空き地条例

(令和6年3月2日更新)

【はじめに】

〇 「土地基本法」が、令和2年に改正され(「土地基本法等の一部を改正する法律」(令和2年3月31日公布・令和2年4月1日施行))、基本理念など法律全般にわたり、土地の適正な「利用」のみならず、適正な「管理」が必要であることが明示された(1条~5条等)。併せて、新たに、土地所有者等の適正な土地の利用と管理に関する責務が明記され(6条)、国及び地方公共団体に対して「所有者等による適正な土地の利用及び管理を確保するための必要な措置を講ずるよう努める」(7条2項)等の規定が置かれた。

 法律改正の背景として、国土交通省は、「我が国では、人口減少等の進展に伴う土地利用ニーズの低下等を背景に所有者不明土地や管理不全の土地が増加しています。所有者不明土地等の増加は生活環境の悪化の原因、インフラ整備や防災上の重大な支障となるなど、対応は喫緊の課題となっています。所有者不明土地対策等の観点から、人口減少社会に対応して土地政策を再構築する・・・ことが必要不可欠となっています。」(国土交通省HP「「土地基本法等の一部を改正する法律案」を閣議決定~人口減少社会に対応した土地政策の再構築と地籍調査のスピードアップに向けて~」)としている。

〇 所有者不明土地については、土地の所有者の探索等に多大な時間・費用を要するなどにより、円滑な土地利用の支障となり、また、所有者による自発的な管理が行わず、適正に管理されないまま放置されることにより、災害の発生や生活環境の悪化等の要因となりうるため、政府は平成30年から「所有者不明土地等対策の推進のための関係閣僚会議」を設置し、対策の検討を進め、平成30年に「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」(平成30年6月13日公布・令和元年6月1日等施行 以下「所有者不明土地法」という。)が制定された。

 所有者不明土地について、土地収用法の特例を設けるとともに、地域のために事業を行うことを可能とする地域福利増進事業制度を創設し、また、地域福利増進事業、収用適格事業又は都市計画事業の実施準備のために必要な場合は、自治体が固定資産税情報等の土地所有者等関連情報を目的外利用することを認め、さらに、国の行政機関の長又は地方公共団体の長は、所有者不明土地につき、適切な管理のため特に必要があると認めるときは、家庭裁判所に対し、不在者の財産の管理人の選任等又は相続財産の管理人の選任の請求をすることができる等としている。

 同法は、令和4年に改正され(「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法の一部を改正する法律」(令和4年5月9日公布・令和4年11月1日施行))、地域福利増進事業の対象事業や対象土地を拡大するとともに、引き続き管理が実施されないと見込まれる所有者不明土地について、災害等の発生を防止するため、市町村長による勧告、命令、代執行制度を創設するとともに、民法に基づく管理不全土地管理命令の請求権を市町村長に付与した。また、勧告や管理不全土地管理命令の請求を行うために必要な場合にも、自治体が固定資産税情報等の土地所有者等関連情報を目的外利用することを認めた。同法の改正内容については、国土交通省HP「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法の一部を改正する法律が公布されました」を参照されたい。

 同法の内容や取り組み等については、国土交通省HP「人口減少時代における土地政策の推進~所有者不明土地等対策~」を参照されたい。

〇 このように、近年、政府において、所有者不明土地や管理が適正にされない土地が増加していることを踏まえ、関係法律の制定・改正が相次いでなされている。

〇 他方、自治体においては、昭和40年代半ばから、適正に管理がなされていない空き地が、雑草の繁茂やごみの散乱等により、周囲の生活環境に悪影響を与え、火災や犯罪の発生の原因となりうること等から、空き地の適正な管理を目的とし、所有者等の責務、自治体による規制措置等を定める条例を制定してきている。

 本稿では、こうした「空き地条例」をとりあげる。

〇 なお、空き家の管理に関しても、従前から、自治体において「空き家条例」が制定されているが、平成26年11月に「空家等対策の推進に関する特別措置法」(以下「空家法」という。)が制定された。空き家に関する条例については、「空き家条例」を参照されたい。

