地産地消・食のまちづくりに関する条例
(令和6年12月11日更新)
【地産地消の推進に関する条例】
〇 「地産地消」とは、「国内の地域で生産された農林水産物(食用に供されるものに限る。)を、その生産された地域内において消費すること及び地域において供給が不足している農林水産物がある場合に、他の地域で生産された当該農林水産物を消費すること」とされる(農林水産省HP「地産地消(地域の農林水産物の利用)の推進」)。地産地消の語源は、「農林水産省農蚕園芸局生活改善課が1981年(昭和56年)度から4カ年計画で進めた地域内食生活向上対策事業から生じた」とされ、この事業の中で使われた「『地場生産・地場消費』が略されて『地産地消』といわれるようなった」とされる(上中修「食農教育における地産地消の意義と課題」(関西学院大学教育学論究7号 2013年)48頁、49頁)。この上中論文によると、雪印乳業食中毒事件等の平成12年前後の「食品事件を契機に、『地産地消』が社会に急速に広まっていった」(49頁)とされる。また、「平成17年食料・農業・農村基本計画」(平成17年3月25日閣議決定)では、食料の安定供給の確保に関する施策の一つとして「地産地消の推進」が掲げられ、「地域の農業者と消費者を結び付ける地産地消を、地域の主体的な取組として推進する。」(37頁)と記述されている。
なお、「地産地消」という用語を使用している我が国の法令はないが、「地域資源を活用した農林漁業者等による新事業の創出等及び地域の農林水産物の利用促進に関する法律」(平成22年12月3日公布・施行)は「六次産業化・地産地消法」と呼ばれている(農林水産省HP「「地域資源を活用した農林漁業者等による新事業の創出等及び地域の農林水産物の利用促進に関する法律」(六次産業化・地産地消法)について」)。
〇 こうした中で、地産地消の推進に関する単独条例を制定している自治体は少なくない。また、農林水産業振興条例、食料・農業・農村基本条例、食と農の推進に関する条例、食のまちづくりに関する条例、食育に関する条例、朝ごはん条例、食の安全・安心に関する条例、地球温暖化対策条例等で何らかの形で地産地消の推進について規定する自治体は多い。
これらの条例のうち、地産地消の推進に関する単独条例を、制定順に示すと以下の通りである(制定年は、いずれも公布された年)。
(都道府県)
平成20年 | 福井県地産地消の推進に関する条例 |
平成21年 | (熊本県)くまもと地産地消推進県民条例 |
平成23年 | (広島県)ひろしま地産地消推進県民条例 |
(市町村)
平成17年 | (岩手県旧江刺市)えさし地産地消推進条例(失効) |
平成18年 | (栃木県)宇都宮市地産地消の推進に関する条例 |
平成21年 | (島根県)浜田市地産地消推進条例 (神奈川県)藤沢市地産地消の推進に関する条例 |
平成22年 | (島根県)邑南町地産地消推進条例 (福井県)おおい町地産地消の推進に関する条例 |
平成23年 | (三重県鈴鹿市)すずかの地産地消推進条例 (岡山県)総社市地産地消推進条例 |
平成24年 | 新潟県柏崎市食の地産地消推進条例 (熊本県)合志市地産地消推進条例 |
平成26年 | (秋田県)鹿角市ふるさと産品地産地消推進条例 横浜市の都市農業における地産地消の推進等に関する条例 |
平成27年 | (静岡県)藤枝市地産地消の推進に関する条例 |
平成28年 | (岐阜県)羽島市食の地産地消推進条例 (岡山県)津山市地産地消推進条例 |
平成29年 | (兵庫県)新温泉町ふるさと産品地産地消推進条例 |
平成30年 | (岩手県奥州市)おうしゅう地産地消わくわく条例 (千葉県)館山市地産地消推進条例 |
平成31年 | (大分県玖珠町)「童話の里」玖珠町地産地消推進条例 |
令和元年 | (鹿児島県徳之島町)徳之島町地産地消及び食育の推進に関する条例 |
令和3年 | (岩手県紫波町)紫波町地産地消推進条例 |
令和4年 | (茨城県水戸市)水戸市地産地消の推進に関する条例 |
令和5年 | (埼玉県美里町)美里町地消地産推進条例 |
