被災者・被災地支援及び相互支援に関する条例
(令和6年12月2日更新)
【被災者の支援に関する法律・条例】
〇 災害が発生した場合、国、都道府県、市区町村等は被災者に対して各種の支援措置を講じている(内閣府資料「被災者支援に関する各種制度の概要(令和6年6月1日現在)」・「被災者支援に関する各種制度の概要-東日本大震災編-(平成25年6月30日現在)」参照)。
こうした支援措置を講じるため、法律として、災害救助法(昭和22年法律118号)、災害弔慰金の支給等に関する法律(昭和48年法律82号)、特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律(平成8年法律85号)、被災者生活再建支援法(平成10年法律66号)等がある。
自治体においても、条例を制定し、法令を踏まえ、又は、独自の措置として、支援措置を講じている。税等の減免に関する条例、見舞金の支給等に関する条例、災害救助法が適用されない災害に関する救助条例、自治体独自の被災者生活再建支援条例、被災者支援のための基金条例、特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律に準じて被災者の権利利益の保全等を図るための条例などがある。
これらの条例は、多くの自治体で制定されているが、以下、それぞれについてごく簡単に例示する。
〇 税等の減免に関する条例としては、例えば、
大阪府富田林市 | 昭和36年10月9日公布 | 昭和36年10月9日施行 昭和36年9月16日適用 |
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福島県いわき市 | 平成23年6月20日公布 | 平成23年6月20日施行 |
〇 見舞金の支給等に関する条例としては、例えば、
東京都立川市 | 昭和51年3月31日公布 | 昭和51年4月1日施行 |
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福島県相馬市 | 昭和49年10月8日公布 | 昭和49年10月8日施行 昭和49年1月1日適用 |
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平成23年3月16日公布 | 平成23年3月16日施行 |
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平成元年12月12日公布 | 平成2年1月1日施行 |
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宮崎県新富町 | 令和4年3月16日公布 | 令和4年4月1日施行 | |
令和4年4月1日公布 | 令和4年4月1日施行 |
〇 災害救助法が適用されない災害に関する救助条例としては、例えば、
山梨県甲府市 | 昭和36年8月8日公布 | 昭和36年8月8日施行 |
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新潟県十日町市 | 平成17年4月1日公布 | 平成17年4月1日施行 |
〇 自治体独自の被災者生活再建支援条例としては、例えば、
鳥取県 | 平成13年7月6日公布 | 平成13年7月6日施行 |
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石川県輪島市 | 平成22年2月26日公布 | 平成22年2月26日施行 平成21年12月24日以降発生自然災害に適用 |
〇 災者支援のための基金条例としては、例えば、
兵庫県 | 昭和43年4月1日公布 | 昭和43年4月1日施行 |
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埼玉県三郷市 | 平成23年9月21日公布 | 平成23年9月21日施行 |
〇 特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律に準じて被災者の権利利益の保全等を図るための条例としては、例えば、
新潟県 | 平成16年12月27日公布 | 平成16年12月27日施行 |
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熊本県 | 平成28年6月10日公布 | 平成28年6月10日施行 |
などである。
【被災地以外の自治体による被災地支援に関する条例】
上記の条例は被災地である自治体が被災した住民等に対して支援を行うものであるが、被災地以外の自治体が被災地の自治体や被災者を支援する条例がいくつかの団体で制定されている。令和6年12月1日時点で施行されていることが確認できるものとして、以下のような条例がある。
東京都武蔵野市 | 平成7年3月22日公布 | 平成7年3月22日施行 |
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東京都港区 | 平成17年3月18日公布 | 平成17年3月18日施行 |
