多選禁止条例・多選自粛条例

(令和6年6月24日更新)

【首長の多選制限問題と条例制定の動き】

〇 自治体の首長の多選を制限すべきか否かという議論は、古くからある。知事等の多選を禁止する法案は、過去3回、国会に提出されている。すなわち、昭和29年5月提出の「公職選挙法の一部を改正する法律案」、昭和42年6月提出の「公職選挙法の一部を改正する法律案」及び平成7年2月提出の「地方自治法の一部を改正する法律案」である。いずれも、議員提案によるものであり、審議未了により廃案となっている。昭和29年法案は知事の連続3期を禁止、昭和42年法案は知事の連続4期を禁止、平成7年法案は知事及び指定都市市長の連続4期を禁止するものであった。

〇 その後、首長の多選問題は、地方分権の観点からも議論がなされた。地方分権推進委員会第2次勧告(平成9年7月8日)は、「首長の多選の見直し」について、「今後、地方分権の進展に伴い、地方公共団体の首長の権限・責任が相対的に増大する一方、首長選挙における投票率の低さ、無投票再選の多さ、各政党の相乗り傾向の増大は、首長の多選が原因の一端であるとして問題視する向きも多い。このため、首長の選出に制約を加えることの憲法上の可否を十分吟味した上で、地方公共団体の選択により多選の制限を可能とする方策を含めて幅広く検討する。」とし、これを受けて、政府は、地方分権推進計画(平成10年5月29日閣議決定)において「首長の多選の見直しについては、これまでの国会における論議の経緯や各界の意見等も踏まえ、首長の選出に制約を加えることの立法上の問題点や制限方式のあり方等について、幅広く研究を進めていく。」とした。

〇 平成11年に、旧自治省に「首長の多選の見直し問題に関する調査研究会」が設置され、平成11年7月に報告書が取りまとめられたが、立候補の自由との関係について必要最小限の制約は憲法上も立法政策上も十分考慮されてよいと考えられるとした。

〇 平成18年に、現職知事が相次いで収賄罪等で逮捕され、多選制限問題の議論が高まり、総務省に「首長の多選問題に関する調査研究会」が設置された。平成19年5月に報告書が取りまとめられたが、同報告書は「法律に根拠を有する地方公共団体の長の多選制限については、必ずしも憲法に反するものとは言えない」と結論づけた。条例との関係については「在任制限を制度化する場合には、法律にその根拠を置くことが憲法上必要」とし、また、法律に多選制限の根拠を置く場合には「法律によって一律に多選制限を行うこととするのか、あるいは、多選制限の是非や具体的内容を条例に委ねることとするのか、については、立法政策の問題であり、憲法上の問題は生じないと考えられる。」とした。同報告書及び関連資料については、総務省HP「首長の多選問題に関する調査研究会」を参照されたい。

〇 こうした中で、自治体において、多選禁止条例(首長の多選を禁止する条例)や多選自粛条例(条例で首長の多選の禁止を定めることは憲法上の疑義があるため、多選の自粛を努力義務として求める条例)を制定する動きが出てきた。平成9年に、秋田県知事が知事の多選禁止条例制定の意向を表明したが、憲法上疑義があるため、条例提出は断念したとされる。平成14年3月に東京都中野区が、11月に東京都杉並区が、12月に長野県が、それぞれ多選自粛条例案を議会に提案した。杉並区では、平成15年3月に条例が成立し、制定されたが、この杉並区の条例が全国最初の多選自粛条例となる。中野区及び長野県の条例は、継続審議のうえ、廃案となっている。杉並区に続いて、平成15年7月に川崎市、12月に大分県中津市及び神奈川県城山町で、多選自粛条例が制定された。

 神奈川県では、平成17年12月に多選自粛条例案を議会に提案して否決され、また、平成18年12月に多選禁止条例案を議会に提案して否決された。さらに、平成19年9月に多選禁止条例案を議会に提案して、同年10月に「別に条例で定める日から施行する」と修正されたうえで、可決された。施行日を定める条例は制定されておらず、これまで施行されていない。

〇 令和6年2月22日時点で、これまで、多選禁止条例は神奈川県で制定され、多選自粛条例は27自治体で制定されてきたことが確認できる。しかし、神奈川県条例は施行されておらず、27の多選自粛条例のうち、20条例は既に廃止され又は失効している。

 以下、これらの多選禁止条例や多選自粛条例を個別に見ていく。

 

