人権の尊重と差別の解消に関する条例
(令和6年7月28日更新)
【条例制定の流れ】
(人権の尊重と差別の解消に関する条例(人権条例))
〇 「日本国憲法」は、「国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。」(11条)とし、また、「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」(14条1項)等として、基本的人権の保障と法の下での平等を定めている。
「世界人権宣言」は、「すべての人間は、生れながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である。人間は、理性と良心とを授けられており、互いに同胞の精神をもって行動しなければならない。」(1条)とし、「すべて人は、人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治上その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、門地その他の地位又はこれに類するいかなる事由による差別をも受けることなく、この宣言に掲げるすべての権利と自由とを享有することができる。」(2条1項)等として、人権及び自由を尊重し確保するために「すべての人民とすべての国とが達成すべき共通の基準」を宣言している。
〇 日本国憲法や世界人権宣言等を踏まえ、人権の尊重と差別の解消に関して、自治体や住民等の責務や役割を明らかにし、基本的な施策等を定める条例を制定している自治体が少なくない。本稿では、こうした「人権の尊重と差別の解消に関する条例」(以下「人権条例」という。)を取り上げる。なお、施設の設置・運営、附属機関の設置等のみを定めた条例は対象外とする。
〇 一言で人権条例と言っても、その対象とする人権や差別の範囲は多様である。人権全般を対象にして規定するものもあれば、部落差別の撤廃・解消、子どもの人権の尊重、障害者差別の解消、性別・性的指向・性自認等による差別の禁止、人種・国籍・民族等による差別の禁止、新型コロナウイルス感染症等の感染者に対する差別の禁止、インターネット上の誹謗中傷等による被害者の支援等、特定の人々や分野における人権の尊重や差別の解消・禁止等を規定するものもある。
(昭和60年の大阪府及び大阪府島本町の条例の制定)
〇 こうした条例で、最も早い時期に制定されたのは、昭和60年制定の大阪府と大阪府島本町の条例であると考えられる。
〇 大阪府は「大阪府部落差別事象に係る調査等の規制等に関する条例」(昭和60年3月27日公布・ 昭和60年10月1日施行)を制定した。「昭和50年以降、同和地区の名称や所在地、戸数、主な職業などを記載した書籍『部落地名総鑑』が売買され、結婚などの個人調査用に興信所で使用されたり、就職者の個人調査用に企業などが購入したりする事件が発覚し、大きな社会問題になりました。大阪府では、この事案を契機に、部落差別につながる調査・報告をなくし、 府民の基本的人権を守る助けとなることを目的とした『大阪府部落差別事象に係る調査等の規制等に関する条例』を昭和60年10月に施行しました。」(大阪府HP「「大阪府部落差別事象に係る調査等の規制等に関する条例」の概要や周知の取組み」)としている。
〇 大阪府島本町は「島本町人権擁護に関する基本条例」(昭和60年3月20日公布・施行)を制定した。同条例の提案説明において、当時の町長は、町議会は昭和59年3月に「人権擁護施策の充実に関する意見書」を提出し、同年8月に「プライバシー保護及び興信所、探偵社による差別調査の法的規制に関する要望決議」を行ったが、こうしたことの背景として「未だ人権の侵害があとを絶たず、基本的人権の確立を目指し、さらに積極的に取組みを推進しなければならない」等の課題があるとしたうえで、「人権を積極的に擁護するための法律の整備促進と併せ、人権思想の普及により、誰もが、自らの人権を守り、他人の人権を尊重する、といった社会の実現に今こそ努めなければならない」としている(昭和60年第1回島本町議会定例会における提案説明(抜粋が、部落解放基本法制定要求国民運動中央実行委員会編「足元からの部落解放基本法実現へー条例・宣言をつくろうー」(人権ブックレット39 平成5年3月)84、85頁に掲載))。
(平成5年以降の部落差別撤廃・人権擁護条例等の制定の動き)
〇 大阪府条例及び島本町条例に続いて、人権条例が制定されるのは、8年後の平成5年である。平成5年6月から7月にかけて、徳島県の阿南市、旧井川町、旧池田町、旧海部町、旧日和佐町、旧三加茂町、旧三野町、旧三好町、牟岐町、旧山城町、旧西祖谷山村及び旧東祖谷山村が「部落差別撤廃・人権擁護に関する条例」という同名でほぼ同じ内容の条例を制定し(一般社団法人部落解放・人権研究所HP「部落差別撤廃・人権条例一覧(2001年12月現在)」参照)、鳥取県智頭町が「智頭町基本的人権の擁護に関する条例」を制定した。また、平成5年9月には、徳島県内の市町村のほか、奈良県安堵町が「安堵町部落差別の撤廃及び人権の擁護に関する条例」を、大阪府泉佐野市が「泉佐野市における部落差別撤廃とあらゆる差別をなくすことをめざす条例」を制定している。その後、同様の内容の条例が各地で制定されている。
〇 こうした時期に部落差別撤廃・人権擁護条例等の条例が制定され始めた背景として、それまで同和対策は「地域改善対策特定事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律」(以下「地対財特法」という。)に基づき取組みが進められてきたが、「住環境面の改善等では効果があるものの、差別事件や差別意識の払拭等には限界があるということで、1985年(昭和60年)5月頃から『部落解放基本法』の制定を求めた運動が本格的に開始された。しかしながら、その展望がみえてこないだけでなく、『特別措置法』の打ち切りが濃厚になってきた。このような状況下で90年代初頭から、自治体レベルで『部落解放基本法』の内容を盛り込んだ条例の制定を求める運動が開始された。」(友永健三「部落差別撤廃・人権条例の制定の経過・現状・今後の課題」(部落解放研究175号 平成19年4月 以下「友永論文①」という。)4頁)とされる(なお、前記部落解放基本法制定要求国民運動中央実行委員会編資料26頁では、「部落差別撤廃」条例大綱(案)が掲載されている。)。
(平成8年地域改善対策協議会意見具申以降の人権を尊重する社会(まち)づくり条例等の制定の動き)
〇 都道府県では、部落差別に係る調査等の規制に関しては、大阪府条例に続き、平成7年3月に熊本県で「部落差別事象の発生の防止及び調査の規制に関する条例」が、平成7年10月に福岡県、平成8年3月に香川県、平成8年12月に徳島県でそれぞれ「部落差別事象の発生の防止に関する条例」が制定された。
〇 他方、平成8年7月に鳥取県は「鳥取県人権尊重の社会づくり条例」を制定している。この条例は人権全般を対象にして人権尊重の社会づくりを目指すものであるが、同趣旨の条例は、平成9年に奈良県で「奈良県あらゆる差別の撤廃及び人権の尊重に関する条例」、三重県で「人権が尊重される三重をつくる条例(全部改正前)」が、平成10年に佐賀県で「佐賀県人権の尊重に関する条例(令和5年3月廃止)」、高知県で「高知県人権尊重の社会づくり条例」、大阪府で「大阪府人権尊重の社会づくり条例」が制定されるなど、都道府県での制定が広がった。
〇 平成8年5月17日に、地対財特法終了後を見越して地域改善対策の今後の基本的な課題について審議してきた地域改善対策協議会が「同和問題の早期解決に向けた今後の方策の基本的な在り方について(意見具申)」をとりまとめたが、その中で「世界の平和を願う我が国が、世界各国との連携・協力の下に、あらゆる差別の解消を目指す国際社会の重要な一員として、その役割を積極的に果たしていくことは、『人権の世紀』である21世紀に向けた我が国の枢要な責務というべきである。」としたうえで、「同和問題は過去の課題ではない。この問題の解決に向けた今後の取組みを人権にかかわるあらゆる問題の解決につなげていくという、広がりをもった現実の課題である。」などとの基本認識を示している。
友永健三「今、改めて人権条例制定の意義と課題を考える」(ヒューマンライフ293号 平成24年8月 以下「友永論文②」という。)10頁は、鳥取県条例については、こうした地域改善対策協議会の意見具申の考え方を踏まえ、制定されたものとしている。
〇 平成6年に大阪府阪南市の「阪南市人権擁護に関する条例」、大阪府泉大津市の「泉大津市人権を尊ぶまちづくり条例」等の条例が制定されているが、鳥取県条例と同じく平成8年7月に滋賀県守山市が「守山市人権尊重のまちづくり条例」を制定し、これ以降、市町村でも「人権尊重のまちづくり条例」や「人権尊重の社会づくり条例」とする条例が数多く制定されている。
〇 なお、前記地域改善対策協議会の意見具申を踏まえ、平成8年12月に5年間の時限立法として「人権擁護施策推進法」が制定され、同法に基づき人権擁護推進審議会が設置された。同審議会の答申に基づき、平成12年12月に「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」が制定され、さらに同じく同審議会の答申に基づき、平成14年3月に「人権擁護法案」が国会に提出されたが、平成15年10月の衆議院解散により同法案は廃案となっている。また、地対財特法は、平成14年3月末をもって失効している。
