散骨を規制する条例
(令和6年6月29日更新)
【散骨の規制と条例】
〇 本稿では、散骨を規制する条例を取り上げる。
散骨とは、「死者の遺骨を粉にして海や山へまく葬礼」(広辞苑第7版)とされる。
我が国においては、故人の遺体は火葬を行い、また埋葬を行うのが通例となっているが、近年葬送に対する考え方が多様化し、散骨も少なからず見られるようになっている。
〇 こうした散骨は、法令上許されるのか、仮に許されるとしたとしても全く無制限になされることが放置されてよいのか、何らかの法的な規制が必要ではないのか、自治体が条例でどのような規制を行うことが可能か、などについて議論がなされてきている。
(平成10年厚生省懇談会報告書)
〇 これらの点について、旧厚生省生活衛生局が設置した「これからの墓地等の在り方を考える懇談会」が平成10年6月にとりまとめた報告書(以下「平成10年報告書」という。なお、報告書本文は下記令和3年報告書270頁以下に掲載されている。)は、「墓地埋葬法が想定していない葬法として、焼骨を粉末状にして、墓地又は墓地以外の場所に焼骨を散布する散骨を行う人々が現れた」としたうえで、「墓地埋葬法は、本来、伝統的な葬法である埋葬・火葬の取締法規であり、葬法の在り方自体を直接的に規制するものではない。また、刑法の遺骨遺棄罪は社会的な習俗、倫理に関するものであり、相当な節度をもって行なう場合は、散骨を処罰の対象とすることはできないと解されている。」との見解を示している。
〇 他方、「死者の意志を尊重した散骨が認められるとしても、それは無制限のものではない。」、「公衆衛生上又は国民の宗教的感情上の問題を生じるような方法で散骨が行われる場合には、墓地埋葬行政として当然規制の対象になる。」、「『散骨の自由』も公共の福祉による制約を受けるのは当然である。」とし、そのうえで規制の方法について法律によるべきか条例によるべきかについては、葬送方法には強い地域差があると考えられること、墓地埋葬に関する規制権限は地方自治法上、自治事務とされていることから、「それぞれの地方の実情を踏まえて、地方自治体の条例で定めることが適当であると考えられる。」と結論づけている。
また、あわせて「国としては、散骨の定義、散骨が許容される区域等を定める基準、行為規制の態様、制裁の程度など条例の準則を示すことが考えられよう」との考えを示している。
(厚生労働省(厚生省)及び法務省の公式見解)
〇 平成10年報告書を受けて、その後、旧厚生省や厚生労働省が散骨に関して公式な見解を文書でとりまとめ、また、自治体に対して準則も含めて何らかの通知文書を発出するなどの動きをした形跡は見当たらない。
〇 散骨が法令上許されるかについては、旧厚生省は上記「これからの墓地等の在り方を考える懇談会」の場で「散骨は墓埋法の埋葬にも埋蔵にも当たらない」、「散骨に関する現行解釈は、墓埋法は関知しないということである」等の見解を示し、法務省は平成3年10月の記者会見で法務大臣が「刑法190条の規定は、社会的習俗としての宗教的感情などを保護するのが目的であり、葬送のための祭祀で節度をもって行われる限り問題はない」旨述べた(自治体法務研究2006年春号CLOSEUP先進・ユニーク条例「長沼町さわやか環境づくり条例(散骨規制条例)」48頁、46頁)などとされている。
しかし、旧厚生省又は厚生労働省や法務省が公式な文書でその見解を示したものは確認できない。
〇 なお、墓地、埋葬等に関する法律(墓地埋葬法、墓埋法)は、「墓地、納骨堂又は火葬場の管理及び埋葬等が、国民の宗教的感情に適合し、且つ公衆衛生その他公共の福祉の見地から、支障なく行われること」(1条)を目的とし、「埋葬又は焼骨の埋蔵は、墓地以外の区域に、これを行つてはならない。」(4条1項)等と規定している。
また、刑法190条は「死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、三年以下の懲役に処する。」と規定している。
(散骨規制条例制定の動き)
〇 個人や事業者が散骨を行うことにより、その方法によっては、地域において様々なトラブルや紛争を引き起こすことは考えられる。そして、その場合、自治体としてはその対応を求められることとなりうる。
〇 北海道長沼町では、事業者が同町内で樹木葬(遺骨を粉末状にして樹木の周辺にまく散骨方式によるもの)を行う森林公園の造成を計画したことに対して、地域住民による反対運動が起き、長沼町議会も反対決議を行った。こうしたことを受けて、長沼町は、平成17年3月に「長沼町さわやか環境づくり条例」を制定し、墓地以外の場所での散骨を禁止した。
この長沼町条例が、わが国で最初の散骨を規制する条例となる。