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北海道根室市 | (旧条例) |
平成23年4月14日公布 | 平成23年4月14日施行 平成23年4月1日適用 令和6年3月18日廃止 |
に関する条例(新条例) |
令和6年3月18日公布 | 令和6年3月18日施行 |
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東京都品川区 | 平成26年7月11日公布 | 平成26年7月11日施行 |
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岡山県総社市 | 平成25年12月24日公布 | 平成25年12月24日施行 |
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平成29年9月7日公布 | 平成29年9月7日施行 |
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岡山県備前市 | 平成28年7月1日公布 | 平成28年7月1日施行 |
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岡山県和気町 | 平成28年9月16日公布 | 平成28年9月16日施行 |
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岡山県赤磐市 | 平成29年12月28日公布 | 平成29年12月28日施行 |
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富山県富山市 | 令和3年3月30日公布 | 令和3年4月1日施行 |
である。
〇 以上の条例のうち、根室市条例(旧条例)は東日本大震災に見舞われた被災地の支援を目的としているが、他の条例は対象となる大規模災害や被災地を特定せず、今後起こりうる大規模災害の発生に備えてあらかじめ支援措置を条例で定めようとするものである。
〇 根室市条例(旧条例)は、東日本大震災発生の約1か月後の平成23年4月に制定されている。根室市は「大震災の津波の影響により家屋(床上浸水)、船舶、漁業等への被害総額が約42億円を超え、鋭意、復旧対策に取り組みを進めている」が、「根室市の基幹産業である水産業を通じて、密接な関係にある三陸沖の自治体や漁港、漁業者が東日本大震災により甚大な被害と被災したことを重く受け止め」、「大震災の発生後速やかに条例を制定し被災地に対する具体的な支援策に取り組ん」だ(「平成23年7月28日釧路市議会市民連合議員団出張報告書」)とされる。
東日本大震災の被災地、被災者、被災企業、被災外来漁船及び原発事故避難者に対する支援措置を定めており、支援措置として、被災地及び被災地に居住する被災者に対する支援(市町村に対する義援金、根室市に入港実績がある被災漁船に対する見舞金、物資支援、人材派遣)、被災地から根室市に避難してきた被災者に対する支援(住宅の無償提供、仮設住宅建設地の提供、生活資金等の支給、生活物資の無償給付等、被災者受入市民ボランティア登録、保育・就学支援、保健・福祉支援、地元就労支援)及び根室市に移転する被災企業に対する再建支援を規定している(3条及び別表)。被災地に対して見舞金や救援物資を送ったり人材を派遣するだけでなく、被災者を根室市で受け入れるための様々な支援措置を講じることとしている。費用は、協議により被災市町村が負担するとしたものを除き、根室市が負担する(4条)としている。
なお、東日本大震災の被災地に対する支援条例としては、神奈川県大井町の「東日本大震災の被災者に対する支援に関する条例」や神奈川県開成町の「平成23年東北地方太平洋沖地震による被災者に対する支援に関する条例」などが制定されていた(田中孝男「震災被災地・被災者の立ち直りを支援する~ 災害被災地支援条例のベンチマーキング~」(自治体法務NAVI Vol.41 2011年6月)参照)が、1年間の時限立法であり、現在は失効している。
根室市条例(旧条例)は、令和6年元旦に発災した令和6年能登半島地震後、令和6年3月に廃止され、同時に、対象となる大規模災害を特定しない根室市条例(新条例)が制定されている。
〇 東京都の武蔵野市、港区及び品川区の条例、岡山県の総社市、備前市、和気町及び赤磐市の条例、富山県の富山市条例、そして北海道の根室市条例(新条例)は、いずれも対象となる大規模災害を特定しないタイプの条例の条例である。武蔵野市条例が阪神淡路大震災発生の約2か月後の平成7年3月、港区条例は平成17年3月、それ以外の条例は東日本大震災の後に制定されている。なお、富山市条例は、富山市が総社市と令和3年3月22日に災害時の相互応援協定を締結したことが、制定の契機となっている。根室市条例(新条例)は、令和6年能登半島地震発生の約2か月後の令和6年3月に制定されている。
これら9団体のうち、総社市は被災地支援に関する条例と被災者の受入れに関する条例の2つの条例を制定している。一方、他の8団体の条例は被災地支援に関して定めている(ただし、品川区条例及び根室市条例(新条例)は、一部市被災者受入れ支援に関する内容を含んでいる。)
