誹謗中傷に関する条例

(令和4年5月20日更新)

【群馬県の条例】

〇 群馬県は、令和2年12月に、インターネット上の誹謗中傷等による被害者の支援等について、

群馬県

群馬県インターネット上の誹謗中傷等の被害者支援等

に関する条例

令和2年12月22日公布

令和2年12月22日施行

を制定した。広くインターネット上の誹謗中傷等に対する被害者の支援を定めるものとしては、全国最初の条例である。

〇 前文において、「社会全体のゲームチェンジャーとなったインターネットにも光と闇がある。例えば、匿名性や不特定多数性等、その特性に由来する誤った情報や嫌がらせによる風評被害、悪口等を言いふらし他人の名誉や感情を傷つける誹謗(ひぼう)中傷、プライバシー侵害等が安易に行われ、いじめの温床となる等の問題が世界各地で深刻化している。」とし、「今こそ、表現の自由に配慮しつつ、県民をインターネットの負の側面から守るための必要な対策を講じていく必要がある。」としたうえで、「インターネット上で発信された情報により傷つけられた被害者への支援に関する基本的施策を明らかにし、展開することにより、県民が被害者にも加害者にもなることなく、自由かつ活発に情報を収集し、発信することができる社会、すなわち、誰もがインターネットの恩恵を享受できる、安全で安心な社会を実現することを目指し、この条例を制定する。」としている。

〇 目的(1条)、定義(2条)、県の責務(3条)、県民の役割(4条)、連携協力(5条)、基本的施策(6条)、相談体制(7条)、インターネットリテラシーの向上(8条)、県民の理解の増進(9条)、財政上の措置(10条)の10条から構成されている。

〇 「誹謗中傷等」を「インターネット上において、誹謗中傷、プライバシーの侵害等当該者の権利を侵害する情報(以下この項において「侵害情報」という。)、侵害情報に該当する可能性のある情報又は侵害情報には該当しないが当該者に著しい心理的、身体的若しくは経済的な負担を強いる情報を発信すること」、「被害者」を「誹謗中傷等により平穏な日常生活又は経済活動等を害された者」、「行為者」を「被害者を発生させた者」、「インターネットリテラシー」を「インターネットの利便性、危険性及び基本的なマナーを理解して、正しく情報を取捨選択し、適正な情報を発信し、及びインターネット上のトラブルを回避してインターネットを正しく活用する能力」と定義づけている(2条)。

〇 本条例は、インターネット上の誹謗中傷等を県民に対して禁止することを明文化はせず、その被害者の支援等に関する施策を推進することを規定している。

 県の責務(3条)及び県民の役割(4条)を定め、県が取り組む基本的施策として、① 被害者の心理的負担の軽減を含めた相談体制の整備、② 県民の年齢、立場等に応じたインターネットリテラシーの向上に資する施策、③ その他被害者を支援するための施策及び行為者を発生させないための施策を掲げた(6条)うえで、相談体制の整備(7条)、インターネットリテラシーの向上(8条)等について具体的な規定を置いている。

〇 本条例の内容等については、群馬県HP「インターネット上の誹謗中傷等の被害者支援等に関する条例」及び自治体法務研究2021年春号CLOSEUP先進・ユニーク条例「群馬県インターネット上の誹謗中傷等の被害者支援等に関する条例」を参照されたい。

〇 インターネット上の誹謗中傷への対応については、総務省は、令和2年9月に「インターネット上の誹謗中傷への対応に関する政策パッケージ」を公表している。また、プロバイダ責任制限法における発信者情報開示のあり方等について検討を行うため、令和2年4月に「発信者情報開示の在り方に関する研究会」を設置し、令和2年12月22日 に「発信者情報開示の在り方に関する研究会 最終とりまとめ」を公表している。

 令和3年4月28日に特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律が一部改正され(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の一部を改正する法律(令和3年4月28日公布、施行は公布の日から1年6月を超えない範囲以内において政令で定める日))、インターネット上の誹謗中傷などによる権利侵害についてより円滑に被害者救済を図るため、発信者情報開示について新たな裁判手続(非訟手続)を創設するなどの制度的見直しが行われることとなった。改正法の内容等については、総務省HP「新規制定・改正法令・告示 法律」中の「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の一部を改正する法律」を参照されたい。

 インターネット上の誹謗中傷問題に対する総務省の対応については、総務省HP「インターネット上の誹謗中傷への対策」を参照されたい。

 

