水上オートバイ等の航行の規制に関する条例

(令和6年3月31日更新)

【明石市、兵庫県、神戸市及び和歌山県の条例】

〇 令和3年8月に、兵庫県明石市の海岸で水上オートバイによる危険行為がテレビで放映され、社会問題となった。また、同年9月には、淡路市で、特殊小型船舶操縦士の免許を持たず、また飲酒をした者が操船する水上オートバイが護岸に衝突し、3名が死亡する事故が発生した。

 こうしたことを受けて、明石市は令和4年3月に新しい条例を制定し、兵庫県は令和4年6月に既存条例の改正し、神戸市は令和4年3月に既存条例を改正した。

 また、和歌山県及び沖縄県宮古島市は令和4年12月に、高知県いの町は令和6年4月に、それぞれ新しい条例を制定している。

〇 すなわち、

兵庫県明石市

明石市水上オートバイ等の安全な利用の促進に関する条例

令和4年3月30日公布

令和4年3月30日施行

兵庫県

水難事故等の防止に関する条例

平成7年3月13日公布

令和4年6月10日改正公布

平成7年6月1日施行

令和4年7月1日改正施行

神戸市

須磨海岸を守り育てる条例

神戸市港湾施設条例及び須磨海岸を守り育てる条例

の一部を改正する条例

平成20年3月31日公布

令和4年3月31日改正公布

令和5年12月7日改正公布

平成20年4月1日施行

令和4年5月1日改正施行

令和6年4月1日改正施行

神戸市港湾施設条例

神戸市港湾施設条例及び須磨海岸を守り育てる条例

の一部を改正する条例

昭和48年4月1日公布

令和4年3月31日改正公布

令和5年12月7日改正公布

昭和48年5月1日施行

令和4年5月1日改正施行

令和6年4月1日改正施行

和歌山県

和歌山県水上オートバイ航行の適正化に関する条例

令和4年12月16日公布

令和5年4月1日施行

沖縄県宮古島市

宮古島市水上オートバイ等の安全な利用の促進に関する条例

令和4年12月26日公布

令和5年4月1日施行

高知県いの町

いの町水上オートバイ等の安全な利用の促進に関する条例

令和6年4月1日公布

令和6年4月1日施行

である。

〇 明石市条例は、「海域等」を「海域、海浜、河川及び池」、「水上オートバイ等」を「水上オートバイ、モーターボート、ヨット、セールボード、サーフボードその他スポーツ又はレクリエーションの用に供される船舟類(手こぎ又は足こぎのものを除く。)」と定義づけた(2条1号、2号)うえで、「海域等における水上オートバイ等の利用に伴う事故を防止し、もって海域等利用者の生命、身体及び財産の保護を図ること」(1条)を目的としている。

 市長は、期間を定めて、海域等のうち特定の区域を「遊泳者安全区域」として指定することができる(9条1項)とし、一定の場合を除き、遊泳者安全区域に水上オートバイ等を乗り入れ、又は引き入れてはならない(9条6項)としている。

 また、海域等において水上オートバイ等を操縦する者は、海域等利用者の付近において、「水上オートバイ等をこれらの者との衝突その他の危険を生じさせるおそれのある速力で航行する操縦の方法」又は「水上オートバイ等を急回転し、又は縫航する操縦の方法」で、水上オートバイ等を操縦してはならない(10条)としている。

 そのうえで、遊泳者安全区域において10条に違反して危険行為を行った者に対して、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金を科す(11条)としている。

 明石市条例の内容については、明石市HP「明石市水上オートバイ等の安全な利用の促進に関する条例」を参照され8たい。

〇 兵庫県条例は、令和4年5月1日の改正施行により、「プレジャーボート」を「スポーツ又はレクリエーションの用に供されるモーターボート、ヨット、水上オートバイ、セールボード、サーフボードその他の船舟類(手こぎ又は足こぎのものを除く。)」(改正後2条8号)と、「動力船」を「推進機関を有するプレジャーボート」(改正後2条11号)と定義づけたうえで、「 プレジャーボート操船者は、海域等利用者の付近においてみだりにプレジャーボートを疾走させ、急転回させ、縫航させる等により、海域等利用者に対して危険を覚えさせるような行為をしてはならない。」(改正後15条1項)を規定し、違反行為に対しては、動力船による危険行為の場合は3月以下の懲役又は50 万円以下の罰金、動力船以外のプレジャーボートによる危険行為の場合は50 万円以下の罰金を科す(改正後25条1号、改正後28条)とした。改正前は海域等利用者に対する危険行為を行った場合20万円以下の罰金を科す(改正前23条1号)としていたのに対して、罰則を強化することとした。

