食品ロスに関する条例
(令和7年4月2日更新)
【食品ロスについて】
〇 「食品ロス」とは、「本来食べられるにもかかわらず捨てられる食品のこと」(「食品ロスの削減の推進に関する基本的な方針」(令和2年3月31日閣議決定 以下「基本方針」という。)1頁注1)である。
「我が国においては、まだ食べることができる食品が、生産、製造、販売、消費等の各段階において日常的に廃棄され、大量の食品ロスが発生している。食品ロスの問題については、2015年9月25日の国際連合総会において採択された持続可能な開発のための2030アジェンダにおいて言及されるなど、その削減が国際的にも重要な課題となっており、また、世界には栄養不足の状態にある人々が多数存在する中で、とりわけ、大量の食料を輸入し、食料の多くを輸入に依存している我が国として、真摯に取り組むべき課題である。」(前記基本方針1頁)とされる。
なお、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」は、目標12.3で「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食料の損失を減少させる。」としている。
〇 食品ロスの削減を推進するため、「食品ロスの削減の推進に関する法律」(以下「食品ロス削減推進法という。)が、議員立法で制定され、令和元年5月31日に公布、同年10月1日に施行されている。
同法は、「食品ロスを削減していくためには、国民各層がそれぞれの立場において主体的にこの課題に取り組み、社会全体として対応していくよう、食べ物を無駄にしない意識の醸成とその定着を図っていくことが重要である。また、まだ食べることができる食品については、廃棄することなく、貧困、災害等により必要な食べ物を十分に入手することができない人々に提供することを含め、できるだけ食品として活用するようにしていくことが重要である。」(前文)としたうえで、「食品ロスの削減に関し、国、地方公共団体等の責務等を明らかにするとともに、基本方針の策定その他食品ロスの削減に関する施策の基本となる事項を定めること等により、食品ロスの削減を総合的に推進すること」(1条)を目的としている。
「食品」を「飲食料品のうち医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律・・・第二条第一項に規定する医薬品、同条第二項に規定する医薬部外品及び同条第九項に規定する再生医療等製品以外のもの」(2条1項)と定義づけ、「食品ロスの削減」を「まだ食べることができる食品が廃棄されないようにするための社会的な取組」(2条2項)と定義づけている。
国及び地方公共団体は、「食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律(平成12年法律116号)その他の関係法律に基づく食品廃棄物の発生の抑制等に関する施策を実施するに当たっては、この法律の趣旨及び内容を踏まえ、食品ロスの削減を適切に推進しなければならない。」(8条)としたうえで、国は基本方針を策定し(11条)、都道府県及び市町村は食品ロス削減推進計画の策定に努める(12、13条)ものとしている。
同法の内容等については、消費者庁HP「食品ロスの削減の推進に関する法律」を参照されたい。
〇 なお、「食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律」は食品リサイクル法とも言われ、「食品循環資源の再生利用及び熱回収並びに食品廃棄物等の発生の抑制及び減量に関し基本的な事項を定めるとともに、食品関連事業者による食品循環資源の再生利用を促進するための措置を講ずることにより、食品に係る資源の有効な利用の確保及び食品に係る廃棄物の排出の抑制を図るとともに、食品の製造等の事業の健全な発展を促進し、もって生活環境の保全及び国民経済の健全な発展に寄与すること」(1条)を目的としている。「食品廃棄物等」を「食品が食用に供された後に、又は食用に供されずに廃棄されたもの」(2条2項1号)及び「食品の製造、加工又は調理の過程において副次的に得られた物品のうち食用に供することができないもの」(同条同項2号)と、「食品循環資源」を「食品廃棄物等のうち有用なもの」(2条3項)と定義づけ、国の基本方針の策定(3条)のほか、食品関連事業者による食品循環資源の再生利用の促進等について、規定している。同法の内容等については、農林水産省HP「食品リサイクル法」を参照されたい。