(平成10年代後半から平成20年代初頭にかけての人権尊重・擁護等に関する条例又は部落差別の撤廃等に関する条例の制定状況)
〇 人権条例のうち、人権全般を対象とする人権尊重・擁護等に関する条例(以下【条例制定の流れ】の項目において「人権尊重・擁護等に関する条例」という。)又は部落差別の撤廃等に関する条例(部落差別に係る調査等の規制に関する条例を含む。以下【条例制定の流れ】の項目において同じ。)については、友永論文①は「部落差別撤廃・人権条例」として、平成16年10月20日現在では都道府県は16条例(大阪府は2条例)、市町村は764条例(市区町村総数は3035団体)、平成19年1月29日現在では都道府県は17条例(大阪府及び鳥取県は2条例)、市町村は396条例(市区町村総数は1835団体)が制定されているとし、友永論文②は「人権条例」として、平成21年6月12日現在では都道府県は17条例(大阪府は2条例)、市町村は410条例(市区町村総数は1804団体)が制定されているとしている。
平成19年1月29日現在の都道府県条例及び市町村条例の一覧表は、一般社団法人部落解放・人権研究所HP「部落差別撤廃・人権条例一覧」で見ることができる。
なお、市町村条例の数は、平成16年時点に比べ、平成19年時点では大きく減少しているが、市町村合併の影響によるものである。
〇 平成21年6月12日現在制定されている条例は、都道府県条例については栃木県、福井県、三重県、滋賀県、大阪府、奈良県、和歌山県、鳥取県、徳島県、香川県、愛媛県、高知県、福岡県、佐賀県、熊本県及び大分県で制定されている。また、市町村条例についてはその制定状況を都道府県単位で見ると、22府県(栃木県、福井県、長野県、三重県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県、鳥取県、岡山県、広島県、徳島県、香川県、愛媛県、高知県、福岡県、佐賀県、熊本県、大分県及び鹿児島県)に所在する市町村で制定されており、他の25都道県に所在する市区町村では全く制定されていないこととなる。
当時、人権尊重・擁護等に関する条例や部落差別の撤廃等に関する条例は、主として西日本に所在する都道府県や市町村で制定されていたといえる。
(平成10年代に始まり平成20年代に活発化する、女性、子供、障害者等の人権保護や差別解消等に関する条例の制定の動き)
〇 人権条例に関して、それまでの人権尊重・擁護等に関する条例や部落差別の撤廃等に関する条例とは別に、女性、子供、障害者等の特定の人々や分野における人権保護や差別解消等に関する条例が制定されている。この動きは、平成10年代に始まり平成20年代に活発化する。
〇 女性については、平成11年に男女の人権の尊重と共同参画社会の形成を目的とした「男女共同参画社会基本法」が制定(平成11年6月23日公布・施行)されたが、それ以降全国の都道府県や市区町村で「男女共同参画推進条例」等が制定されている(男女共同参画に関する条例については、平成13年度以降毎年度の制定状況を内閣府男女共同参画局「地方公共団体における男女共同参画社会の形成又は女性に関する施策の推進状況」において公表されており、令和5年4月1日現在では46都道府県、691市区町村で制定されている(「地方公共団体における男女共同参画社会の形成又は女性に関する施策の推進状況(令和5年度)」集計表2-1及び2-2)。また、「男女共同参画条例・ジェンダー平等条例」を参照されたい。)。
〇 子どもについては、平成6年に「児童の権利に関する条約」がわが国で批准されたが、平成11年9月に大阪府箕面市が「箕面市子ども条例」が、平成12年12月に川崎市が「川崎市子どもの権利に関する条例」を制定し、それ以降多くの都道府県や市区町村で、子どもに関する条例や子どもの権利に関する条例を制定している(こうした条例の制定状況については、「子どもに関する条例」や「子どもの権利に関する条例」を参照されたい)。
〇 障害者については、平成20年に「障害者の権利に関する条約」が発効したが、こうした動向を踏まえ、平成18年10月に千葉県が「障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり条例」が制定され、それ以降順次、都道府県や市町村で障害者差別解消に関する条例が制定されていった(こうした条例の制定状況については、「障害者差別解消に関する条例」を参照されたい)。
(平成28年以降の人権条例の新たな動き)
〇 平成28年に「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(平成25年6月26日公布・平成28年4月1日施行)が施行され、また、同年「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」(平成28年6月3日公布・施行)や「部落差別の解消の推進に関する法律」(平成28年12月16日公布・施行)が制定されたが、こうした法律の施行や制定を踏まえ、特に平成28年以降、人権尊重・擁護等に関する条例や部落差別の撤廃等に関する条例について、一部改正や全部改正を行い、または新たな条例を制定するなどの動きが活発化している。いわゆるヘイトスピーチを禁止する規定を置く条例も制定されている(「ヘイトスピーチに関する条例」を参照のこと)
〇 また、平成20年後半以降性的指向や性自認に対する差別の禁止に関して、令和2年以降新型コロナウイルス感染症の感染者等に対する差別の禁止やインターネット上の誹謗中傷等による被害者の支援等被害者の支援等に関して、新たな条例を制定するとともに、人権尊重・擁護等に関する条例においてもこれらの内容を盛り込む動きが出てきている(「性の多様性に関する条例」、「新型コロナウイルス感染症に関する条例」及び「誹謗中傷に関する条例」を参照のこと)。
〇 以下、人権条例を都道府県条例と市町村条例に分けて、また、特に平成28年以降の新たな動きも含めて、見ていくこととする。
【都道府県条例】
〇 令和6年7月1日時点で、都道府県において、人権条例のうち、19都道府県で人権全般を対象とする人権尊重に関する条例(以下【都道府県条例】の項目において「人権尊重に関する条例」という。)を、8府県で部落差別に関する条例(部落差別の解消の推進に関する条例及び部落差別に係る調査等の規制に関する条例をいう。以下【都道府県条例】の項目において同じ。)を制定していることが確認できる。
〇 大阪府、奈良県及び和歌山県は、人権尊重に関する条例及び部落差別に関する条例の両方とも制定している(大阪府は「大阪府人権尊重の社会づくり条例」及び「大阪府部落差別事象に係る調査等の規制等に関する条例」、奈良県は「奈良県あらゆる差別の撤廃及び人権の尊重に関する条例」及び「奈良県部落差別の解消の推進に関する条例」、和歌山県は「和歌山県人権尊重の社会づくり条例」及び「和歌山県部落差別の解消の推進に関する条例」)。
(人権尊重に関する条例)
〇 まず、人権尊重に関する条例は、以下のとおりである。
鳥取県 | 平成8年7月9日公布 | 平成8年8月1日施行 平成21年4月1日改正施行 令和3年4月1日改正施行 |
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奈良県 | 平成9年3月27日公布 | 平成9年3月27日施行 |
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三重県 | 人権が尊重される三重をつくる条例(全部改正前) |
平成9年7月1日公布 | 平成9年10月1日施行 |
佐賀県 | 佐賀県人権の尊重に関する条例(廃止) |
平成10年3月25日公布 | 平成10年4月1日施行 令和5年3月13日廃止 |
高知県 | 平成10年3月30日公布 | 平成10年4月1日施行 |
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大阪府 | 平成10年10月30日公布 | 平成10年11月1日施行 令和元年10月30日改正施行 |
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愛媛県 | 平成13年3月23日公布 | 平成13年4月1日施行 |
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滋賀県 | 平成13年3月28日公布 | 平成13年4月1日施行 |
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和歌山県 | 平成14年3月26日公布 | 平成14年4月1日施行 |
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福井県 | 平成15年3月12日公布 | 平成15年4月1日施行 |
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栃木県 | 平成15年3月18日公布 | 平成15年4月1日施行 |