 また、「何人も、海域等において、酒気を帯びた状態で動力船の操船をしてはならない。 」(改正後16条1項)と規定し、そのうえで、酒酔い操縦(アルコールの影響により正常な操船ができないおそれがある状態による操縦)の場合は3月以下の懲役又は50万円以下の罰金、酒気帯び操縦(身体に公安委員会規則で定める程度以上にアルコールを保有する状態による操縦)の場合はは3月以下の懲役又は30万円以下の罰金を科す(改正後25条2号、改正後26条)とした。改正前はプレジャーボートの操船に係る遵守事項の一つとして酒酔い操縦を禁止していた(改正前14条1項2号)ものの罰則は科していなかったのに対して、新たに罰則を科すこととした。

 兵庫県の条例改正も含めた対策については、兵庫県HP「水上オートバイによる危険行為等に関する対策」を参照されたい。

 なお、兵庫県条例は、公安委員会は遊泳区域を指定することができる(7条1項)とし、、一定の場合を除き、遊泳区域に船舟類(手こぎのゴムボートその他の人の身体に危害を及ぼすおそれのないものを除く。)を乗り入れ、又は引き入れてはならない(8条)としているが、違反行為に対して罰則はない。

 また、兵庫県の「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」は、モーターボート等による危険行為の禁止として、「何人も、モーターボートその他の原動機を用いて推進する舟又はヨットをみだりに疾走させ、急転回させ、縫航させる等により、遊泳している者又は手こぎのボートその他の小舟に乗っている者に対して危険を覚えさせるような行為をしてはならない。」(8条)と規定し、違反した者に対して20万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に科し、さらに常習の違反者に対しては6月以下の懲役又は20万円以下の罰金を科す(19条)としている。

〇 神戸市の「須磨海岸を守り育てる条例」は、須磨海岸の区域において「モーターボート、ヨット、水上オートバイ、セールボード、サーフボードその他の船舟類(その推進力を利用した接続器具を含む。)又は気体若しくは液体を噴出させる機器を接近させる等により他の者に危険を及ぼすこと」を禁止し(23条1項10号)、違反行為に対する市長の中止命令(23条3項)に違反した者に5万円以下の過料を科す(28条1号)としているが、令和4年5月1日の改正施行により、新たに、規則で定める区域は「推進機関とし内燃機関又は電動機を備える船舶」(漁船、国・自治体が所有する船舶等を除く)の航行を禁止する(改正後24条)こととし、違反行為に対して5万円以下の過料を科す(改正後29条3号)とし、令和6年4月1日の改正施行により、違反行為に対して20万円以下の罰金を科す(44条)としている。

 また、「神戸市港湾施設条例」は、令和4年5月1日の改正施行により、新たに、規則で定める運河の区域は「推進機関とし内燃機関又は電動機を備える船舶」(漁船、国・自治体が所有する船舶等を除く)の航行を禁止する(改正後27条4号)こととし、違反行為に対して5万円以下の過料を科す(44条)とし、令和6年4月1日の改正施行により、違反行為に対して20万円以下の罰金を科す(44条)としている。

 神戸市の条例改正の内容等については、神戸市HP「水上オートバイに関する規制について」を参照されたい。

〇 明石市の泉房穂市長は、明石市条例の罰則に関し、水上オートバイの危険行為について、国による規制は「禁止しているが罰則なし」、兵庫県による規制は「罰金(20万円以下)又は拘留もしくは科料。ただし、常習犯の場合は懲役(6月以下)又は罰金(20万円以下)」であるとし、他方で車両の危険行為については、「懲役(3年以下)又は罰金(50万円以下)。ただし、著しい危険を生じさせた場合には、懲役(5年以下)又は罰金(100万円以下)」である(明石市令和3年11月25日記者発表資料「水上オートバイ等の安全な利用の促進に関する条例の制定に向けて」別紙資料)としたうえで、「毅然と対応する観点から、懲役刑は必ず必要だと思っております。現状では兵庫県の場合、罰金止まり、罰金20万円です。それでは抑止力は働きません。水上バイクにつきましては、1台2、3百万円するものであります。ものすごくお金のかかる楽しみごとでありまして、2、3百万円もかけて買い、一定の金額を費やしながらしておられる方に、罰金20万円で抑止力が働くわけがありません。懲役刑につきましては、すでにさまざまな都道府県などでも規定されていますので珍しいことではありません。ただ残念ながら、兵庫県は懲役刑が規定されていない状況のままです。そういった観点では、明石市としては懲役刑を新設していきたいと考えています。」(明石市令和3年11月25日記者会見)と述べ、また、国の規制に関して、「水上バイクと車両を比べた場合、無免許の場合は確かに水上バイクも罰金がありますが、30万円以下です。それ以外の酒酔いや速度制限や危険行為については基本的に罰則、規制がない状況になっています。それに比べて車両、陸上の場合はそれぞれ懲役や罰金が規定されている状況で、簡単に言えば陸と海で極端に規制が違い過ぎるということが今の問題だと思います。」(明石市令和4年2月16日記者会見)と述べている。

