雪と冬の条例
(令和6年12月12日更新)
〇 本稿では、雪と冬に関連する条例を取り上げる。
【山形県の条例】
〇 雪と冬に関連する条例のうち、比較的最近に制定されたのは、
山形県 | 平成30年12月25日公布 | 平成30年12月25日施行 |
である。
〇 平成28年11月に設置された「いきいき雪国やまがた県民会議」において、「降雪に伴い、雪に対するマイナスイメージが強い中で、雪をプラスに考えて、雪の利活用・観光資源も含めて、官民が一体的に取組みを進めていくのが大切」、「海外において、山形は、『雪の名所』として認識されており、冬のインバウンド(訪日外国人旅行)に強みがある。『冬場観光』という山形の強みを理解して、国外に売り込んでいく必要がある」、「企業にとっても、雪と関わることがコストではなく、付加価値に変えていく必要がある。雪の付加価値をビジネスの利益や企業のイメージアップにつなげる取り組みが大切」などの意見が出されている。本条例は、そうした意見なども踏まえて、平成30年12月に制定された。
〇 前文で、「山形県は、・・・全国でも有数の豪雪地帯となっている。冬の間、私たちは、除排雪や屋根の雪下ろしを繰り返しながら、生活を営み、様々な経済活動を続けてきた。本県の先人は、この雪国の暮らしや経済活動の厳しさの克服に向け、雪害救済運動を立ち上げ、全国的に展開し、自助、共助及び公助により、雪国やまがたにおける生活や経済の基礎的条件の改善に努めてきた。」とするとともに、「雪の多様な恵みは、雪国ならではの優れた文化を育み、人々の交流を促し、本県が誇る農業やものづくり、生活を支えてきた。」として、これまでの雪対策の取組みと雪の恵みを述べたうえで、「近年、地球規模の気候変動等による短期集中的な降雪とこれに伴う被害の甚大化、高齢化を伴う人口減少などによる地域における除排雪活動の変容など、従来の枠組みを超える課題が顕著になっている。一方で、雪国の特性を活いかした国内外との交流の拡大や、雪国での快適な暮らしを実現するための新しい技術の開発、普及などの取組を、一層推進していく必要がある。」と近年の雪を巡る情勢の変化と新たな動きを示し、「全ての県民が安全に安心してこの地に住み続け、雪を優れた資源として利活用して、国内外からの多くの人々との交流、新しい価値が生み出されるいきいき雪国やまがたの実現に向けて、県、市町村、事業者及び県民が一体となって取り組んでいくことを決意し、この条例を制定する。」としている。
〇 総則(1章)、雪に関する基本的施策(2章)、推進体制(3章)の3章、35条から構成されている。
総則において、基本理念(2条)を定め、県の責務(3条)並びに市町村、事業者及び県民の役割(4条~6条)等を規定するとともに、知事に雪対策に関する基本計画及び行動計画の策定を義務づけている(9条)。基本理念(2条)では、雪害の防止及び除排雪の推進のみならず、雪によって培われてきた特色ある文化の尊重と雪に親しむ意識の醸成、雪の利活用による産業振興と地域活性化、技術イノベーションによる冬期間の快適な生活の実現等を掲げているが、この基本理念を踏まえて、雪に関する基本的施策として、雪に強い県づくり(10条~20条)、豪雪災害対策(21,22条)、地域における除排雪の推進(23条~27条)、雪を活用した地域活性化(28条~33条)に関する具体的な施策を規定し、雪に関する施策を総合的、かつ、包括的に推進することとしている。
〇 本条例の内容等については、山形県HP「いきいき雪国やまがた基本条例(平成30年12月25日公布・施行)」を、また、条例を踏まえた施策等については、山形県HP「いきいき雪国やまがた」を参照されたい。
【富山県及び新潟県の条例】
〇 山形県より前に都道府県で雪に関する総合的な条例を制定しているのは、
富山県 | 昭和60年3月26日公布 | 昭和60年9月1日施行 |
である。
「56、59豪雪をきっかけに、昭和60年3月に、道府県では初めて制定された」(富山県HP「富山県総合雪対策条例」)総合的な雪対策条例である。その後、都道府県において制定された総合的な雪対策条例は、30年以上後に制定された山形県条例ということになる。
本条例は、「雪対策は、県、市町村及び県民が一体となって、雪害のないまちづくりを推進する等雪による県民生活及び事業活動への障害を除去するための施策、雪を資源として活用する等雪を積極的に利用するための施策並びに雪に関する文化活動を促進する等雪と人との密接なかかわりの中でつくられる雪の文化を振興するための施策を長期的かつ総合的に推進することにより、すべての県民がいきいきと活動できる環境を創造し、富山県の新たな発展を目指す」ことを基本理念(2条)としている。
総則(1章)、総合雪対策計画(2章)、雪害のないまちづくり(3章)、産業の雪害防止等(4章)、雪の利用の促進等(5章)、雪の文化の振興等(6章)、財政措置等(7章)の7章、37条から構成されている。このうち、雪害のないまちづくりとして、生活環境等の整備、交通及び情報通信の確保、除排雪の推進及び雪災害対策に関する諸施策を規定している。