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大分県 | 大分県人権尊重社会づくり推進条例(改正前) 人権尊重社会づくり推進条例(改正後) |
平成20年12月19日公布 | 平成21年4月1日施行 令和4年3月30日改正施行 |
東京都 | 平成30年10月15日公布 | 平成30年10月15日施行 |
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鹿児島県 | 令和4年3月11日公布 | 令和4年3月11日施行 |
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宮崎県 | 令和4年3月14日公布 | 令和4年3月14日施行 |
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秋田県 | 令和4年3月25日公布 | 令和4年4月1日施行 |
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愛知県 | 令和4年3月25日公布 | 令和4年4月1日施行 |
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三重県 | 差別を解消し、人権が尊重される三重をつくる条例(全部改正後) |
令和4年5月19日公布 | 平成4年5月19日施行 |
佐賀県 | 社会づくりを進める条例 |
令和5年3月13日公布 | 平成5年3月13日施行 |
山梨県 | 令和5年3月24日公布 | 令和5年3月24日施行 |
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沖縄県 | 令和5年3月31日公布 | 令和5年4月1日施行 |
〇 制定は、鳥取県条例が最も古く平成8年7月であり、奈良県から栃木県までの10条例は、平成15年までに制定されている。大分県条例が平成20年に制定された後は、東京都条例が平成30年10月に制定された。
その後、鳥取県条例が令和3年4月1日に改正施行され、令和4年3月には鹿児島県、宮崎県、秋田県及び愛知県の条例が新規制定、大分県条例が改正施行、三重県条例が全部改正施行されている。また、令和5年3月には佐賀県が既存条例を廃止し、新条例を制定しており、山梨県条例が新規制定されている。令和3年以降、条例制定又は改正する団体が増加している。
〇 条例名は、多くの条例は「人権尊重の社会づくり条例」としている。また、ほとんどの条例は条例名に「人権尊重」、「人権の尊重」又は「人権が尊重」との表現を使用しているが、秋田県条例は条例名を「多様性に満ちた社会づくり条例」としている。
〇 条例が対象としているのは人権全般であるが、各条例の前文や目的規定で、条例が課題と捉える差別や人権侵害を例示している。
条例によって規定の仕方は異なるが、例えば、奈良県条例は「部落差別をはじめとして、女性、障害者、その他の社会的弱者への差別」(前文)とし、大阪府条例は「社会的身分、人種、民族、信条、性別、障害があること等に起因する人権侵害」(前文)としている。
また、多くの条例は、人権の尊重に関して、都道府県、住民、事業者等の責務や役割を定めるとともに、知事による基本方針・基本計画の策定、審議会・協議会の設置等について規定し、理念的な規定が中心となっている。
なお、三重県議会「令和2年度差別解消を目指す条例検討調査特別委員会」における令和2年11月19日開催の委員会の「資料1 都道府県等における差別の解消に関する条例について」3頁~9頁及び「参考資料(資料1関係)」1頁・3頁は、東京都条例までの条例の整理・分析をしているので、参照されたい。
〇 東京都条例は、「いかなる種類の差別も許されないという、オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念が広く都民等に一層浸透した都市となること」(1条)を目的とし、そのための都の責務等(2条)を明らかにしたうえで、性自認及び性的指向を理由とする不当な差別的取扱いの禁止(3条~7条)、本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組み(8条~18条)を定めている。単に理念的な規定のみならず、性自認や性的指向に対する差別禁止やいわゆるヘイトスピーチの拡散防止措置等の規定を置いている。
東京都条例については、東京都HP「東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例」を参照されたい。
〇 鳥取県条例は、条例が課題と捉える差別や人権侵害を例示として、令和3年4月1日の改正施行前は「同和問題、女性の人権に関する問題、障害者の人権に関する問題などの人権に関する問題」(旧1条)としていたが、改正後は「人種、国籍、民族、信条、年齢、性別、性的指向、性自認、障がい、感染症等の病気、職業、被差別部落の出身であることその他の事由を理由とする差別その他の人権に関する問題」(新1条)とし、人種・国籍・民族、性的指向・性自認、感染症等の病気等を新たに例示として加えている。
そのうえで、こうした事由を理由とするインターネットを通じて行う行為を含む差別行為(①誹謗中傷、著しく拒絶的な対応、不当な差別的言動その他の心理的外傷を与える行為、②いじめ又は虐待、③プライバシーの侵害、④不当な差別的取扱い)を禁止する規定を置いている(新7条1項)。
令和3年の一部改正については、鳥取県HP「鳥取県人権尊重の社会づくり条例の一部改正」を参照されたい。
また、鳥取県条例は、人権に関する相談(8条)を置いている。これは、平成17年に「鳥取県人権侵害救済推進及び手続の関する条例」が制定されたが、鳥取県弁護士会等からの問題点の指摘等があり、施行されず、平成21年4月に廃止されたことに伴い、平成21年4月1日改正施行により追加されたものである(この間の経緯等については、鳥取県HP「人権尊重の社会づくりネットワーク構築までの経緯」を参照のこと)。
〇 大分県条例は、令和4年3月改正施行により、条例前文において今日存在する人権侵害の例示として「性的指向、性自認」を追加するとともに、基本理念(2条)において解消すべき差別として「部落差別、障がい者に対する差別、本邦外出身者に対する差別、感染症の患者等に対する差別その他のあらゆる不当な差別」と明記したうえで、条例名を「大分県部落差別等あらゆる不当な差別の解消等に取り組む人権尊重社会づくり推進条例」としている。
大分県条例の一部改正の内容等については、大分県HP「大分県人権尊重社会づくり推進条例の一部改正について」を参照されたい。
〇 鹿児島県条例は「部落差別をはじめとして、女性、子ども、高齢者、障害者、外国人、性的指向及び性自認等に関する人権問題が依然として存在しており、さらに、インターネット上の誹謗中傷、感染症等に関する差別や偏見など様々な人権問題が生じている」(前文)、宮崎県条例は「同和問題をはじめ、女性、子ども、高齢者、障がいのある人、外国人等に関する人権問題、性的指向・性自認を理由とする人権問題等が存在しており、さらに、新型コロナウイルス感染症に関する差別や誹謗中傷、インターネットによる人権侵害等、社会情勢の変化に伴い新たに取り組むべき人権問題も生じている」(前文)としたうえで、人権尊重の社会づくりを進めることを目的としている。
鹿児島県条例の内容等については鹿児島県HP「鹿児島県人権尊重の社会づくり条例」を、宮崎県条例の内容等については宮崎県HP「宮崎県人権尊重の社会づくり条例について」を、それぞれ参照されたい。
〇 秋田県条例は、「多様性に満ちた社会づくり」を「あらゆる差別の解消を図り、全ての県民が、個性を尊重し合いながら、多様な文化及び価値観を受け入れ、並びに互いに支え合う社会の形成を図ること」(1条)と定義づけたうえで、多様性に満ちた社会づくりを進めることを目的としている。
「何人も、他人に対して、人種、信条、性別、性的指向(・・・)、性自認(・・・)、社会的身分、門地、職業、年齢、心身の機能の障害、病歴その他の事由を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない。」(2条)と規定し、差別の禁止規定を置いている。
条例9条の規定に基づき秋田県が令和4年4月に策定した「多様性に満ちた社会づくりに関する指針」は、性別を理由とするもの、障害を理由とするもの、感染症の患者及び医療・介護従事者等に対するもの、がん等の疾病を理由とするもの、性的指向、性自認等を理由とするもの、外国人に対するもの、年齢を理由とするもの、犯罪被害者等に対するもの、犯罪をした人等に対するもの、ハラスメント、いじめ及びその他の差別等に分けて、差別等の具体例と判断に当たって配慮すべき点を具体的かつ詳細に記述している。
秋田県条例の内容等については、秋田県HP「秋田県多様性に満ちた社会づくり基本条例の施行について」を参照されたい。
〇 愛知県条例は、「人種、国籍、民族、信条、年齢、性別、性的指向、性自認、社会的身分、門地、障害、疾病その他の事由による不当な差別が存在しており、また、インターネットの普及を始めとした情報化の進展、少子高齢化等の地域社会の変化、経済的格差の拡大等の経済社会の構造の変化などによって、人権に関する課題の複雑化及び多様化が進んでいる」(前文)としたうえで、人権尊重の社会づくりを進めることを目的としている。