 兵庫県は、兵庫県条例の改正の検討に当たり「水上オートバイによる危険行為等の対策検討会議」を設置し、同会議は令和4年2月に「水上オートバイによる危険行為等に関する対策」を取りまとめた。同報告書は、水上オートバイの危険行為に対する罰則について、他の都道府県では3月以下の懲役又は50万円以下の罰金 (東京都)、3月以下の懲役又は 50万円以下の罰金(茨城県、宮崎県、沖縄県)、3月以下の懲役又は20万円以下の罰金(栃木県)等の例もあるとして、「県条例における罰則(現行:罰金20万円)の強化を検討する必要がある」とし(5頁)、飲酒操縦に対する罰則については、他の都道府県では酒酔い操縦に対して、3月以下の懲役又は50万円以下の罰金 (東京都、茨城県)、3月以下の懲役又は20万円以下の罰金 (栃木県)、2月以下の懲役又は30万円以下の罰金(滋賀県)、2月以下の懲役又は10万円以下の罰金(山梨県)等の例があるとして、「県条例における罰則の創設を検討する必要がある。」(6頁)としている。

 なお、兵庫県は、国に対して、危険行為及び飲酒操縦に対する法律上の規制強化(刑事罰の創設、酒気帯びでの操縦に対する規制)について要望している(兵庫県要望書「水上オートバイの 危険行為等に関する要望」(令和4年4月))。

〇 和歌山県条例は、「水上オートバイ」を「小型船舶安全規則(昭和49年運輸省令第36号)第2条第2項に規定する特殊小型船舶」(2条1号)と定義づけ、「水上オートバイに関し、その航行の規制その他の水上オートバイの航行の適正化に必要な措置を講ずることにより、公共水域の利用の適正化並びに公共水域における安全の確保及び良好な環境の保全を図るとともに、海洋性レクリエーション活動の健全な発展に資すること」(1条)を目的としている。

 知事は、公共水域のうち遊泳者等の安全確保等のための措置を講ずる必要があると認められる水域を、規制区域として指定することができる(6条1項)とし、規制水域への水上オートバイの乗り入れや航行を、水難時の救助その他の必要な措置を講ずる場合等を除き、禁止している(7条)。違反する水上オートバイの操船者に対して、知事は航行の停止や規制水域外への移動を命じることができる(11条)とし、命令に従わない者には5万円以下の過料を科す(13条)としている。

〇 宮古島市条例は、「海域等」を「宮古島市周辺海域及び海浜」、「水上オートバイ等」を「水上オートバイ、モーターボート、ヨット、セールボード、サーフボード、カイトボード、その他のスポーツ又はレクリエーションの用に供される船舟類等で、機関又は風若しくは波により推進するもの(手こぎ又は足こぎのものを除く。)」と定義づけた(2条1号、2号)うえで、「海域等における水上オートバイ等の利用に伴う事故を防止し、もって海域等利用者の生命、身体及び財産の保護を図ること」(1条)を目的としている。

 市長は、期間を定めて、海域等のうち特定の区域を「水上オートバイ等事故防止重点区域」又は「水上オートバイ等発着区域」として指定することができる(7条1項、8条1項)とし、一定の場合(発着区域については、宮古島市海岸管理条例4条の規定により占有許可を受けている場合を含む)を除き、何人も事故防止重点区域又は発着区域に水上オートバイ等を乗り入れ、又は引き入れてはならない(7条6項、8条6項)としている。

 7条6項又は8条6項の規定に常習的に違反した者に対して、市長は、警告、指示をすることができる(9条)とし、警告に従わない者に対して、20万円以下の罰金を科す(11条2項)としている。

 また、海域等において水上オートバイ等を操縦する者は、海域等利用者との接近、衝突その他の危険を生じさせる航行をしてはならない(10条)とし、事故防止重点区域又は発着区域において違反した者に対して、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金を科す(11条1項)としている。

