消費生活条例
(令和6年11月29日更新)
【制定状況の概観】
〇 消費者庁は、毎年度「地方消費者行政の現況調査」を公表し、その中で、都道府県と指定都市の消費生活条例等の一覧を掲載している。令和5年12月1日時点で直近のものは、「令和2年度地方消費者行政の現況調査」中の「資料2 消費生活条例等の一覧(令和2年4月1日現在)」である(なお、「令和3年度地方消費者行政の現況調査」、「令和4年度地方消費者行政の現況調査」、「令和5年度地方消費者行政の現況調査」及び「令和6年度地方消費者行政の現況調査」は公表されているが、消費生活条例等に関する資料は掲載されていない)。
これによると、消費生活センター条例や消費者行政活性化基金条例等のセンターや基金の設置条例を除く「消費生活条例」は、令和2年4月1日現在、47都道府県のうち全団体で、20指定都市のうちさいたま市を除く19団体で、制定されていることになる。なお、消費者庁調査においては、「消費生活条例」の定義は特に示されていないが、本稿では、「消費生活条例」を、住民の消費生活の安定や向上を目的とし、自治体や事業者等の責務や役割を明らかにするとともに、消費者に関する施策等を規定する条例としてとらえることとする。
この消費者庁調査において、さいたま市は「さいたま市消費生活センター条例」のみを制定しているものとされている。しかし、調べてみると、「さいたま市消費生活条例」(平成18年3月23日公布・ 平成18年7月1日施行)が制定されており(なお、消費者庁の平成29年度調査までは消費生活条例等の中に掲載されていたが、平成30年度調査以降は掲載されていない)、指定都市でも全団体が「消費生活条例」を制定していることとなる。
〇 他方、消費者庁調査は、指定都市以外の市区町村の消費生活条例の制定状況は調査をしていない。令和6年11月1日時点で、インターネットで調べることができる範囲内では、指定都市以外の市区町村の消費生活条例として、以下の72条例が制定されていることを確認できる。なお、()内は制定年(公布日を基準)を表す。
北海道 | 旭川市民の消費生活を守り高める条例(昭和50年) 室蘭市消費生活条例(平成24年) |
青森県 | 青森市消費生活条例(平成19年) |
秋田県 | 秋田市消費生活条例(平成9年) |
山形県 | 山形市消費生活の安定及び向上に関する条例(平成17年) |
福島県 | 福島市民の消費生活を守る条例(平成18年) 郡山市民の消費生活を守る条例(平成10年) |
茨城県 | 水戸市消費生活条例(平成26年) 日立市民の消費生活を守る条例(昭和50年) 土浦市消費者安全条例(平成27年) |
栃木県 | 宇都宮市消費生活の安定及び向上に関する条例(平成18年) 足利市民の消費生活をまもる条例(昭和56年) |
埼玉県 | 狭山市消費者保護条例(昭和50年) 秩父市消費生活条例(平成27年) 草加市いきいき消費生活条例(平成19年) |
東京都 | 東京都台東区消費生活に関する条例(平成28年) 目黒区消費生活基本条例(平成17年) |
神奈川県 | 鎌倉市市民のくらしをまもる条例(昭和50年) |
長野県 | 長野市消費生活の安定及び向上に関する条例(平成11年) 松本市消費者保護条例(平成3年) |
岐阜県 | 高山市消費生活保護条例(昭和50年) |
滋賀県 | 大津市消費生活条例(平成21年) 野洲市くらし支えあい条例(平成28年) |
大阪府 | 吹田市消費生活条例(平成9年) 岸和田市消費者保護条例(昭和52年) |
奈良県 | 生駒市消費者保護条例(平成19年) |
兵庫県 | 姫路市消費生活条例(平成19年) |
鳥取県 | 米子市消費生活条例(平成17年) |
岡山県 | 倉敷市消費生活条例(平成14年) |
高知県 | 高知市民のくらしを守る条例(昭和50年) |
長崎県 | 長崎市消費生活条例(平成18年) |
熊本県 | 玉名市消費生活安心条例(令和2年) 玉東町消費生活安心条例(令和2年) 南関町消費生活安心条例(令和2年) |
大分県 | 大分市消費生活条例(平成18年) |
鹿児島県 | 鹿児島市消費生活条例(平成12年) |