県、県民及び事業者の責務、基本計画の策定、人権施策推進審議会の設置等の規定のほか、インターネット上の誹謗中傷等の未然防止及び被害者支援、本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進、部落差別の解消に向けた取組の推進、性的指向及び性自認の多様性についての理解の増進等に関する施策の規定を個別に置いている。
愛知県条例の内容等については、愛知県HP「愛知県人権尊重の社会づくり条例」を参照されたい。
〇 三重県は、平成9年に制定した「人権が尊重される三重をつくる条例」を、令和4年5月に議員提案により全部改正し、「差別を解消し、人権が尊重される三重をつくる条例」(以下「三重県新条例」という。)を制定した。
三重県新条例は、「人種等の属性」を「人種、皮膚の色、国籍、民族、言語、宗教、政治的意見その他の意見、年齢、性別、性的指向、性自認、障がい、感染症等の疾病、職業、社会的身分、被差別部落の出身であることその他の属性」と、「不当な差別」を「人種等の属性を理由とする不当な区別、排除又は制限であって、あらゆる分野において、権利利益を認識し、享有し、又は行使することを妨げ、又は害する目的又は効果を有するもの」、「人権侵害行為」を「不当な差別、いじめ、虐待、プライバシーの侵害、誹謗中傷その他の他人の権利利益を侵害する行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)」、「人権問題」を「人権侵害行為その他の人権に関する問題」とそれぞれ定義づけた(2条)うえで、「不当な差別その他の人権問題の解消を推進し、もって不当な差別その他の人権問題のない、人権が尊重される社会の実現を図ること」(1条)を目的としている。
「何人も、不当な差別をはじめとする人権侵害行為をしてはならない。」(4条1項)、「何人も、共通の人種等の属性を有する不特定多数の者に対して当該人種等の属性を理由として人権侵害行為をすることを助長し、又は誘発する目的で、当該不特定多数の者が当該人種等の属性を有することを容易に識別することを可能とする情報を公然と摘示する行為をしてはならない。」(4条2項)と規定している。
県は人権問題に関する相談に応じなければならない(12条)とするとともに、相談対応での解決が困難な不当な差別に係る紛争について、知事による助言・説示・あっせんの手続を定め(13条、14条)、さらに、知事による勧告、公表、差別解消調整委員会の設置等の規定(15条~18条)を置いている。
三重県新条例の内容等については、三重県HP「差別を解消し、人権が尊重される三重をつくる条例が制定されました」を参照されたい。
〇 佐賀県は、令和5年3月に、平成10年に制定した「佐賀県人権の尊重に関する条例」を廃止し、新たに「全ての佐賀県民が一人一人の人権を共に認め合い、支え合う社会づくりを進める条例」(以下「佐賀県新条例」という。)を制定した。
佐賀県新条例は、「全ての県民が一人一人の人権を共に認め合い、支え合う社会づくり(・・・)を進めるにあたっての県、市町、県民及び事業者の責務を明らかにするとともに、その施策の基本となる事項等を定めることにより、部落差別(同和問題)及び女性、子ども、高齢者、障害者等の人権に関する問題の解消を図り、もって人権が尊重される社会づくりの推進に寄与すること」(1条)を目的としている。
「何人も、不当な差別、いじめ、虐待、プライバシーの侵害、誹謗中傷その他の他人の権利利益を侵害する行為(インターネットを通じて行われるものを含む。以下「人権侵害行為」という。)をしてはならない。」(7条1項)としたうえで、人権侵害行為に対する知事の助言・説示・あっせん、勧告、意見聴取、勧告状況の報告(9条~12条)等について規定している。
併せて、「インターネット上の誹謗中傷等」を「インターネットを利用して、プライバシーの侵害に該当する情報、誹謗中傷に該当する情報その他の他人の権利利益を侵害する情報又は人権侵害行為を助長し、若しくは誘発する情報(以下「人権侵害情報等」という。)を発信すること」(13条1号)と定義づけたうえで、県は、インターネット上の誹謗中傷等の防止のための教育及び啓発に取り組む(13条1号)とするとともに、インターネット上の誹謗中傷等が行われた場合で必要があると認められる場合には、人権侵害情報等の送信を防止する措置を講ずる権限を有する者等に対して人権侵害情報等の削除に向けた必要な措置を講ずる(13条2項)ものとしている。
佐賀県新条例の内容等については、佐賀県HP「「全ての佐賀県民が一人一人の人権を共に認め合い、支え合う社会づくりを進める条例」を制定しました。」を参照されたい。
〇 山梨県条例は、「多様性を認め合う共生社会づくり」を「差別を無くし、全ての県民が、一人ひとりの違いを尊重し合い、多様な文化及び価値観を受け入れ、並びに互いに支え合う社会の形成を推進すること」(1条)と定義づけたうえで、多様性を認め合う共生社会づくりを進めることを目的としている。
「何人も、他人に対して、人種、信条、性別、性的指向(・・・)、性自認(・・・)、社会的身分、門地、職業、年齢、障害又は疾病の有無その他の事由を理由として、差別的取扱いをすることその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない。」(3条1項)と規定し、差別の禁止規定を置いている。
山梨県条例の内容等については、山梨県HP「山梨県多様性を認め合う共生社会づくり条例」を参照されたい。
〇 沖縄県条例は、基本理念として「不当な差別のない社会の形成は、全ての人が、個人として人格及び個性が尊重され、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有することを踏まえ、何人も人種、国籍、信条、性別、性的指向、性自認、社会的身分その他の事由を理由とする不当な差別をしてはならないという認識の下に、県、市町村、県民及び事業者が相互に連携協力し、社会全体として推進していかなければならない。」(3条)と規定している。
基本理念、県、県民及び事業者の責務、基本方針、差別のない社会づくり審議会の設置等の規定のほか、インターネット上の不当な差別的言動に関する施策、県民であることを理由とする不当な差別的言動に関する施策、本邦外出身者等に対する不当な差別的言動に関する施策及び解消に関する措置、性的指向又は性自認を理由とする不当な差別に関する施策の規定を個別に置いている。
沖縄県条例の内容等については、沖縄県HP「沖縄県差別のない社会づくり条例について」を参照されたい。
(部落差別に関する条例)
〇 次に、部落差別に関する条例は、以下のとおりである。
大阪府 | 昭和60年3月27日公布 |
昭和60年10月1日施行 平成23年10月1日改正施行 |
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香川県 | 平成8年3月26日公布 |
平成8年7月1日施行 |
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徳島県 | 平成8年12月25日公布 |
平成8年12月25日施行 |
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福岡県 | (福岡県部落差別事象の発生の防止に関する条例) |
(平成7年10月20日公布) 平成31年3月1日公布 |
(平成7年10月20日施行) 平成31年3月1日施行 |
奈良県 | 平成31年3月22日公布 |
平成31年3月22日施行 |
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和歌山県 | 令和2年3月24日公布 |
令和2年3月24日施行 令和2年12月24日改正施行 令和6年4月1日改正施行 |
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熊本県 | (熊本県部落差別事象の発生の防止及び調査の 規制に関する条例) |
(平成7年3月16日公布)
令和2年6月29日公布 |
(平成7年3月16日施行)
令和2年6月29日施行 |
埼玉県 | 令和4年7月8日公布 |
令和4年7月8日施行 |
〇 8条例が制定されているが、大阪府、香川県及び徳島県の条例は部落差別に係る調査等の規制に関して定め、福岡県、奈良県、和歌山県、熊本県及び埼玉県の条例は部落差別の解消の推進に関して定めている。
このうち、「福岡県部落差別の解消の推進に関する条例」は平成7年に制定された「福岡県部落差別事象の発生の防止に関する条例」が平成31年に全部改正され、「熊本県部落差別の解消の推進に関する条例」は平成7年に制定された「熊本県部落差別事象の発生の防止及び調査の規制に関する条例」が令和2年に全部改正されて、制定されている。
〇 部落差別に係る調査等の規制に関する条例については、同和地区に居住していること又は居住していたことを理由になされる結婚、就職等に際しての差別事象を引き起こすおそれのある調査等を規制するものである。