 宮古島市条例の内容については、宮古島市HP「水上オートバイ等の条例ができました!」を参照されたい。

〇 いの町条例は、「河川等」を「河川及び水路」、「水上オートバイ等」を「水上オートバイ、モーターボートその他スポーツ又はレクリエーションの用に供される船舟類(手こぎ又は足こぎのもの、並びに、漁船及び遊覧に供する屋形船を除く。)」と定義づけた(2条1号、2号)うえで、「河川等における水上オートバイ等の利用に伴う事故を防止し、もって河川等利用者の生命、身体及び財産の保護を図ること」(1条)を目的としている。

 町長は、期間を定めて、河川等のうち特定の区域を「遊泳者安全区域」として指定することができる(9条1項)とし、一定の場合を除き、何人も遊泳者安全区域に水上オートバイ等を乗り入れ、又は引き入れてはならない(9条6項)としている。

 また、河川等において水上オートバイ等を操縦する者は、河川等利用者の付近で衝突等のおそれのある速力での航行や急回転し又は縫航する操縦をしてはならない(10条)とし、遊泳者安全区域においてこれに違反する者には6月以下の懲役又は50万円以下の罰金を科す(11条)としている。

 いの町条例の内容については、いの町HP「いの町水上オートバイ等の安全な利用の促進に関する条例について」を参照されたい。

 

【国の法令】

〇 水上オートバイを含む小型船舶の危険行為及び飲酒操船に対する規制について定めている法律として、「船舶職員及び小型船舶操縦者法」がある。

 同法は、小型船舶操縦者の遵守事項(23条の36)として、危険行為の禁止について「衝突その他の危険を生じさせる速力で小型船舶を遊泳者に接近させる操縦その他の人の生命、身体又は財産に対する危険を生じさせるおそれがある操縦として国土交通省令で定める方法で、小型船舶を操縦し、又は他の者に小型船舶を操縦させてはならない。」(23条の36第3項)、飲酒操縦の禁止について「飲酒、薬物の影響その他の理由により正常な操縦ができないおそれがある状態で小型船舶を操縦し、又は当該状態の者に小型船舶を操縦させてはならない。」(23条の36第1項)と定めている。なお、小型船舶操縦者の遵守事項としては、危険行為や飲酒操縦の禁止のほか、港の出入等の際の自己操縦、乗船者の救命胴衣の着用、発航前の検査、適切な見張りの実施等が定められている(23条の36第2項、第4項、第5項)。

 これらの遵守事項に違反した者に対しては、操縦免許の取消しや業務の停止等の行政処分がなされる(23条の7)ものの、刑罰は科されていない。

〇「小型船舶」は「総トン数20トン未満の船舶及び一人で操縦を行う構造の船舶であってその運航及び機関の運転に関する業務の内容が総トン数20トン未満の船舶と同等であるものとして国土交通省令で定める総トン数20トン以上の船舶」(2条4項)と定義づけられているが、20トン未満のモーターボート、ヨット、水上オートバイ、遊漁船、漁船、漁小型犬用船、旅客船、交通船、作業船等が含まれ、20トン以上のものであっても長さが24メートル未満で、スポーツ又はレクリエーションのみに用いられるもの(プレジャーボート)は含まれる(国土交通省HP「小型船舶操縦免許の制度」、日本小型船舶検査機構HP「検査対象船舶」参照)。

 「水上オートバイ」は、水上バイク、ジェットスキーともいわれるが、モーターボート等の操縦は一級小型船舶操縦免許証又は二級小型船舶操縦免許証が必要とされるのに対して、水上オートバイの操縦には特殊小型船舶操縦免許証が必要とされる(23条の3第1項 国土交通省HP「小型船舶操縦免許の制度」参照)。

〇 なお、小型船舶の航行等については、「船舶職員及び小型船舶操縦者法」のほか、様々な法律が関わっている。

 「船舶安全法」は、船舶の堪航性を保持し、かつ、人命の安全を保持するために必要な船体、機関及び設備等の技術基準を定めるとともに、船舶検査、小型船舶検査機構等について規定している。

 「海上衝突予防法」は、海上における衝突の予防のための国際規則の規定に準拠して、船舶の遵守すべき航法、表示すべき灯火及び形象物並びに行うべき信号に関し必要な事項等を定めている。適用範囲は海洋であり、海洋以外(河川・湖等)には適用されない。

 「港則法」は、「港則法施行令」で定める港及びその区域を対象に、港内における航路、港内の航法等について定めている。

 「海上交通安全法」は、「海上交通安全法施行令」で定める船舶交通が輻輳する海域における船舶交通について、特別の交通方法を定めるとともに、その危険を防止するための規制に関する規定を置いている。