東京都の台東区、三鷹市、府中市、東久留米市及び清瀬市の条例は、市(区)、事業者等の責務・役割や消費生活センター、市民会議等の設置に関する規定は置いているものの、消費者に関する施策については定めていないが、ここでは消費生活条例に含めている。また、北海道の斜里町(くらしの安全条例)、小清水町(くらしの安全条例)の条例は、消費者保護に関する町民、事業者及び町の責務のみを定めているが、消費生活条例に含めている(両条例は、交通安全止及び防犯も規定)。福岡県行橋市の条例は「消費生活条例」との名称であるが、内容的には消費生活センターの設置条例であるので、消費生活条例に含めていない。
〇 なお、土方健太郎・糸田厚史「地方自治体における消費者行政に関する条例の制定状況とその背景の分析」(消費者庁新未来創造戦略本部国際消費者政策研究センター 令和4年4月)は、消費者行政に関する条例の制定状況を調査分析している。その結果、「消費者基本法や消費者安全法に相当するような、消費者行政について広く定めた条例(消費生活条例)が137件、単独で消費生活センターの設置運営等に関して定めた条例が719件あった。そのほか、審議会等個別の施策にかかる条例が18件、消費者行政に係る基金について定めた条例が22件、住民のくらし安全等に関する条例が19件あった。」とし、「消費生活条例137件の 内訳は、47都道府県全て(徳島県は2条例を制定)、各市区町村は89自治体が制定した条例であった。」(同報告書1頁)としている。
【条例制定・改正の流れ】
〇 「消費者保護基本法」が昭和43年に制定され、「地方公共団体は、国の施策に準じて施策を講ずるとともに、当該地域の社会的、経済的状況に応じた消費者の保護に関する施策を策定し、及びこれを実施する責任を有する。」(3条)と規定し、自治体の消費者行政に関する事務が初めて法令上明文化された。
〇 消費生活に関する規定を置く条例が全国最初に制定されたのは、昭和47年8月制定の「神戸市民の環境をまもる条例」であるとされる。同条例は、危害防止のための事業者に対する勧告、危害を及ぼすおそれのある商品等の公表、危害防止基準・表示基準・包装基準の制定等の消費生活の保護に関する規定(82条~89条)を定めていた。また、昭和48年12月には「東久留米市消費生活保護条例」が制定された。消費生活に関する単独条例としては全国で最初とされるが、市、事業者及び消費者の責務及び市民会議等の設置に関する規定のみを置く、理念的な条例である。
〇 おりしも昭和48年10月の第4次中東戦争に端を発した石油ショックにより、昭和49年にかけて物価が急激に上昇し狂乱物価と呼ばれ、物不足や買占め騒動が発生した。これに対応するため、昭和49年2月に「東京都緊急生活防衛条例」が制定され、その後、他の都道府県や指定都市等でも生活物資の安定供給等のための条例が制定された。
〇 こうした状況等を踏まえ、神戸市は昭和49年5月に新たに「神戸市民のくらしをまもる条例」を制定した。消費者主権の確立を目的で明記したうえで、消費者の権利擁護の施策として、危害の防止及び広告・表示・包装の適正化を図るための事業者への行為規制、苦情処理体制の整備、訴訟援助等を規定し、併せて、生活安定対策の規定を盛り込んだ。「昭和30年代以降消費者問題にかかわる行政を消費者保護行政と呼び、消費者保護基本法を制定するなど、弱い立場の消費者を保護するという観点から行われていた行政を、消費者の権利の確立という観点から行おうとするものであり、基本的な発想の転換を示すものであった。」(正田彬・鈴木美雪「条例研究叢書4 消費生活関係条例」(学陽書房 昭和55年)59頁)とされる。
その後、昭和49年9月の兵庫県、10月の川崎市、神奈川県、11月の奈良県などをはじめとして、都道府県や指定都市等で相次いで消費生活に関する条例が制定された。名称としては、「消費者保護条例」とするものも多く、これらの条例は、「まだ、消費者保護の観点に立つものが多い」が、「程度の差はあれ、いずれも具体的な規定についてはこの神戸市の影響を受けている」(正田・鈴木著書59頁)とされる。
正田・鈴木著書によると、昭和54年3月末時点で、38都道府県、5指定都市、35市(指定都市を除く)で消費生活条例(理念的な条例(宣言条例)を含む)が制定されていた(62頁以下)とされる。昭和40年代末から昭和50年代前半にかけて、多くの団体で消費生活条例が制定されたことがわかる。