大阪府条例は昭和60年、香川県条例及び徳島県条例は平成8年に制定され、全部改正前の旧福岡県条例及び旧熊本県条例も含め、すべて平成8年までに制定されている。これ以降、同種の条例は制定されていない。
大阪府条例は、興信所・探偵社業に対する自主規制、遵守事項、指示・営業停止・聴聞の特例等(5条~11条)及び土地調査等を行う者に対する遵守事項、指導・助言、勧告、公表等(12条~16条)を定めている。条例に違反した興信所・探偵社業に対しては罰則規定(18条~21条)を設けている。土地調査等を行う者に関する規定は、平成23年10月1日改正施行により追加されている。本条例の内容等については,大阪府HP「「大阪府部落差別事象に係る調査等の規制等に関する条例」の概要や周知の取組み」を参照されたい。
香川県条例及び徳島県条例は、大阪府条例と異なり、特定業種等に対するものでなく、広く県民や事業者一般を対象としている。結婚、就職に際しての差別事象の発生の防止に関して、県、市町村、県民及び事業者の責務を定めるとともに、知事は、県民及び事業者に対し必要な指導及び助言を行う(5条)とするとともに、同和地区での居住に係る調査を行った県内事業者等に勧告し、勧告に従わない場合はその旨公表する(7条)等としている。罰則規定は置いていない。
〇 部落差別の解消の推進に関する条例である福岡県、奈良県、和歌山県、熊本県及び埼玉県の条例は、平成28年に「部落差別の解消の推進に関する法律」(以下「部落差別解消推進法」という。)が制定されたことを受けて、すべて平成31年以降に全部改正又は新規制定されている。
部落差別解消推進法は、「部落差別の解消に関する施策は、全ての国民が等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのっとり、部落差別を解消する必要性に対する国民一人一人の理解を深めるよう努めることにより、部落差別のない社会を実現することを旨として、行われなければならない。」(2条)ことを基本理念とし、国及び地方公共団体の責務(3条)、相談体制の充実(4条)、教育及び啓発(5条)並びに部落差別の実態に係る調査(6条)について規定している。
〇 奈良県及び和歌山県は、従前から人権尊重に関する条例(「奈良県あらゆる差別の撤廃及び人権の尊重に関する条例」、「和歌山県人権尊重の社会づくり条例」)を制定していたが、これらの条例とは別に、部落差別の解消の推進に関する条例を制定している。
両条例ともに、部落差別解消推進法の内容を踏まえて、部落差別の解消に関する基本理念や県等の責務、また、相談体制、教育及び啓発、調査等に関する規定を置くほか、奈良県条例は知事による基本計画の策定(4条)に関する規定を置いている。
また、和歌山県条例は、「何人も、インターネットを通じて、公衆による閲覧、複写その他の利用をすることが可能な情報を提供することにより、部落差別を行ってはならない。」(3条1項)、「何人も、結婚及び就職に際しての身元の調査、並びにその他の行為により部落差別を行ってはならない。」(3条2項)と部落差別の禁止規定を置き、知事は、これらに違反した者に対して説示、勧告を行うとともに、市町村に対して説示、勧告を行うよう要請することができる(8条)との規定を置いている。インターネットを利用した部落差別に関しては、令和2年12月24日改正施行により、特定電気通信役務提供者(プロバイザー)の責務(7条)、違反者に対する書き込み削除等の説示及び勧告、市町村に対する要請(3条1項、3項、5項)等の規定を追加し、令和6年4月1日改正施行により、結婚及び就職に際しての身元の調査又は不動産の取引に際しての当該不動産に係る調査による部落差別を行った県内事業者が、勧告に従わない場合には、その旨及び当該勧告の内容を公表すること等の規定を追加している(和歌山県HP「「和歌山県部落差別の解消の推進に関する条例」について」参照)。
〇 福岡県及び熊本県は、従前からそれぞれ「福岡県部落差別事象の発生の防止に関する条例」及び「熊本県部落差別事象の発生の防止及び調査の規制に関する条例」を制定していたが、部落差別解消推進法の制定を受けて、全部改正を行い、同法の内容を踏まえ、部落差別の解消に関する基本理念や県の責務、また、相談体制、教育及び啓発、調査に関する規定を置くほか、全部改正前の条例に規定していた部落差別に係る調査等の規制に関する規定を盛り込んでいる。
〇 埼玉県条例は、令和4年7月に新規に制定されている。埼玉県条例の内容等については、埼玉県HP「埼玉県部落差別の解消の推進に関する条例について」を参照されたい。
〇 なお、三重県議会「令和2年度差別解消を目指す条例検討調査特別委員会」における11月19日委員会の「資料1 都道府県等における差別の解消に関する条例について」24頁~30頁及び「参考資料(資料1関係)」29頁・31頁は、これらの部落差別に関する都道府県条例の整理・分析をしているので、参照されたい。
(都道府県の人権条例の制定状況)
〇 都道府県における人権条例について、人権尊重に関する条例及び部落差別に関する条例とこれらとは異なるタイプの条例のいくつかも含めて一覧表にして示すと、以下のようになる。
この表のうち、「人権尊重」は「人権尊重に関する条例」を、「部落差別」は「部落差別に関する条例」を、「障害者差別」は「障害者差別解消に関する条例」を、「性の多様性」は「性の多様性に関する条例」において掲載している「性的指向・性自認及び性的少数者に対する差別的な取扱いを禁止することなどを規定している条例」を、「ヘイトスピーチ」は「ヘイトスピーチに関する条例」において掲載している「ヘイトスピーチの拡散防止措置又は禁止を定めている条例」を、「インターネット誹謗中傷」は「誹謗中傷に関する条例」において掲載しているインターネット上の誹謗中傷等による被害者の支援を定める条例を、それぞれ意味し、それに該当する条例を制定している都道府県を当該都道府県欄において「〇」を付している。
沖縄県の「沖縄県差別のない社会づくり条例」は「人権尊重」、「性の多様性」、「ヘイトスピーチ」及び「インターネット誹謗中傷」において、東京都の「東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例」は「人権尊重」、「性の多様性」及び「ヘイトスピーチ」において、三重県の「差別を解消し、人権が尊重される三重をつくる条例」は「人権尊重」、「性の多様性」及び「インターネット誹謗中傷」において、愛知県の「愛知県人権尊重の社会づくり条例」は「人権尊重」、「ヘイトスピーチ」及び「インターネット誹謗中傷」において、鳥取県の「鳥取県人権尊重の社会づくり条例」、秋田県の「秋田県多様性に満ちた社会づくり基本条例」及び山梨県の「山梨県多様性を認め合う共生社会づくり条例」は「人権尊重」及び「性の多様性」において、佐賀県の「全ての佐賀県民が一人一人の人権を共に認め合い、支え合う社会づくりを進める条例」は「人権尊重」及び「インターネット誹謗中傷」において、それぞれ重複して掲載している。
なお、「インターネット誹謗中傷」では、群馬県の「群馬県インターネット上の誹謗中傷等の被害者支援等に関する条例」、愛知県の「大阪府インターネット上の誹謗中傷や差別等の人権侵害のない社会づくり条例」、三重県の「差別を解消し、人権が尊重される三重をつくる条例」及び佐賀県の「全ての佐賀県民が一人一人の人権を共に認め合い、支え合う社会づくりを進める条例」を当該条例として該当するものとしているが、鳥取県の「鳥取県人権尊重の社会づくり条例」及び和歌山県の「和歌山県部落差別の解消の推進に関する条例」においても、インターネットを利用した差別行為や誹謗中傷を禁止する規定を置いている。
【市町村条例】
(人権の尊重・擁護等に関する条例又は部落差別の解消・撤廃等に関する条例の制定状況)
〇 令和6年7月1日時点で、インターネットにより検索できる全国市区町村の例規集等から調査した結果、全国の市区町村において、人権条例のうち人権の尊重・擁護等に関する条例又は部落差別の撤廃・解消等に関する条例は、あわせて499市区町村で518条例が制定されていることが確認できる。市町村数と条例数が異なるのは、同一の市町村で2条例を制定しているのが19市町村(長野県安曇野市、小海町、奈良県天理市、橿原市、桜井市、五條市、和歌山県橋本市、湯浅町、串本町、鳥取県智頭町、北栄町、福岡県田川市、筑紫野市、太宰府市、福津市、那珂川市、川崎町、赤村、熊本県菊陽町)あることによる。
友永論文②によると、平成21年6月12日時点では、市町村では410条例が制定されているので、令和6年7月1日時点では条例数は108増加していることとなる。また、平成21年6月12日時点では、市町村条例を都道府県単位でみると22府県に所在する市町村で制定されていたが、令和6年7月1日時点では33都道府県に所在する市町村で制定されており、11都道県(北海道、宮城県、福島県、群馬県、千葉県、東京都、神奈川県、新潟県、愛知県、島根県、宮崎県)に所在する市町村でも条例が制定されていることとなる。
〇 この【市町村条例】の項目においては、「人権の尊重・擁護等に関する条例」は、人権条例、人権尊重のまちづくり条例、人権尊重の社会づくり条例、人権擁護条例、差別をなくし人権を擁護する条例、あらゆる差別の解消の推進に関する条例等の名称の条例で、人権全般を対象にしているものとし、「部落差別の撤廃・解消等に関する条例」は、部落差別の解消に関する条例、部落差別撤廃・人権擁護に関する条例、同和問題の早期解決に関する条例、部落差別撤廃とあらゆる差別をなくすことをめざす条例、部落差別をはじめとするあらゆる差別の解消(撤廃)をめざす条例等の名称で、主として部落差別の撤廃・解消をめざす条例としている。