 「河川法」は、河川を対象に、「河川法施行令」16条の2第3項により、河川管理者が必要な水域に通航方法を指定することを規定している。

 これらの規制の内容等については、少し古くなるが、日本小型船舶検査機構「小型船舶に係る規制等の状況調査報告書」(平成26年3月)が整理をしている。

〇 参考までに、「道路交通法」は、他の車両等の通行を妨害する目的で危険行為を行った者に対して3年以下の懲役又は50万円以下の罰金(117条の2の2第11号)、このうち特に道路に著しい交通の危険を生じさせた者に対しては5年以下の懲役又は100万円以下の罰金(172条の2第6号)、また、酒酔い運転に対しては5年以下の懲役又は100万円以下の罰金(172条の2第1号)を科している。

 

【都道府県の条例】

(迷惑防止条例)

〇 都道府県のいわゆる迷惑防止条例は、多くの条例が、兵庫県の「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」と同様に、モーターボートや水上オートバイ等の危険行為を禁止し、罰則を科している。

 47都道府県の迷惑防止条例のうち、兵庫県を含む35道府県(北海道、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、群馬県、埼玉県、千葉県、神奈川県、新潟県、富山県、石川県、福井県、山梨県、長野県、岐阜県、静岡県、愛知県、三重県、滋賀県、大阪府、兵庫県、鳥取県、島根県、岡山県、広島県、徳島県、香川県、愛媛県、高知県、福岡県、佐賀県、熊本県、大分県、沖縄県)の条例が、モーターボートや水上オートバイ等の危険行為を禁止している。

〇 例えば、千葉県の「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」は「何人も、通常、人が遊泳し、又は手こぎボートその他の小舟が回遊する水面(以下「海水浴場等」という。)において、みだりに、ヨット若しくはモーターボートその他の原動機を用いて推進する舟艇又はこれらにけん引される物を縫航し、急転回し、疾走させる等により、遊泳し、又は手こぎボートその他の小舟に乗っている者(以下「遊泳者等」という。)に対し、危険を覚えさせるような行為をしてはならない。」(10条1項)と規定し、「大阪府公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」は「何人も、通常、人が遊泳し、又は手漕こぎのボートその他の小舟が回遊する水面において、正当な理由がないのに、モーターボートその他の原動機を用いて推進する舟艇を縫航し、急転回し、疾走させる等により、遊泳し、又は手漕こぎのボートその他の小舟に乗っている者に対し、危険を覚えさせるような行為をしてはならない。」(11条)と規定しているが、他の道県もほぼ同様の規定を置いている。

 なお、これらの迷惑防止条例では、飲酒操縦に関しては全く規定されていない。

〇 35道府県の条例はすべて、危険行為に対して刑事罰を科している。多くの条例は、違反した者に対して50万円以下の罰金又は拘留若しくは科料を科すとし、さらに常習の違反者に対しては6月以下の懲役又は50万円以下の罰金を科すとしている。

 「船舶職員及び小型船舶操縦者法」が小型船舶の危険行為を禁止しているものの、刑罰を科していないのに対して、これらの条例は小型船舶等の危険行為に対して刑罰を科す内容となっている。

 

(プレジャーボートの事故防止に関する条例)

〇 一部の道府県では、プレジャーボートの事故防止に関する条例を制定している。スポーツ、レクリェーションの用に供するモーターボート、ヨット、水上オートバイ等のプレジャーボートの事故防止を目的とするものであり、プレジャーボートの操縦に係る遵守事項、禁止事項等を定めるものである。併せて海水浴場の安全確保に関する規定を置くものも少なくない。