〇 平成17年に制定された岩手県旧江刺市の「えさし地産地消推進条例」が全国で最初に制定された地産地消の推進に関する単独条例であるとされる。ただし、平成18年の市町村合併により既に失効している。なお、合併後の奥州市では、平成30年に「おうしゅう地産地消わくわく条例」を制定している。いずれも、議員提案によるものである。
〇 これらの条例では、そのほとんどは「地産地消」について定義規定を置いている。各条例により、表現は少しずつ異なるが、例えば宇都宮市条例では「地域で生産された農産物等を当該地域で消費すること」(2条1号)としている。
条例の構成、内容については、基本理念及び自治体、生産者、事業者、住民等の責務・役割のみを規定するものもあれば、こうしたことに加えて、基本的な施策について具体的かつ詳細に規定し、また、推進計画等の策定や推進会議等の設置等を定めているものもある。全体として見れば、「食育との連携」を規定するものは多い。なお、宮古市、小山市及び小坂町の条例は、地産地消と食育の両方を目的としている。
以下、個別の条例をいくつか紹介する。
栃木県宇都宮市 | 平成18年12月11日公布 | 平成19年1月1日施行 |
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福井県 | 平成20年3月14日公布 | 平成20年4月1日施行 |
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岩手県奥州市 | 平成30年1月4日公布 | 平成30年4月1日施行 |
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大分県玖珠町 | 平成31年3月20日公布 | 平成31年3月20日施行 |
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岩手県紫波町 | 令和3年3月17日公布 | 令和3年3月17日施行 |
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茨城県水戸市 | 令和4年9月30日公布 | 令和4年9月30日施行 |
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埼玉県美里町 | 令和5年3月22日公布 | 令和5年3月22日施行 |
宇都宮市条例は、現在施行されている地産地消に関する単独条例の中では、制定時期が最も早い。基本理念(3条)並びに市、生産者、消費者及び事業者の役割(4条~7条)を定めるほか、基本的な施策について具体的かつ詳細に規定している。すなわち、大きな施策の柱として、地産地消運動の推進(2章)、安全で安心な農産物等の供給(3章)、農業資源を活用した都市住民との交流(4章)、食育の推進等(5章)の4つを掲げ、それぞれごとに具体の施策を規定している。このうち、「地産地消運動の推進」では啓発活動、情報の共有等のほか市の施設における市内農産物等の優先使用(10条)を、「安全で安心な農産物等の供給」では農産物のブランド化(13条)、生産履歴の記録等(14条)等を、「食育の推進等」では食生活の向上と食文化の継承(17条)等を規定している。併せて、地産地消推進計画の策定(18条)、地産地消推進組織の設置(19条)及び施策等に対する市民の意見聴取(20条)の規定も置いている。
福井県条例は、都道府県条例の中では、最も制定時期が早いものである。基本理念(3条)、県の責務(4条)並びに市町、生産者、事業者及び県民の役割(5条~8条)のほか、地産地消推進計画の策定(9条)を定めている。基本的施策としては、啓発活動(10条)、県の施設等における県内農産物等の優先使用(11条)及び食育との連携(12条)の3項目を規定している。
奥州市条例は、宇都宮市条例と同様に、基本的な施策について具体的かつ詳細な規定を置いている。「地産地消の推進」(2章)として市の地元食材の率先利用(9条)、「おうしゅうまるかじりの日」の設定(10条)等を、「食の安全安心の確保」(3章)として生産者等の食品トレーサビリティの導入への取組(12条)、農業生産工程管理の推進(13条)等を、「食育の推進」(4章)として学校における食育の推進(15条)、食文化継承のための支援(16条)等を規定し、さらに、「地元酒等による乾杯の推進」(4章)についても規定している。