9団体の被災地支援に関する条例は、いずれも被災地に対して防災備蓄物資や防災資機材等物資の供与、支援活動に従事する職員の派遣等の支援措置を講じることを規定している。支援は、武蔵野市、総社市、備前市、和気町、赤磐市及び根室市(新条例)の条例は原則として被災地からの要請に応じて、港区条例は区長が必要と認めるとき、品川区条例は原則として相互支援協定等を締結している市区町村に対して、富山市条例は相互支援協定を締結している市町村及び市長が必要と認める市町村に対して、行うこととしている。また、武蔵野市、港区、総社市及び根室市(新条例)の条例は市(区)民が支援活動を行う場合は自主性を損なわない範囲で支援することができるとし、総社市、和気町及び赤磐市の条例は被災地支援に関する協定を締結している他の団体に対して連携した支援を行うことを要請することができるとしている。費用は、協議等により被災市区町村が負担するとしたものを除き、支援を行う団体が負担するとしている。
総社市の「大規模災害被災者の受入れに関する条例」は、被災地から総社市に避難した被災者に対して、一時避難所の設置、一時避難所に避難した被災者に対する食糧、生活物資等の無償提供、空き家等への入居支援、避難生活支援金の支給等の支援措置を講じることを規定している。なお、品川区条例は、支援措置の一つとして被災者の区の施設等への一時受入れについても規定している(4条7号)。また、根室市条例(新条例)は、支援措置の一つとして被災者への住宅等の提供や生活支援金等の支給についても規定している(3条5号)
〇 総社市は平成30年7月豪雨で大きな被害に見舞われたが、「被災地を支援することは、逆の立場になったとき必ず活きます。・・・(平成30年7月豪雨で大きな被害を受けた総社市の)下原、昭和の両出張所に配置された(総社市の)職員・・・は、偶然にも東日本大震災や熊本地震など被災地支援を経験した職員でした。そのため、同じ意識で対応できたことはとても心強かったです。今回の災害対応では、これまでの被災地支援の経験が活かされていると感じました。被災者の対応、支援団体との連携、支援物資の手配、復旧作業の段取りなど、間違いなくプラスに働きました。」(新谷秀樹「市民に寄り添う、伴走型の災害対応 2018年7月豪雨岡山県総社市のとりくみ」(住民と自治 2020年6月号)。なお、括弧内は機構による注書きである。)としている。
【相互支援に関する条例】
〇 北海道名寄市、福島県南相馬市、群馬県東吾妻町、東京都杉並区及び新潟県小千谷市は、平成25年3月にほぼ内容を一にする「災害時における相互支援に関する条例」を制定している。すなわち、
北海道名寄市 | 平成25年3月4日公布 | 平成25年4月1日施行 |
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福島県南相馬市 | 平成25年3月27日公布 | 平成25年3月27日施行 |
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群馬県東吾妻町 | 平成25年3月18日公布 | 平成25年4月1日施行 |
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東京都杉並区 | 平成25年3月5日公布 | 平成25年4月1日施行 |
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新潟県小千谷市 | 平成25年3月19日公布 | 平成25年4月1日施行 |
である。
〇 平成23年3月当時、杉並区は名寄市、南相馬市、東吾妻町及び小千谷市とそれぞれ個別に災害時相互援助協定を結んでいたが、南相馬市が東日本大震災により甚大な被害を受けたため、杉並区が他の3団体に呼びかけて、南相馬市に対して連携、協力して支援したことが契機となっている。平成23年4月に、南相馬市を含む5団体で「自治体スクラム支援会議」立ち上げ、継続して南相馬市に対する支援を行うこととし、平成24年2月には、今後発生しうる大規模災害に備えて市区町村が被災自治体に対して迅速かつ的確に相互支援を行うための条例を5団体で同時期に制定することを確認し、平成25年3月にすべての団体が制定したものである。
〇 5団体の条例の内容は、ほぼ同一の内容を有する。災害時における相互支援協定を締結する自治体の確保に努めること、災害発生時には協定先自治体に支援を要請すること、被災した協定先自治体からの要請に応じて支援(防災備蓄物資その他の物資の供与、防災資機材等の供与又は貸与、物資及び防災資機材等の輸送、災害応急対策等に従事する職員の派遣等)を行うこと、支援は他の協定先自治体と連携して行うこと、費用は被災した協定先自治体と協議のうえ負担すること、市区町民等が協定先自治体の被災者を支援する場合は必要な援助を行うこと等を規定している。
〇 これらの条例の制定経緯、内容等については、自治体法務研究2013年冬号CLOSEUP先進・ユニーク条例「杉並区災害時における相互支援に関する条例」が詳しく解説しているので、参照されたい。