【群馬県条例に続いて、インターネット上の誹謗中傷等の防止について規定する条例】

〇 群馬県条例に続いて、インターネット上の誹謗中傷等の防止について規定する条例としては、次のようなものがある。

大阪府大東市

大東市インターネット上の誹謗中傷等の防止及び

被害者支援に関する条例

令和3年3月23日公布

令和3年4月1日施行

群馬県渋川市

渋川市インターネット上の誹謗中傷等の防止及び

被害者支援に関する条例

令和4年3月9日公布

令和4年4月1日施行

愛知県

愛知県人権尊重の社会づくり条例

令和4年3月25日公布

令和4年4月1日施行

広島県大崎上島町

大崎上島町インターネット上の誹謗中傷等の防止

及び被害者支援に関する条例

令和4年3月28日公布

令和4年4月1日施行

大阪府

大阪府インターネット上の誹謗中傷や差別等の

人権侵害のない社会づくり条例

令和4年3月29日公布

令和4年4月1日施行

東京都江戸川区

江戸川区インターネット健全利用促進条例

令和4年4月1日公布

令和4年4月1日施行

三重県

差別を解消し、人権が尊重される三重をつくる条例

令和4年5月19日公布

平成4年5月19日施行

〇 大東市条例は、議員提案により制定され、「インターネット上の誹謗中傷等の防止及び被害者支援に関して、市の責務並びに市民及び議会の役割を明らかにするとともに、これらの施策の基本となる事項を定めることにより、これを推進すること」(1条)を目的としている。

 目的(1条)、定義(2条)、市の責務(3条)、市民の役割(4条)、議会の役割(5条)、連携協力(6条)、基本的施策(7条)、インターネットリテラシーの向上(8条)、相談支援体制(9条)、市民の理解の増進(10条)の10条から構成されているが、群馬県条例とほぼ同様の内容を有している。議会の役割に関する規定(5条)を置いている。

 本条例の内容等については、大東市HP「大東市インターネット上の誹謗中傷等の防止及び被害者支援に関する条例が施行されました」を参照されたい。

〇 渋川市条例は、「インターネット上の誹謗中傷等の防止及び被害者の支援に関して、市の責務及び市民等の役割を明らかにするとともに、施策の基本となる事項を定めることにより、これを推進すること」(1条)を目的としている。

 目的(1条)、定義(2条)、市の責務(3条)、市民等の役割(4条)、連携協力(5条)、基本的施策(6条)、インターネットリテラシーの向上(7条)、相談支援体制(8条)、市民の理解の増進(9条)、財政上の措置(10条)及び委任(11条)の11条から構成されているが、群馬県条例及び大東市条例とほぼ同様の内容を有している。

 本条例の内容等については、渋川市HP「渋川市インターネット上の誹謗中傷等の防止及び被害者支援に関する条例を制定しました」を参照されたい。

〇 愛知県条例は、人権尊重の社会づくりに関する条例であるが、インターネットを利用して情報を発信する者の表現の自由を不当に侵害しないように留意しつつ、インターネット上の誹謗中傷等(インターネットを利用した情報の発信で、誹謗中傷、プライバシーの侵害その他の人権を侵害すること)を未然に防止するために必要な教育、啓発その他の施策や被害者の支援を図るために必要な施策その他の施策を講ずる旨規定している(7条)。

〇 大崎上島町条例は、議員提案により制定され、「インターネット上の誹謗中傷等の防止及び被害者支援に関して、町の責務並びに町民及び議会の役割を明らかにするとともに、これらの施策の基本となる事項を定めることにより、これを推進する」(1条)を目的としている。

 目的(1条)、定義(2条)、町の責務(3条)、町民の役割(4条)、議会の役割(5条)、基本的施策(6条)の6条から構成されている。

〇 大阪府条例は、議員提案により制定され、「インターネット上の誹謗中傷等の人権侵害を防止し、府民の誰もが加害者にも被害者にもならないよう、府の責務及び府民の役割を明らかにするとともに、府の施策の基本となる事項を定めることにより、これを推進すること」(1条)を目的としている。

 目的(1条)、定義(2条)、府の責務(3条)、議会の責務(4条)、府民の役割(5条)、連携協力(6条)、基本的施策(7条)、インターネットリテラシーの向上(8条)、被害者の相談支援体制(9条)、行為者等の相談支援体制(10条)、府民への啓発(11条)、財政上の措置(12条)の10条から構成されている。相談支援体制について、被害者と行為者等に分けて規定を置いている(9条及び10条)。