県は、総合雪対策計画として、基本計画及び実施計画を定める(9条)とともに、富山県総合雪対策推進会議を置く(37条)としている。また、別に条例で定めるところにより、雪対策を推進するための基金を設置する(36条)ものとしている。この規定に基づき、「富山県総合雪対策基金条例」が制定されている。
〇 新潟県は、屋根雪対策に特化した条例を平成24年に制定している。すなわち、
新潟県 | 平成24年10月12日公布 | 平成24年10月12日施行 |
である。
「平成22年度の豪雪により、新潟県内では死傷者数が316名に達し、その8割が雪下ろし等の除雪作業中に発生したものでした。この豪雪による被害を契機に、積雪期に住宅の屋根雪下ろしを行わなくてもよい環境を整備し、県民の皆様が安心して暮らすことのできる地域社会を実現するため、平成24年10月12日に、屋根雪対策に特化した条例としては『全国初』の『新潟県住宅の屋根雪対策条例』が制定されました。」(新潟県HP「新潟県住宅の屋根雪対策条例」)としている。
本条例は、12条から構成されている。
住宅の屋根雪対策は、県民及び所有者等が自主的かつ主体的に行うものであるという認識の下に県、市町村、県民、所有者等及び事業者が相互に連携し、及び協力することにより、行われること」及び「住宅の屋根雪対策は、住宅の屋根雪下ろしが転落等の危険を伴う作業であり、安全を確保する必要があるものであるという認識の下に行われること」を基本理念(3条)として定め、県の責務(4条)並びに県民、所有者等及び事業者の役割(5条~7条)を明らかにしたうえで、克雪住宅の普及(9条)、住宅の屋根雪下ろしを行う際の安全確保(10条)、所有者等による空き家の屋根雪下ろし等に関する取組(11条)等について規定している。
【市町村の条例】
〇 次に、市町村における雪と冬に関連する条例を紹介する。令和6年12月1日時点で施行されているものとして確認できるものは、以下のとおりである。
新潟県妙高市 | 昭和52年10月1日公布 | 昭和52年10月1日施行 |
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長野県飯山市 | 昭和55年10月4日公布 | 昭和55年10月4日施行 |
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長野県野沢温泉村 | 昭和56年10月2日公布 | 昭和56年10月2日施行 |
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新潟県小千谷市 | 昭和57年3月30日公布 | 昭和57年3月30日施行 |
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山形県尾花沢市 | 昭和59年9月29日公布 | 昭和60年4月1日施行 |
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北海道余市町 | 昭和60年8月27日公布 | 昭和60年8月27日施行 |
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長野県栄村 | 昭和62年9月21日公布 | 昭和62年9月21日施行 |
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北海道石狩市 | 平成10年12月15日公布 | 平成10年12月15日施行 |
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北海道倶知安町 | 平成14年6月24日公布 | 平成14年6月24日施行 |
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北海道美深町 | 平成16年3月25日公布 | 平成16年4月1日施行 |
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新潟県阿賀野市 | 平成16年4月1日公布 | 平成16年4月1日施行 |
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富山県砺波市 | 平成16年11月1日公布 | 平成16年11月1日施行 |
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新潟県魚沼市 | 平成16年11月1日公布 | 平成16年11月1日施行 |
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青森県青森市 | 平成17年4月1日公布 | 平成17年4月1日施行 |
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新潟県十日町市 | 平成17年4月1日公布 | 平成17年4月1日施行 |
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秋田県横手市 | 平成17年10月1日公布 | 平成17年10月1日施行 |