〇 食品ロスの削減や食品リサイクルの取組み等については、消費者庁HP「[食品ロス削減]食べもののムダをなくそうプロジェクト」、環境省HP「食品ロスポータルサイトー食べ物を捨てない社会へー」、農林水産省HP「食品ロス・食品リサイクル」を参照されたい。
【食品ロスの削減推進を明記する条例】
〇 条例において、食品ロスの削減の推進を明記する条例としては、令和7年3月31日時点で確認できるものとして、以下のようなものがある。
岩手県奥州市 | 平成30年1月4日公布 | 平成30年4月1日施行 |
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鹿児島県徳之島町 | 令和元年9月6日公布 | 令和元年9月6日施行 |
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群馬県渋川市 | 令和3年3月12日公布 | 令和3年4月1日施行 |
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長野県池田町 | 令和3年9月22日公布 | 令和3年9月22日施行 |
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群馬県 | 令和4年3月15日公布 | 令和4年3月15日施行 |
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広島市 | 令和4年12月22日公布 | 令和5年4月1日施行 |
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京都府宮津市 | 令和5年4月1日改正施行 |
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兵庫県尼崎市 | 令和5年4月1日改正施行 |
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茨城県 | 令和6年3月29日公布 | 令和6年3月29日施行 |
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栃木県鹿沼市 | 令和6年4月1日改正施行 |
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北海道 | 令和7年3月31日公布 | 令和7年4月1日施行 |
〇 奥州市条例は、地産地消の推進に関する条例であるが、食育の推進に関連して「市は、大切な食料資源を無駄なく有効活用するため、食品廃棄物の再生利用及び食品ロス(食べられる状態であるにもかかわらず廃棄される食品をいう。)の削減等に関する普及活動の推進を図るものとする。」(14条3項)と規定し、食品ロスの削減についても定めている。
〇 徳之島町条例は、地産地消及び食育の推進に関する条例であるが、食育の推進に関連して「町は、大切な食料資源を無駄なく有効活用するため、食品廃棄物の再生利用や食品ロス(本来食べられるにもかかわらず廃棄されている食品のことをいう。)の削減等に関する普及活動の推進を図るものとする。」(16条2項)と規定し、食品ロスの削減についても定めている。
〇 渋川市条例は、食品ロスの削減の推進に関する特化条例である。「食品ロスの削減に関し、市、市民等及び事業者の責務等を明らかにするとともに、それぞれがもったいないの心を共有した上で、食品ロスの削減に向けた活動を総合的に推進し、もって現在及び将来の市民の快適な生活環境に寄与すること」(1条)を目的とし、市、市民等及び事業者の責務(3条~5条)並びに食品ロスの削減の基本方針(6条)について定めている。このうち、市の責務として、「食品ロスの削減に関する必要な施策を総合的に推進しなければならない。」(3条)と規定している。なお、「食品」及び「食品ロスの削減」の定義(2条4、5号)は食品ロス削減推進法における定義規定と同一の規定を置き、「もったいないの心」を「食品を食べることなく、無駄にしてしまうのが惜しいと思う気持ち」(2条1号)と定義づけている。
渋川市の食品ロス削減の取組みについては、渋川市HP「食品ロス」を参照されたい。
〇 池田町条例は、食育に関する条例であるが、「食品ロス」を「食べられるのに捨てられてしまう食品のこと」(2条9号)と定義づけたうえで、「町民は、食品ロスの削減に努めます。」(7条4項)、町は「食品ロスを削減するとともに、堆肥化などによる「食」の循環と環境を意識した食育の推進を支援します。」(13条3号)等と規定している。
