誹謗中傷に関する条例

                                                   (令和3年2月25日作成)

【群馬県の条例】

〇 群馬県は、インターネット上の誹謗中傷等による被害者の支援等について、

群馬県

群馬県インターネット上の誹謗中傷等の被害者支援等に関する条例

令和2年12月22日公布

令和2年12月22日施行

 を制定した。広くインターネット上の誹謗中傷等に対する被害者の支援を定めるものとしては、全国最初の条例である。

〇 前文において、「社会全体のゲームチェンジャーとなったインターネットにも光と闇がある。例えば、匿名性や不特定多数性等、その特性に由来する誤った情報や嫌がらせによる風評被害、悪口等を言いふらし他人の名誉や感情を傷つける誹謗(ひぼう)中傷、プライバシー侵害等が安易に行われ、いじめの温床となる等の問題が世界各地で深刻化している。」とし、「今こそ、表現の自由に配慮しつつ、県民をインターネットの負の側面から守るための必要な対策を講じていく必要がある。」としたうえで、「インターネット上で発信された情報により傷つけられた被害者への支援に関する基本的施策を明らかにし、展開することにより、県民が被害者にも加害者にもなることなく、自由かつ活発に情報を収集し、発信することができる社会、すなわち、誰もがインターネットの恩恵を享受できる、安全で安心な社会を実現することを目指し、この条例を制定する。」としている。

〇 目的(1条)、定義(2条)、県の責務(3条)、県民の役割(4条)、連携協力(5条)、基本的施策(6条)、相談体制(7条)、インターネットリテラシーの向上(8条)、県民の理解の増進(9条)、財政上の措置(10条)の10条から構成されている。

〇 「誹謗中傷等」を「インターネット上において、誹謗中傷、プライバシーの侵害等当該者の権利を侵害する情報(以下この項において「侵害情報」という。)、侵害情報に該当する可能性のある情報又は侵害情報には該当しないが当該者に著しい心理的、身体的若しくは経済的な負担を強いる情報を発信すること」、「被害者」を「誹謗中傷等により平穏な日常生活又は経済活動等を害された者」、「行為者」を「被害者を発生させた者」、「インターネットリテラシー」を「インターネットの利便性、危険性及び基本的なマナーを理解して、正しく情報を取捨選択し、適正な情報を発信し、及びインターネット上のトラブルを回避してインターネットを正しく活用する能力」と定義づけている(2条)。

〇 本条例は、インターネット上の誹謗中傷等を県民に対して禁止することを明文化はせず、その被害者の支援等に関する施策を推進することを規定している。

  県の責務(3条)及び県民の役割(4条)を定め、県が取り組む基本的施策として、@ 被害者の心理的負担の軽減を含めた相談体制の整備、A 県民の年齢、立場等に応じたインターネットリテラシーの向上に資する施策、B その他被害者を支援するための施策及び行為者を発生させないための施策を掲げた(6条)うえで、相談体制の整備(7条)、インターネットリテラシーの向上(8条)等について具体的な規定を置いている。

〇 本条例の内容等については、群馬県HP「インターネット上の誹謗中傷等の被害者支援等に関する条例」及び自治体法務研究2021年春号CLOSEUP先進・ユニーク条例「群馬県インターネット上の誹謗中傷等の被害者支援等に関する条例」を参照されたい。

〇 インターネット上の誹謗中傷への対応については、総務省は、令和2年9月に「インターネット上の誹謗中傷への対応に関する政策パッケージ」を公表している。また、プロバイダ責任制限法における発信者情報開示のあり方等について検討を行うため、令和2年4月に「発信者情報開示の在り方に関する研究会」を設置し、令和2年12月22日 に「発信者情報開示の在り方に関する研究会 最終とりまとめ」を公表している。なお、この問題に関する総務省の対応については、総務省HP「インターネット上の誹謗中傷への対策」を参照されたい。

 

【その他の誹謗中傷に関する条例】

〇 まず、日本語として、「誹謗」は「そしること。悪口を言うこと。」、「中傷」は「無実のことを言って他人の名誉を傷つけること。」、「誹謗中傷」は「根拠のない悪口を言い、相手を傷つけること。」をいう(いずれも「広辞苑第7版」)。誹謗中傷の4文字のうち、「誹」と「謗」は常用漢字ではない。

〇 法律において「誹謗中傷」という言葉が使われているのは、E−GOV法令検索で検索する限りでは、令和2年12月9日現在、わずか1件が該当するだけである。すなわち、「選挙に関しインターネット等を利用する者は、公職の候補者に対して悪質な誹謗中傷をする等表現の自由を濫用して選挙の公正を害することがないよう、インターネット等の適正な利用に努めなければならない。」(公職選挙法142条の7)のみである。この規定は、インターネット選挙運動解禁に係る「公職選挙法の一部を改正する法律」(平成25年4月26日公布・平成25年5月26日施行)により、追加されている。