〇 その後、平成18年4月に長野県諏訪市が「諏訪市墓地等の経営の許可等に関する条例」を改正施行し、散骨場の経営を許可制にし、平成19年9月に北海道岩見沢市が「岩見沢市における散骨の適正化に関する条例」を制定し、散骨場の経営を許可制にするとともに散骨場以外の場所における散骨を原則として禁止した。
さらに、平成20年に埼玉県秩父市、平成21年に静岡県御殿場市、平成22年に埼玉県本庄市、宮城県松島町、平成26年に神奈川県湯河原町、平成27年に静岡県熱海市、神奈川県箱根町、静岡県伊東市、平成29年に静岡県三島市、平成30年に愛媛県愛南町、令和2年に鹿児島県伊佐市、熊本県南阿蘇村が、散骨を規制するために、それぞれ新規条例を制定し、又は既存条例を改正している。
〇 長沼町、松島町及び南阿蘇村の条例は散骨の禁止、秩父市及び伊佐市の条例は散骨の原則禁止(一定の要件を満たし届出等をした場合は可能)、諏訪市、御殿場市、本庄市、湯河原町、熱海市、箱根町、伊東市、三島市及び愛南町の条例は散骨場の規制(散骨場の経営の許可等)、岩見沢市条例は散骨場の規制(散骨場の経営の許可等)と散骨の原則禁止(散骨場以外の区域で届出をした場合は可能)を定めている。
各条例の内容等については、次項で詳述する。
(散骨規制条例を巡る議論)
〇 長沼町条例については、NPO法人「葬送の自由をすすめる会」から「葬送の自由」は憲法で認められているとして条例廃止を求める意見が提出された(上記自治体法務研究長沼町条例解説51頁)とされる。
〇 田近肇「散骨規制条例と葬送の自由・死者の尊厳」(臨床法務研究21号 平成30年9月)は、葬送の自由、条例による散骨規制の合憲性等について詳しく論じている。
この田近論文は、散骨場経営の許可等により散骨場の規制を行う条例は「墓地経営に関する規律と同様の規律を散骨場の経営について定めたにとどまっており、違憲と説くことはできないように思われる。」(127頁)とする一方、「長沼町条例のように散骨の具体的な場所や態様を問うことなく一律に散骨を禁止するというのは合理的とはいえないように思われる」、「逆に言えば、散骨を一律に禁止するのではなく、そうした散骨の具体的な場所や態様に関する規制であれば、散骨行為を規制することも憲法上許容されるであろう。」(124頁)などとしている。
(令和3年厚生労働省特別研究報告書)
〇 令和3年3月に厚生労働科学特別研究事業である「墓地埋葬をめぐる現状と課題の調査研究 令和2年度総括研究報告書」(以下「令和3年報告書」という。)が取りまとめられた。この研究は「新たな葬送の方法として、近年増加しつつある散骨に関しその法的位置づけ、国民意識の動向、諸外国の規制の動向、地方自治体や事業者の対応の動向を調査し、その適正化に向けてガイドラインの策定について研究を行うこと」(1頁)としたものである。
〇 同報告書は、平成10年報告書が示した上記見解・考え方と「問題意識を共有する」としたうえで、平成10年報告書から「20年を経て、少なからぬ地方公共団体において、地方自治に拠った散骨に関する条例制定などがなされている。それらの条例等の制定がなされるきっかけとなった背景には、直接・間接の程度の差こそあれ、散骨をめぐるトラブルが契機であったことが当研究班の地方自治体アンケートで明らかになっており、国として、社会的取り決めを定めるべき時期に来ていると考える」(260頁)としている。
しかしながら、国による全国統一的な法規制については「まだ準備が整っていない」(260頁)として否定をし、散骨への対応に関して自治体及び散骨事業者向けのガイドラインの提案を行っている(260頁以下)。
〇 自治体向けのガイドラインの提案については、「墓埋法において散骨の定義や、所要の規制条項が定められていない現状においては、何らかの規制を行う場合、各地方公共団体が散骨をどのように規制するか自主的に判断することなる。その場合、先行地方公共団体の事例も踏まえ、条例、要綱、指針等を定めることが考えられる。」とし、「その場合、散骨を基本的に認めない考えから、要件を定めて適合するものを認めていくものまで対応は地方公共団体の判断事項になる」(262頁)としている。
そのうえで、散骨の定義、方法及び場所、散骨場の経営者の義務、水面での散骨の規制の対象等について、それぞれ留意点程度のものは示している(262頁、263頁)ものの、基本的には規制の内容や方法などはすべて各自治体に委ねている。
また、長沼町条例をはじめ上記の既に制定されている各自治体の条例については、内容の適否等は一切言及せず、他の自治体の参考にすべき事例としている。
さらに、「散骨を基本的に認めない考え」を是認し、また、「要綱、指針等」も規制方法の選択肢の一つとしている。
〇 なお、同報告書では、散骨の定義については、「墓埋法に基づき適法に火葬された後、その焼骨を粉状に砕き、墓埋法が想定する埋蔵又は収蔵以外の方法で、陸地又は水面に散布し、又は投下する行為」(261頁)としている。
