子どもの権利に関する条例
(令和7年1月6日更新)
【子どもの権利条約と子どもの権利に関する条例】
〇 児童の権利に関する条約が平成元年11月の第44回国連総会において採択され、日本は平成6年4月に批准した(外務省HP「児童の権利条約」参照)。
同条約は、18歳未満の児童の権利の尊重及び確保の観点から必要となる詳細かつ具体的な事項を規定したものであり、前文と本文54条から構成されている。
児童の権利に関する条約は、通常「子ども権利条約」と呼ばれることが多い。本稿でも、「子ども権利条約」と表することとする。
「子どもの権利条約は、子ども(18歳未満の人)が守られる対象であるだけでなく、権利をもつ主体であることを明確にしました。子どもがおとなと同じように、ひとりの人間としてもつ様々な権利を認めるとともに、成長の過程にあって保護や配慮が必要な、子どもならではの権利も定めています。生きる権利や成長する権利、暴力から守られる権利、教育を受ける権利、遊ぶ権利、参加する権利など、世界のどこで生まれても子どもたちがもっている様々な権利が定められた、この条約が採択されてから、世界中で、多くの子どもたちの状況の改善につながってきました。」(ユニセフHP「子どもの権利条約」)とされる。
〇 子ども権利条約批准の後、自治体では、同条約の理念を踏まえ、子どもの権利を保障し、それに関する施策を推進することを主たる目的とした条例が制定されている。
子どもの権利に関する条例としては、子どもの権利を保障するために総合的な内容を定めた総合条例(以下「子どもの権利保障をはかる総合的な条例」という。)が制定されることが多いが、子どもの権利の救済のためのオンブズマンや委員会等の設置に関する条例も制定されている。
【子どもの権利保障をはかる総合的な条例】
〇 「子どもの権利保障をはかる総合的な条例」の制定状況については、子どもの権利条約総合研究所がそのホームページにおいて「子どもの権利保障をはかる総合的な条例一覧(2024年5月現在)」として掲載している。これによると、令和6年5月現在、69自治体が「子どもの権利保障をはかる総合的な条例」を制定していることとなる。「子どもの権利保障をはかる総合的な条例」とは、「子どもの権利保障を総合的にとらえ、理念、制度・しくみ、施策などが相互に補完し合うような内容を備えた条例(たとえば、子どもの権利についての理念や権利の具体的内容、家庭・学校・施設・地域など子どもの居場所・生活の場での権利保障のあり方、子どもの参加や救済のあり方、子ども施策の推進や検証のあり方、子どもの権利保障をはかる具体的な制度・しくみなどを規定するもの)」としている。
〇 子どもの権利条約総合研究所「子どもの権利保障をはかる総合的な条例一覧(2024年5月現在)」に掲載されている69条例は、以下のようなものである。
川崎市 | 平成12年12月21日公布 |
平成13年4月1日施行 |
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北海道奈井江町 | 平成14年3月26日公布 |
平成14年4月1日施行 |
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岐阜県多治見市 | 平成15年9月25日公布 |
平成16年1月1日施行 |
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東京都目黒区 | 平成17年12月1日公布 |
平成17年12月1日施行 |
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北海道芽室町 | 平成18年3月6日公布 |
平成18年4月1日施行 |
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三重県名張市 | 平成18年3月16日公布 |
平成19年1月1日 施行 |
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富山県魚津市 | 平成18年3月20日公布 |
平成18年4月1日施行 |
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岐阜県岐阜市 | 平成18年3月27日公布 |
平成18年4月1日施行 |
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東京都豊島区 | 平成18年3月29日公布 |
平成18年4月1日施行 |
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福岡県志免町 | 平成18年12月20日公布 |
平成19年4月1日施行 |
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石川県白山市 | 平成18年12月21日公布 |
平成19年4月1日施行 |
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富山県射水市 | 平成19年6月20日公布 |
平成19年6月20日施行 |
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愛知県豊田市 | 平成19年10月9日公布 |
平成19年10月9日施行 |