 本条例の内容等については、大阪府HP「インターネット上の人権問題について」を参照されたい。

〇 江戸川区条例は、議員提案により制定され、「インターネットにおいて特定個人の権利が侵害される情報(以下「権利侵害情報」という。)が多く流通している状況に鑑み、江戸川区(・・・)が、インターネットの利用に関する啓発、教育、相談等の施策を総合的に実施することにより、インターネットの健全利用を促進し、もって、江戸川区民(・・・)の権利の擁護に資すること」(1条)を目的とする。

 目的(1条)、基本理念(2条)、区の責務(3条)、区民の責務(4条)、事業者の責務(5条)、委任(6条)の6条から構成されている。

 誹謗中傷との用語は使用していないが、区民の責務として「インターネットにおいて情報を流通過程に置くときは、他人の権利を侵害しないよう努めなければならない。」(4条1項)等と規定し、また、区の責務として「区民のインターネットリテラシーの向上を図るとともに、健全利用の促進及び権利侵害情報の流通によって自己の権利を侵害された区民の支援をするための施策を策定し、及び実施する責務を有する。」(3条1項)と規定している。

〇 三重県県条例は、人権尊重の社会づくりに関する条例であるが、「人権侵害行為」を「不当な差別、いじめ、虐待、プライバシーの侵害、誹謗中傷その他の他人の権利利益を侵害する行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)」(2条3号)と定義づけたうえで、インターネットを通じて行われる人権侵害行為を防止するため、特定電気通信役務提供者の責務(8条)を規定するとともに、県はモニタリング、インターネット上での人権啓発、インターネットの適切な利用に関するリテラシーの向上を図るための教育及び啓発その他の必要な措置を講ずる(23条)としている(13条)。

 

【その他の誹謗中傷に関する条例】

〇 まず、日本語として、「誹謗」は「そしること。悪口を言うこと。」、「中傷」は「無実のことを言って他人の名誉を傷つけること。」、「誹謗中傷」は「根拠のない悪口を言い、相手を傷つけること。」をいう(いずれも「広辞苑第7版」)。誹謗中傷の4文字のうち、「誹」と「謗」は常用漢字ではない。

〇 法律において「誹謗中傷」という言葉が使われているのは、E-GOV法令検索で検索する限りでは、令和2年12月9日現在、わずか1件が該当するだけである。すなわち、「選挙に関しインターネット等を利用する者は、公職の候補者に対して悪質な誹謗中傷をする等表現の自由を濫用して選挙の公正を害することがないよう、インターネット等の適正な利用に努めなければならない。」(公職選挙法142条の7)のみである。この規定は、インターネット選挙運動解禁に係る「公職選挙法の一部を改正する法律」(平成25年4月26日公布・平成25年5月26日施行)により、追加されている。

 「誹謗中傷」という言葉は、この平成25年制定の「公職選挙法の一部を改正する法律」より以前は、法令用語として使われてこなかったと言える。なお、同法は議員立法により制定されている。また、誹と謗は常用漢字ではないため、同法では「誹謗」の文字の上に「ひぼう」と振り仮名が付されている(内閣法制局「法令における漢字使用等について」1(5)ア参照)。

〇 自治体の条例においても、「誹謗中傷」が使われているのは少ない。インターネットで検索しても、60数件の条例が該当するだけとなっている。誹謗中傷を使っている条例の種類としては、政治倫理条例、職員倫理条例(コンプライアンス条例、公益通報条例等を含む)、犯罪被害者等支援条例、ヘイトスピーチに関する条例、新型コロナウイルスに関する条例、部落差別解消や人権尊重に関する条例などである。以下、それらについて、具体例を見ることとする。

〇 まず、政治倫理条例においては、政治倫理基準において人を誹謗中傷する言動等を禁止する規定を置いている例がある。例えば、

愛知県岡崎市

岡崎市議会議員政治倫理条例

平成28年9月26日公布

平成28年10月26日施行

は、「差別的な取扱い又は言動、虐待、性的な言動、名誉又は社会的信用を低下させる目的でその者を誹謗中傷する言動その他の人権侵害のおそれのある行為をしないこと。」(4条1項2号)と規定している。なお、政治倫理条例については、「政治倫理条例」を参照されたい。