なお、部落差別撤廃とあらゆる差別をなくすことをめざす条例や部落差別をはじめとするあらゆる差別の解消(撤廃)をめざす条例等の名称の条例は人権全般を対象にしている条例であるとも言えるが、本稿では、条例名に「部落差別」、「同和問題」、「同和対策」と付されているものはすべて「部落差別の撤廃・解消等に関する条例」に分類しているので、留意願いたい。
こうした前提で、518条例(499市区町村)を分類した場合、「人権の尊重・擁護に関する条例」は373条例(371市区町村)で、「部落差別の撤廃・解消等に関する条例」は145条例(144市町村)ということとなる。
〇 以上の令和6年7月1日時点で確認できる518条例(499市区町村)の条例名及び制定市町村名は、別紙資料「市区町村における人権の尊重・擁護等に関する条例又は部落差別の解消・撤廃等に関する条例の制定状況(令和6年7月1日時点で確認できるもの)」において記載しているので、参照されたい。
人権の尊重・擁護等に関する条例
(平成10年代までに制定された人権の尊重・擁護等に関する条例)
〇 人権の尊重・擁護等に関する条例で初期の段階で制定されたもののうちから、いくつかの条例を紹介する。
大阪府島本町 | 昭和60年3月20日公布 |
昭和60年3月20日施行 |
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大阪府阪南市 | 平成6年3月31日公布 |
平成6年4月1日施行 |
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滋賀県守山市 | 平成8年7月15日公布 |
平成8年7月15日施行 |
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長野県長野市 | 平成8年6月25日公布 |
平成8年7月1日施行 |
〇 島本町条例は、「日本国憲法の基本的理念に基づき、すべての住民の基本的人権が真に保障されるための必要な基本事項を定め、もつて人権の擁護に資すること」を目的(1条)とし、「すべての住民の自由及び権利は、最大限尊重されなければならない。」ことを基本理念(2条)としている。そして、「この条例は、第1条の目的を達成するためのものであつて、これを濫用し、公共の福祉に反するようなことがあってはならない」(3条)としたうえで、町の基本施策として、人権意識の高揚、啓発に関する事項、人権侵害の防止に関する事項、いかなる差別の招来又は助長する行為の防止に関する事項等を規定している(4条)。
阪南市条例は、「部落差別をはじめ、女性、障害者、在日外国人等への差別など、さまざまな差別により今なお人間の尊厳が侵されていることに鑑み、根本的かつ速やかにあらゆる差別をなくし、もって、人権尊重を基調とする差別のない明るい阪南市の実現に寄与すること」(1条)を目的とし、市及び市民の責務(2条、3条)を定めたうえで、施策の総合的かつ計画的推進、啓発活動の充実、意識調査等の実施及び推進体制の充実(4条~7条)に関する規定を置き、審議会の設置(8条)についても規定している。
守山市条例は、前文で「部落差別、女性差別、障害者差別および外国人差別等のない、明るく住みよい社会を築くため、この条例を制定する。」としたうえで、「部落差別をはじめとするあらゆる差別をなくし、人権を尊重するまちの実現に寄与すること」(1条)を目的とし、市の責務(2条)、市民の義務(3条)、啓発活動の充実(4条)、調査の実施(5条)、推進体制の充実(6条)等について規定している。
長野市条例は、「人権意識の高揚を図ることにより、部落差別等あらゆる差別のない明るい長野市を築くこと」(1条)を目的とし、市及び市民の責務(2条、3条)、教育及び啓発活動の充実(4条)、実態調査の実施(5条)並びに審議会の設置等(6条~13条)を規定している。
〇 以上見るように、これらの条例は、基本的人権の尊重や部落差別をはじめ、女性、障害者、在日外国人等へのあらゆる差別をなくすことを目的とし、市町村や市町村住民の責務等を定めたうえで、啓発活動の充実、調査の実施等の基本的な施策を規定している。審議会の設置を定めているものも多い。
平成5年以降平成10年代にかけて、西日本の市町村を中心として、多くの市町村で人権の尊重・擁護等に関する条例が制定されているが、個々の条例により規定の仕方は異なるものの、基本的な構成や内容は、初期段階で制定された条例と同様のものとなっている。
〇 平成10年代後半に市町村合併が行われ、それに伴い新しく設置された市町村において旧市町村の条例を踏まえて、新たな条例が制定されていった。しかし、平成20年代にはいると、条例制定の動きは落ち着きを見せた。
(平成28年以降制定された人権の尊重・擁護等に関する条例の制定状況)
〇 前述の通り、平成28年に、「部落差別の解消の推進に関する法律」や「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」が制定され、また「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」が施行されるようになり、人権条例は新たな動きを見せている。人権の尊重・擁護等に関する条例についても、新たに制定し、既存の条例を全部改正する等の市町村が増加している。
また、性的指向や性自認に対する差別の禁止、新型コロナウイルス感染症の感染者等に対する差別の禁止、インターネット上における人権侵害の禁止に関する規定等を、人権尊重・擁護等に関する条例においても盛り込む動きが出ている。
〇 平成28年の後、平成29年以降に新規制定又は全部改正された市町村の人権の尊重・擁護等に関する条例で令和6年7月1日時点において確認できるものは、以下のとおりである。
77条例を数えることができる。このうち、全部改正が11条例、既存条例を廃止して新規制定が4条例、既存条例とは別に新規制定が2条例(2条例のうち令和4年制定の安曇野市条例は一部改正であるが、ここでは実質的に新規条例とみなしてる)、全く新規制定が60条例となっている。それまでに制定されていなかった北海道、宮城県、福島県、群馬県、千葉県、東京都、神奈川県、京都府及び宮崎県に所在する市町村でも制定されていることがわかる。
平成29年 | (群馬県大泉町)あらゆる差別の撤廃をめざす人権擁護条例 |
平成30年 | (三重県)東員町人権が尊重されるまちづくり条例 |
平成31年 | (奈良県)三宅町人権尊重のまちづくり条例 |
令和元年 | (宮崎県)延岡市すべての市民の人権が尊重されるまちづくり条例 |
令和2年 | (福岡県)小竹町あらゆる差別の解消の推進に関する条例 |
令和3年 | (宮城県)大衡村人権の擁護に関する条例 |
令和4年 | (熊本県)甲佐町人権尊重のまちづくり条例(人権の町づくりに関する条例(平成7年)全部改正) |
令和5年 | (奈良県)王寺町人権擁護に関する条例 |
令和6年 | (東京都)渋谷区人権を尊重し差別をなくす社会を推進する条例 |
(平成28年以降制定された人権の尊重・擁護等に関する条例の具体例)
〇 77条例のうち、いくつかの条例を紹介する。
東京都国立市 | 基本条例 |
平成30年12月27日公布 |
平成31年4月1日施行 |
高知県高知市 | 平成31年4月1日公布 |
平成31年7月1日施行 |
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宮崎県延岡市 | 令和元年9月20日公布 |
令和元年10月1日施行 |
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川崎市 | 令和元年12月16日公布 |
令和元年12月16日施行 |
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兵庫県尼崎市 | 令和2年3月10日公布 |
令和2年3月10日施行 |
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新潟県魚沼市 | 令和2年3月19日公布 |
令和2年4月1日施行 |
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東京都狛江市 | 令和2年3月31日公布 |
令和2年7月1日施行 |
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福島県白河市 | 令和2年10月7日公布 |
令和2年10月7日施行 |
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群馬県嬬恋村 | 令和2年12月10日公布 |
令和2年12月10日施行 |
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香川県丸亀市 | 令和2年12月21日公布 |
令和3年1月1日施行 |