〇 「消費者保護基本法」は、平成16年6月に抜本的に改正され、「消費者基本法」となった。消費者の権利を規定するとともに、消費者の権利の尊重と自立の支援を消費者政策の柱に据え、自治体の施策として苦情処理及び紛争解決の促進を努力義務とした。同法は、「消費者の利益の擁護及び増進に関する総合的な施策・・・の推進は、・・・消費者の安全が確保され、商品及び役務について消費者の自主的かつ合理的な選択の機会が確保され、消費者に対し必要な情報及び教育の機会が提供され、消費者の意見が消費者政策に反映され、並びに消費者に被害が生じた場合には適切かつ迅速に救済されることが消費者の権利であることを尊重するとともに、消費者が自らの利益の擁護及び増進のため自主的かつ合理的に行動することができるよう消費者の自立を支援することを基本として行われなければならない。」(2条)を基本理念とし、「地方公共団体は、第2条の消費者の権利の尊重及びその自立の支援その他の基本理念にのっとり、国の施策に準じて施策を講ずるとともに、当該地域の社会的、経済的状況に応じた消費者政策を推進する責務を有する。」(4条)としている。
内閣府「地方自治体の消費生活に関する条例の概況調査」(平成18年3月)によると、平成18年2月現在で、消費者基本法の内容を踏まえて条例の制定・改正を行った自治体は、34都道府県、8指定都市、3市区町(指定都市を除く)とされている。また、内閣府「都道府県等の消費者行政の現況(平成21年2月)」によると、平成20年4月1日現在で、46都道府県、16指定都市、58市区(指定都市を除く)、3町村で消費生活条例が制定されているとされる。現在とほぼ同様の制定状況となる。なお、平成20年10月には長野県も消費生活条例を制定したので、その段階で全都道府県が制定したこととなる。
〇 平成21年6月に制定された「消費者安全法」は、苦情相談・あっせん、情報収集・提供等を都道府県及び市町村の事務として位置付けるとともに、消費生活センターの設置を都道府県に義務づけ、市町村に努力義務と規定し、平成26年6月の改正により、消費生活センターの組織及び運営等は条例で定めるものとした。また、他の消費者関係法令も制定、改正され、地方公共団体の事務に関連する規定が置かれ、又は改正されている。こうした法令の制定、改正等を踏まえ、各自治体の消費生活条例が改正されてきている。
【条例内容の全体概要】
〇 消費生活条例は、目的規定において、「消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力等の格差にかんがみ」、「消費者の権利の尊重及びその自立の支援」を基本理念とし、「自治体及び事業者の責務並びに消費者等の役割」を明らかにし、「消費者の利益の擁護及び増進に関する総合的な施策」を推進して、もって住民の「消費生活の安定及び向上」に資する旨を規定し、そのうえで、基本理念規定等において、消費者の権利を具体的に列挙するものが多い。現在では、ほとんどの都道府県と指定都市の条例は、このような規定を置いている。
消費者施策は、大きく、事業者に対する規制と消費者に対する支援に分かれる。事業者に対する規制として、危害の防止、規格・表示等の適正化、不当な取引行為の禁止、生活必需物資の安定供給の4分野を挙げることができ、その実効性確保のために、調査、立入検査、勧告、公表等の規定を置いている。また、消費者に対する支援としては、消費者教育と消費者団体の活動促進、相談と苦情処理、訴訟支援等の規定を置いている。知事や市長に対する措置の申出制度を定めているものや自治体に基本計画の策定を義務づけているものも多い。
審議会の設置規定を置いているものは多く、消費生活センターの設置規定を置いているものもある。
指定都市以外の市区町村では、都道府県や指定都市の条例と同様の内容を有するものもあるが、総則的な規定等のみを定めるものもあり、また、消費者施策については基本的な事項を中心に定めているものもある。
〇 なお、自治体法務研究は、2008年夏号で「安全な消費生活と自治体」を特集しているので、参照されたい。また、エシカル消費に関する条例については「エシカル消費に関する条例」を参照のこと。
〇 以下、消費生活条例の具体的な事例を個別に紹介する。
【東京都の条例】
〇 まず、東京都条例である。
東京都 | 平成6年10月6日公布 | 平成7年1月1日施行 |
〇 東京都は、昭和49年2月に制定した「東京都緊急生活防衛条例」を昭和50年10月に廃止したうえで、「東京都生活物資等の危害の防止、表示等の事業行為の適正化及び消費者被害救済に関する条例」を制定したが、平成6年10月に全部改正し、「東京都消費生活条例」とした。本条例は、その後、消費者問題に関する状況の変化や関係法令に改正等に伴い、平成27年3月までに5次にわたり改正がなされてきている。