玖珠町条例は、基本理念(3条)並びに町、生産者、消費者及び事業者の役割(4条~7条)のほか、推進体制(8条)及び財政上の措置(9条)を規定している。
紫波町条例は、基本理念(3条)並びに町、生産者、消費者及び事業者の役割(4条~7条)のほか、町内農畜産物の優先的な利用促進(8条)、食育との連携(9条)、地産地消推進計画の策定(10条)、地産地消推進協議会の設置(11条)等を規定している。
水戸市条例は、基本理念(3条)並びに市、生産者、事業者及び市民の役割(4条~7条)のほか、食育との連携(8条)、嗜好等への配慮(9条)及び施策の実施状況の公表(10条)を規定している。
美里町条例は、基本理念(3条)並びに町、生産者、事業者及び消費者の役割(4条~7条)のほか、町の施設等における町内農産物等の優先使用(8条)、安全で安心な町内農産物等の供給(9条)、啓発活動(10条)、来訪者との交流(11条)、農畜林水産物のブランド化(12条)、食育の推進(13条)等を規定している。
〇 「地産地消」の派生語があるとされる。自治体の条例でも、そうした派生語を使用しているものがある。
「地販地消」・「地産外商」 | (秋田県)美郷町地販地消・地産外商推進条例(平成19年3月20日公布) |
「地産外商」 | (青森県)むつ市のうまいは日本一推進条例(平成30年3月20日公布) |
「地産外消」 | (香川県)丸亀市産業振興条例(平成23年3月24日公布) |
「地産他商」 | (山口県萩市)活力のある地域産業をつくる条例(平成24年12月21日公布) |
「地産他消」 | (茨城県)常陸大宮市「ふるさとの恵みに乾杯」条例(平成27年6月30日公布) |
「地消地産」 | (新潟県)新発田市食の循環によるまちづくり条例(平成20年12月22日公布) |
「自産自消」・「自産他消」 | (沖縄県本部町)もとぶ産農水産物消費拡大推進条例(令和元年6月28日公布) |
「知産知姓」 | (山梨県)北杜市食と農の杜づくり条例(平成24年3月23日公布) |
「旬産旬消」 | 長野県食と農業農村振興の県民条例(平成18年3月30日公布) |
なお、新発田市条例については、「地元で生産されたものを地元で消費する『地産地消』だけでなく、消費者に求められるものを生産する『地消地産』という2つの用語を使うことで、消費者の視点に立ち、『土づくり→栽培・収穫→加工→販売→調理→食事→残滓処理→肥料づくり→(土づくり)<食の循環>』といったように、地域の食の特徴を“つながり”でとらえ、重点目標や取り組みを絞り込み、『食の循環によるまちづくり条例』を制定した。」(自治体法務研究2009年秋号CLOSEUP先進・ユニーク条例「新発田市食の循環によるまちづくり条例」)とされる。
〇 「地産地消」に関連して「身土不二(しんどふじ)」という言葉を使用している条例がある。小浜市食のまちづくり条例、福井県地産地消の推進に関する条例及び北杜市食と農の杜づくり条例である。最初に使用したのは小浜市条例(後述【食のまちづくりに関する条例】参照)であるが、「身土不二」を「人は、生まれ育った土地および環境と密接なつながりを持っており、その土地で生産されたものを食することが最も身体に良いということ」と定義づけている。「明治31年に福井藩出身の漢方医、石塚左玄が提唱した」(自治体法務研究2006年春号CLOSEUP先進・ユニーク条例「福井県小浜市食のまちづくり条例」)とされる。
【食のまちづくりに関する条例】
〇 条例名に「食のまちづくり」を掲げる条例がある。制定順に示すと以下の通りである(制定年は、いずれも公布された年)。
平成13年 | (福井県)小浜市食のまちづくり条例 |
平成19年 | (佐賀県)伊万里市食のまちづくり推進条例 |
平成20年 | (富山県氷見市) きときと氷見食のまちづくり条例 |
平成21年 | (大分県)佐伯市食のまちづくり条例 (鹿児島県)いちき串木野市食のまちづくり条例 |
平成31年 | (静岡県)御前崎市食のまちづくり条例 |
令和3年 | (北海道)三笠市食のまちづくり基本条例 |