〇 所有者不明土地については所有者不明土地法が制定されたものの、空き地の管理に関して一般的に定める法律はない。

〇 空き地条例について解説し、論じるものとしては、田中孝男・小林裕「自主立法が守る生活環境~空き地の適正な管理に関する条例のベンチマーキング~」(自治体法務NAVI 32号)、福士明「空き地の適正管理」(「行政課題別条例実務の要点」〈第一法規 令和3年7月〉 301頁以下)、大野淳「空き地管理条例に関する考察」(土地総合研究 2017年春号)、蓮實憲太「空き地問題への条例対応の必要性とそのあり方(1)、(2)」(自治実務セミナー 2021年10月号、11月号)などがある。

 

【制定状況の概観】

〇 空き地に関する条例の制定状況を調べたものとしては、国土交通省が平成28年12月から平成29年2月にかけて実施した「空き地等に関する自治体アンケート結果(速報版)」がある。このアンケートは、全国市区町村の空き地等の管理・利活用の実態及び意向を把握するため、全国市区町村(1741市区町村)を対象にして実施したものであり、1221団体(回収率70.1%)から回答があったものであり、「空き地等」とは「現状が空き地及び駐車場、資材置き場として利用している土地」としている。

 これによると、「空き地等の管理や利活用の促進のための条例等」を制定している市区町村は432団体、制定を検討している市区町村は18団体であり、これらのうち、空き地を対象とするものは410条例である。

 目的については、生活環境の保全(雑草の除去)とするもの410条例、生活環境の保全(騒音・振動・悪臭、害虫、砂ぼこり、ごみ等の投棄等の防止)とするもの302条例、防災とするもの197条例、防犯とするもの191条例、等となっている(複数回答あり)。

 規制の規定があるものは393条例であり、このうち、具体の規制内容については、指導・助言が355条例、勧告が349条例、措置命令が312条例、公表(命令に従わなかった者等の公表)が128条例、罰則(罰金、過料等)が79条例、代執行が167条例となっている(複数回答あり)。

〇 空き地条例の制定年月について、インターネットに掲載している例規集等により現在施行されている条例を調べると、制定(公布)年月の古いものとしては、(千葉県)「習志野市空地に繁茂した雑草等の除去に関する条例」(昭和43年10月)、(千葉県我孫子市)「あき地に繁茂した雑草等の除去に関する条例」(昭和43年11月)、(埼玉県)「川口市あき地の環境保全に関する条例」(昭和43年12月)等がある。

 空き地条例は、これ以降、昭和40年代後半から昭和50年代にかけて、全国各地で数多く制定されているが、平成の時代、令和の時代にかけても、毎年、数は多くないが、コンスタントに条例が制定されていることが確認できる。

 なお、環境保全条例の中で空き地の管理に関する規定を置くものも、昭和40年代後半から制定されていることを確認できる((大阪府)「伊丹市環境保全条例」(昭和46年4月)65条、(東京都)「昭島市環境保全条例」(昭和47年4月)8条、(兵庫県)「川西市環境保全条例」(昭和48年10月)50条・51条 等)。

 また、全国の自治体の火災予防条例では、通常、空き地に関して枯草の除去等火災の予防に必要な措置を所有者等に義務づける規定を置いているが、消防庁が定める火災予防条例準則では、こうした規定は昭和48年1月から追加されている(現在の火災予防条例(例)では、「空地の所有者、管理者又は占有者は、当該空地の枯草等の燃焼のおそれのある物件の除去その他火災予防上必要な措置を講じなければならない。」(24条1項)と規定)。

〇 「空き家条例」は、平成22年7月に全国で最初に、(埼玉県)「所沢市空き家等の適正管理に関する条例」が制定されたとされるが、「空き地条例」は、昭和40年代前半から制定され、「空き家条例」よりもかなり以前から制定されている。