 兵庫県及び和歌山県も含め、以下の12道府県が条例を制定していることが確認できる。

三重県

三重県モーターボート及びヨツト事故防止条例

昭和49年3月29日公布

昭和49年6月1日施行

福島県

遊泳者及びプレジャーモーターボートの事故防止等に関する条例

平成4年7月7日公布

平成4年8月6日施行

宮崎県

宮崎県遊泳者及びプレジャーボートの事故の防止等に関する条例

平成4年12月21日公布

平成5年4月1日施行

長崎県

遊泳者、プレジャーボート利用者等の事故防止に関する条例

平成4年12月25日公布

平成5年1月24日施行

福井県

福井県遊泳者の事故防止に関する条例

平成5年3月25日公布

平成5年5月1日施行

沖縄県

沖縄県水難事故の防止及び遊泳者等の安全の確保等に関する条例

平成5年10月21日公布

平成6年4月1日施行

和歌山県

和歌山県遊泳者等の事故防止に関する条例

平成5年10月25日公布

平成6年1月25日施行

兵庫県

水難事故等の防止に関する条例

平成7年3月13日公布

平成7年6月1日施行

北海道

北海道プレジャーボート等の事故防止等に関する条例

平成15年3月14日公布

平成16年4月1日施行

岩手県

プレジャーボート等に係る水域の適正な利用及び事故の防止に関する条例

平成16年12月17日公布

平成17年7月1日施行

山口県

小型船舶等による危険な行為の規制に関する条例

平成21年7月14日公布

平成21年9月1日施行

京都府

京都府遊泳者及びプレジャーボートの事故の防止等に関する条例

平成26年3月14日公布

平成26年5月1日施行

〇 これら13道府県の条例はすべて、何らかの形でモーターボートや水上オートバイ等の危険行為の禁止や飲酒操縦の禁止に関する規定を置いている。

 例えば、宮崎県条例は、プレジャーボート操船者の禁止行為として「人が遊泳し、又はサーフボードが回遊する海等の水域において、みだりに、プレジャーボートを縫航させ、急転回させ、又は疾走させることによって、遊泳し、又はサーフボードに乗っている者に対し、著しい危険を生じさせること。」(18条1号)及び「酒に酔った状態その他の正常な操船ができないおそれがある状態でプレジャーボートを操船すること。」(18条2号)を禁止し、北海道条例は、危険操縦の禁止として「操縦者は、衝突その他の危険を生じさせる速度でプレジャーボート等を遊泳者に接近させ、その他人の生命、身体及び財産に対する危険を生じさせる方法で、プレジャーボート等を操縦し、又は他の者に操縦させてはならない。」(5条)と規定し、正常状態での操縦禁止として「 操縦者は、飲酒又は薬物の影響その他の理由により正常な操縦ができないおそれがある状態でプレジャーボート等を操縦し、又は当該状態の者に操縦させてはならない。」(4条)と規定している。

〇 13条例のうち、危険行為に対して、宮崎県及び沖縄県の条例は3月以下の懲役又は30万円以下の罰金、山口県条例は50万円以下の罰金又は科料、長崎県、和歌山県、兵庫県及び京都府の条例は20万円以下の罰金(さらに、長崎県条例は常習の違反者に対して6月以下の懲役又は30万円以下の罰金)、三重県条例は5万円以下の罰金、福島県条例は海水浴場等における危険行為を行い警察官の中止の指示に従わない者に対して10万円以下の罰金を科している。

 また、酒酔い操縦に対して、福島県及び宮崎県の条例は20 万円以下の罰金、三重県条例は5万円以下の罰金を科している。

 なお、福井県、北海道及び岩手県の条例は、危険行為及び飲酒操縦のいずれの違反行為に対して、刑罰を科していないが、これらの3県はいずれも別途、迷惑防止条例において危険行為を禁止し、違反行為に対して刑罰を科している。

 

(内水面の水上安全に関する条例)

〇 主として内水面の水上安全に関する条例を制定している都県もある。河川、湖沼等の内水面は「海上衝突予防法」が適用されないことを踏まえ、主として、河川、湖沼等の内水面における水上交通の安全を目的とする条例であり、「海上衝突予防法」が定める主な通航方法を規定するとともに、「船舶職員及び小型船舶操縦者法」が定める小型船舶操縦者の遵守事項等を規定している。

 以下の6都県の条例が確認できる。なお、東京都条例は、昭和23年に制定された「東京都水上取締条例」が平成30年に全部改正されて制定されているが、河川の水面のみならず、京浜港の港域内海面も対象としている。