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福井県越前市 | 平成17年10月1日公布 | 平成17年10月1日施行 |
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新潟県五泉市 | 平成18年1月1日公布 | 平成18年1月1日施行 |
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北海道名寄市 | 平成18年9月15日公布 | 平成18年9月15日施行 |
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新潟県柏崎市 | 平成23年9月21日公布 | 平成23年11月1日施行 |
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青森県十和田市 | 平成25年9月30日公布 | 平成25年12月1日施行 |
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秋田県大仙市 | 平成29年3月22日公布 | 平成29年10月1日施行 |
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北海道旭川市 | 令和5年9月15日公布 | 令和5年9月15日施行 |
〇 地域的には、北海道、青森県、秋田県、山形県、新潟県、富山県、福井県及び長野県における豪雪、極寒地域の市町村である。
〇 制定時期としては、昭和50年代と平成10年代が多いが、平成10年代後半に制定された条例は、北海道の市町村を除き、すべて市町村合併により新たに市町村が設置された日に制定されている。合併前の市町村では昭和50年代に条例が制定されているものと考えられ、本州の市町村の条例は、そのほとんどが昭和50年代に制定されているものと考えられる。
〇 条例の名称は、そのほとんどが「雪」に関するものである。「冬」に関するものは飯山市、野沢温泉村、余市町、石狩市及び名寄市の条例だけとなっているが、この5市町村のうち名寄市以外は内容的には「雪」に関するものとなっている。
〇 条例の内容としては、除雪や雪の処理を中心とするものと、総合的な取り組みを推進しようとするものがある。
〇 妙高市、飯山市、野沢温泉村、小千谷市、尾花沢市、余市町、美深町、阿賀野市、魚沼市、青森市、十日町市、五泉市、十和田市、大仙市及び旭川市の条例は、除雪や雪の処理を中心とするものである。
このうち、妙高市、飯山市、野沢温泉村、小千谷市、尾花沢市、余市町、阿賀野市、魚沼市、青森市、十日町市及び五泉市の条例は、除雪や雪処理に関する市町村及び市町村民の責務等を定めるとともに、市町村長は雪処理の勧告や排雪の禁止をすることができる旨の規定等を置いている。
例えば、妙高市条例は、市は「効率的な除雪体制の確立に努めるとともに、総合的な除雪計画を作成し、その的確かつ円滑な実施を推進するよう努めなければならない。」(2条2項)等、市民は「町内会等地域の自治組織織を通じ相互に協力し、地域の実情に応じて自主的な除雪対策を実施するよう努めなければならない。」(3条2項)、「雪処理にあたっては、特に次のことを守らなければならない。(1)道路における交通を妨害しないよう適切な措置を講ずること。(2)河川、流雪溝、用水路等・・・の流水に支障を及ぼさないよう適切な措置を講ずること。」(3条3項)等とし、市長は「除雪道路・・・に雪が人為的に放置され、著しく道路交通の妨害となるおそれがあると認めるとき、又は河川等への排雪方法が適切でないため河川等の流水に支障を及ぼすおそれがあると認めるときは、その雪の処理について責任がある者に対し、必要な措置をとるよう勧告することができる。」(4条1項)及び「排雪により道路、河川等において前項に規定する障害のおそれがあると認めるときは、必要に応じて関係機関と協議し、区域及び日時を定め、道路、河川等への排雪を禁止することができる。」(4条2項)としている。
十和田市及び大仙市の条例は、それぞれ平成25年、平成29年に制定されている。十和田市条例は、市、市民及び除雪業者の役割を定めるとともに、市民の遵守事項及び市長の指導の規定を置くほか、市長による除雪計画の策定と十和田市除雪対策検討委員会の設置について規定している。大仙市条例は、「社会経済情勢の変化に伴い、市だけでは冬期間の除雪等の雪対策を進めていくことが困難となっている現状に鑑み・・・雪対策における協働によるまちづくりを進め」る(1条)こととし、市の責務並びに市民、自治会等及び事業者の役割について規定している。