【多選禁止条例】

〇 唯一の多選禁止条例である神奈川県の条例は、

神奈川県

神奈川県知事の在任の期数に関する条例

平成19年10月19日公布

別に条例で定める日から施行

である。

〇 2条から構成され、1条は目的、2条は在任の期数である。目的は「清新で活力のある県政の確保を図るとともに、知事の職に同一の者が長期にわたり在任することにより生じるおそれのある弊害を防止するため、知事の在任の期数について定め、もって民主政治の健全な発展に寄与すること」(1条)とし、在任の期数は「知事は、引き続き3期(各期における在任が4年に満たない場合も、これを1期とする。)を超えて在任することができない。」(2条1項)としている。連続4期以上の在任を禁止している。

 施行日については、知事提案の原案は「公布の日から施行する」としていたが、議会で「別に条例で定める日から施行する」(附則)と修正された。平成19年5月に出された前記総務省調査研究会報告書が「在任制限を制度化する場合には、法律にその根拠を置くことが憲法上必要」としたことを踏まえ、国の法改正を待ったうえで改めて施行日を条例で定めることとされたのであった。その後、首長の在任期間の制限を条例に委ねる法改正はなされておらず、施行日を定める条例は制定されていない。したがって、本条例も施行されていない。

 本条例の制定経緯等については、礒崎初仁「知事と権力」(東信堂平成29年10月)218頁以下が詳しい。

 

【多選自粛条例―現在施行中のもの】

〇 令和6年6月1日時点で施行されている多選自粛条例は、確認できるものとしては、以下のとおりである。

大分県中津市

中津市長の在任期間に関する

条例

平成15年12月22日公布

平成15年12月22日施行

連続3期超自粛

大阪府柏原市

柏原市長の在任期間に関する

条例

平成18年3月30日公布

平成18年3月30日施行

連続3期超自粛

横浜市

横浜市長の在任期間に関する

条例

平成19年9月28日公布

平成19年9月28日施行

連続3期超自粛

神奈川県藤沢市

藤沢市長の在任期間に関する

条例

平成20年6月30日公布

平成20年6月30日施行

連続3期超自粛

神奈川県松田町

松田町長の在任期間に関する

条例

平成26年3月19日公布

平成26年3月19日施行

施行時の町長に適用

連続3期超自粛

岩手県久慈市

久慈市長の在任期間に関する

条例

平成26年12月19日公布

平成26年12月19日施行

施行時の市長に適用

連続3期超自粛

徳島県

徳島県知事の在任期間に関する

条例

令和5年10月17日公布

令和5年10月17日施行

施行時の知事に適用

連続3期超自粛

〇 以上の条例は2条より構成され、1条は目的、2条は在任期間又は在任の期数となっている。

 目的は、条例によって少し異なるが、概ね、「市長(町長・知事)の職に同一の者が長期にわたり在任することにより生じるおそれのある弊害を防止するため」、「市長(町長・知事)の在任期間(在任の期数)を定め」、もって「清新で活力ある市(町・県)政運営を確保すること」としている。

 在任期間(在任の期数)は、基本的には、「市長(町長・知事)の職にある者は、その職に連続して3期(各任期における在任期間が4年に満たない場合もこれを1期とする。)を超えて在任しないよう努めるものとする。」(2条又は2条1項)としている。すなわち、連続4期以上在任しないことを努力義務としている。

 なお、久慈市条例は、「(各任期における在任期間が4年に満たない場合もこれを1任期とする)」との規定はない。

 また、中津市、横浜市、藤沢市及び徳島県の条例は、「市長(知事)の職の退職を申し出た者が当該退職の申立てがあったことにより告示された当該市長(町長・知事)の選挙において当選人となり引き続き在任することとなる場合においては、当該選挙の直前及び直後の任期を併せて1期とみなして前項の規定を適用する。」(2条2項)と規定し、任期途上で退職し、再度立候補し当選した場合は、前後の任期をあわせて1期とすることとしている。これは、公職選挙法259条の2が「地方公共団体の長の職の退職を申し出た者が当該退職の申立てがあつたことにより告示された地方公共団体の長の選挙において当選人となったときは、その者の任期については、当該退職の申立て及び当該退職の申立てがあつたことにより告示された選挙がなかつたものとみなして前条の規定を適用する。」としていることを踏まえた規定であると考えられる。

 附則については、中津市、柏原市、横浜市及び藤沢市の条例は「この条例は、公布の日から施行する。」とし、松田町、久慈市及び徳島県の条例は「この条例は、公布の日から施行し、同日に市長(町長・知事)の職にある者について適用する。」としている。前者が多選自粛を恒久的な制度として将来にわたり首長の職にあるものを対象としているのに対して、後者は条例制定時の首長のみを多選自粛の対象にしている。