〇 群馬県条例は、令和元年12月に行った「ぐんま5つのゼロ宣言」(以下「宣言」という。)を踏まえ、2050年に向けて①自然災害による死者「ゼロ」、②温室効果ガス排出量「ゼロ」、③災害時の停電「ゼロ」、④プラスチックごみ「ゼロ」及び⑤食品ロス「ゼロ」を実現することを目的として、令和4年3月に制定された。食品ロス「ゼロ」については、宣言では「『MOTTAINAI』(もったいない)の心で食品ロスをなくす」としている。
本条例では、食品ロスゼロに関して、「県は、食品ロスの削減を総合的かつ効果的に推進するため、広くもったいないの心(食べ物を無駄にしない意識をいう。)の醸成を図りつつ、国、市町村、事業者、消費者、食品ロスの削減に関する活動を行う団体その他の関係者と連携し、地域の特性に応じた施策を実施するものとする。」(74条1項)としたうえで、食品ロス削減推進計画の策定を県に義務付ける(75条1項)とともに、事業者及び消費者の役割(76条、77条)を定めている。また、未利用食品等を提供するための活動の支援に関する規定(78条)を置いている。「食品ロスの削減」の定義(2条15号)については、食品ロス削減推進法における定義を踏まえたものとしている。
「ぐんま5つのゼロ宣言」については群馬県HP「2050年に向けた『ぐんま5つのゼロ宣言』」を、本条例の内容等については自治体法務研究2022年秋号CLOSEUP先進・ユニーク条例「2050年に向けた「ぐんま5つのゼロ宣言」実現条例」を参照されたい。
〇 広島市条例は、食品ロスの削減の推進に関する特化条例である。「食品ロスの削減の推進に関する法律(・・・)の趣旨にのっとり、食品ロスの削減に関し、本市及び事業者の責務並びに消費者の役割を明らかにするとともに、本市の施策の基本となる事項を定めることにより、食品ロスの削減に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって持続可能な社会の実現に寄与すること」(1条)を目的としている。
目的(1条)、定義(2条)、本市の責務(3条)、事業者の責務(4条)、消費者の役割(5条)、関係者相互の連携及び協力(6条)、食品ロス削減推進計画(7条)、普及啓発、教育及び学習の振興等(8条)、食品関連事業者等の取組に対する支援(9条)、表彰(10条)、実態調査等(11条)、未利用食品等を提供するための活動の支援等(12条)、食品廃棄物の再生利用の促進(13条)、推進体制の整備(14条)、財政上の措置(15条)、食品関連事業者及び農林漁業者の取組(16条)の16条から構成されている。
本条例は、議員提案により制定されているが、その制定経緯等については、広島市議会HP「食品ロスの削減の推進に関する条例について」を参照されたい。
〇 宮津市条例は、令和5年4月1日に改正施行され、食品ロスの削減(15条)として、「市は、食品ロスの削減に関する必要な施策を総合的かつ効果的に推進し、廃棄物の減量化に努めなければならない。」、「市民は、食品ロスの削減の重要性についての理解と関心を深めるとともに、食品ロスの削減について自主的に取り組むよう努めるものとする。」、「食品関連事業者(・・・)は、その事業活動に関し、市が実施する食品ロスの削減に関する施策に協力するよう努めるとともに、食品ロスの削減について積極的に取り組むよう努めるものとする。」、「観光旅行者等は、その滞在中の活動に関し、市及び食品関連事業者が実施する食品ロスの削減の取組に協力するよう努めるものとする。」との規定を置いている。
〇 尼崎市条例は、令和5年4月1日に改正施行され、事業者の責務の一つ(4条2項)として「事業者は、・・・食品ロスの削減(・・・)に取り組むこと等により、廃棄物の発生を抑制するよう努めなければならない。」、市民等の責務の一つ(5条1項)として「市民等は、・・・食品ロスの削減に取り組むこと等により、廃棄物の発生を抑制するよう努めなければならない。」との規定を置いている。
〇 茨城県条例は、食と農に関する条例であるが、「県は、生産、製造、販売、消費等の各段階において日常的に食品が廃棄され、大量の食品ロスが発生している状況に鑑み、食品関連事業者等と連携し、食品ロスの削減に係る県民意識の醸成に努めるものとする。」(25条3項)との規定を置いている。。
〇 鹿沼市条例は、令和6年4月1日に改正施行され、市の責務の一つ(3条1項4号)として「食品ロスの削減の推進」との規定を置いている。
