市条例は、市内全域を対象に、指導→警告→勧告→命令→公表・過料としている(重点区域の指定をしているが、規制及び指導以下の手続は市内全域に及ぶ)。
〇 ①のタイプの条例と同様に、客引き行為等をさせる者の規制対象、客引き行為等を用いた営業の禁止、オーナー対策等の規定を置く条例は少なくない。また、全ての条例は、公表に当たっての意見陳述の機会付与に関して規定している。
【風俗営業に限定し、刑罰を科す条例】
〇 風俗営業に限定し、刑罰(懲役、罰金等)を科す条例として、以下のようなものがある。
札幌市 | 平成17年10月4日公布 | 平成17年12月1日施行 |
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福岡市 | 平成18年9月21日公布 | 平成18年12月1日施行 |
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福島県郡山市 | 平成19年12月25日公布 | 平成20年4月1日施行 |
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青森県青森市 | 平成22年12月24日公布 | 平成23年4月1日施行 |
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福島県福島市 | 平成22年12月24日公布 | 平成23年4月1日施行 |
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北海道旭川市 | 平成26年3月25日公布 | 平成26年7月1日施行 |
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福島県いわき市 | 平成27年7月3日公布 | 平成27年8月1日施行 |
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三重県四日市市 | 平成27年12月24日公布 | 平成28年7月1日施行 令和3年4月1日改正施行 |
〇 四日市市条例を除く条例は、規制対象を(a)接待をして、飲食をさせる行為の提供、(b)人の性的好奇心をそそる行為の提供に関するものなどとし、風俗営業や性風俗営業などに限定している。違反行為に対して罰金等を科すこととしている。直罰を科すため、指導、勧告、命令、公表等の規定は置いていない。なお、旭川市条例及びいわき市条例は、市長が定める「指定区域」に限って規制している。
〇 四日市市条例は、①異性による接待をして酒類を伴う飲食をさせる行為(身体等に接触させる接待等の場合は除く)の提供の誘引行為、②専ら人の身体に接触して行う行為の提供の客引き行為、③市長が指定する区域における①及び②の客引きを行う目的での客待ち行為に対して、罰金等を科している。②に対しては直罰を課しているが、①及び③に対しては指導→勧告→命令→罰金等との手続を経ることとしている。これに加えて、令和3年4月1日改正施行(四日市市客引き行為等の防止に関する条例の一部を改正する条例(令和2年12月25日公布)))により、全ての業種を対象として市長が指定する区域における客引き、誘引及び客待ちの行為(①、②及び③の行為並びに三重県の公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例7条1項により禁止されている行為を除く)に対して、過料を科すこととした。指導→勧告→命令→過料との手続を経ることとしている。
〇 札幌市は、平成17年制定の「札幌市公衆に著しく迷惑をかける風俗営業等に係る勧誘行為等の防止に関する条例」とは別に、令和4年3月に「札幌市客引き行為等の防止に関する条例」を制定している。前者の条例は「風俗営業に限定し、刑罰を科す条例」であり、後者は「あらゆる業種の客引き行為を規制し、過料を科す条例」である。
このことについて、「札幌市では、『札幌市公衆に著しく迷惑をかける風俗営業等に係る勧誘行為等の防止に関する条例』(以下『ススキノ条例』という。)により、すすきの地区を中心とした指定区域内において、性風俗店等の誘引行為や稼働等に係る勧誘行為を規制していますが、他の政令市では、客引き行為等(全業種の客引き行為、客待ち行為、勧誘行為及び勧誘待ち行為をいう。以下同じ。)の問題に対処するため、客引き行為等の禁止区域を設定し、公共の場所における客引き行為等やこれらを利用した営業を禁止する条例を制定し、約3~7割の客引き行為者を減少させています。 札幌市では、市民及び観光客等が、公共の場所を安全に安心して通行し、又は利用することができる環境を確保することにより、魅力と活力のある安全で安心なまちづくりに寄与することを目的として、客引き行為等を規制する条例の制定」を行う(札幌市資料「(仮称)札幌市客引き行為等の防止に関する条例(素案)について 皆さまからご意見を募集します(パブリックコメント)」としている。
【罰則の定めがない条例】
〇 罰則規定がない条例としては、以下のようなものがある。
東京都武蔵野市 | 平成14年7月2日公布 | 平成14年10月1日施行 令和4年4月1日改正施行 |
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東京都八王子市 | 平成14年12月24日公布 | 平成15年4月1日施行 平成26年6月1日改正施行 |
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東京都国分寺市 | 平成16年12月24日公布 | 平成17年3月1日施行 |
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新潟市 | 平成18年12月21日公布 | 平成19年4月1日施行 |
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東京都荒川区 | (平成13年12月10日公布) | 平成24年8月1日改正施行 |
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東京都千代田区 | 平成26年3月20日公布 | 平成26年4月1日施行 |
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東京都渋谷区 | の防止に関する条例 |
平成26年10月24日公布 | 平成26年12月1日施行 |
〇 武蔵野市、八王子市及び国分寺市の条例は、「つきまとい勧誘行為」を規制の対象としている。八王子市条例は平成26年6月1日に改正施行され、また、武蔵野市条例は令和4年4月1日に改正施行され、カラオケ店、居酒屋等の客引き行為も規制対象に加えている。両条例ともに、市内の全域にも客引き行為等を規制しているが、市域の全域については指導を行い、重点区域(特定地区)については指導→警告→勧告→公表としている。3条例とも、罰則は設けていない(八王子市条例は、条例には罰則規定があるが、客引き行為等は対象としていない)。
千代田区及び渋谷区条例は、業種を問わず「客引き行為」等を規制の対象にしている。区内の全域にも客引き行為等を規制しているが、重点地区等にのみ指導→命令→公表との手続を規定している。罰則規定はない。
新潟市条例は、安心・安全まちづくり条例の規制項目の一つとして規定している。風俗店や性風俗店の客引き行為等を禁止するにとどまり、指導等の規定はない。罰則規定はない。
荒川区条例は、平成13年に制定されているが、平成24年8月の改正施行により、性風俗店等の客待ち行為のみを規制の対象とした。違反行為に対して指導することができるとしているが、その後の勧告等の規定は置いていない。罰則規定はない。