 なお、空き地の管理と空き家の管理について同一条例で定める条例(以下「空き地・空き家条例」という)は、(北海道)「沼田町あき地及びあき家の管理に関する条例」(平成28年に全部改正され、現行は「沼田町あき地及びあき家の管理に関する条例」)は昭和58年4月に制定されていることが確認でき、「空き地・空き家条例」も「空き家条例」よりもかなり早い時期から制定されている。

 「空き地・空き家条例」は、①最初から「空き地・空き家条例」として制定されたもの((北海道)「長万部町空き地及び空き家等の環境保全に関する条例」(平成10年5月)、(大分県)「豊前市空き地及び空き家等管理の適正化に関する条例」(平成11年12月)、(神奈川県)「海老名市空き家及び空き地の適正管理に関する条例」(平成27年3月)、「神戸市空家空地対策の推進に関する条例」(平成28年6月)等)、②当初「空き地条例」として制定され、その後「空き地・空き家条例」となったもの((福岡県)「みやこ町空き家及び空き地等の適正管理に関する条例」(平成25年12月 平成18年制定の「みやこ町空き地等に繁茂した雑草等の除去に関する条例」を全部改正)、愛知県「 小牧市建築物等及び空き地の適切な管理に関する条例」(令和3年12月 昭和52年に制定された「小牧市空き地に繁茂した雑草等の除去に関する条例」が廃止)等)、③当初「空き家条例」として制定され、その後「空き地・空き家条例」となったもの(「千葉市空家等及び空地の対策の推進に関する条例」(平成29年7月 平成24年制定の「千葉市空き家等の適正管理に関する条例」が全部改正)、(三重県)「熊野市空家等及び空地への対策の推進に関する条例」(令和元年12月 平成25年制定の「熊野市建物等の適正管理に関する条例」を全部改正)等がある。

〇 「あきち」の表記については、自治体の条例では、「空き地」とするもの、「あき地」とするもの、「空地」とするものがある。数としては、「あき地」が最も多く、次いで「空き地」が多いが、最近制定された条例は「空き地」又は「空地」としており、「あき地」とするものはない。法令では、通常「空地」(民法225条、都市計画法12条の10等)と表記しされるが、この場合は「くうち」と読まれる。「空き地」とするものが省令では「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」等があるが、「あき地」と表記する法令はない。なお、広辞苑第7版は、「あきち」は「空き地・明き地」と表記し、「くうち」は「空地」と表記している。

 本稿では、個々の条例の規定を引用する場合を除き、「空き地」と表記することとする。

 

【内容の概観】

〇 空き地条例の対象となる「空き地」の定義については、早い時期に制定された条例では、単に「現に人が使用してない土地」とするものが多い(例えば、(千葉県)「習志野市空地に繁茂した雑草等の除去に関する条例」(昭和43年10月)2条1号)が、最近の条例では、宅地化された土地にあること、農地等を除くこと等を要件に付け加えるものが多い(例えば、(茨城県)「つくばみらい市空き地の適正管理に関する条例」(令和3年9月)は「宅地化された土地又は住宅地に近接する土地で、現に使用していない土地の部分をいう。ただし、農地法(・・・)第2条第1項の農地を除く。)」(2条1号)と規定している)。

〇 空き地条例の対象となる空き地の管理状況について、①雑草等の繁茂状態に着目するもの、②雑草等の繁茂のみならず、廃棄物の放棄・放置等のそれ以外の不適切な管理状態にも着目するもの、に分かれる。前記福士解説は、前者を「雑草繁茂対応型」条例、後者を「総合管理型」条例としている。

 例えば、「雑草繁茂対応型」条例では、(千葉県我孫子市)「あき地に繁茂した雑草等の除去に関する条例」(昭和43年11月)は「あき地に繁茂し、又は放置されている雑草等の除去に関し必要な事項を定める」(1条)と規定し、(愛知県)「犬山市空き地の雑草等の除去に関する条例」(令和1年12月)は「空き地に繁茂した雑草及び灌木(以下「雑草等」という。)が周辺の生活環境を著しく損ない、市民等の身体又は財産に被害を及ぼすことを防止」する(1条)と規定している。

