食育・朝ごはんに関する条例
(令和7年1月27日更新)
【食育に関する条例】
〇 食育基本法が、平成17年に議員立法により制定された(平成17年6月17日公布・同年7月15日施行)。食育基本法では、「食育」の定義規定は置いていないが、前文では、「食育」を「生きる上での基本であって、知育、徳育及び体育の基礎となるべきものと位置付ける」とするとともに、「様々な経験を通じて『食』に関する知識と『食』を選択する力を習得し、健全な食生活を実践することができる人間を育てる」食育を推進することが求められているとしている。
もともと「食育」という言葉は、明治31年に初版された石塚左玄著「食物養生法」に「学童を養育する人々は、その家訓を厳しくして、体育、智育、才育はすべて食育にあると考えるべき」と記述され、また、明治36年には村井弦斎が新聞連載小説「食道楽」の中で「小児には徳育よりも、智育よりも、体育よりも、食育が先。体育、徳育の根源も食育にある。」と書いていることが起源とされる。我が国の国政レベルでは、平成13年から14年にかけて食品に関する様々な問題が発生したことにより、食の安全・安心、食生活の重要性等について国民の関心が高まり、「食育」に関して議論がなされるようになった。平成14年11月には、自由民主党の政務調査会に「食育調査会」が設置され、平成15年9月26日の小泉総理の第157回国会所信表明演説では「知育、徳育、体育に加え、心身の健康に重要な食生活の大切さを教える『食育』を推進します。」との表明がなされた。食育基本法案が、議員立法により平成16年3月に国会に提出され、平成17年6月に成立した。
食育基本法は、食育に関して、基本理念(2条~8条)、国、地方公共団体、教育関係者、農林漁業者、国民等の責務(9条~13条)等を定めるとともに、基本的施策として、家庭、学校、保育所等における食育の推進、地域における食生活の改善のための取組の推進、食育推進運動の展開、生産者と消費者との交流の促進、環境と調和のとれた農林漁業の活性化等を規定している(19条~25条)。併せて、国に「食育推進基本計画」の策定を義務づけ(16条)、都道府県と市町村に「食育推進計画」の策定についての努力義務を課し(17条、18条)、また、農林水産省に「食育推進会議」を置く(26条)とするとともに、都道府県と市町村は条例で「食育推進会議」を置くことができる(32条、33条)としている。
政府における食育の取組みについては、農林水産省HP「食育の推進」を参照されたい。
〇 こうした食育に関する関心の高まりや食育基本法の制定を踏まえ、独自に食育基本条例や食育の推進に関する単独条例を制定する自治体がある。また、食の安全・安心に関する条例、地産地消に関する条例、食のまちづくりに関する条例、こどもに関する条例、健康づくりに関する条例等で何らかの形で食育の推進について規定する自治体は多い。なお。食育基本法に基づき、令和6年3月末時点で、「食育推進計画」は全都道府県及び1572市町村で作成されている(農林水産省HP「都道府県・市町村における食育推進計画について」)。
これらの条例のうち、食育基本条例や食育の推進に関する単独条例を、制定順に示すと以下の通りである(制定年は、いずれも公布された年)。
(都道府県)
平成17年 | 岐阜県食育基本条例 |
平成18年 | (兵庫県)食の安全安心と食育に関する条例 広島県食育基本条例 |
平成27年 | 大分県食育推進条例 |
(市町村)
平成17年 | (高知県)南国市食育のまちづくり条例 (島根県)出雲市食育のまちづくり条例 |
平成18年 | (新潟県)上越市食育推進条例 (福岡県)うきは市食と農と健康を結ぶ食育推進条例 |
平成19年 | 新潟市食育推進条例 (福岡県筑後市)ちっごの生命をつなぐ食育条例 |
平成20年 | (鹿児島県)曽於市食育まちづくり推進基本条例 (福岡県)上毛町食育のまちづくり条例 |
平成21年 | (新潟県)三条市食育の推進と農業の振興に関する条例 (静岡県)三島市食育基本条例 |
平成22年 | (福岡県)柳川市食育推進条例 |
平成23年 | (福岡県)福津市食育推進条例 (富山県)滑川市食育推進条例 |
平成25年 | (東京都)小金井市食育推進基本条例 (岐阜県)輪之内町食育推進条例 (三重県)名張市ばりばり食育条例 |
平成26年 | (新潟県)長岡市食育基本条例 |
平成27年 | (埼玉県)富士見市みんなで取り組む食育推進条例 |