旭川市条例は、令和5年に制定されている。市の責務、市民及び事業者の役割を定めるとともに、市民及び事業者の遵守事項、市長の指導及び勧告、関係機関の連携、財政上の措置について規定している。条例制定の背景・目的として、「旭川市では、1回の除雪作業で走行する距離は2千キロメートル以上にもなるため、通勤や通学など市民生活に支障が出ないよう、交通量の少ない夜中から朝方にかけて、雪を道路脇にかき分ける方法で作業を行っています。また、除雪作業により狭くなった道路幅を改善するための排雪作業では、多い年では東京ドーム6.5個分の約800万立方メートルもの雪を河川敷などの雪堆積場に運んでいます。除排雪作業の実施による速やかな道路交通網の確保をはじめ、雪対策は、快適な市民生活や、円滑な経済活動を営む上で欠かせない重要なものです。」としたうえで、「近年は、除雪車両を運転するオペレータの担い手不足、急な暖気など気象状況の変化への対応など、除排雪事業を取り巻く環境が厳しさを増しています。加えて、道路への雪出し等雪処理に係るルールやマナーの対策強化、多様化する市民ニーズへの対応など、雪に関する数多くの課題も生じています。」とし、そのため「雪対策に関する施策の基本となる事項を定めることにより、雪処理のルールの遵守及びマナーへの意識を高め、雪対策に協働して取り組み、誰もが安心して暮らすことができる冬期の生活環境の確保に寄与することを目的に、条例を制定しました。」(旭川市HP「旭川市雪対策基本条例の制定」)としている。
なお、美深町条例は、融雪施設の設置やダンプによる自主排雪に対する助成事業を規定している。
また、十日町市条例は、市町村合併により十日町市が設立された日(平成17年4月1日)に公布・施行されている。合併前の十日町市は十日町市雪処理に関する条例(昭和56年制定)を、中里村は中里村雪国はつらつ条例(昭和63年制定)を制定していたが、これらの条例は合併により失効している。なお、「中里村雪国はつらつ条例」は、平成14年に中学校公民教科書に「中里町」の「雪国はつらいよ条例」と誤って印刷され発行されたことから、当時中里村の克雪の取組みも含めて話題を呼んだとされる(ウィキペディア(Wikipedia)「中里村雪国はつらつ条例」参照)。
〇 栄村、倶知安町、砺波市、横手市、越前市、名寄市及び柏崎市の条例は、総合的な取り組みを推進しようとするものである。
このうち、栄村、倶知安町、砺波市及び越前市の条例は、総合的な雪対策に関する計画の策定と協議会、委員会、対策会議等の設置を規定している。併せて、倶知安町条例は、町による除雪計画の策定や除雪対策の実施、町民の遵守事項及び町長による指導等についても規定している。
横手市条例は、前文で「克雪のまちづくりを進めるとともに、雪国で明るく元気な市民性の創造と、行政、市民及び事業所がお互いに協力し、マナーを守って雪となかよく暮らすことのできるまちを目指します。」としたうえで、「雪と共生し、及び共存するまちづくり」(2条本文)を進めるうえでの市、市民及び事業者の役割を規定している。例えば、市の役割として、冬の道路交通の確保、除雪を考えたまちづくり、雪に強い住まいの普及、除雪のできない高齢者などに対するボランティア活動の支援、雪を考えるタウンミーティングの開催、雪国の歴史や文化、遊び、交流を通した子どもたちの教育、雪国の伝統行事や冬のスポーツ及びレクリエーションの振興、雪国にふさわしい衣服や食などの文化の振興・発信、資源としての雪の積極的な活用等の取組みの推進を掲げている。併せて、市民委員会を設置することとしている。
名寄市条例は、「雪」のみならず「寒さ」の冬を楽しく暮らすため、「市と市民が互いに協力し、一体となって冬に強いまちづくりをすすめ、快適な市民生活と、雪や寒さを活かして、冬の生活をより暮らしやすく、楽しいものにすること」(1条)を目的とし、この目的を達成するための市の責務と市民の役割を規定している。例えば、市の役割として、冬の快適な生活空間の確保、冬に強い住宅の普及、北国の冬を楽しく、暖かくすごす衣生活の普及、冬の環境を活かした豊かで楽しい食文化の普及、スキー、カーリング等の冬のスポーツ・レクリエーション・イベントの振興、名寄らしい冬の生活文化の創造及び雪や寒さを活かした産業の振興の取組みの推進を掲げている。併せて、利雪親雪推進市民委員会を設置することとしている。
柏崎市条例は、平成23年の制定されている。市は、雪に関する総合的な施策を市民及び事業者と連携して推進することとし、基本計画を策定することとしている。併せて、雪処理に関する市民等の遵守事項及び市長の勧告についても規定している。柏崎市条例については、自治体法務研究2012年夏号CLOSEUP先進・ユニーク条例「「柏崎市雪に強いまちづくり条例」について」を参照のこと。
〇 石狩市条例は、冬期迷惑駐車等の防止を目的としている。冬期迷惑駐車等の防止に関して市、市民及び事業者の責務を定めるとともに、冬期迷惑駐車等防止モデル町内会の指定や冬期迷惑駐車等防止協力員の登録等について規定している。
〇 なお、まちづくり基本条例等において、雪や冬に関するまちづくりについて規定しているものがある。例えば、
新潟県十日町市 | 平成26年10月1日公布 | 平成27年4月1日施行 |
である。
同条例は、取り組むべきまちづくりの一つとして「雪とともに生きるまちづくり」(8章3節)を掲げ、「市民、市議会及び行政は、雪との共生と克雪を図り、安心して暮らせるまちづくりに努めるものとする。」(23条)、「市民、市議会及び行政は、雪を自然の恵みとして生かすとともに、雪の魅力を発信して観光の振興に努めるものとする。」(24条)、「市民、市議会及び行政は、雪国文化を継承し、その保護に努めるものとする。」(25条)と規定している。