 「総合管理型」条例では、(埼玉県)「川口市あき地の環境保全に関する条例」(昭和43年12月)は「雑草が繁茂したままで放置され、若しくは残土等の置場として使用され、又は沼地化したままで放置されている等良好な状態で維持管理されていないあき地が、火災若しくは犯罪の発生等市民の生活環境を害していることにかんがみ、これらのあき地を整備し、清潔な生活環境を保持する」(1条)と規定し、(鳥取県)「米子市空き地の適切な管理に関する条例」(令和4年3月)は「適切な管理が行われていない空き地が防災、衛生、景観等の市民の生活環境に深刻な影響を及ぼしていることに鑑み、空き地の適切な管理が行われるために必要な事項を定める」(1条)と規定している。

〇 空き地条例の内容は、各条例によって異なるものの、①空き地の適正な管理を、その所有者や管理者に義務づける、②管理が適切にされず、放置されることにより、生活環境が著しく阻害され、また、火災や犯罪を誘発するおそれがある状態(「不良状態」、「危険状態」等とされる)にある場合に、自治体の長が、規制措置として、指導・助言、勧告、命令を行う、③さらに、実効性確保措置として、代執行、公表を行い、罰則を科す、ことが基本的な骨格であるといえる。

 前述の通り、前記国土交通省アンケート結果によると、多くの条例が指導・助言、勧告、命令の規定を持ち、半数程度から4分の1程度の条例が代執行、公表、罰則の規定を置いている。

 条例によって、指導・助言及び勧告にとどめるもの、命令を規定したうえで、代執行、公表、罰則のそれぞれのいずれかだけを規定するもの、すべてを規定するものなどに、分かれる。また、罰則は、罰金を科すものと過料を科すものに分かれる。

 なお、空家法は、規制措置及び実行確保措置として、指導・助言、勧告、命令、代執行及び罰則(過料)の規定を置いている。法に根拠がある「空き家」と根拠がない「空き地」は異なるものの、空家法制定以降に制定され、または改正された「空き家・空き地条例」や「空き地条例」では、空家法を参考にして、指導・助言、勧告、命令、代執行及び罰則(過料)を規定するものは少なくない。

 また、所有者不明土地法は、令和4年の改正により、災害等の発生を防止するため必要な場合における、勧告、災害等防止措置命令、代執行、罰則(罰金)の規定を置いている。

〇 指導・助言、勧告、命令等の前提となる「不良状態」、「危険状態」等については、例えば、前記習志野市条例は「危険状態」として「雑草等が繁茂し、又は放置されていることにより」、「病害虫の発生又は廃棄物の投棄を誘発する不衛生な状態」若しくは「事故又は犯罪を誘発する状態」の「いずれかに該当する状態」(2条4号)、前記我孫子市条例は「危険状態」として「雑草等が繁茂し、又は放置されている状態で、かつ、それが火災予防上又は犯罪防止上好ましくないと認められる状態」(2条4号)、前記犬山市条例は「不良状態」として「雑草等の繁茂を原因として、周辺の生活環境を著しく損なっていると認める状態」(2条4号)と、前記川口市条例は「不良状態」として「あき地に雑草が繁茂し、若しくは汚物が投棄され、又はあき地が残土等の置場として使用され、若しくは沼地と化し、これらをそのままにしておくときは、火災若しくは犯罪の発生又は非衛生の原因となり、市民の健康と生活環境を著しく阻害するような状態」(2条)と規定している。

 また、前記つくばみらい市条例は「環境を損なう状態」として「雑草等が繁茂し、かつ、管理されていない状態でその状態」が「害虫の発生原因となっている場合」、「火災の予防上危険と認められる場合」、「交通の障害となっている場合」、「犯罪の防止上好ましくない場合」又は「近隣の生活環境に支障をきたしている場合」の「いずれかに該当する場合又は該当する恐れのある場合」(2条3号)と、前記米子市条例は「特定空き地」として「空き地のうち、そのまま放置すれば著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態にあると認められるもの」(2条2号)と規定している。