〇 厚生労働省HP「墓地・埋葬等のページ」には、「散骨事業者向けのガイドライン」が掲載されている。
【条例の制定状況と内容】
〇 散骨を規制する条例として、令和6年6月1日時点で、以下の条例が確認できる。
なお、令和3年報告書(111頁~122頁)と上記田近論文は、愛南町、伊佐市及び南阿蘇村の条例を除く各条例について紹介し、解説している。
北海道長沼町 | 平成17年3月16日公布 | 平成17年5月1日施行 |
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長野県諏訪市 | 平成18年4月1日改正施行 |
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北海道岩見沢市 | 平成19年9月18日公布 | 平成19年9月18日施行 |
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埼玉県秩父市 | 平成20年12月18日改正施行 |
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静岡県御殿場市 | 平成21年3月9日公布 | 平成21年4月1日施行 |
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埼玉県本庄市 | 平成22年3月31日公布 | 平成22年4月1日施行 |
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宮城県松島町 | 平成22年5月28日公布 | 平成22年5月28日施行 |
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神奈川県湯河原町 | 平成26年7月31日公布 | 平成26年7月31日施行 |
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静岡県熱海市 | 平成27年6月29日公布 | 平成27年6月29日施行 |
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神奈川県箱根町 | 平成27年9月28日公布 | 平成27年9月28日施行 |
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静岡県伊東市 | 平成27年12月15日公布 | 平成27年12月15日施行 |
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静岡県三島市 | 平成29年12月15日公布 | 平成30年4月1日施行 |
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愛媛県愛南町 | 平成30年3月9日公布 | 平成30年4月1日施行 |
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鹿児島県伊佐市 | 令和2年3月23日改正施行 |
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熊本県南阿蘇村 | 令和2年4月1日改正施行 |
〇 以上の条例について、4つのタイプに分けることができる。それぞれごとに、条例の内容を紹介する。
1 散骨を禁止する条例
長沼町、松島町、南阿蘇村
2 散骨を原則として禁止する条例(一定の要件を満たし届出等をした場合、散骨は可能)
秩父市、伊佐市
3 専ら散骨場の規制を行う条例(散骨場の経営の許可等)
諏訪市、御殿場市、本庄市、湯河原町、熱海市、箱根町、伊東市、三島市、愛南町
4 散骨場の規制を行うとともに、散骨を原則として禁止する条例
岩見沢市
(1 散骨を禁止する条例)
〇 散骨を禁止する条例としては、長沼町、松島町及び南阿蘇村の条例がある。
〇 このうち、長沼町条例は、「何人も、墓地以外の場所で焼骨を散布してはならない。」(11条)としたうえで、違反者に対して、町長は勧告、命令、立入検査、公表(13条~16条)を行うことができるとし、また、罰則(17条、18条)を科すこととしている。「散骨」という用語を使用せず、「焼骨」の「散布」を禁止し、「焼骨」を「人の遺体を火葬した遺骨(その形状が顆粒状のものを含む。)」(3条5号)、「散布」を「物を一定の場所にまくこと」と定義づけている(同条6号)。
わが国で最初の散骨を規制する条例であるが、「何人」に対しても散骨を禁止している。但し、「墓地以外の場所」としている。
長沼町条例の制定経緯、内容等については、上記自治体法務研究長沼町条例解説を参照されたい。