〇 北海道条例は、食品ロスの削減の推進に関する特化条例であり、議員提案により制定されている。「食品ロスの削減に関し、道の責務並びに食品関連事業者等及び消費者の役割を明らかにするとともに、食品ロスの削減に関する施策の基本となる事項を定めること等により、食品ロスの削減を総合的に推進すること」(1条)を目的としている。
目的(1条)、定義(2条)、道の責務(3条)、食品関連事業者等の役割(4条)、消費者の役割(5条)、食品ロス削減週間(6条)、食品ロスの削減に関する施策(7条)、食品関連事業者等の取組の促進(8条)、関係者相互の連携及び取組の促進(9条)及び食品の提供に係る関係者相互の連携の強化(10条)の10条から構成されている。
【食べ残しや食品廃棄物の削減等を規定する条例】
〇 「食品ロス」との用語は使用していないものの、食べ残しや食品廃棄物の削減等を規定する条例としては、例えば、以下のようなものがある。
熊本県あさぎり町 | 飲み、球磨拳を楽しみ、食べ物は「ごちそうさん」の感謝の 心と「もったいない」の精神で、胃袋に消費することを推進 する条例 |
平成26年3月17日日公布 | 平成26年3月17日施行 |
京都市 | 平成27年10月1日改正施行 |
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新潟県村上市 | 条例 |
平成29年3月21日公布 | 平成29年4月1日施行 |
千葉県成田市 | 令和7年3月21日公布 | 令和7年4月1日施行 |
〇 あさぎり町と村上市の条例は、いわゆる「乾杯条例」であるが、球磨焼酎や地酒等による乾杯とともに、食べ残しや食品廃棄物の削減についても規定している。
あさぎり町条例は、町の役割として「『食べ残しを減らそう町民運動』を展開し、生ごみの排出減量に必要な処置を講じるよう努めなければならない。」(4条)と規定するとともに、事業者の役割として「飲食店業を営む者は、『食べ残しを減らそう町民運動』に協力し、残さず食べよう!『30・10(さんまる いちまる)運動』を利用者に理解を求め、生ごみの排出減量に努めなければならない。」(5条2項)と規定している。なお、「残さず食べよう!『30・10(さんまる いちまる)運動』」は、「乾杯後30分間は自席で料理を味わい、お開き前の10分間は自席に戻り、再度料理を楽しむこと」(2条6号)と定義づけられている。
村上市条例は、食品廃棄物の削減として、「事業者及び市民は、食べられるのに捨てられてしまう食品の削減のため、宴席、会食等においては、残さず食べるよう、しっかり食べきるよう努めるものとする。」(8条)と規定している。
〇 京都市は、廃棄物の一層の減量を図るため、「京都市廃棄物の減量及び適正処理等に関する条例」を平成27年10月に改正施行した。2R(ごみを出さない「リデュース」及び再使用する「リユース」)と分別・リサイクルの促進を柱としている。このうち、2Rの促進については、6つの重点分野(①製造,②小売,③食品,④催事(イベント等),⑤観光等,⑥大学・共同住宅等)に関し,市民,事業者等の取り組み等を定めている。
③食品に関しては、食品廃棄物の発生を抑制するため、飲食店業者には、客に対して食事として提供された食品のできる限りの消費を周知すること及び食事の一部の持ち帰りを希望する客からの申出があったときは原則として認めることを、食品取扱事業者には、量り売りなどの販売方法を実施すること,賞味期限や消費期限に達するまで食品の調理や小売を継続すること,残品が多く生じないよう食品の入荷量を定めること等を、市民には,食品取扱事業者から購入した食品等をできる限り消費すること,自らが消費することができる分量を把握したうえ計画的に食品を購入すること等を、努力義務として課している(12条)。
改正後の条例の愛称を、「しまつのこころ条例」としているが、改正後の条例の内容等については、京都市HP「「しまつのこころ条例」について」を参照されたい。また、京都市の食品ロスに関する取組みについては、京都市HP「みんなで取り組もう!!京都市食品ロスゼロプロジェクト」を参照されたい。
〇 成田市条例は、あさぎり町条例と同様に残さず食べよう!30・10(さんまる いちまる)運動の推進について規定しているが、同運動の推進に特化した条例となっている。成田市は、「長野県松本市が『残さず食べよう!30・10(さんまるいちまる)運動』を考案し、全国でこの運動への取り組みが広がっており、成田市でも『残さず食べよう!30・10(さんまるいちまる)運動』を推進しています。」(成田市HP「30・10運動の推進について」)としている。