  「誹謗中傷」という言葉は、この平成25年制定の「公職選挙法の一部を改正する法律」より以前は、法令用語として使われてこなかったと言える。なお、同法は議員立法により制定されている。また、誹と謗は常用漢字ではないため、同法では「誹謗」の文字の上に「ひぼう」と振り仮名が付されている(内閣法制局「法令における漢字使用等について」1(5)ア参照)。

〇 自治体の条例においても、「誹謗中傷」が使われているのは少ない。インターネットで検索しても、60数件の条例が該当するだけとなっている。誹謗中傷を使っている条例の種類としては、政治倫理条例、職員倫理条例(コンプライアンス条例、公益通報条例等を含む)、犯罪被害者等支援条例、ヘイトスピーチに関する条例、新型コロナウイルスに関する条例などである。以下、それらについて、具体例を見ることとする。

〇 まず、政治倫理条例においては、政治倫理基準において人を誹謗中傷する言動等を禁止する規定を置いている例がある。例えば、

愛知県岡崎市

岡崎市議会議員政治倫理条例

平成28年9月26日公布

平成28年10月26日施行

 は、「差別的な取扱い又は言動、虐待、性的な言動、名誉又は社会的信用を低下させる目的でその者を誹謗中傷する言動その他の人権侵害のおそれのある行為をしないこと。」(4条1項2号)と規定している。なお、政治倫理条例については、「政治倫理条例」を参照されたい。

〇 次に、職員倫理条例(コンプライアンス条例、公益通報条例等を含む)においては、職員に対する不当要求行為として職員を誹謗中傷するビラ等の配布を規定する例がある。例えば、

兵庫県丹波市

丹波市法令遵守の推進等に関する条例

平成29年3月13日公布

平成29年5月1日施行

 は、「職員への嫌がらせの電話、誹謗中傷するビラ等の配布、自宅周辺での迷惑行為その他プライバシーを侵害し、又は不当な圧力を与える行為」(2条11号キ)と規定している。なお、職員倫理条例等については、「職員倫理、コンプライアンス、公益通報等に関する条例」を参照されたい。

〇 犯罪被害者等支援条例においては、二次的被害に関して規定を置いている例がある。例えば、

大分県中津市

中津市犯罪被害者等支援条例

平成30年3月30日公布

平成30年4月1日施行

 は、「犯罪等による直接的な被害を受けた後に、周囲の無理解や心ない言動、インターネットを通じて行われる誹謗中傷、報道機関による過剰な取材等により、犯罪被害者等が受ける精神的な苦痛、身体の不調、私生活の平穏の侵害、経済的な損失等の被害をいう」(2条3号)と規定している。なお、犯罪被害者等支援条例については、「犯罪被害者支援に関する条例」を参照されたい。

〇 ヘイトスピーチに関する条例については、ヘイトスピーチの定義に関して規定を置いている例がある。例えば、

大阪市

大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例

平成28年1月18日公布

平成28年1月18日施行

 は、「特定人等を相当程度侮蔑し又は誹謗中傷するものであること」(2条1項(2)ア)と規定している。なお、ヘイトスピーチに関する条例については「ヘイトスピーチに関する条例」を参照されたい。

〇 新型コロナウイルスに関する条例においては、感染者等に対する不当な差別的取扱いや誹謗中傷を禁止する規定を置いている例が多い。例えば、

千葉県流山市

流山市新型コロナウイルス感染症対策条例

令和2年6月19日公布

令和2年6月19日施行

 は、「市民等は、新型コロナウイルス感染症にり患していること、又はり患している恐れがあること等を理由に、不当な差別的扱いや誹謗中傷を行ってはならない。」(5条3項)と規定している。

〇 また、同じく新型コロナウイルスに関する条例として、

和歌山県

和歌山県新型コロナウイルス感染症に係る誹謗中傷等

対策に関する条例

令和2年12月24日公布

令和2年12月24日施行

 は、条例名を「誹謗中傷等対策に関する条例」とし、「新型コロナウイルス感染症に係る誹謗中傷等が行われていることを踏まえ、・・・新型コロナウイルス感染症に係る誹謗中傷等をなくすために必要な事項を定めることにより、新型コロナウイルス感染症に係る誹謗中傷等が行われない社会を実現すること」(1条)を目的としている。

  新型コロナウイルス感染症に係る誹謗中傷等を「インターネットを通じて」または「発言、落書き、張り紙その他」の方法により行うことを禁止(3条)し、そのうえで、県は、誹謗中傷等を行った者に対して「必要な説示をする」とともに、誹謗中傷等を行わないことやインターネット上に投稿された情報を削除することを「促」し(8条1、2項)、これに従わない場合は「勧告する」する(8条3,4項)等としている。また、特定電気通信役務提供者は、インターネット上において誹謗中傷等が行われていることを確認したときは、当該情報の送信を防止する措置を行う(7条3項)ものとしている。

  なお、新型コロナウイルスに関する条例については「新型コロナウイルスに関する条例」を参照されたい。




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