〇 仮に3期12年だとすると、中津市、柏原市、横浜市及び藤沢市の条例は、条例施行後、令和6年2月22日時点では、既に12年を超えている。

 このうち、中津市、柏原市及び横浜市市は、これまでに市長が交代しており、3期を超えて在任している市長はいない。なお、横浜市は、条例制定後の2代目の市長が4期目の立候補をしたが、落選している。

 藤沢市は、条例制定後の2代目の市長が4期目の立候補をし、当選している。

〇 徳島県条例は、令和5年4月実施の選挙で新たに当選した知事により、令和5年10月に制定されている。

 

【多選自粛条例―廃止され又は失効したもの】

〇 多選自粛条例で、これまで制定されたものの現在は廃止され又は失効しているもので、確認できるものは、以下の通りである。

東京都杉並区

杉並区長の在任期間に関する条例

平成15年3月制定

平成22年12月廃止

施行前区長の任期は通算せず

通算3期超自粛

制定時区長が3期途中辞職

後任区長が廃止

川崎市

川崎市長の在任の期数に関する条例

平成15年7月制定

平成25年11月失効

施行時の市長に適用

連続3期超自粛

失効日到来により失効

神奈川県城山町

城山町長の在任の期数に関する条例

平成15年12月制定

平成19年3月失効

将来の町長も適用

連続3期超自粛

市町村合併に伴い失効

埼玉県

埼玉県知事の在任期間に関する条例

平成16年8月制定

令和元年12月廃止

施行時の知事に適用

連続3期超自粛

制定時知事4選目立候補当選

後任知事が廃止

神奈川県綾瀬市

綾瀬市長の在任期間に関する条例

平成17年3月制定

平成28年6月廃止

施行時の市長に適用

連続3期超自粛

制定時市長が廃止

4期目立候補せず

東京都中野区

中野区自治基本条例(7条)

平成17年3月制定

平成26年3月削除

将来の区長も適用

連続3期超自粛

制定時区長が削除

4選目立候補当選

埼玉県松伏町

松伏町長の在任期間に関する条例

平成17年9月制定

平成28年9月廃止

施行時の町長に適用

連続3期超自粛

制定時町長が廃止

4選目立候補落選

北海道釧路市

釧路市長の在任期間に関する条例

平成18年3月制定

令和2年3月廃止

将来の市長も適用

連続3期超自粛

後任市長が廃止

後任市長4選目立候補当選

東京都大田区

大田区長の在任期間に関する条例

平成18年3月制定

平成30年12月廃止

施行時の区長に適用

連続3期超自粛

制定時区長が廃止

4選目立候補当選

熊本県合志市

合志市長の在任期間に関する条例

平成19年3月制定

平成22年12月廃止

施行時の市長に適用

連続3期超自粛

市長選挙に伴い市長交代

後任市長が廃止

徳島市阿南市

阿南市長の在任期間に関する条例

平成19年6月制定

平成26年6月廃止

施行時の市長に適用

連続3期超自粛

議員提案により廃止

制定時市長4選立候補当選

神奈川県厚木市

厚木市長の在任の期数に関する条例

平成19年12月制定

令和4年12月廃止

将来の市長も適用

連続3期超自粛

制定時市長4選立候補当選

4期終了前に制定時市長により廃止

大阪府泉佐野市

泉佐野市長の在任期間に関する条例

平成20年3月制定

平成23年4月失効

施行時の市長に適用

連続3期超自粛

制定時市長が3期目途中辞職

実質的に失効

埼玉県大利根町

大利根町長の在任期間に関する条例

平成20年6月制定

平成22年3月失効

施行時の町長に適用

連続3期超自粛

市町村合併に伴い失効

神奈川県大和市

大和市長の在任期間に関する条例

平成20年9月制定

令和元年12月廃止

将来の市長も適用

通算3期超自粛

制定時市長4選立候補当選

選挙後議員提案により廃止

埼玉県川越市

川越市長の在任の期数に関する条例

平成21年6月制定

令和2年12月廃止

施行時の市長に適用

連続3期超自粛

制定時市長が廃止

4選目立候補当選

石川県白山市

白山市長の在任期間に関する条例

平成23年3月制定

令和2年12月廃止

将来の市長も適用

連続3期超自粛

市長選挙に伴い市長交代

後任市長が廃止

石川県金沢市

金沢市長の在任期間に関する条例

平成23年7月制定

令和4年2月失効

施行時の市長に適用

連続3期超自粛

制定時市長が3期目途中辞職

実質的に失効

徳島県石井町

石井町長の在任期間に関する条例

平成23年12月制定

令和4年12月廃止

将来の町長も適用

当初連続2期超自粛

連続3期超自粛

(平成27年3月改正)