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名古屋市 | なごや子ども条例 なごや子どもの権利条例(改正後) |
平成20年3月27日公布 令和2年3月27日改正公布 |
平成20年4月1日施行 令和2年4月1日改正施行 |
新潟県上越市 | 平成20年3月28日公布 |
平成20年4月1日 施行 |
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東京都日野市 | 平成20年6月26日公布 | 平成20年7月1日施行 |
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札幌市 | 平成20年11月7日公布 |
平成21年4月1日施行 |
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福岡県筑前町 | 平成20年12月15日公布 |
平成21年4月1日施行 |
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愛知県岩倉市 | 平成20年12月18日公布 |
平成21年1月1日施行 |
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東京都小金井市 | 平成21年3月12日公布 |
平成21年3月12日施行 |
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岩手県遠野市 | 平成21年3月23日公布 |
平成21年4月1日施行 |
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宮城県石巻市 | 平成21年3月26日公布 |
平成21年4月1日施行 |
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愛知県日進市 | 平成21年9月29日公布 |
平成22年4月1日施行 |
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福岡県筑紫野市 | 平成22年3月30日公布 |
平成22年4月1日施行 |
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北海道幕別町 | 平成22年4月1日公布 |
平成22年7月1日施行 |
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愛知県幸田町 | 平成22年12月22日公布 |
平成23年4月1日施行 |
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石川県内灘町 | 平成23年12月26日公布 |
平成24年1月1日 施行 |
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岩手県奥州市 | 平成24年1月6日公布 |
平成24年4月1日施行 |
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福岡県宗像市 | 平成24年3月30日公布 |
平成24年4月1日施行 |
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北海道北広島市 | 平成24年6月28日公布 |
平成24年12月1日施行 |
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愛知県知立市 | 平成24年9月28日公布 |
平成24年10月1日施行 |
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大阪府泉南市 | 平成24年10月1日公布 |
平成24年10月1日施行 |
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東京都世田谷区 | (平成13年12月10日公布) 平成24年12月10日改正公布 |
(平成14年4月1日施行) 平成25年4月1日改正施行 |
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青森県青森市 | 平成24年12月25日公布 |
平成24年12月25日施行 |
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北海道士別市 | 平成25年2月22日公布 |
平成25年4月1日施行 |
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栃木県日光市 | 平成25年3月6日公布 |
平成25年4月1日施行 |
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長野県松本市 | 平成25年3月15日公布 |
平成25年4月1日施行 |
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栃木県市貝町 | 平成25年12月26日公布 |
平成26年4月1日施行 |
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愛知県知多市 | 平成26年3月26日公布 |