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宮崎県木城町 | 社会を推進する条例 |
令和3年3月18日公布 |
令和3年3月18日施行 |
兵庫県明石市 | まちづくり条例 |
令和4年3月30日公布 |
令和4年4月1日施行 |
長野県安曇野市 | 令和4年4月1日改正施行 |
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長野県松本市 | 令和5年3月22日公布 | 令和5年3月22日施行 |
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愛知県大府市 | 推進条例 | 令和5年3月23日公布 | 令和5年4月1日施行 |
千葉県流山市 | 令和5年3月27日公布 | 令和5年4月1日施行 |
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東京都渋谷区 | 令和6年3月7日公布 | 令和6年4月1日施行 |
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相模原市 | 令和6年3月21日公布 | 令和6年4月1日施行 |
〇 国立市条例は、「何人も、人種、皮膚の色、民族、国籍、信条、性別、性的指向、性自認、しょうがい、疾病、職業、年齢、被差別部落出身その他経歴等を理由とした差別(以下「不当な差別」という。)を行ってはならない。」(3条1項)と、不当な差別に対する禁止規定を置いている。性的指向及び性自認に対する差別も、不当な差別の例示に含めている。
〇 川崎市条例、狛江市条例及び丸亀市条例も、性的指向・性自認も含め、同様の差別禁止規定を置いている。
〇 そのうえで、川崎市条例は本邦外出身者に対するヘイトスピーチの禁止やインターネット上での拡散防止措置等について規定している。
〇 高知市条例は、前文において、インターネット上での悪質な書き込みや外国人に対するヘイトスピーチ等の新しい課題があることを言及し、また、条例制定の背景として平成28年の「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」の施行,「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」及び「部落差別の解消の推進に関する法律」の制定があることを明記している。
延岡市条例も、これらの3つの法律等の理念に基づき、あらゆる差別の解消を図る旨規定している(1条)。
〇 尼崎市条例は、前文で、ウェブサイトにおける悪質な書込みのほか、様々なハラスメント、子どもへの虐待や体罰、いじめなどが近年大きな問題となっていることを記述し、魚沼市条例は、「いじめ・差別等」の定義規定(2条1号)を置き、いじめ、虐待、ハラスメント、ヘイトスピーチ等が含まれるとしたうえで、「全ての市民は、何人に対しても、いじめ・差別等をしてはならない。」(3条1項)と規定し、狛江市条例は、「差別、いじめ、虐待、セクシュアル・ハラスメント、パワー・ハラスメント、ドメスティック・バイオレンス、プライバシーの侵害その他の人権を侵害する行為をしてはならない。」(3条)と規定している。
〇 白河市条例は、新型コロナウイルス感染症をはじめとする疾病、障がい、性別等を理由とした誹謗中傷や偏見に基づく差別的な言動をなくすことを目的とし、嬬恋村条例は、いじめやハラスメント、インターネットやSNSを悪用した人権侵害等のほか、新型コロナウイルス感染症による感染者等に対する誹謗中傷や偏見、差別等をなくすことについて宣言している。
〇 木城町条例は、カミングアウトの強制・禁止、アウティング、ヘイトスピーチ、感染症患者等に対する誹謗中傷や差別的な扱い・言動等の禁止規定を置いている。
〇 明石市条例は、「インクルーシブ社会」を「多様性が尊重され、障害の有無及び程度、年齢、性別、国籍等によって、差別され、排除され、取り残され、又は社会の一員として分け隔てられることなく、誰もが望む場所で安心して楽しみながら生活することができる社会」(2条1号)と定義づけたうえで、「インクルーシブ社会を実現するためには、あらゆる差別が解消されなければならない。」(8条1項)と規定している。なお、明石市条例については、自治体法務研究2022年秋号CLOSEUP先進・ユニーク条例「すべての人が自分らしく生きられるインクルーシブなまちづくり条例」を参照されたい。
〇 安曇野市条例は、平成20年に制定された「男女共同参画推進条例」が一部改正され、条例名を「多様性を尊重し合う共生社会づくり条例」とし、「何人も、年齢、性別等の違い又は国籍、民族等の異なる人々の文化的な違い、障がいの有無等による不当な差別的取扱いをすることにより、他人の権利利益を侵害してはならない。」(8条1項)と規定している。
〇 松本市条例は、平成11年に制定された「部落差別をはじめとするあらゆる差別撤廃と人権擁護に関する条例」が全部改正され、制定されている。「年齢、性別、人種、国籍、民族、信条、出自、障がい、性的指向、性自認、感染症等の疾病」(2条)等を理由とする人権侵害行為(インターネットを利用した誹謗中傷等の行為を含む)を禁止している(3条)。
〇 大府市条例は、「年齢、障がい、疾病、性別、性的指向、性自認、職業、出身、人種、国籍、言語、信条その他の事由による差別、いじめ、虐待、セクシャル・ハラスメント、パワー・ハラスメント、ドメスティック・バイオレンス、プライバシーの侵害その他の人権を侵害する行為」を禁止し(3条)、市に人権施策推進アドバイザーを設置することができる(9条)としている。
〇 流山市条例は、「多様性」を「性別等、年齢、障害の有無、人種、国籍等の属性により一人ひとりに違いがあること」(2条1号)、「性別等」を「男性、女性及び性的マイノリティ」(2条2号)と定義づけたうえで、「何人も、多様性による不当な差別的取扱いにより、他人の人権を侵害してはならない。」(4条1項)と規定している。
〇 渋谷区条例は、「性のありよう」を「身体的・生物学的な性、性自認、性的指向及びジェンダー表現を要素とした全ての人が持っている性のあり方」(2条3号)と定義づけたうえで、「何人も、人種、国籍、信条、性のありよう、障害、年齢、出身地、経歴等を理由とした差別を行ってはならない。」(7条1項)と規定している。
〇 相模原市条例は、「不当な差別」を「人種、民族、国籍、信条、年齢、性別、性的指向(性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律(・・・)第2条第1項に規定する性的指向をいう。)、ジェンダーアイデンティティ(同条第2項に規定するジェンダーアイデンティティをいう。)、障害、疾病、出身その他の属性(以下「人種等の属性」という。)を理由とする不当な区別、排除又は制限であって、あらゆる分野において、権利利益を認識し、享有し、又は行使することを妨げ、又は害する目的又は効果を有するもの」(2条3号)、「不当な差別的取扱い」を「正当な理由なく人種等の属性を理由に、財、サービス若しくは機会の提供を拒否すること、又は当該提供に当たって場所、時間帯等を制限し、若しくは当該人種等の属性を有さない者に対しては付さない条件を付すことその他の不当な差別のうち取扱いによるもの」(2条4号)と定義づけたうえで、「何人も、不当な差別的取扱いをしてはならない。」(12条)と規定している。
部落差別の解消・撤廃等に関する条例
(平成10年代までに制定された部落差別の解消・撤廃等に関する条例)
〇 部落差別の解消・撤廃等に関する条例で初期の段階で制定されたもののうちから、いくつかの条例を紹介する。
徳島県松茂町 | 平成5年9月13日公布 |
平成5年9月13日施行 |
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奈良県安堵町 | 平成5年9月13日公布 |
平成5年10月1日施行 |
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鳥取県日野町 | 平成5年12月22日公布 |
平成5年12月22日施行 |
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大阪府泉佐野市 | 平成5年9月28日公布 |
平成5年12月1日施行 平成13年4月1日改正施行 |
〇 松茂町条例は、「部落差別撤廃・人権擁護を図り、もって平和な明るい地域社会の実現に寄与すること」(1条)を目的とし、町民の責務として「部落差別及び人権侵害に関する行為をしてはならない。」(2条1項)と規定している。そのうえで、町の施策等として「部落差別の撤廃のために必要な就労対策、産業の振興、教育対策、啓発活動等の人権擁護に関する施策を積極的に推進する」(3条)とし、また、計画の策定、実態調査等の実施、行政組織の整備及び審議会の設置についての規定を置いている(4条~7条)。
安堵町条例及び日野町条例も、松茂町条例とほぼ同様の内容・構成を有しているが、安堵町条例は、部落差別等の人権侵害行為の防止及び被害者の救済措置(3条)に関する規定を置き、日野町条例は、町民の責務として「自ら差別及び差別を助長する行為をしないよう努めなければならない。」(2条)と規定している。日野町条例は、計画の策定に関する規定は置いていない。