なお、平成26年制定の(茨城県)守谷市いただきます条例は、条例名は「いただきます条例」となっているが、目的は「食のまちづくりに関する基本理念を定め」る(1条)としており、内容的には「食のまちづくり」条例と考えることができる。
〇 これらの条例のうち、最も制定時期が早いのが小浜市条例である。
福井県小浜市 | 小浜市食のまちづくり条例 | 平成13年9月26日公布 | 平成14年4月1日施行 |
小浜市は、まちづくりの基本を「地域資源を活用した内発型のまちおこし、すなわち、当地の豊富な食や食文化をまちづくりの中心に据えた『食のまちづくり』」に置き、「まちづくりの憲法的条例」として、「全国発の地域振興型条例『小浜市食のまちづくり条例』」を制定した(自治体法務研究2006年春号CLOSEUP先進・ユニーク条例「福井県小浜市食のまちづくり条例」)としている。また、「全国で初めて『地産地消』や『食育』、『食の安全・安心』を政策課題として位置づけ、規定した。」(前記自治体法務研究解説)としている。
「食」を「食材の生産、加工および流通に始まり、料理、食事に至るまでの広範な食に関わる様相ならびに食に関連して代々受け継がれてきた物心両面での習俗である食文化および食に関する歴史、伝統」と定義づけ、「食のまちづくり」を「食を守り、はぐくみ、および活かすまちづくり」と定義づけている(2条1号、2号)。
8章、33条から構成されており、基本理念、共通理解、基本原則、基本計画・地区振興計画の策定、基本的施策(産業の振興、環境の保全、福祉および健康の増進、教育および伝承、観光および交流、安全で安心な食のまちづくり)、評価、審議会等の設置、条例の位置づけ等を規定している。小浜市の取組みの状況等については小浜市HP「食のまちづくり」を参照されたい。
〇 いちき串木野市条例は、ほぼ小浜市条例と同様の内容、構成を有する。それ以外の条例は、基本理念、自治体、住民、事業者等の責務・役割等を規定している。伊万里市条例は、内容的には「朝ごはん条例」に近い。
〇 三笠市条例は、令和3年9月に制定されている。
北海道三笠市 | 三笠市食のまちづくり基本条例 | 令和3年9月30日公布 | 令和4年4月1日施行 |
条例制定の背景としては、「道立だった三笠高を、2012年に道内唯一の食物調理単科高として市立化し、その後、同校近くに料理や洋菓子を提供する高校生レストランを開業したこと」(北海道新聞電子版令和3年9月22日付け記事)等があるとされる。前文で、三笠市は「北海道の食及び周辺地域の農業に大きな影響を与えてきた歴史を誇るとともに、平成24年に開校した北海道三笠高等学校は、社会で活躍できる幅広い視野を持った食のプロフェッショナルを育成するなど、『食』のちからにあふれたまちです。」としたうえで、「『食』を通じた地域の活性化を目指し、市、市民、教育関係者等、事業者及び関係団体が共通した認識のもとで主体的に参画し、協働して食のまちづくりに取り組むため、この条例を制定します。」としている。
12条から構成されており、基本理念、市の役割、市民の役割、教育関係者等の役割、事業者の役割、関係団体の役割、施策の大綱、基本計画の策定、条例の位置付け等を規定している。
【食文化に関する条例】
〇 食文化の継承や振興を目的とする条例も制定されている。食育に関する条例、地産地消の推進に関する条例、食のまちづくりに関する条例等で何らかの形で食文化の継承や振興が規定されている条例は多いが、条例名に「食文化」を使用した条例(公の施設の設置条例を除く)を制定順に示すと以下の通りである(制定年は、いずれも公布された年)。
平成25年 | (石川県)金沢の食文化の継承及び振興に関する条例 |
平成27年 | (福井県)永平寺町の食文化に関する条例 |
平成28年 | (岩手県)陸前高田市の食文化に関する条例 (鳥取県若桜町)若桜の食文化の継承及び振興に関する条例 |
平成29年 | (新潟県)村上市地酒等による乾杯を推進し村上の食文化を振興する条例 |
令和元年 | (茨城県)河内町酒類等による乾杯を推進し、食文化を振興する条例 |
〇 これらの条例は、いずれも理念的な規定を置いている。
このうち、金沢市条例が制定時期としては最も早い。