総則(1章)、危害の防止(2章)、表示、包装及び計量の適正化(3章)、不適正な事業行為の是正等(4章)、消費者の被害の救済(5章)、情報の提供の推進(6章)、消費者教育の推進(7章)、消費生活に関する施策の総合的な推進(8章)、東京都消費生活対策審議会(9章)、調査、勧告、公表等(10章)、雑則(11章)、罰則(12章)の12章、55条から構成されている。
〇 目的規定(1条)で、6つの消費者の権利を規定している。昭和50年制定当時は、5つの権利を規定していたが、平成6年改正により、6つ目の「消費者教育を受ける権利」が追加された。また、都民は、消費者の権利が侵されている疑いがあるときは、知事に対し申し出て、適当な措置をとるべきことを求める申出制度が規定されている(8条)。危害の防止として、知事は、危険な商品やサービスに対して製造、販売の中止等を勧告するとともに、緊急の時は公表を行うことができる(12,13条)等とし、表示、包装及び計量の適正化として、事業者は知事が指定・設定した商品表示事項、サービス表示事項、保証表示事項、包装基準等を守らなければならない(15条~20条)としている。違反行為に対して立入調査、勧告、公表等の規定を置いている(46条~50条)。また、禁止の対象となる不適正な取引行為について、9項目を具体的に規定(25条)するとともに、特に重大不適正取引行為(25条の2)については、知事が禁止命令をすることができる(51条)とし、禁止命令違反行為に対しては5万円以下の過料に処する(54条)としている。知事に基本計画の策定を義務づけている(43条)。
〇 東京都条例の内容等については、東京都HP「東京都消費生活条例、施行規則、告示」を参照のこと。
【神戸市の条例】
〇 次に、神戸市条例である。
神戸市 | 平成17年4月1日公布 | 平成17年7月1日施行 |
〇 前述のとおり、神戸市が昭和49年5月に制定した「神戸市民のくらしをまもる条例」はその後制定された他の自治体の消費生活条例のモデルになったものであるが、平成17年4月に全部改正された。条例名は、同じである。
総則(1章)、消費者の権利保護(2章)、物価の安定(3章)、市民意見の反映(4章)、補則(5章)の5章、55条から構成されている。
〇 目的(1条)で「消費者主権」を明示し、基本理念(2条)で7つの消費者の権利を列挙している。市長に「消費者基本計画」の策定を義務づけている(9条)。消費者の権利保護(2章)については、事業者に対して欠陥商品等の提供、不当な取引行為、過大包装等を禁止し、商品等の成分、性能、用途、価格、事業者名、保証等の表示等を義務づけ、違反行為に対する指導,勧告、公表等の規定を置くとともに、苦情相談、あっせん、調停等の手続を定め、また、被害者に対する訴訟援助の規定を置いている。市民意見の反映(4章)として、消費者の市長への申出制度を定めるとともに、情報交換等の機会の提供や市民の合意の形成への支援に関して規定を置き、さらに市民の意見を反映させるため、神戸市消費生活会議及び神戸市消費者苦情処理審議会の2つの附属機関を置くこととしている。
〇 神戸市条例の内容等については、神戸市HP「神戸市民のくらしをまもる条例」を参照のこと。
【その他の自治体の条例】
〇 その他の自治体の条例をいくつか紹介する。
兵庫県 | 昭和49年9月26日公布 | 平成49年11月26日施行 |
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神奈川県 | 昭和55年3月31日公布 | 昭和55年7月1日施行 |
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千葉県 | 平成19年12年21日公布 | 平成20年6月1日施行 |
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川崎市 | 昭和49年10月8日公布 | 昭和49年12月25日施行 |
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埼玉県草加市 | 平成19年3月20日公布 | 平成19年10月1日施行 |