〇 命令や公表に当たっては、条例上、相手方に対して弁明の機会を与える規定を置くものも見られる(例えば、前記米子市条例10条、11条)。行政手続法や各自治体の行政手続条例は、不利益処分をしようとする場合は、弁明の機会の付与等の意見陳述のための手続を執らなければならないとしており、そうしたことを踏まえた規定を置いているものと考えられる。

 なお、空家法は、命令に当たって、相手方に対して証拠提出の機会を与え、請求があった場合は意見聴取を行う規定(14条4項~8項)を置く一方で、命令については行政手続法の規定は適用しない(14条13項)としている。

 所有者不明土地法は、災害等防止措置命令について弁明の機会の付与等の規定は置いていない(改正後39条)が、行政手続法の規定は適用されるものと考えられる。

〇 代執行については、例えば、前記習志野市条例は「市長は、前条の命令を受けた所有者等が当該命令に従わない場合において、他の手段によつてその履行を確保することが困難であり、かつ、その不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるときは、行政代執行法(昭和23年法律第43号)の定めるところにより、自ら当該所有者等のなすべき行為をなし、又は第三者をしてこれをなさしめ、その費用を当該所有者等から徴収することができる。」(7条)、前記つくばみらい市条例は「市長は、前条の規定により命令を受けた空き地の所有者等がこれを履行しないときは、行政代執行法(昭和23年法律第43号)の規定により、自ら当該空き地の雑草その他環境を損なう状態を除去し、又は第三者にこれを行わせ、その費用を所有者等から徴収することができる。」(8条)との規定を置いている。

 代執行は、行政代執行法に基づいて行うことができるため、条例の規定は確認規定とされる(前記田中・小林解説29頁)。

 なお、空家法14条9項は代執行の要件を緩和し、同10条は略式代執行の規定を置き、所有者不明土地法40条1項は略式代執行の規定を置いているが、条例ではこうした規定を置くことはできないとされる。

〇 多くの条例は立入調査の規定を置いており、一部の条例は即時強制(緊急措置)、所有者等情報の利用等の規定を置いている。除草の自治体への委託、除草のあっせん、投棄禁止、空き地の利活用等の規定を置くものもある。

〇 即時強制(緊急措置)については、例えば、前記米子市条例は、「緊急安全措置」として、「市長は、空き地における立木竹の倒伏等による市民の生命、身体又は財産に対する重大な危害を防ぐため緊急の必要があると認めるときは、当該危害の防止のために必要かつ最小限度の措置を自ら行い、又は第三者をしてこれを行わせることができる。この場合において、当該措置に要した費用は、当該措置に係る空き地の所有者等の負担とすることができる。」(13条1項)等の規定を置いている。

 なお、空家法は、即時強制に関する規定は置いていないが、「空き家条例」では、自治体独自の規定として、即時強制に関する規定を置くものは多い(「空き家条例」参照)。

〇 所有者等情報の利用については、例えば、(愛知県)「小牧市建築物等及び空き地の適切な管理に関する条例」(令和3年12月)は「市長は、その保有する情報であって氏名その他の空き地所有者等の把握に関し必要なものについては、この条例の施行のために必要な限度において、その保有に当たって特定された利用の目的以外の目的のために内部で利用することができる。」(15条1項)等と規定し、(宮城県)「白石市空き地の適正管理に関する条例」(平成27年6月)は「市長は、空き地が管理不全な状態にあると疑うに足りる事実があるとき又は第5条の規定による情報の提供を受けたときは、この条例の施行に必要な限度において、職員に所有者等の情報その他必要な事項について調査をさせることができる。」(7条1項)及び「市長は、前項の調査を行う場合において、固定資産税の課税その他の事務のために利用する目的で保有する情報であって氏名その他の空き地の所有者等に関するものについては、この条例の施行のために必要な限度において、その保有に当たって特定された利用の目的以外の目的のために内部で利用することができる。」(7条2項)と規定している。