泉佐野市条例は、前文で「部落差別をはじめ、在日外国人、障害者、女性等への差別など、あらゆる差別をなくし、人権意識の高揚を図り、差別をしない差別を許さない世論の形成や人権尊重の社会的環境の醸成に努めるため、この条例を制定する。」としたうえで、目的(1条)、市の責務(2条)及び市民の責務(3条)を定め、施策の総合的かつ計画的推進(4条)、実態調査等の実施(5条)、啓発活動の充実(6条)及び推進体制の充実(7条)についての規定を置いている。市民の責務として「自らも差別及び差別を助長する行為をしないよう努めるものとする。」(3条)と規定している。
〇 以上見るように、これらの条例は、部落差別撤廃及び人権擁護を目的とするものと部落差別撤等あらゆる差別をなくすことを目的とするものに分かれるが、市町村や市町村住民の責務等を定めたうえで、市町村の施策の推進、啓発活動の充実、実態調査の実施等を規定している。計画の策定や審議会の設置を定めているものも多い。
平成5年以降平成10年代にかけて、西日本の市町村を中心として、多くの市町村で部落差別の解消・撤廃等に関する条例が制定されているが、個々の条例により規定の仕方は異なるものの、基本的な構成や内容は、初期段階で制定された条例と同様のものとなっている。
〇 平成10年代後半に市町村合併が行われ、それに伴い新しく設置された市町村において旧市町村の条例を踏まえて、新たな条例が制定されていった。しかし、平成20年代にはいると、条例制定の動きは落ち着きを見せた。
(平成28年以降制定された部落差別の解消・撤廃等に関する条例の制定状況)
〇 平成28年に「部落差別の解消の推進に関する法律」が制定されたことを踏まえ、新たに部落差別の解消・撤廃等に関する条例を制定し、または、既存の条例を全部改正する等の市町村が増加している。
〇 平成28年の後、平成29年以降に新規制定又は全部改正された市町村の部落差別の解消・撤廃等に関する条例で令和6年7月1日時点において確認できるものは、以下のとおりである。
37条例を数えることができる。このうち、全くの新規制定は6条例、既存条例を廃止して新規制定が5条例、既存条例とは別に新規制定が16例、既存条例の全部改正が10条例となっている。
37条例を都道府県単位でみると、福岡県が18条例、兵庫県が5条例、奈良県が4条例、和歌山県が3条例、鳥取県及び熊本県が2条例、長野県、徳島県及び大分県がそれぞれ1条例ずつとなっている。兵庫県内の市町村の条例は、すべて全くの新規制定である。
既存条例とは別に新規制定された16条例については、1条例を除き、これまで人権の尊重・擁護等に関する条例が制定されていたが、それとは別に新たに部落差別の解消・撤廃等に関する条例が制定されたものである。また、既存条例を廃止して新規制定された5条例及び既存条例が全部改正された10条例のうち、6条例は、従前の人権の尊重・擁護に関する条例が廃止または全部改正されて、部落差別の解消・撤廃等に関する条例が制定されている。
なお、本稿では特に取り上げていないが、全部改正ではなく、一部改正により対応している市町村も少なくないので、留意願いたい。
平成29年 | (兵庫県)たつの市部落差別の解消の推進に関する条例 |
平成30年 | (兵庫県)加東市部落差別の解消の推進に関する条例 |
平成31年 | (福岡県)田川市部落差別の解消の推進に関する条例(人権擁護条例(平成8年)あり) |
令和元年 | (福岡県)添田町部落差別の解消の推進に関する条例(同和問題の早期解決に関する条例(平成7年)全部改正) |
令和2年 | (福岡県)赤村部落差別の解消の推進に関する条例 (同和問題の早期解決に関する条例(平成7年)あり) |
令和3年 | (福岡県)那珂川市部落差別の解消の推進に関する条例(人権を尊ぶまちづくり条例 (平成8年)あり) |
令和4年 | (福岡県)苅田町部落差別をはじめあらゆる差別解消をめざす人権擁護条例 |
令和5年 | (奈良県)天理市部落差別の解消の推進に関する条例 |
(平成28年以降制定された部落差別の解消・撤廃等に関する条例の具体例)
〇 37条例のうち、いくつかの条例を紹介する。
兵庫県たつの市 | 平成29年12月25日公布 |
平成30年4月1日施行 |
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大分県九重町 | 平成30年12月14日公布 |
平成30年12月14日施行 |
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和歌山県湯浅町 | 平成31年4月1日公布 |
平成31年10月1日施行 |
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福岡県筑前町 | 令和元年12月13日公布 |
令和元年12月13日施行 |
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奈良県橿原市 | 令和3年3月31日公布 |
令和3年3月31日施行 |
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熊本県益城町 | 令和3年9月15日公布 |
令和3年9月15日施行 |
〇 たつの市条例は全くの新規制定であり、九重町条例は平成12年制定の「九重町あらゆる差別撤廃・人権擁護に関する条例」が全部改正され、湯浅町条例は平成17年制定の「人権を大切にするまちづくり条例」とは別に制定され、筑前町条例は平成18年制定の「筑前町差別をなくし人権を守る条例」が廃止されて制定されている。また、橿原市条例は平成8年制定の「橿原市人権擁護に関する条例」とは別個に制定され、益城町条例は平成7年制定の「益城町人権擁護に関する条例」が全部改正されて制定されている。
いずれの条例も、目的規定に部落差別の解消の推進に関する法律等の理念に基づき部落差別の解消等を進める旨明記し、また、同法の内容を踏まえて、部落差別の解消に関する基本理念、市町村等の責務、また、相談体制の充実、教育及び啓発、実態調査等の実施、推進体制の整備に関する規定を置いている。
これに加えて、たつの市、九重町、湯浅町及び益城町の条例は審議会の設置の規定を置き、また、たつの市、湯浅町及び橿原市の条例は計画の策定の規定を置いている。
さらに湯浅町条例は、インターネット上における部落差別と見なされる書込み等のモニタリングの実施、差別行為の情報提供及び調査、差別者への指導・助言、勧告、命令及び氏名等の公表、被差別者の支援・救済、秘密保持等についての規定を置いている。
人権条例
(市町村の人権条例の制定状況)
〇 市町村における人権条例について、人権の尊重・擁護等に関する条例及び部落差別の解消・撤廃等に関する条例とこれらとは異なるタイプの条例のいくつかも含めて一覧表にして示すと、以下のようになる。
この表のうち、「人権尊重」は「人権の尊重・擁護等に関する条例」を、「部落差別」は「部落差別の解消・撤廃等に関する条例」を、「障害者差別」は「障害者差別解消に関する条例」を、「性の多様性」は「性の多様性に関する条例」において掲載している「性的指向・性自認及び性的少数者に対する差別的な取扱いを禁止することなどを規定している条例」を、「ヘイトスピーチ」は「ヘイトスピーチに関する条例」において掲載している「ヘイトスピーチに対する拡散防止措置等を規定する条例」又は「本邦外出身者や外国人に対する不当な差別の解消や禁止を図ることを目的の一つとしている条例」を、「インターネット誹謗中傷」は「誹謗中傷に関する条例」において掲載しているインターネット上の誹謗中傷等による被害者の支援を定める条例を、それぞれ意味している。
各欄ごとの数字は当該都道府県において制定されている市町村条例の数であり、また、()内の数字は同一の市町村で2つの条例を制定している場合の市町村数である。
川崎市の「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」、東京都渋谷区の「渋谷区人権を尊重し差別をなくす社会を推進する条例」、相模原市の「相模原市人権尊重のまちづくり条例」及び宮崎県木城町の「木城町多様性を認め合い他者を思いやる差別のない社会を推進する条例」は「人権尊重」、「性の多様性」及び「ヘイトスピーチ」において、東京都国立市の「国立市人権を尊重し多様性を認め合う平和なまちづくり基本条例」、東京都狛江市の「人権を尊重しみんなが生きやすい狛江をつくる基本条例」、香川県丸亀市の「丸亀市人権を尊重し多様性を認め合うまちを実現する条例」、長野県安曇野市の「安曇野市多様性を尊重し合う共生社会づくり条例」、兵庫県加西市の「加西市人権尊重のまちづくり条例」、長野県松本市の「差別をなくし多様性を認め合うまちまつもと条例」、愛知県大府市の「大府市人権を尊重した誰一人取り残さないまちづくり推進条例」、千葉県木更津市の「木更津市彩り豊かな個性が集う共生社会づくり条例」、千葉県流山市の「流山市多様性を尊重する社会の推進に関する条例」、島根県浜田市の「浜田市人権を尊重するまちづくり条例」及び東京都三鷹市の「人権を尊重するまち三鷹条例 」は「人権尊重」及び「性の多様性」において、それぞれ重複して掲載している。