〇 次に、職員倫理条例(コンプライアンス条例、公益通報条例等を含む)においては、職員に対する不当要求行為として職員を誹謗中傷するビラ等の配布を規定する例がある。例えば、

兵庫県丹波市

丹波市法令遵守の推進等に関する条例

平成29年3月13日公布

平成29年5月1日施行

は、「職員への嫌がらせの電話、誹謗中傷するビラ等の配布、自宅周辺での迷惑行為その他プライバシーを侵害し、又は不当な圧力を与える行為」(2条11号キ)と規定している。なお、職員倫理条例等については、「職員倫理、コンプライアンス、公益通報等に関する条例」を参照されたい。

〇 犯罪被害者等支援条例においては、二次的被害に関して規定を置いている例がある。例えば、

大分県中津市

中津市犯罪被害者等支援条例

平成30年3月30日公布

平成30年4月1日施行

は、「犯罪等による直接的な被害を受けた後に、周囲の無理解や心ない言動、インターネットを通じて行われる誹謗中傷、報道機関による過剰な取材等により、犯罪被害者等が受ける精神的な苦痛、身体の不調、私生活の平穏の侵害、経済的な損失等の被害をいう」(2条3号)と規定している。なお、犯罪被害者等支援条例については、「犯罪被害者支援に関する条例」を参照されたい。

〇 ヘイトスピーチに関する条例については、ヘイトスピーチの定義に関して規定を置いている例がある。例えば、

大阪市

大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例

平成28年1月18日公布

平成28年1月18日施行

は、「特定人等を相当程度侮蔑し又は誹謗中傷するものであること」(2条1項(2)ア)と規定している。なお、ヘイトスピーチに関する条例については「ヘイトスピーチに関する条例」を参照されたい。

〇 新型コロナウイルスに関する条例においては、感染者等に対する不当な差別的取扱いや誹謗中傷を禁止する規定を置いている例が多い。例えば、

千葉県流山市

流山市新型コロナウイルス感染症対策条例

令和2年6月19日公布

令和2年6月19日施行

は、「市民等は、新型コロナウイルス感染症にり患していること、又はり患している恐れがあること等を理由に、不当な差別的扱いや誹謗中傷を行ってはならない。」(5条3項)と規定している。

 また、同じく新型コロナウイルスに関する条例として、

和歌山県

和歌山県新型コロナウイルス感染症に係る誹謗中傷等

対策に関する条例

令和2年12月24日公布

令和2年12月24日施行

は、条例名を「誹謗中傷等対策に関する条例」とし、「新型コロナウイルス感染症に係る誹謗中傷等が行われていることを踏まえ、・・・新型コロナウイルス感染症に係る誹謗中傷等をなくすために必要な事項を定めることにより、新型コロナウイルス感染症に係る誹謗中傷等が行われない社会を実現すること」(1条)を目的としている。

 新型コロナウイルス感染症に係る誹謗中傷等をインターネットを通じてまたは発言、落書き、張り紙その他の方法により行うことを禁止(3条)し、そのうえで、県は、誹謗中傷等を行った者に対して必要な説示をするとともに、誹謗中傷等を行わないことやインターネット上に投稿された情報を削除することを促し(8条1、2項)、これに従わない場合は勧告する(8条3,4項)等としている。また、特定電気通信役務提供者は、インターネット上において誹謗中傷等が行われていることを確認したときは、当該情報の送信を防止する措置を行う(7条3項)ものとしている。

 なお、新型コロナウイルスに関する条例については「新型コロナウイルスに関する条例」を参照されたい。

〇 部落差別解消や人権尊重に関する条例では、

和歌山県湯浅町

湯浅町部落差別をなくす条例

平成31年4月1日公布

平成31年10月1日施行

が、「差別行為」を「誤解や偏見に起因する個人若しくは不特定多数又は被差別部落等を対象とした言動、落書き等の部落差別と見なされる誹謗中傷行為、就職又は結婚等を理由とする被差別部落の調査及びその他これらに類する行為」と定義づけている(2条5号)。

 また、

鳥取県

鳥取県人権尊重の社会づくり条例

平成8年7月9日公布

平成8年8月1日施行

令和3年4月1日改正施行

は、禁止される「差別行為」の一つとして「誹謗中傷、著しく拒絶的な対応、不当な差別的言動その他の心理的外傷を与える行為」を規定している(7条1項1号)。なお、こうした行為はインターネットを通じて行う行為を含む(7条1項本文)とされている。



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