平成28年 | (秋田県)小坂町地産地消及び食育の推進に関する条例 |
令和元年 | (鹿児島県)徳之島町地産地消及び食育の推進に関する条例 |
令和3年 | (栃木県)那須塩原市食育推進条例 (長野県池田町)あづみ野池田いきいき食育条例 |
令和4年 | (北海道)帯広市食育推進条例 |
令和6年 | (京都府)「野菜のまち」久御山町食育推進条例 |
〇 これら条例は、そのほとんどは、食育に関する基本理念(基本方針)を掲げ、自治体、教育関係者、農林漁業者、住民等の責務・役割を定めるとともに、基本的施策を規定し、併せて推進計画(基本計画)の策定及び推進会議の設置を定めている。基本的施策は、条例によって異なるが、家庭、職場及び地域社会における食育の推進、学校、保育所等における食育の推進、生産者と消費者との交流の促進、食文化の継承の推進、地産地消の促進等を規定するものが多い。
都道府県条例のうち、兵庫県及び岡山県の条例は食育と食の安全・安心の両方を目的とし、市町村条例のうち、宮古市、小山市及び小坂町の条例は食育と地産地消の両方を、三条市条例は食育と農業の振興の両方を、それぞれ目的としている。
以上の条例のうち、いくつかの条例を紹介する。
岐阜県 | 平成17年12月15日公布 | 平成18年4月1日施行 |
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広島県 | 平成18年10月16日公布 | 平成18年10月16日施行 |
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大分県 | 平成27年12月24日公布 | 平成28年4月1日施行 |
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高知県南国市 | 平成17年12月22日公布 | 平成17年12月22日施行 |
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新潟市 | 平成19年3月26日公布 | 平成19年4月1日施行 |
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岐阜県輪之内町 | 平成25年3月21日公布 | 平成25年3月21日施行 |
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三重県名張市 | 平成25年10月2日公布 | 平成26年4月1日施行 |
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栃木県那須塩原市 | 令和3年3月1日公布 | 令和3年4月1日施行 |
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長野県池田町 | 令和3年9月22日公布 | 令和3年9月22日施行 |
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北海道帯広市 | 令和4年12月16日公布 | 令和5年4月1日施行 |
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京都府久御山町 | 令和6年12月25日公布 | 令和6年12月25日施行 |
【朝ごはん条例】
〇 食育に関連する条例として、いわゆる「朝ごはん条例」が制定されている。以下のような条例である。
青森県鶴田町 | 平成16年3月22日公布 | 平成16年4月1日施行 |
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石川県宝達志水町 | 平成17年3月1日公布 | 平成17年3月1日施行 |
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福島県湯川村 | 平成26年12月24日公布 | 平成27年1月1日施行 |
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茨城県茨城町 | 平成26年12月25日公布 | 平成26年12月25日施行 |
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北海道日高町 | 平成28年2月1日公布 | 平成28年4月1日施行 |
