終活支援に関する条例
(令和7年4月7日更新)
【条例の制定状況】
〇 終活の支援を目的とする条例が制定されている。令和7年3月19日時点で、以下のような条例が確認できる。すなわち、
神奈川県大和市 | 令和3年6月29日公布 | 令和3年7月1日施行 |
|
岡山市 | 令和7年3月19日公布 | 令和7年4月1日施行 |
である。
(大和市の条例)
〇 大和市条例は、令和3年6月に制定された。
本条例は、目的(1条)、定義(2条)、基本理念(3条)、市の責務(4条)、事業者の役割(5条)、市民の役割(6条)、基本的施策(7条)、財政上の措置(8条)及び委任(9条)の全9条から構成されている。
〇 「終活」を「自らの死と向き合い、自己の希望及び周囲の人々への影響を考慮したエンディング及び死後の手続に関する準備を行う活動」(2条1号)と定義づけたうえで、「終活支援に関する基本理念及び基本的施策を定めることにより、終活支援に関する施策の総合的な推進を図り、もって心豊かな市民生活の実現に寄与すること」(1条)を目的としている。
基本理念として「市民が主体的に終活に取り組むことができる環境を構築すること」、「終活に関する市民のニーズを的確に把握し、時代に適合した多様な施策を行うこと」及び「市民それぞれの終活に対する考え方を尊重し、理解を深めること」を掲げる(3条)とともに、市が実施する基本的施策として「終活に関する相談支援」、「終活に関する情報の収集及び広報」、「終活に関するイベントの開催」、「市民が終活に取り組みやすい環境整備」等(7条)を規定している。
〇 大和市は、「高齢の一人暮らし世帯の割合が高い状況にあります。誰しも自分の死後のことに不安はあります。終活は、自らの死と死後への不安を軽減するための取り組み。終活に取り組む人を支援するために、終活支援条例を制定しました。」、「2016年からおひとりさまを支援する施策を本格化。これまでに積み上げてきた実績を踏まえて、おひとりさまなどの終活を継続的に支援していきます。」などとしている(大和市発行 やまとニュース100号「全国初 終活支援条例を制定」)。
本条例については自治体法務研究2022年春号CLOSEUP先進・ユニーク条例「大和市終活支援事業」を、大和市の終活支援事業については大和市HP「終活支援(終活相談など)」を参照されたい。
(岡山市の条例)
〇 岡山市条例は、令和7年3月に議員提案により制定された。
本条例は、目的(1条)、定義(2条)、基本理念(3条)、市の責務(4条)、事業者の役割(5条)、市民の役割(6条)、基本的施策(7条)及び財政上の措置(8条)の全8条から構成されている。
〇 「終活」を「世代を問わず、人生をどのように全うしたいかという理想の下に、そこから遡って今するべきことは何かを考え、人生を全うするに当たっての先々の準備を整える活動」(2条1号)と定義づけたうえで、「市が行う終活支援に関する基本理念及び基本的施策を定め、市の責務並びに市民及び事業者の役割を明らかにすることで、市民の将来への不安を軽減するとともに,全ての世代が自身の人生を見つめ,今をよりよく生きることのできる心豊かな市民生活の実現に寄与すること」(1条)を目的としている。
基本理念として「市民が主体的に終活に取り組むことができる環境を整備すること」、「終活に関する市民の要望を適切に把握し、時代に適合した施策を行うこと」及び「市民それぞれの終活に対する考え方を尊重し、理解を深めること」を掲げる(3条)とともに、市が実施する基本的施策として「人生会議その他の終活に関する普及啓発及び教育」、「エンディングノートその他の終活に関する自らの意思を記録するための媒体の作成及び普及」、「おくやみハンドブックの作成及び普及」、「終活に関する様々な手続への正しい理解の普及」、「終活に関する相談の支援」、「終活に関する情報の収集及び提供」、「終活に係る個人情報の詐取その他犯罪行為に対する防犯の啓発及び知識の普及」等(7条)を規定している。
〇 本条例の制定の背景や経緯等については、岡山市議会パブリックコメント資料「「岡山市民の終活を支援するための条例(仮称)案」の概要・条文案」を参照されたい。
自治体の終活支援事業
〇 自治体の終活支援事業については、神奈川県横須賀市の「エンディングプラン・サポート事業」及び「わたしの終活登録」の取組みがよく知られている。
〇 こうした横須賀市の取組みも含め自治体の終活支援事業について論じたものとして、八木橋慶一「地域福祉における「終活」支援と行政の役割ー横須賀市の事例からー」(地域政策研究(高崎経済大学地域政策学会)22巻4号 令和2年3月)、八木橋慶一「終活における行政の役割――実態と今後の展望」(都市問題 2023年8月号)、塩浜克也「終活事業と自治体」(法学セミナー「終活と法」2020年9月号)などがある。
「終活」とは
〇 「終活」とは「人生の最後に向けて準備をすること。財産を整理する、墓を購入するなど。」(大辞林第4版)とされる。
もともと「学生の『就活(就職活動)』をもじったメディアの造語」(八木橋慶一上記「地域福祉における「終活」支援と行政の役割ー横須賀市の事例からー」103頁)であり、「2009年週刊朝日での連載記事によるものとされ、当初は主に葬儀や墓に関する内容を指した。終活という言葉が広がるにつれ、その内容に相続、財産整理、延命治療、介護、認知症、また遺品整理などが含まれるべきとの動きが生じ」た(木村由香、安藤孝敏「マス・メディアにおける終活のとらえ方とその変遷─テキストマイニングによる新聞記事の内容分析―」(技術マネジメント研究 第17号)要旨)とされる。
〇 「終活」は法令用語としては使用されていない。
〇 条例では、上記の条例のほか、大阪府の「いのち輝く人生のため「人生会議」を推進する条例」(令和4年12月23日公布・令和5年4月1日施行)が、前文で「自分らしい豊かな人生を全うする上で最も優先されるべきは本人の意思であり、「終活」やリビング・ウィル(事前指示書)への関心が高まっている。」と規定し、「終活」という用語を使用している。