平成26年4月1日施行 |
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栃木県那須塩原市 | 平成26年3月26日公布 |
平成26年4月1日施行 |
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愛知県東郷町 | 平成26年4月30日公布 |
平成26年7月1日施行 |
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長野県 | 平成26年7月10日公布 |
平成26年7月10日施行 |
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奈良県奈良市 | 平成26年12月25日公布 |
平成27年4月1日施行 |
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相模原市 | 平成27年3月20日公布 |
平成27年4月1日施行 |
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三重県東員町 | 平成27年6月19日公布 |
平成27年6月19日施行 |
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愛知県津島市 | 平成28年3月30日公布 |
平成28年4月1日施行 |
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福岡県川崎町 | 平成29年12月14日公布 |
平成30年4月1日施行 |
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東京都西東京市 | 平成30年9月19日公布 |
平成30年10月1日施行 |
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京都府亀岡市 | 平成30年12月15日公布 |
平成31年4月1日施行 |
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山梨県甲府市 | 令和2年3月30日公布 |
令和2年3月30日施行 |
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兵庫県尼崎市 | (平成21年12月18日公布) 令和3年3月8日改正公布 |
(平成21年12月18日施行) 令和3年4月1日改正施行 |
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福岡県那珂川市 | 令和3年3月3日公布 |
令和3年4月1日施行 |
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東京都江戸川区 | 令和3年6月30日公布 |
令和3年7月1日施行 |
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岐阜県笠松町 | 令和3年12月22日公布 | 令和4年3月1日施行 |
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新潟市 | 令和3年12月27日公布 | 令和4年4月1日施行 |
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福岡県田川市 | 令和4年3月24日公布 | 令和4年4月1日施行 |
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東京都中野区 | 令和4年3月28日公布 | 令和4年4月1日施行 |
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神奈川県横須賀市 | 令和4年3月29日公布 | 令和4年7月1日施行 |
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山梨県 | 令和4年3月29日公布 | 令和4年3月29日施行 |
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大阪府熊取町 | 令和4年3月30日公布 | 令和4年4月1日施行 |
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埼玉県北本市 | 令和4年3月31日公布 | 令和4年10月1日施行 |
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静岡県富士市 | 令和4年4月1日公布 | 令和4年4月1日施行 |
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愛知県瀬戸市 | 令和4年9月22日公布 | 令和4年10月1日施行 |
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富山県南砺市 | 令和4年12月16日公布 | 令和5年4月1日施行 |
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東京都武蔵野市 | 令和5年3月22日公布 | 令和5年4月1日施行 |