 なお、空家法は、「市町村長は、固定資産税の課税その他の事務のために利用する目的で保有する情報であって氏名その他の空家等の所有者等に関するものについては、この法律の施行のために必要な限度において、その保有に当たって特定された利用の目的以外の目的のために内部で利用することができる。」(10条1項)等と規定している。

 また、前述のとおり、所有者不明土地法は、地域福利増進事業、収用適格事業又は都市計画事業の実施準備のために必要な場合、災害等の発生を防止するため必要な場合における勧告又は管理不全土地管理命令の請求を行うために必要な場合には、行方者不明土地について自治体が固定資産税情報等の土地所有者等関連情報を目的外利用することを認めている(改正後43条)。

〇 除草の自治体への委託については、例えば、(愛知県)「春日井市あき地に繁茂した雑草等の除去に関する条例」(昭和44年3月)は「あき地の所有者または管理者が特別の事情によりその所有または管理にかかる土地の雑草等の除去ができないときは、当該雑草等の除去を市長に委託することができる。」(7条)、(京都府)「木津川市空地の除草等に関する条例」(令和3年6月)は「市街化区域内の空地の所有者等は、特別の事情により当該空地の雑草等の除去ができないときは、市に除草等の委託を申し出ることができる。ただし、隣接地との土地境界が未確定の場合その他規則で定める場合を除く。」、「市長は、前項の規定により空地の除草等を受託するときは、当該除草等に要する費用を、当該空地の所有者等から徴収するものとする。」及び「所有者等は、当該除草等に要する費用を事前に市へ納付しなければならない。」(6条)と規定している。

〇 最高裁(平成3年9月13日最高裁判所第二小法廷判決)は、空き地の所有者等に対しその土地の適正管理を義務づけたうえで、当該義務が不履行な場合に市長は命令を出すことができること等を定めた「古河市あき地等に係る雑草等の除去に関する条例」(昭和63年条例第18号 現行の条例は「古河市あき地等の環境保全に関する条例」(平成17年9月))について、憲法29条(財産権の保障)に反しない、としている。

 