石川県金沢市 | 金沢の食文化の継承及び振興に関する条例 | 平成25年9月25日公布 | 平成25年10月1日施行 |
「金沢の食」を「加賀野菜その他の農産物、海産物等の食材、清酒、茶、菓子及び調味料で本市において生産、加工等をされたもの並びにこれらを利用した加賀料理、じわもん料理等の料理」(2条1項)、「金沢の食文化」を「金沢の食及びこれに係る調理法、食器、作法、しつらえ、料亭等に関する金沢固有の文化」(2条2項)としたうえで、市民、事業者及び市の役割(3条~5条)を定め、さらに「市民、事業者及び市は、会食を伴う集会等における郷土の清酒等による乾杯その他の金沢の食の利用及び金沢の食文化の普及に配慮するものとする。」とし(6条)、「関連事業者及び市は、金沢の食文化に関する情報の発信に努める。」(7条)と規定している。「清酒等の乾杯」に配慮することも「食文化の継承及び振興」に含めている。
〇 永平寺町、塩竈市、陸前高田市、若桜町、気仙沼市及び松山市の条例は、ほぼ金沢市条例と同様の内容を有する。
〇 村上市及び河内町条例は、地酒、酒類等による乾杯を推進することにより、食文化の振興を図ることとしているものであり、いわゆる「乾杯条例」であると言える。なお、乾杯条例については「乾杯に関する条例」を参照されたい。
【食と農に関する条例】
〇 条例名に「食」と「農」、「農業」等を併せて掲げる条例がある。制定順に示すと以下の通りである(制定年は、いずれも公布された年)
(都道府県)
平成12年 | (宮城県)みやぎ食と農の県民条例 |
平成17年 | (佐賀県)さがの食と農を盛んにする県民条例 (鹿児島県)かごしま食と農の県民条例 |
平成18年 | 長野県食と農業農村振興の県民条例 |
平成19年 | (島根県)しまね食と農の県民条例 |
平成21年 | (大分県)おおいたの食と農林水産業振興条例 |
平成22年 | 三重県食を担う農業及び農村の活性化に関する条例 |
平成27年 | (岩手県)食と農林水産業の振興に関する条例 |
令和2年 | 奈良県豊かな食と農の振興に関する条例 |
令和6年 | 茨城県食と農を守るための条例 |
(市町村)
平成18年 | (愛媛県)今治市食と農のまちづくり条例 |
平成20年 | (山形県高畠町)たかはた食と農のまちづくり条例 |
平成21年 | (島根県)奥出雲町食と農の町民条例 (福井県)越前市食と農の創造条例 |
平成22年 | (大分県臼杵市)ほんまもんの里みんなでつくる臼杵市食と農業基本条例 |
平成23年 | (島根県)津和野町食と農のまちづくり条例 |
平成24年 | (山梨県)北杜市食と農の杜づくり条例 |
平成25年 | (宮城県柴田町)しばた食と農のまちづくり条例 |
平成29年 | (青森県)十和田市食と農の推進条例 (島根県益田市)ますだ食と農の市民条例 |
令和4年 | (佐賀県)上峰町食と農のまちづくり条例 |
〇 これらの条例で最も早期に制定されたのは、平成12年制定の宮城県条例である。
宮城県 | みやぎ食と農の県民条例 | 平成12年7月10日公布 | 平成12年7月10日施行 |
宮城県条例は、議員提案により制定されているが、「本県における農業・農村振興の目標を明らかにするとともに、目標達成に向けた推進方策を示し、県民の共通理解のもと、目標の実現を図ることを目的」と(1条)としており、農業及び農村の振興を図ることを目的としている。平成11年に、昭和36年制定の農業基本法が廃止されたうえで、新たに「 食料・農業・農村基本法」が制定され(平成11年7月16日公布・施行)、食料、農業及び農村に関する施策を総合的かつ計画的に推進する(1条)とされた。同法は、地方公共団体については、「食料、農業及び農村に関し、国との適切な役割分担を踏まえて、その地方公共団体の区域の自然的経済的社会的諸条件に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。」(8条)としており、同法の制定を踏まえ、「食料・農業・農村基本条例」など農業、農村等の振興を図る条例が制定する自治体が少なくない(例えば、(新潟県)上越市食料・農業・農村基本条例(平成12年3月24日公布・施行))。宮城県条例も同様の考え方に立って、制定されたものと考えることができる。