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青森県むつ市 | 令和6年3月15日公布 | 令和6年4月1日施行 |
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静岡県藤枝市 | 令和6年3月21日公布 | 令和6年4月1日施行 |
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東京都北区 | 令和6年3月27日公布 | 令和6年4月1日施行 |
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新潟県 | 令和6年3月29日公布 | 令和6年4月1日施行 |
〇 最初に制定されたのは、川崎市条例である、同条例は、前文と8章41条から構成され、子どもを「市民をはじめとする市に関係のある18歳未満の者その他これらの者と等しく権利を認めることが適当と認められる者」(2条1号)と定義づけ、子どもの権利として「安心して生きる権利」、「ありのままの自分でいる権利」、「自分を守り、守られる権利」、「自分を豊かにし、力づけられる権利」、「自分で決める権利」、「参加する権利」及び「個別の必要に応じて支援を受ける権利」の7つの権利を掲げた(10条~16条)うえで、これらの権利は大切なものとして保障されなければならない(9条)としている。そして、家庭、育ち・学ぶ施設及び地域における子どもの権利の保障に関する規定を置き(17条~28条)、子どもの参加の促進と子ども会議の開催(29条~34条)、相談及び救済(35条)、行動計画の策定と施策の推進(36条、37条)、権利委員会の設置と検証(38条~40条)等を定めている。まさに、子どもの権利を保障するために総合的な内容となっている。
〇 次に制定されたには、奈井江町条例である。同条例は、前文と18条から構成され、子どもを「18歳未満のすべての者」(2条)と定義づけ、子どもの権利として「子どもの生きる権利」、「子どもの育つ権利」、「子どもの守られる権利」及び「子どもの参加する権利」の4つの権利を掲げた(6条~9条)うえで、基本理念で、町及び町民は、子どもの権利を尊重し、子どもの幸福を追求する権利の保障に努めるものとし(3条1項)とし、子どもの権利の尊重と保障に関する町と町民の役割(4条、5条)を定めている。そして、子どもの成育環境の保全(10条)、子育て支援(11条)、学校・認定こども園(12条)、子どもの社会参加(13条)、子どもの活動や町民活動の支援(14条)、相互支援(15条)、救済と救済委員会の設置(16条)、推進体制(17条)等に関する規定を置いている。
〇 川崎市条例、奈井江町条例を含む69条例は、概ね、子どもの権利、子どもの権利の保障と自治体等の責務、子どもの参加、子どもの救済、子どもに関する施策の推進と検証等に関する規定を置いている。しかし、川崎市条例と奈井江市条例とを比較しただけでも明らかなように、子どもの権利、子どもの権利の保障に関する制度や施策等について、その内容、規定の仕方、詳細さ等は、条例により異なっている。
〇 まず、対象となる「子ども」については、子ども権利条約が18歳未満の者をしていることを踏まえ、ほとんどの条例は「18歳未満の者」、「18歳未満の者その他これらの者と同等の権利を認められることが適当な者」等としている。なお。東員町条例は児童福祉法4条に定める児童(18歳未満の者)、亀岡市条例は子ども・子育て支援法に規定する子ども(18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある者)としている。
南砺市及び新潟県の条例は、「こども」の定義をこども基本法と同じ「心身の発達の過程にある者」としている。
〇 次に、規定される「子どもの権利」については、大半の条例が具体的な権利を列挙している。そのうち、多くは奈井江市条例と同様に「生きる権利」、「育つ権利」、「守られる権利」及び「参加する権利」の4つの権利又はこれらと同趣旨の4つの権利を掲げている。また、5つの権利(岐阜市、石巻市、奥州市、市貝町、知多市、新潟市)、6つの権利(上越市、東員町)、7つの権利(川崎市、豊島区、幸田町)、8つの権利(武蔵野市)、10の権利(日進市)を掲げるものもある。ちなみに日進市条例の10の権利は、「愛される権利」、「守られる権利」、「自分らしく生きる権利」、「気持ちや考えを伝える権利」、「学ぶ権利」、「遊ぶ権利」、「心や体を休める権利」、「自然とふれ合う権利」、「参加する権利」及び「ともに生きる権利」である。
一方、子どもの権利について、複数以上の具体的な権利を個別の条毎に列挙するのではなく、1つの条でまとめて規定するもの(射水市、松本市、亀岡市、江戸川区、富士市、武蔵野市、北区)、子どもの権利条約で認められる権利とするもの(目黒区、泉南市、尼崎市)があり、また、子どもの権利の保障や尊重の規定を置くものの具体的な権利の内容について規定していないもの(多治見市、世田谷区、奈良市、西東京市、甲府市、中野区、山梨県、むつ市、新潟県)、子どもの「権利」との表現は使わず「人権」とするもの(長野県)もある。