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東京都葛飾区 | 平成19年12月17日公布 | 平成20年4月1日施行 |
〇 兵庫県は、昭和49年5月に制定された神戸市条例に続き、同年9月に「消費者保護条例」を制定した。都道府県としては全国の最初の消費生活条例と見ることができる。平成17年4月1日改正施行により、条例名を「消費生活条例」としている。
総則(1章)、消費者の利益の擁護及び増進に関する施策(2章)、消費者等からの申出の処理(3章)、生活関連物資に関する措置(4章)、消費生活センター(5章)、雑則(6章)の6章、30条から構成されている。基本理念(2条)で9つの消費者の権利を列挙し、商品・役務に関する基準の設定と事業者の基準の適合義務(9、10条)、不当な取引行為の指定と禁止(11条、12条)、危害防止のための事業者に対する命令と周知(14条)、消費者の知事への申出制度(17条)、消費者訴訟の援助(21条)、消費生活センター(26条)、立入調査、公表(27条~29条)等を規定している。本条例の内容等については、兵庫県HP「消費生活条例」を参照のこと。
〇 神奈川県は、昭和49年10月に「神奈川県県民生活安定対策措置条例」を制定したが、同条例を廃止のうえ、昭和55年3月に「神奈川県消費生活条例」を制定した。
総則(1章)、消費者の権利の確立(2章)、被害の救済(3章)、知事への申出(4章)、神奈川県消費生活審議会(5章)、雑則(6章)の6章、33条から構成されている。目的(1条)で9つの消費者の権利を列挙し、知事に「推進指針」の策定を義務づけている(5条の5)。消費者の権利の確立(2章)として、危害の防止、表示等の適正化、取引行為の適正化、調査・公表等の規定を置いているが、本条例では特に、知事は事業者に対して安全性に疑いのある商品の立証要求を行うものとしている(6条)。また、3章、4章で、被害の救済の申出、あっせん、訴訟の援助、知事への申出等の規定を置いている。55年3月制定後、9次にわたり改正を行い、直近では平成30年7月1日改正施行により、訪問購入における不当な取引行為の規制対象への追加、消費者教育の推進に関する規定の新設等を行っている。本条例の内容等については、神奈川県HP「消費生活関係条例」を参照のこと。
〇 千葉県は、昭和50年10月に「千葉県消費者保護条例」を制定したが、同条例を廃止のうえ、平成19年12年に「千葉県消費生活の安定及び向上に関する条例」を制定した。
総則(1章)、消費生活の安定及び向上に関する施策(2章)、商品等の安全等に関する施策(3章)、苦情の処理及び被害の救済に関する施策(4章)、生活必需商品に関する措置(5章)、雑則(6章)の6章、40条から構成されている。基本理念(2条)で9つの消費者の権利を列挙し、知事に「基本計画」の策定を義務づけている(10条)。商品等の安全等に関する施策(3章)として、危害の防止、規格、表示、包装等の適正化、不当な取引行為の禁止等を規定し、苦情の処理及び被害の救済に関する施策(4章)として、あっせん、調停、訴訟の援助の規定を、雑則(6章)として、知事への申出、立入調査、公表等の規定を、それぞれ置いている。本条例の内容等については、自治体法務研究2008年夏号条例制定の事例CASESTUDY「千葉県消費生活の安定及び向上に関する条例」及び千葉県HP「千葉県消費生活の安定及び向上に関する条例」を参照のこと。
〇 川崎市条例は、昭和49年10月に制定された。その後、平成13年4月と平成17年9月に改正施行されている。
総則(1章)、消費者行政推進計画(2章)、基本的施策(3章)、消費者支援協定(4章)、施策推進のための行政体制の充実(5章)、勧告及び公表等(6章)、市長への申出(6章の2)、雑則(7章)の7章、30条から構成されている。基本理念(2条)で6つの消費者の権利を列挙し、市長に「消費者行政推進計画基本計画」の策定を義務づけている(6条)。基本的施策(3章)として、安全の確保、表示、計量等の適正化、不適正な取引行為の禁止、苦情の処理及び被害の救済等を規定しているが、本条例では特に、消費者の自立の支援及び物価の安定並びに良心的な経営に努める事業者の振興を図るため、市長は事業者又は事業団体との間に「消費者支援協定」を締結することができる(20条)としている。また、6章、6章の2で、勧告及び公表、市長への申出等の規定を置いている。