制定時町長が3期目立候補落選

後任町長2期目に議員提案により廃止

山形県米沢市

米沢市長の在任期間に関する条例

平成28年3月制定

令和5年12月廃止

施行時の市長に適用

連続2期超自粛

制定時市長が廃止

3期目立候補せず

〇 上記条例の廃止又は失効の状況を見ると、失効したのは、川崎市、城山町、泉佐野市、大利根町及び金沢市の条例である。

 このうち、城山町条例(議員提案により制定)は、制定後4年目に旧城山町が相模原市に編入されたため、失効している。また、大利根町条例は、制定後2年目に旧大利根町が加須市等と合併し新たに「加須市」となったため、失効している。

 川崎市条例は、「この条例は、25年11月18日限り、その効力を失う。」(附則2項)とし、条例を制定した市長の3期目の任期満了日に失効するとしていた。条例は、改正されることなく、規定通り失効した。条例を制定した当時の市長は、4期目に立候補していない。

 泉佐野市条例及び金沢市条例は、附則で「この条例は、公布の日から施行し、同日に市長の職にある者について適用する。」と規定していたが、条例施行時に在職した市長は、いずれも3期目途中で辞職している。川崎市条例のように失効日は明示されていないが、今後適用されることはないため、実施的に失効しているものとみなすことができる。

〇 それ以外の条例は、廃止されている。

 このうち、綾瀬市、中野区、松伏町、大田区、阿南市及び川越市の条例は制定時の首長が3期目の任期途中時に廃止され(中野区条例は、関係規定が削除)、米沢市条例は制定時の市長が2期目の任期途中時に廃止されている。

 綾瀬市は、条例を制定した当時の市長は4選目に立候補していない。条例の規定通り連続3期を超えず、また、施行時の市長にのみ適用とされていたので、条例を制定した市長が3期目の任期満了までに提案して廃止した。

 米沢市は、条例を制定した当時の市長は3選目に立候補していない。条例の規定通り連続2期を超えず、また、施行時の市長にのみ適用とされていたので、条例を制定した市長が2期目の任期満了までに提案して廃止した。

 中野区、松伏町、大田区、阿南市及び川越市は、条例を制定した当時の首長が4期目に立候補し、松伏町以外の首長は当選している。結果的に、多選自粛条例の趣旨が生かされていないこととなる。なお、阿南市条例は、議員提案により廃止されている。中野区長及び阿南市長は、5期目も立候補したが、落選している。

〇 埼玉県、厚木市及び大和市の条例は、条例が廃止されず、施行されたまま、条例を制定した当時の首長が4期目に立候補して、当選している。努力義務とはいえ、多選自粛条例の規定が守られていないこととなる。

 埼玉県条例は後任の知事により廃止されている。また、厚木市条例は市長4期終了前に市長提案により廃止され、大和市条例は市長4期目任期中に議員提案により廃止されている。厚木市及び大和市の条例は、将来にわたり首長の職にあるものを対象としていた。

〇 釧路市条例は、条例を制定した市長が2期目途中で辞任し、後任市長の3期目の任期途中時に廃止されている。釧路市条例は、将来にわたり首長の職にあるものを対象としていた。後任市長は、4期目に立候補し、当選している。

〇 杉並区、合志市及び白山市の条例は、条例を制定した首長の後任首長により廃止されている。このうち、杉並区は、条例を制定した区長が3期目途中で辞職し、合志市及び白山市は、条例を制定した市長が2期目の選挙で落選している。

〇 石井町条例は、条例を制定した町長の後任町長2期目に議員提案により廃止されている。石井町は、条例を制定した町長が、平成27年に条例を改正して自粛の対象を「連続2期超」から「連続3期超」とし、3期目に立候補したが落選している。

〇 なお、中野区条例以外の条例は単独条例であり、このうち川崎市、城山町及び川越市の条例は「在任の期数に関する条例」であり、これ以外は「在任期間に関する条例」となっている。

 中野区は、平成17年3月制定の自治基本条例において「活力ある区政運営を実現するため、区長の職にある者は、連続して3期(各任期における在任期間が4年に満たない場合もこれを1期とする。)を超えて在任しないよう努めるものとする。前項の規定は、立候補の自由を妨げるものと解釈してはならない。」(7条2項、3項)との規定を置いていた。




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