〇 すべての条例は、何らかの形で、子どもの権利が保障されるべき旨規定している。多くは、基本理念等においてその旨規定するとともに、子どもの権利の保障に関する自治体や住民等の責務や役割を定めている。家庭、学校等の施設、地域のそれぞれにおける子どもの権利の保障の対応や取組みについて具体的に規定しているもの(川崎市、多治見市、豊島区、志免町、豊田市、札幌市、小金井市、北広島市、日光市、松本市、市貝町、新潟市、中野区、北本市、富士市)もある。
なお、半数程度の条例は、子どもはその権利が保障されるという規定のみならず、子どもは他人の権利を尊重するよう努めなければならない旨の規定を置いている。例えば、名張市条例は「子どもの役割」として「子どもは、自らの個性を大切にしながら、他人の権利を尊重し、家族、友達及び隣人を大切にし、思いやりとゆとりのある心を持って行動するよう努めなければならない。」(9条)、豊田市条例は「子どもの権利と責任」の中で「子どもは、自分の権利が尊重されるのと同様に、他者の権利を尊重するよう努めなければなりません。」(4条3項)、北広島市条例は「子どもにとって大切な権利」の中で「子どもは、自分の権利が尊重されるのと同じように、他人の権利を尊重しなければなりません。」(6条2項)と規定している。
〇 多くの条例は、子どもの参加や意見表明に関する規定を置いている。「子ども会議」の設置や開催に関する規定を置くものも少なくない。
〇 多くの条例は、子どもの権利侵害の救済や相談に関する規定を置いている。このうち、子どもの権利侵害の救済や相談を行うための第三者機関として、権利救済委員会、権利擁護委員会、権利救済委員、権利擁護委員、こどもオンブズパーソン等の設置を規定するものも少なくない(多治見市、目黒区、芽室町、名張市、豊島区、志免町、豊田市、札幌市、筑前町、岩倉市、日進市、筑紫野市、幸田町、宗像市、北広島市、知立市、世田谷区、青森市、松本市、市貝町、那須塩原市、長野県、相模原市、東員町、川崎町、西東京市、甲府市、尼崎市、那珂川市、中野区、山梨県、北本市、富士市、瀬戸市、武蔵野市、むつ市、北区)。また、後述するように、川崎市は川崎市人権オンブズパーソン条例、名古屋市は名古屋市子どもの権利擁護委員条例、江戸川区は江戸川区子どもの権利擁護委員設置条例、小金井市は小金井市子どもオンブズパーソン設置条例、日野市は日野市子どもオンブズパーソン条例を別途制定している。なお、特に救済や相談に関する規定を置いていないものもあり(内灘町、奥州市)、また、子どもの権利侵害全般ではなく、虐待、体罰、いじめ等に対する救済や相談に関する規定を置いているものもある(幕別町、知多市、津島市)。
〇 多くの条例は、子どもに関する施策を推進するための計画策定について規定している。また、子どもに関する施策を推進し、又は施策の推進について検証するため、権利委員会、推進委員会等の附属機関の設置について規定するものも多い。なお、子ども・子育て支援法77条1項に基づいて設置された「子ども・子育て会議」等において、子どもに関する施策の検証等を行う旨規定するものもある(筑紫野市、那須塩原市、奈良市、津島市、川崎町、田川市)。
〇 子どもに関する施策として、虐待、体罰、いじめ等の禁止や防止について定めるものは少なくなく、また、子育て支援や子育て家庭支援について定めるものも少なくない。子どもの居場所に関する規定を置くものも少なくない(川崎市、志免町、豊田市、筑前町、筑紫野市、幸田町、宗像市、北広島市、知立市、泉南市、士別市、日光市、松本市、市貝町、知多市、那須塩原市、東郷町、奈良市、相模原市、東員町、川崎町、甲府市、中野区、山梨県、富士市、南砺市、武蔵野市、むつ市、藤枝市、北区、新潟県。なお、条例上「居場所」を明記しているものに限定している。)。山梨県条例は、ヤングケアラーの支援について規定している。
〇 なお、奈良市条例については自治体法務研究2019年秋号条例制定の事例CASESTUDY「奈良市子どもにやさしいまちづくり条例」を、那珂川市条例及びふじみ野市条例については自治体法務研究2022年秋号条例制定の事例CASESTUDY「那珂川市子どもの権利条例」及び「ふじみ野市こどもの未来を育む条例」を参照されたい。
(「子どもの権利保障をはかる総合的な条例」と見做しうる条例)
〇 「子どもの権利保障をはかる総合的な条例」以外にも、子どもに関して数多くの条例が制定されている(「子どもに関する条例」を参照のこと)。子どもの権利条約総合研究所「子どもの権利保障をはかる総合的な条例一覧(2024年5月現在)」に掲載されている69条例以外にも、子どもの権利を具体的に掲げたうえで、子どもの権利の保障や尊重に関して規定する条例がある。以下のようなものである。
なお、以下の条例のうち、糸島市、国立市、桑名市、石狩市及び北九州市の条例は、子どもの権利条約総合研究所「子どもの権利保障をはかる総合的な条例一覧(2024年5月現在)」の掲載後に制定されている。
岡山県笠岡市 | 平成24年12月27日公布 | 平成25年4月1日施行 |
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大阪府四条畷市 | 平成27年12月28日公布 | 平成28年1月1日施行 |
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京都府八幡市 | 平成28年9月27日公布 | 平成28年9月27日施行 |
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岡山県新見市 | 平成31年3月25日公布 | 令和元年5月5日施行 |