〇 草加市は、昭和53年3月に「草加市消費者保護条例」を制定したが、平成19年3月に全部改正し、「草加市いきいき消費生活条例」とした。
総則(1章)、消費者の権利支援(2章)、草加市消費生活審議会(3章)、調査、指導、勧告等(4章)の4章、35条から構成されている。3条で7つの消費者の権利を列挙している。消費者の権利支援(2章)として、安全の確保、表示の適正化、計量の適正化、包装等の適正化、保証、修理等の徹底等、不当な取引行為の禁止、消費生活協定の締結等、苦情の処理、消費生活センターの設置等を規定し、調査、指導、勧告等(4章)として、消費生活モニターの設置、市長に対する申出、立入調査、勧告及、公表等を規定している。「消費者訴訟援助については、検討の結果、財政的理由から見送りされた」(自治体法務研究2008年夏号条例制定の事例CASESTUDY「草加市いきいき消費生活条例」参照)としている。
〇 葛飾区は、平成19年12月に「葛飾区消費生活条例」を制定した。
総則(1章)、消費者への支援(2章)、消費者被害の防止(3章)、消費者被害の救済(4章)、葛飾区消費生活対策審議会(5章)、雑則(6章)の6章、28条から構成されている。基本理念(3条)で5つの消費者の権利を列挙している。事業者に対する規制は、不適正な取引行為の禁止(15条)のみを規定しているが、その内容は東京都消費生活条例の不適正な取引行為の禁止(東京都条例25条)と同一とし、違反行為者に対しては、7条(国等に対する措置要求等)に基づき、東京都等に改善の措置要求を行い、条例の実効性の確保を図っている(自治体法務研究2008年夏号条例制定の事例CASESTUDY「葛飾区消費生活条例」参照)としている。消費者への支援(2章)として、情報の収集・提供、成年後見制度の活用、消費者教育の推進、消費者団体の育成・支援等を規定し、消費者被害の救済(4章)として、区長に対する申出、あっせん、調停等、消費者訴訟の援助等を規定している。本条例の内容等については、前記自治体法務研究条例解説及び葛飾区HP「葛飾区消費生活条例・規則・基準」を参照のこと。
【野洲市の条例】
〇 最近制定された消費生活条例で注目すべきものを紹介する。まず、野洲市の条例である。
滋賀県野洲市 | 平成28年6月24日公布 | 平成28年10月1日施行 |
〇 野洲市条例は、平成28年6月に制定されたが、全国で初めて訪問販売事業者の登録制度を導入している。
総則(1章)、消費生活の安定及び向上並びに消費者安全の確保(2章)、生活困窮者等への支援等(3章)、雑則(4章)の4章、28条から構成されている。消費生活に関する事項(2章)のみならずと生活困窮者支援に関する事項(3章)についても規定している。また、近江商人の教えである「売り手よし、買い手よし、世間よし」の「三方よし」の精神を踏まえ、「三方よし経営」の促進を基本理念に盛り込んでいる(3条3号)。消費生活センターの設置及び運営に関する規定(6条)を置いている。
〇 訪問販売業者の登録については、訪問販売を「事業者等がその営業所等・・・以外の場所において、契約の申込みを受け、又は契約を締結して行う商品等の販売又は有償による提供」(2条2項3号)としたうえで、市の区域内における訪問販売は、市長の登録を受けた事業者でなければ、行ってはならない(9条)としている。登録事業者の商号、所在地、連絡先等は公表する(11条1項)こととし、登録の拒否要件は暴力団関係者でないこと等のみ(12条1項)としている。「登録の要件は非常に緩やかにしている」が、野洲市の登録制度の目的は、「事業者の質を担保すること」ではなく、「事業者の所在、野洲市の登録地や連絡先等を公表することで市民に対しどのような事業者が野洲市内で営業活動を行っているのか情報提供を行うとともに、市も把握することでトラブルが生じた際に市民や市が事業者と速やかに連絡を取ることができる体制を確保すること」であるからとしている(自治体法務研究2017年春号CLOSEUP先進・ユニーク条例「野洲市くらし支えあい条例」参照)。