農業・農村振興の目標(2条)並びに県、市町村、農業者、農業団体、県民、事業者等の責務と役割(3条~6条)を定めるとともに、農業・農村振興に関する主要な方策(7条)、基本計画の策定(8条)等を規定している。
〇 宮城県条例を除く都道府県条例は、三重県及び奈良県の条例を除くほかは、議員提案により制定されている。農業及び農村振興の目標または基本理念並びに県、市町村、農業者、農業団体、県民、事業者等の責務と役割及び基本的な施策のほか、岩手県及び茨城県を除く条例は基本計画(基本方針、振興計画)の策定を規定し、静岡県及び長野県の条例は審議会の設置についても規定している。大分県条例は宮城県とほぼ同じ構成となっているが、他の条例は基本的施策について個別に規定している。
〇 市町村条例は、その多くは、市町村、農業者、農業団体、事業者、住民等の責務や役割、基本的な施策、基本計画等の策定等を規定している。越前市条例は審議会の設置についても規定している。
今治市及び高畠町の条例は、特に「遺伝子組換え作物の栽培許可」について規定している。また、「食と農のまちづくり委員会」の設置についても、規定している。なお、遺伝子組換え作物交雑防止に関する条例については、「食の安全・安心に関する条例」を参照されたい。
【魚食に関する条例】
〇 条例名に「魚食」を掲げる条例がある。以下の条例である。
兵庫県香美町 | 香美町魚食の普及の促進に関する条例 | 平成26年2月28日公布 | 平成26年4月1日施行 |
茨城県ひたちなか市 | ひたちなか市魚食の普及推進に関する条例 | 平成28年3月25日公布 | 平成28年4月1日施行 |
福島県いわき市 | いわき市魚食の推進に関する条例 | 令和2年2月28日公布 | 令和2年2月28日施行 |
〇 3市町は、「豊富な漁場である日本海に面した香住漁港及び柴山港を有し、多彩な魚種の水揚げをする漁業者及び水産加工品を製造する事業者が多く存在する日本有数の町」(香美町条例1条)、「太平洋に面した漁港を有し多彩な魚介類の水揚げや日本を代表するタコの加工産地」(ひたちなか市条例1条)、「水産業が寒流と暖流とが交わる豊かな漁場の恵みにより主要な産業として発展してきた」市(いわき市1条)であり、いずれの条例も魚食の普及・推進を目的としている。
このうち、いわき市条例は、「魚食」を「水産物及び水産加工品・・・を消費すること」(2条1号)と定義づけている。基本理念、市及び事業者等の役割、市民の協力、広報活動、食育の推進、人材の育成及び確保等の規定を置いている。
また、3条例とも「魚の日」等を設定している(「香美町魚食普及月間は毎年10月とし、香美町魚(とと)の日は毎月20日とする。」(香美町条例5条2項)、「毎年8月8日を『タコの日』、毎年10月10日を『とと(魚)の日』、毎月10日を『魚食普及推進日』として定める。」(ひたちなか市条例6条)、「魚食の日は、毎月7日とする。」(いわき市条例10条2項))。
【食の景観に関する条例】
〇 条例名に「食の景観」を掲げる条例がある。
福岡県大木町 | 大木町の食の景観を守り創る条例 | 平成31年3月15日公布 | 平成31年10月1日施行 |
である。
〇 本条例は、「食の景観」を維持し、次の世代へ引き継ぐことを目的としている(1条)。「食の景観」を「本町の区域が全体として有している堀をはじめとした農産物の生産過程が醸し出す景観」(1条)と定義づけているが、前文では、大木町の現在の肥沃な農地や快適な住宅地は、沼地がひろがる水はけの悪い土地を、長年にわたり先人たちが、堀を掘り、土地をかさ上げして、つくり上げたものであり、その結果、縦横に堀が廻る全国的にも他に類をみない景観が生まれたとし、この「食の景観」は「美しいばかりではなく、その土地に暮らす全ての人々の心を育み、命を支えてきた、町民の貴重な財産」であるとしている。
〇 町、町民及び事業主等の責務(3条~5条)を定めるほか、町長は景観・土地利用計画を策定する(6条)とともに、事業主等は、開発建築行為をしようとするときは、あらかじめ町長に届け出なければならない(9条)としている。併せて、町長は、事業主等に対して、食の景観の保持・形成への支援を行う(11条)としている。