〇 松島町条例は、「何人も、みだりに焼骨を散布してはならない。」(8条)としたうえで、違反者に対して、町長は勧告、命令、立入検査、公表(9条~11条)を行うことができるとし、また、罰則(14条)を科すこととしている。
ほぼ長沼町条例と同様の規定を置いているが、「みだりに」散骨をすることを禁止している。
なお、条例制定の経緯については、「カキ養殖等の漁業。散骨による風評被害を懸念し、禁止に」(令和3年報告書122頁)したとされる。
〇 南阿蘇村条例は、「何人も、墓地以外の場所で焼骨を散布してはならない。」(8条)としている。立入調査(10条)、公表(11条1号)の規定は置いているが、罰則規定は置いていない。
(2 散骨を原則として禁止する条例)
〇 次に、散骨を原則として禁止するものの、一定の要件を満たし、届出等をした場合は散骨を可能とする条例であるが、秩父市及び伊佐市の条例がある。
〇 このうち、秩父市条例は、「何人も、墓地以外の場所で焼骨を散布してはならない。ただし、市長が別に定める場合は、この限りでない。」(36条)と規定したうえで、「秩父市環境保全条例施行規則」23条で焼骨の散布の特例を規定し、①焼骨の散布に係る事業者がその事業を行うために設けた場所でないこと、②あらかじめ、隣地土地所有者から同意を得ていること又は隣地境界から100m以上離れていること等の場合は、市長に届けたうえで、散骨が認められるとし、届出者に対して、市長は報告徴収、立入調査等を行うことができるとしている。勧告、命令、公表及及び罰則の規定は置いていない。
条例制定の経緯については、「民間の方から散骨場を造りたいとの話あり。住民の強い反対があり、平成20年12月に制定」(令和3年報告書122頁)したとされる。
〇 伊佐市条例は、「何人も、市長が別に定める場合を除き、焼骨を散布してはならない。」(12条)規定したうえで、「伊佐市環境保全及び美化推進条例施行規則」2条で焼骨の散布の特例を規定し、①あらかじめ隣地土地所有者の同意を得ていること、②隣地境界から100m以上離れていること等の場合は、市長に申請し、承認を得たうえで、散骨が認められるとし、承認申請者に対して、市長は報告徴収、立入調査等を行うことができるとしている。条例の違反者に対して、市長は改善勧告、改善命令、公表(条例13条~15条)を行うことができるとし、また、罰則(条例18条)を科している。
秩父市条例が勧告、命令、公表及び罰則の規定は置いていないのに対して、伊佐市条例はこれらの規定を置いている。
(3 専ら散骨場の規制を行う条例)
〇 散骨場の経営の許可制を規定するなど専ら散骨場の規制を行う条例としては、諏訪市、御殿場市、本庄市、湯河原町、熱海市、箱根町、伊東市、三島市及び愛南町の条例がある。
散骨行為そのものは規制していない。散骨を規制する条例としては、数としてはこのタイプが多い。
諏訪市条例は墓地埋葬法に基づく墓地等の許可基準を定めた既存の施行条例に付加する形で散骨場の経営の許可等を定めているが、他の条例はすべて散骨場の規制に特化した単独条例である。
〇 このうち、諏訪市条例は、「散骨場を経営しようとする者は、市長の許可を受けなければならない。」(3条1項)と規定したうえで、墓地等の場合と同様に市長との事前協議、事前説明会の開催を義務づける(4条、5条)とともに、設置場所及び施設について墓地と同様の基準を定めている(9条、10条)。「散骨場」を「散骨を行うために、散骨場として市長の許可を受けた区域」(2条1号)と定義づけているが、「散骨」については定義をしていない。また、罰則規定は置いていない。
〇 一方、散骨場の規制に特化した単独条例(諏訪市、御殿場市、本庄市、湯河原町、熱海市、箱根町、伊東市、三島市及び愛南町の条例)については、各条例によって規定内容等はそれぞれ異なるものの、基本的な仕組みはほぼ同じとなっている。
すなわち、散骨場の経営には市長(町長)の許可が必要とし、事前説明会の開催、地域住民との協議・隣接土地所有者の同意のいずれか又は両方、市長(町長)との事前協議を義務づけ、許可基準を定め、必要がある場合に市長(町長)は、報告の徴収、立入検査を行い、さらに、改善勧告、改善命令、許可の取消し、中止命令、原状回復命令、公表等を行うとするものである。
罰則については、規定を置くもの(御殿場市及び三島市の条例)と置かないもの(本庄市、湯河原町、熱海市、箱根町、伊東市及び愛南町の条例)とに分かれる。
「散骨場」の定義については、「墓地、埋葬等に関する法律(・・・)第2条第2項に規定する火葬により生じた骨の粉末(その形状が顆粒状のもの及び遺灰を含む。)を地表等へ散布を行うための区域として、市長の許可を受けた事業区域」(御殿場市条例2条1号)等と規定されている。