滋賀県

滋賀県琵琶湖等水上安全条例

滋賀県琵琶湖等水上安全条例の一部を改正する条例

昭和30年12月23日公布

令和6年3月26日改正公布

昭和31年4月1日施行

令和6年7月1日改正施行

神奈川県

相模湖、津久井湖、丹沢湖、寒川滞水域、社家滞水域、飯泉滞水域等の

水域における行為の規制に関する条例

昭和39年10月6日公布

昭和39年10月10日施行

栃木県

栃木県中禅寺湖水上安全条例

昭和45年6月29日公布

昭和45年7月29日施行

山梨県

山梨県富士五湖水上安全条例

昭和48年3月31日公布

昭和48年6月1日施行

茨城県

茨城県水上安全条例

昭和48年4月1日公布

昭和48年5月1日施行

東京都

東京都水上安全条例

平成30年3月30日日公布

平成30年7月1日施行

〇 6都県の条例のうち、神奈川県条例を除く5条例は、何らかの形でモーターボートや水上オートバイ等の危険行為の禁止や飲酒操縦の禁止に関する規定を置いている。

 例えば、茨城県条例は、危険行為の禁止として、操縦者は,人が多数遊泳している水域又は海等の区域において,船舶を縫航させ,急転回させ,又は疾走させてはならない(8条)と規定し、酒気帯び操縦等の禁止として「操縦者は,水域において,酒気を帯びて船舶を操縦してはならない。」(7条1項)と規定している。また、東京都条例は、危険操縦の禁止として、小型船舶の操縦者は、みだりに水上において、他の船舶との間に安全な距離を保たないで、蛇行し、又は急に転回すること等の操縦をしてはならない(14条)と規定し、酒気帯び操縦の禁止として「何人も、水上において、酒気を帯びて小型船舶を操縦してはならない。」(12条)と規定している。

〇 5条例のうち、危険行為に対して、東京都条例は3月以下の懲役又は50万円以下の罰金、茨城県条例は3月以下の懲役又は30万円以下の罰金、栃木県条例は3月以下の懲役又は20万円以下の罰金、 滋賀県条例は30万円以下の罰金を科している。

 また、酒酔い操縦に対して、東京都及び茨城県の条例は3月以下の懲役又は50万円以下の罰金 、栃木県条例は3月以下の懲役又は20万円以下の罰金、滋賀県条例は2月以下の懲役又は30万円以下の罰金、山梨県条例は2月以下の懲役又は10万円以下の罰金を科している。なお、酒帯び操縦に対しても、茨城県条例は3月以下の懲役又は30万円以下の罰金、東京都条例は30万円以下の罰金を科している。

 滋賀県条例は、酒酔い操縦に対して2月以下の懲役又は30万円以下の罰金を科していたが、令和6年7月改正施行により、酒帯び操縦を禁止するとともに、酒帯び操縦で酒に酔った状態にある者及び酒酔い操縦をした者には3月以下の懲役又は50万円以下の罰金を科し、酒帯び操縦で公安委員会規則で定める程度以上のアルコールを保有する者には3月以下の懲役又は30万円以下の罰金を科すこととしている。

〇 神奈川県条例は、一定の水域における舟艇等の運航を禁止し(2条)、違反した者が関係職員の中止の指示に従わない場合は3万円以下の罰金を科している。

〇 滋賀県は「滋賀県琵琶湖等水上安全条例 」とは別に「滋賀県琵琶湖のレジャー利用の適正化に関する条例」(平成14年10月22日公布、平成15年4月1日施行)を制定しており、航行規制水域におけるプレジャーボートの航行を禁止している。

〇 なお、静岡県は浜名湖における水上オートバイの通航を静岡県河川管理条例を適用して規制し(静岡県HP「浜名湖における水上オートバイの通航に県河川管理条例が適用されます」参照)、岐阜県は長良川における水上オートバイの通航を河川法28条及び河川法施行令16条の2第3項により規制している(岐阜県HP「長良川での水上オートバイ通航規制のお知らせ」参照)。

 

(まとめ)

〇 以上を踏まえると、ほとんどの都道府県において、条例で何らかの形でモーターボートや水上オートバイ等の危険行為を禁止し、違反行為に対して刑罰を科している。なお、青森県、奈良県及び鹿児島県については、こうした規定を持つ条例は確認できない。

〇 飲酒操縦の禁止については、「プレジャーボートの事故防止に関する条例」を制定している12道府県及び「内水面の水上安全に関する条例」を制定している5都県(神奈川県を除く)において条例で規定している。違反行為に対する刑罰については、「プレジャーボートの事故防止に関する条例」を制定している12道府県のうち3県及び「内水面の水上安全に関する条例」を制定している5都県(神奈川県を除く)が科している。なお、「内水面の水上安全に関する条例」のうち東京都及び茨城県の条例は、酒酔い操縦のみならず、酒帯び操縦に対しても刑罰を科している。

 

【市町村の条例】

〇 市町村においても、明石市、神戸市、宮古島市及びいの町以外でも、条例でモーターボートや水上オートバイ等の航行を規制する規定を置いているものがある。

〇 まず、海水浴場の設置や安全確保を規定する条例において、海水浴場の遊泳区域へのモーターボートや水上オートバイ等の乗り入れ等を禁止しているものがある。北海道遠軽町、宮城県東松島市、山形県遊佐町、茨城県鉾田市、千葉県館山市、勝浦市、鴨川市、富津市、南房総市、いすみ市、鋸南町、御宿町、静岡県下田市、伊豆市、南伊豆町、松崎町、西伊豆町、岡山県玉野市、瀬戸内市、島根県西ノ島町、長崎県平戸市、壱岐市、南島原市、大分県大分市、鹿児島県阿久根市、西之表市、沖縄県読谷村等の条例である。