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山形県真室川町 | 平成29年6月26日公布 | 平成29年6月26日施行 |
〇 これらの条例のうち、最初に制定されたのが鶴田町条例である。本条例は、「町民、関係機関及び関係団体と一体となって朝ごはん運動を推進する」(2条)としている。
鶴田町が「朝ごはん運動」に取り組んだきっかけは、「町の平均寿命が男性74.5歳と全国ワースト10で、女性が全国平均0.5歳低い84.1歳であることから、この平均寿命を全国平均まで引き上げることをねらいとして、平成12年に『鶴の里 健康長寿の町』を宣言し、町民総参加の健康づくり運動を展開」したことにあり、「平成13年には、3歳から14歳までの全児童約1900人を対象に食生活状況調査を実施した結果、11.4%の子供が朝食をとっておらず、また、7割以上が夜食を食べ肥満など身体不調原因となっていることや、夜10時以降に就寝する子供が28.2%と食と生活習慣が乱れている実態が浮き彫りとなり」、このため、子供たちに「日々正しい食習慣を身につけさせたい。」と取り組んだのが「朝ごはん運動」である(全国町村会HP「青森県鶴田町/朝ごはん条例で健康長寿のまちづくり」)としている。
条例では「朝ごはん運動」の定義規定は特に置いていないが、2条で、朝ごはん運動は①ごはんを中心とした食生活の改善、②早寝、早起き運動の推進、③安全及び安心な農産物の供給、④地産地消の推進、⑤食育推進の強化、⑥米文化の継承の6項目を基本方針として推進することとしている。単に朝ごはんを食べるというだけではなく、幅広い概念と考えられる。
町に「朝ごはん運動推進本部」を設置し(3条1項)、推進本部は上記①から⑥までの基本方針に係る「ガイドライン」の策定(3条5項1号、4条)、実施計画の策定及び進行管理(3条5項2号、3号)等を行うとしている。また、町長、関係機関、関係団体、保護者及び町民の責務(5条~9条)を定めている。
鶴田町の朝ごはん運動の取組みの状況については、鶴田町HP「朝ごはん運動」を参照されたい。
なお、鶴田町も発起人の一員となって、平成18年4月に「『早寝早起き朝ごはん』全国協議会」が設立され、「早寝早起き朝ごはん」運動が展開されている。
〇 宝達志水町条例は、ほぼ鶴田町条例と同様の内容となっている。
湯川町条例は、「村民がこぞって朝ごはんに湯川村産米を食べることによって、米の消費拡大に寄与し、さらには、村民の健康増進を目的とする」(1条)としている。基本的な考え方(2条)、村の役割(3条)及び意識の高揚(4条)を定めている。
茨城町条例は、「朝ごはん運動」を「朝食にごはんを食べる習慣を広げる運動」(1条)としたうえで、朝ごはん運動は①米の食文化を通じた地域振興、②朝食の摂取率向上、③町内産の米の消費拡大の3項目を基本方針として推進する(3条)としている。基本理念(2条)、町及び生産者等の役割(4条、5条)並びに町民の協力(6条)を定めている。
日高町条例は、「早寝早起き朝ごはん運動を推進することにより、子どもの生活習慣を整え、もって子どもの心と身体の健康を保持増進し、たくましく生きる力を育むこと」(1条)を目的としている。基本理念(3条)、家庭、自治会等、学校等及び町の役割(4条~7条)を定め、行動計画の策定(8条)、強化期間(9条)、推進委員会の設置(10条)等について規定している。
真室川町条例は、朝ごはん運動は①食による健康づくりの推進、②地産地消と安全・安心な食の推進、③食を楽しみ、食に感謝する心の醸成、④食文化ともてなしの心「あがらしゃれ」の継承の4項目を基本方針として推進する(2条)とし、推進委員会の設置(3条)、町、町民、保護者、関係機関及び関係団体の責務(4条~8条)等を定めている。
〇 なお、栃木県高根沢町の高根沢町ハートごはん条例(平成19年9月14日公布・施行)は食育及び地産地消の推進を目的(1条)とし、佐賀県伊万里市の伊万里市食のまちづくり推進条例(平成19年3月24日公布・同年4月1日施行)は「朝ごはん運動」をはじめとする食育の推進を目的(1条)とし、山梨県北斗市の北杜市食と農の杜づくり条例(平成24年3月23日公布・同年4月1日施行)は「おはよう!!朝ごはん宣言」の普及啓発(2条8号、10条5号)について規定している。