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福岡県宇美町 | 令和2年3月27日公布 | 令和2年4月1日施行 |
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東京都荒川区 | 令和5年3月2日公布 | 令和5年4月1日施行 |
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長野県佐久市 | 令和5年3月22日公布 | 令和5年4月1日施行 |
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東京都町田市 | 令和5年12月28日公布 | 令和6年5月5日施行 |
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福岡県糸島市 | 令和6年9月30日公布 | 令和6年9月30日施行 |
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東京都国立市 | 令和6年11月28日公布 | 令和7年4月1日施行 |
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三重県桑名市 | 令和6年12月5日公布 | 令和7年4月1日施行 |
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北海道石狩市 | 令和6年12月19日公布 | 令和7年4月1日施行 |
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北九州市 | 令和6年12月20日公布 | 令和7年4月1日施行 |
これらの条例のうち、笠岡市、四条畷市、八幡市、新見市、佐久市及び町田市の条例は「生きる権利」、「育つ権利」、「守られる権利」及び「参加する権利」の4つの権利を、それぞれ具体的に列挙したうえで、子どもの権利が保障又は尊重されなければならない旨を規定し、また、何らかの形で救済又は相談に関する規定を置いている。
宇美町条例は全体として子ども・子育て支援について定めているが、「安心して生きる権利」、「自分らしく生きる権利」及び「自己表現や社会参画への権利」の3つの権利を具体的に列挙したうえで、基本理念として「子どもの権利が尊重されること」(3条1号)を規定している。
荒川区条例は、子どもの権利の保障に関する基本理念と特に大切に守られるべき子どもの権利を定める(3条、4条1項)とともに、保護者・区民・育ち学ぶ施設・区の役割、子どもの意見等の表明・参加、子どもの権利を守るための取組等を規定している。
糸島市条例は、令和6年9月に制定されているが、「生命、生存及び発達に対する権利」、「差別されない権利」、「休み、自由に過ごすことができ豊かに育つ権利」、「考えを表明し参加できる権利」及び「こどもにとって最もよいことが第一とされる権利」の5つの権利を具体的に列挙したうえで、こどもの権利が守られる旨を規定する(3条~8条)とともに、こどもの権利救済委員会を設置している(17条)。
国立市条例は、令和6年11月に制定されているが、「安心して生きる権利」、「自分らしく心豊かに育つ権利」及び「意見を表明する権利、意見が尊重される権利及び参加する権利」の3つの権利を具体的に列挙したうえで、こどもの権利が保障される旨を規定する(5条~8条)とともに、家庭、育ち学ぶ施設及び地域におけるこどもの権利の保障の対応等について規定する(9条~11条)ほか、権利侵害の相談・救済として、国立市総合オンブズマン条例の規定に基づき、子どもの人権オンブズマンに対し、相談し又は救済を求めることができる(23条)としている。
桑名市条例は、令和6年12月に制定されているが、こどもの権利が保障される旨規定したうえで、特に大切なものとして10の権利を列挙する(3条)とともに、こどもの意見表明や参加について規定する(16条、17条)ほか、こどもの権利擁護委員会を設置している(23条)。
石狩市条例は、令和6年12月に制定されているが、「安全に安心して生きる権利」、「自分らしく成長できる権利」、「意見を表明し、参加する権利」及び「守り、守られる権利」の4つの権利を具体的に列挙したうえで、これらの権利が保障される旨を規定する(3条~6条)とともに、こどもの意見表明や参加について規定する(11条、12条)ほか、こどもの権利救済委員会を設置している(13条)。
北九州市条例は、令和6年12月に制定されているが、「安心して生きる権利」、「自分を守り、自分が守られる権利」、「自分らしく生きる権利」、「心豊かに育つ権利」及び「社会に参加し、意見を表明する権利」の5つの権利を具体的に列挙したうえで、こどもの権利が保障されなければならない旨を規定する(4条~9条)とともに、こどもの権利侵害の救済及び意見表明、家庭、施設及び地域におけるこどもの権利の保障の対応等に関する努力義務について規定している(10条、11条、16条~18条)。
上記の69条例の中には、子どもの権利の内容について具体的に規定しないものや救済や相談に関する規定がないものもあることを考慮した場合、これらの条例も「子どもの権利保障をはかる総合的な条例」と見做しうるものと考えられる。
〇 なお、
和歌山県上富田町 | 令和2年6月15日公布 | 令和2年6月15日施行 |