【令和の時代の空き地条例】

〇 令和の時代に入って制定された空き地条例で確認できるものは、以下の条例である。

三重県尾鷲市尾鷲市空家等及び空地の適正管理に関する条例令和1年9月30日公布

令和2年4月1日施行

三重県熊野市熊野市空家等及び空地への対策の推進に関する条例令和1年12月23日公布

令和2年2月1日施行

愛知県犬山市犬山市空き地の雑草等の除去に関する条例令和1年12月26日公布

令和2年4月1日施行

山梨県山梨市山梨市空き地の環境保全に関する条例令和2年3月24日公布

令和2年4月1日施行

福岡県須恵町須恵町空き地等の環境保全に関する条例令和2年12月11日公布

令和2年12月11日施行

愛知県一宮市一宮市空き地の不良状態の解消に関する条例令和2年12月21日公布

令和3年4月1日施行

兵庫県加古川市加古川市空き地の適正管理に関する条例令和3年3月31日公布

令和3年3月31日施行

京都府木津川市木津川市空地の除草等に関する条例令和3年6月29日公布

令和3年7月1日施行

茨城県つくばみらい市つくばみらい市空き地の適正管理に関する条例令和3年9月29日公布

令和4年4月1日施行

福島県楢葉町楢葉町空地の適正管理に関する条例令和3年12月10日公布

令和4年4月1日施行

大阪府泉佐野市泉佐野市空き地の雑草等の除去に関する条例令和3年12月22日公布

令和4年4月1日施行

愛知県小牧市小牧市建築物等及び空き地の適切な管理に関する条例令和3年12月23日公布

令和4年4月1日施行

新潟県加茂市加茂市空家等及び空地の適切な管理に関する条例令和4年3月22日公布

令和4年4月1日施行

鳥取県米子市米子市空き地の適切な管理に関する条例令和4年3月30日公布

令和4年3月30日施行

福岡県吉富町吉富町空家空地対策の推進に関する条例令和4年9月13日公布

令和5年1月1日施行

千葉県印西市印西市空き地の雑草等の除去に関する条例 令和4年12月19日公布

令和5年1月1日施行

青森県七戸町七戸町空家等及び空地の適切な管理に関する条例 令和5年3月9日公布

令和5年4月1日施行

 これらの条例のうち、尾鷲市、熊野市、須恵町、小牧市、加茂市、吉富町、七戸町の条例は「空き地・空き家条例」であり、他の条例は「空き地条例」である。

 「空き地・空き家条例」の7条例は空き地に関して「総合管理型」条例であり、「空き地条例」のうち、米子市の条例は「総合管理型」条例、その他の条例は「雑草繁茂対応型」条例とみることができる。令和の時代においても、「雑草繁茂対応型」条例は少なくないと言える。

 須恵町条例は、「須恵町空き地等の環境保全に関する条例」(平成21年)を全部改正したうえで、小牧市条例は「小牧市空き地に繁茂した雑草等の除去に関する条例」(昭和52年)を廃止したうえで、制定されている。

〇 これらの条例のうち、指導・助言、勧告、措置命令、代執行、公表、罰則、その他の規定のうち、どの規定を置いているかについては、以下のようになる。

指導・助言+勧告

犬山市条例、加古川市条例、楢葉町条例

指導・助言+勧告+命令

熊野市条例

指導・助言+勧告+命令+公表

山梨市条例、一宮市条例

指導・助言+勧告+命令+代執行

尾鷲市条例、須恵町条例、木津川市条例、つくばみらい市条例、印西市条例

指導・助言+勧告+命令+代執行+公表

米子市条例

指導・助言+勧告+命令+代執行+罰則

泉佐野市条例、小牧市条例

指導・助言+勧告+公表+命令+代執行+罰則

吉富町条例、七戸町条例

立入調査

すべての条例

緊急措置

須恵町条例、泉佐野市条例、小牧市条例、加茂市条例、米子市条例、吉富町条例、
七戸町条例

情報の利用

泉佐野市条例、小牧市条例、米子市条例、吉富町条例

除草等の委託

木津川市条例

行政区等の役割・当事者による解決との関係

楢葉町条例

 これらの条例のうち、尾鷲市条例は勧告に当たって審議会の意見を聴取し、命令に当たって証拠提出の機会を与え、請求があった場合は意見聴取を行う規定(命令に関しては、空家法14条を準用)を、熊野市条例は命令に当たって弁明の機会を与える規定を、山梨市条例は公表に当たって弁明の機会を与える規定を、泉佐野市条例は勧告に当たって審議会の意見を聴取し、命令に当たって意見を述べる機会を与える規定を、小牧市条例は命令に当たって審議会の意見を聴取し、証拠提出の機会を与え、請求があった場合は意見聴取を行い、代執行に当たっては審議会の意見を聴取する規定を、米子市条例は命令に当たって証拠提出の機会を与え、請求があった場合は意見聴取を行い、公表に当たって意見を述べる機会を与える規定を、吉富町条例は公表に当たって意見を述べる機会を与え、命令に当たって証拠提出の機会を与え、請求があった場合は意見聴取を行う規定を、七戸町条例は命令に当たって協議会の意見を聴取し、弁明の機会を与え、公表に当たって弁明の機会を与える規定を、それぞれ置いている。

 楢葉町条例は、正当な理由なく勧告に係る措置を講じない場合は、空地等対策協議会は意見を述べる(12条2項2号)としている。

 加茂市条例は、空き地に関しては、指導・助言、勧告等の規定は置かず、緊急措置(緊急安全措置)の規定のみ置いている。

 罰則については、泉佐野市条例、小牧市条例及び七戸町条例は命令違反者に対して5万円以下の過料を、吉富町条例は標識毀損、立入調査拒否、命令違反等をした者に対して5万円以下の過料を科している。



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