〇 条例制定の経緯については、湯河原町条例は「隣接する市で散骨場設置の事案あり。ルール化の必要を感じて平成26年に制定」、熱海市条例は「平成25年に散骨場の設置の計画はじまる。隣接土地所有者、近隣住民等の反対運動がおきる。反対署名が市に出されたことが経緯」、箱根町条例は「事業者からの照会が発端」とされている(令和3年報告書122頁)。
〇 なお、「熱海市まちづくり条例」は、「開発事業」(2条4号)を行う場合は、市長への事前協議書の届出、説明会の開催、請求があった場合の公聴会の開催・審議会の開催、指導書の交付、開発事業計画の届出、審査基準適合通知書の交付、開発事業に関する協定の締結等の手続を義務づけているが、「熱海市まちづくり条例施行規則」が平成26年8月8日改正施行され、散骨場の設置が「開発事業」に追加された(規則2条3号の2)。したがって、熱海市においては、散骨場の設置については、「熱海市散骨場の経営の許可等に関する条例」とは別に、「熱海市まちづくり条例」に基づく手続が必要となっている。
また、神奈川県鎌倉市の「鎌倉市特定土地利用における手続及び基準等に関する条例」(平成23年10月6日公布・平成24年4月1日施行)は、「特定土地利用」(2条1号)を行う場合は、事前相談、近隣住民等への説明、周辺住民等への説明、計画公開等結果報告書の提出、特定土地利用の適合申請、市長との協議等の手続を義務づけるとともに、立地基準、設置基準等を定めているが、「特定土地利用」には「火葬により生じた焼骨の粉末(その形状が顆粒状のもの及び遺灰を含む。)を地表等へ散布するための区域の設置」(2条1号ア)が含まれており、散骨場の設置については、同条例に基づく手続が必要となっている。
(4 散骨場の規制を行うとともに、散骨を原則として禁止する条例)
〇 散骨場の規制を行うとともに、散骨を原則として禁止する条例としては、岩見沢市条例がある。
〇 岩見沢市条例は、「散骨場を経営しようとする者は、市長の許可を受けなければならない。」(3条1項)とし、市長による報告徴収及び立入調査(5条)、許可の取り消し等(6条)を規定するとともに、罰則(12条~14条)を科すこととしている。
あわせて、「散骨は、散骨場以外の区域において、これを行ってはならない。」(7条本文)としたうえで、「ただし、次条の規定による届出をした者がその届出に係る区域において散骨を行う場合は、この限りでない。」(同条但書き)とし、「散骨場以外の区域において散骨を行おうとする者は、あらかじめ、その旨を市長に届け出なければならない。」(8条)とし、市長に届けた場合は散骨場以外の区域における散骨を認めている。この届出の手続に関して、市長による報告徴収及び立入調査等(9条)、勧告・公表(10条)を規定しているが、罰則規定は置いていない。
【散骨の規制に関する要綱、ガイドライン等】
〇 散骨の規制に関して要綱、ガイドライン等を制定している自治体もある。令和3年報告書(118~121頁)によると、以下の事例があるとされる。
北海道七飯町 | 平成18年3月14日制定 |
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神奈川県熱海市 | 平成27年7月1日策定 |
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神奈川県伊東市 | 平成28年2月1日策定 |
〇 七飯町の要綱は、「焼骨について法に想定していない葬法(以下「法定外の葬法」という。)が広がりつつある昨今の風潮に鑑み、七飯町内において事業者による法定外の葬法が提起された場合には、地域における行政を自主的かつ町民の意思尊重の下に実施するため」(1条)制定するとしている。
「法定外の葬法」を行う場所(事業計画地)は、一定の場所(3条各号に列挙)を除くよう、町長は事業者を指導するものとし(3条)、事業者は事業計画について地域関係者に対して説明会を開催し書面により承諾を得るものとする(4条)等を定めている。
〇 熱海市のガイドライン及び伊東市の指針は、いずれも海洋散骨に関するものである。両市とも、散骨場の規制を行う条例は制定しているものの、海洋での散骨についてはこれらの条例は適用されないとして、海洋散骨に関するガイドライン・指針を制定したものである。
熱海市のガイドラインは、海洋散骨を行う事業者の責務として、①熱海市内の土地(初島含む。)から10㎞以上離れた海域で行うこと、②海水浴やマリンレジャーのお客様の多い夏期における海洋散骨は控えること、③事業を宣伝・広報する際に「熱海沖」、「初島沖」など「熱海」を連想する文言を使用しないこと等を定め、伊東市の指針は、海洋散骨を行う者及び事業者に対する遵守要請事項として、①伊東市内の陸地から6海里(約11.11㎞)以内の海域で散骨しないこと、②宣伝・広報に関し、「伊東沖」、「伊東市の地名」など、「伊東」を連想する文言を使用しないこと等を定めている。