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福島県広野町 | 令和3年6月11日公布 | 令和3年6月11日施行 |
は、いずれも条例名を「子どもの権利に関する条例」または「子どもの権利条例」としているが、子どもの権利に関する具体的な規定はなく、救済、相談等に関する規定も置いていない。
【子どもの権利の救済のための機関の設置に関する条例】
〇 「子どもの権利保障をはかる総合的な条例」ではなく、子どもの権利の救済のためのオンブズマンや委員会等の設置に関する条例が制定されている。以下のような条例である。
兵庫県川西市 | 平成10年12月22日公布 | 平成11年3月23日施行 |
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川崎市 | 平成13年6月29日公布 | 平成14年4月1日施行 |
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埼玉県 | 平成14年3月29日公布 | 平成14年11月1日施行 |
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兵庫県宝塚市 | 平成26年6月30日公布 | 平成26年11月1日施行 |
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東京都国立市 | 平成28年12月8日公布 | 平成29年4月1日施行 |
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名古屋市 | 平成31年3月27日公布 | 令和元年9月1日施行 |
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東京都江戸川区 | 令和3年6月30日公布 | 令和4年2月1日施行 |
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東京都小金井市 | 令和4年2月17日公布 | 令和4年4月1日施行 |
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東京都日野市 | 令和6年3月29日公布 | 令和6年5月27日施行 |
〇 これらの条例のうち、最も早く制定されたのは川西市条例である。同条例は、すべての子どもは子どもの権利条約に基づく権利及び自由を保障される(2条1項)としたうえで、子どもの人権の擁護や人権侵害の救済、防止等のため子どもの人権オンブズパーソンを設置するとともに、救済の申立て、処理等に関する手続等を定めている。
〇 川崎市、名古屋市、江戸川区、小金井市及び日野市の条例は、「子どもの権利保障をはかる総合的な条例」とは別に制定されている。川崎市は、川崎市子どもの権利に関する条例で「子どもは、川崎市人権オンブズパーソンに対し、権利の侵害について相談し、又は権利の侵害からの救済を求めることができる。」(35条1項)と規定し、川崎市人権オンブズパーソン条例で人権オンブズパーソンの設置、職務、責務、組織等を定め、救済の申立て、調査等の規定を置いている。名古屋市は、なごや子どもの権利条例を平成20年の制定し、令和2年等に改正しているが、平成31年に名古屋市子どもの権利擁護委員条例を制定している。江戸川区は、令和3年に江戸川区子どもの権利条例と江戸川区子どもの権利擁護委員設置条例を同時に制定している。小金井市は、平成21年に小金井市子どもの権利に関する条例を制定したうえで、令和4年に小金井市子どもオンブズパーソン設置条例を制定し、日野市は、平成20年に日野市子ども条例を制定したうえで、令和6年に日野市子どもオンブズパーソン条例を制定している。
〇 子どもの権利侵害の救済のための機関として、埼玉県条例は子どもの権利擁護委員会を、宝塚市条例は子どもの権利サポート委員会を設置するものとし、併せて救済の申立て、調査等の規定を置いている。また、国立市条例は一般オンブズマン及び子どもの人権オンブズマンの職務を行う総合オンブズマンを設置するとしたうえで、子どもの人権オンブズマンとしては子どもの人権の擁護、人権侵害の救済、防止等の職務を行うこととし、併せて救済の申立て、調査等の規定を置いている。
〇 子ども・子育て支援条例において、子どもの権利の救済のための機関の設置について規定するものとして、
秋田県 | 平成18年9月29日公布 | 平成18年9月29日施行 |
がある。秋田県条例は、子どもの権利の救済に関する調査を行うとともに、子どもの権利の擁護に関する重要事項を調査審議するため、子どもの権利擁護委員会を設置する(21条)ものとしている。
〇 なお、子どもの権利の支援や擁護に関する施設や機関の設置について規定するものとして、
富山県射水市 | 平成17年11月1日公布 | 平成17年11月1日施行 |
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東京都中野区 | 令和2年10月14日公布 | 令和2年10月14日施行 |
がある。射水市条例は、子どもの権利に関する施策の推進を図るための活動拠点として、子どもの権利支援センターを設置するものとし、中野区条例は、子どもの権利の擁護に係る施策を推進するために必要な事項を調査審議するため、子どもの権利擁護推進審議会を設置するものとしている。