 例えば、「遠別町富士見海水浴場設置条例」は「遊泳区域内にヨット、モーターボート、ジェットスキー等を乗り入れること」(4条3号)を禁止し、「遊佐町海水浴場等に関する条例」は「モーターボート等機関を用いて推進する船は、遊泳者に対し、危害を与えるおそれのある水域で航行すること」(7条2号)を禁止し、「勝浦市安全・安心な海水浴場の確保に関する条例」は「(遊泳区域内に)モーターボート、水上オートバイ、ヨット、サーフボード、ウィンドサーフィンその他これらに類するものを乗り入れること」及び「遊泳区域を示すブイ等の付近でモーターボート、水上オートバイその他これらに類するものの高速航行を行うことによって、他の者に不安、畏怖、困惑又は嫌悪を覚えさせることにより、当該他の者の海水浴場等の利用を妨げること」(6条1号、2号)を禁止し、「阿久根市海水浴場の安全で快適な利用に関する条例」は「遊泳区域及び利用者の安全を確保するため市長が必要と認めた水域において,水上オートバイ,モーターボートその他機関を用いた船舶を運行させること」(7条4号)を禁止している。

 多くの条例は違反行為に対して罰則規定は置いていないが、「玉野市渋川海水浴場取締条例」は「プレジャーボート、遊覧船等を用いて舟遊びする者は、市長が別に定める期間(・・・)中、遊泳者の危険防止のため遊泳安全区域内に侵入してはならない。」(8条)としたうえで、違反した者に対して10万円以下の罰金を科し、「大分市田ノ浦海水浴場条例」は「海水浴場の海水面において、モーターボート、水上バイクその他原動機を用いて運転するものを使用すること」(5条7号)を禁止したうえで、違反した者に対して5万円以下の過料を科し、「伊豆市海水浴場に関する条例」は遊泳区域で、機関を用いて推進するボート等を航行することを禁止(6条3項)したうえで、違反行為を行い市長の退去の指示(7条)に従わない者に対して3万円以下の罰金を科す(同じ静岡県の下田市、南伊豆町、松崎町及び西伊豆町の条例も同様の規定あり)としている。

〇 海水浴場に関する条例以外で、モーターボートや水上オートバイ等の航行を規制する規定を置いているものもある。次のような条例である。

兵庫県芦屋市

芦屋市清潔で安全・快適な生活環境の確保に関する条例

平成19年3月20日公布

平成19年6月1日施行

広島県三原市

三原市須波海岸管理条例

平成17年3月22日公布

平成17年3月22日施行

佐賀県唐津市

唐津市浜崎海岸の環境保全に関する条例

平成17年1月1日公布

平成17年1月1日施行

北海道網走市

網走市網走港の安全な利用の確保に関する条例

令和4年6月30日公布

令和4年8月1日施行

 芦屋市条例は、「プレジャーボート等」を水上オートバイ,モーターボートその他の推進機関としての内燃機関を備える船舶(漁船、国・自治体が所有する船舶等を除く)と定義づけ(2条9号)、市長はプレジャーボート等航行禁止区域を禁止時間とともに指定することができる(15条の4)としたうえで、一定の場合を除き、航行禁止区域内における禁止時間でのプレジャーボート等の航行を禁止している(15条の5)。違反行為を行い市長の中止命令(18条)に従わない者に対して10万円以下の罰金を科している。

 三原市条例は「海岸内へプレジャーボート等で進入すること」(3条8号)を禁止し、唐津市条例は「海水浴期間中の遊泳区域内への水上バイク及びモーターボートの乗入れ」(4条1項8号)を禁止している。唐津市条例は、違反行為を行い市長の命令(7条)に従わない者に対して5万円以下の罰金又は科料を科している。

 網走市条例は、遊漁船、プレジャーボート、モーターボート、ヨット、水上オートバイ、ミニボート等の対象船舶が網走港の規制対象水域に進入するときは、市長の許可を得なければならない(2条1項、2項、7条)としている。罰則を科していないが、「市長は、この条例の実効性を確保するため、他の法令の罰則の適用に関し、関係機関と連携するものとする。」(10条)としている。



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