〇 また、「処分等の求め」の規定を置いている。すなわち、「市長は、法その他の関係法律の規定に違反する事実がある場合において、その是正のためにされるべき処分又は行政指導・・・がされていないと思料するときは、行政手続法・・・第36条の3第1項の規定に基づき、当該処分をする権限を有する行政庁又は当該行政指導をする権限を有する行政機関に対し、その旨を申し出て、当該処分又は行政指導をすることを求めるものとする。」(22条1項)としている。他の自治体の消費生活条例に規定されている「不当な取引行為の禁止」規定を置かず、「処分等の求め」を置いたのは、小規模市町村において消費者行政担当職員はわずかで、違反行為の調査、認定、処分等を行うことは過大な負担であり、ノウハウもないため、法令による処分権限がある国や県に処分を求め、実効性の確保を図ることとした(前記自治体法務研究条例解説参照)としている。
〇 生活困窮者への支援として、支援調整会議及び市民生活総合支援推進委員会を設置する(25,26条)ほか、市、事業者及び自治組織は、「見守りネットワーク(要配慮市民等が安心して暮らすことができるよう見守るため、相互に連携を図りながら協力する組織)」を構築するよう努めなければならない(27条1項)としている。
〇 野洲市条例の内容等については、前記自治体法務研究条例解説及び野洲市HP「野洲市くらし支えあい条例について」を参照のこと。
【熊本県内4市町の条例】
〇 最近制定された消費生活条例で注目すべきものとして、次に、熊本県内4市町の条例を紹介する。
熊本県玉名市 | 令和2年6月30日公布 | 令和2年10月1日施行 |
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熊本県玉東町 | 令和2年6月12日公布 | 令和2年10月1日施行 |
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熊本県南関町 | 令和2年6月12日公布 | 令和2年10月1日施行 |
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熊本県和水町 | 令和2年6月12日公布 | 令和2年10月1日施行 |
〇 熊本県の玉名市、玉東町、和水町及び南関町の1市3町は、令和2年6月、同一内容を有する「消費生活安心条例」を共同で制定した。訪問販売に関する消費生活相談が多く寄せられており、玉名圏域定住自立圏形成協定に掲げる「消費生活に関する安心・安全」を確保するため、1市3町共同で制定した(玉名市HP「訪問販売お断りステッカーを作成しました」参照)としている。「自治体間共同で消費生活の条例を策定するのは、全国で初めての取り組み」(前記玉名市HP)であるとしている。
〇 「玉名市、玉東町、南関町及び和水町は、相互に連携を図りながら協力して、消費者施策を実施するものとする。」(5条)とし、1市3町が相互連携により消費者施策を実施することを明記している。9条から構成されている。
〇 訪問販売の制限を主たる内容としている。すなわち、訪問販売を「事業者等がその営業所等・・・以外の場所において、契約の申込みを受け、又は契約を締結して行う商品等の販売又は有償による提供」(2条1項3号)としたうえで、「事業者等は、訪問販売を行おうとするときは、その相手方に対し、勧誘を受ける意思があることを確認しなければならない。」(6条1項)とし、「事業者等は、住居等に張り紙その他の方法により、訪問販売に係る契約の締結をしない、及び締結の勧誘を受けない旨の意思を表示した消費者に対し、当該契約の締結について勧誘をしてはならない。」(6条2項)としている。市長(町長)は、違反行為に対してその旨公表することができる(6条3項)とし、また、事業者等に対して説明や資料の提出を求め(7条1項)、必要があるときは改善の要請を行う(8条1項)としている。
〇 本条例の施行を踏まえ、1市3町は共同で「訪問販売お断りステッカー」を作成し、配布している。「条例では、ステッカーを貼った住居への訪問販売を禁止」しており、「ステッカーを貼るだけで勧誘の規制ができることになります。」(前記玉名市HP)としている。
〇 「『地域で連携しなければ高齢者を消費者被害から守れない』―と、各自治体の消費者行政担当職員や消費生活相談員らが消費生活条例検討会を開催して、意見を交換しながら条文案を作成し、それぞれ自治体内の商工会や議会に働きかけて実現させていた。週に1日や2日しか相談員を雇用できない町では、相談員の処遇改善が困難で雇用継続が不安定な現状があることから、各自治体の主体性を維持したまま相談員を市に集約して派遣する方法などの検討も始まっている。全国初の画期的な取り組みとして注目される。」(日本消費経済新聞2312号(2020年10月25日発行))とされている。