ペット霊園規制条例

(令和6年7月25日更新)

【はじめに】

〇 本稿では、ペット霊園を規制する条例を取り上げる。

〇 ペット霊園に関して法律による規制の有無、必要性等について、平成16年に政府の見解が示されており、その見解は現時点においても変更されていない。

 すなわち、平成16年10月21日に泉健太衆議院議員提出の質問主意書(動物霊園(ペット霊園)事業に関する質問主意書)が、動物の火葬場、葬祭、墓地、納骨堂等の設置及び管理運営を業とする動物霊園事業について、「設置・運営基準や指針などがどの省庁からも示されていないため、全国各地において、土地開発や施設設置に関する業者と住民や自治体とのトラブル、葬祭契約にまつわる業者と飼い主とのトラブル、法規制があいまいなことによる自治体と住民のトラブル、などが数多く起こっている」としたうえで、動物霊園事業に関して法律の規制の有無、必要性等について政府に問い質した。

 これに対して、平成16年10月29日の政府の答弁書(衆議院議員泉健太君提出動物霊園(ペット霊園)事業に関する質問に対する答弁書)は、動物については、「墓地、埋葬等に関する法律」は適用されず、また、動物霊園事業において取り扱われる動物の死体は、宗教的及び社会的慣習等により埋葬及び供養等が行われるものであるため、社会通念上、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」2条1項に規定する「廃棄物」には当たらず、同法による規制の対象とはならない、したがって、動物霊園事業において取り扱われる動物の死体に関する法律は存在せず、また、動物霊園事業に係る「火葬場」、「墓地」「葬祭」「納骨堂」の設置及び管理運営の基準に関する法律は存在しない、さらに、動物霊園事業について現段階では新たな法整備を必要とするとは認識しておらず、特段の対応を要するとは考えていない、との政府の見解を示している。

 なお、平成24年9月5日に公布された「動物の愛護及び管理に関する法律の一部を改正する法律」の国会審議に当たっては、「動物葬祭業に対する法規制の在り方についても、火葬・埋葬施設等の需要の拡大とともに問題事案が増加する中で一部の地方自治体が条例で規制を行っている現状に鑑み、動物の生命尊重を目的の一つに掲げる本法の中に組み入れる選択肢も含めて早急に検討を行い、必要な措置を講ずること。」との付帯決議がなされている(平成24年8月28日参議院環境委員会付帯決議)が、その後、必要な法改正等はなされていない。

〇 このようにペット霊園を規制する法律がない一方で、ペット霊園と周辺住民とのトラブルなどが発生し、行政としてその対応が求められるため、自治体が新たにペット霊園を規制する単独条例を制定し、または、生活環境条例、まちづくり条例、土地利用調整条例等において、ペット霊園の規制に関する規定を置いている。以下、こうした条例を概観する。

〇 ペット霊園規制条例については、箕輪さくら「ペット霊園規制条例の制度設計」(原島良成編著「自治立法権の再発見 北村喜宣先生還暦記念論文集」(第一法規 令和2年4月) 199頁以下)、出石稔「ペット霊園規制条例(徹底比較!自治立法の動向を探る10回)」(ガバナンス 平成19年2月号 118頁以下)、斎藤誠「ペット霊園」(「行政課題別条例実務の要点」〈第一法規〉 6381頁以下)等が論じている。本稿は、これらを参考にしている。

 なお、箕輪論文は、周辺住民や利用者との間のトラブル等の状況のペット葬祭業を巡る問題やペット葬祭業に対する法規制の内容についても、詳しく論じている。

 

【ペット霊園を規制する単独条例】

〇 ペット霊園を規制する単独条例であって、施行されているものとして確認できるものは、令和6年7月1日時点で、以下の119条例である。

〇 118条例を、時系列的に示すと、以下のとおりである。なお、制定年は、公布日を基準としている。

平成12年

(千葉県)市原市ペット霊園の設置の適正化に関する条例

平成13年

(福岡県)遠賀町ペット火葬場設置に関する条例、(福岡県)芦屋町ペット火葬場設置に関する条例

平成14年

(埼玉県)日高市ペット霊園の設置等に関する条例、(埼玉県)八潮市ペット霊園の設置等に関する条例

平成15年

(東京都)東京都板橋区ペット火葬場等の設置等に関する条例、(宮城県)塩竈市ペット火葬場等の設置等に関する条例
(新潟県)新潟県柏崎市ペット葬祭施設の設置等に関する条例

平成16年

(茨城県)龍ケ崎市ペット火葬場等の新設等に関する条例

平成17年

(埼玉県)入間市ペット霊園の設置等に関する条例、(新潟県)潟上市ペット霊園の設置の適正化に関する条例
(岡山県)早島町ペット霊園の設置等に関する条例、(佐賀県)唐津市ペット霊園の設置等に関する条例
(山形県)米沢市ペット霊園の設置の基準等に関する条例、(宮城県)七ケ浜町ペット霊園の設置等に関する条例
(岡山県)瀬戸内市ペット霊園の設置等に関する条例、(静岡県)牧之原市ペット霊園条例
(埼玉県)白岡市ペット霊園の設置等に関する条例、(茨城県)北茨城市ペット霊園の設置等に関する条例
(千葉県)鎌ケ谷市ペット霊園の許可等に関する条例、(埼玉県)上尾市ペット霊園の設置等に関する条例

平成18年

(和歌山県)橋本市ペット霊園の設置等に関する条例、(群馬県)安中市ペット火葬場及びペット霊園墓地条例
(茨城県)牛久市ペット火葬場等の新設等に関する条例、(埼玉県)鴻巣市ペット霊園の設置等に関する条例
(埼玉県)北本市ペット霊園の設置等に関する条例、(沖縄県)中城村ペット霊園の設置等に関する条例
(秋田県)横手市ペット霊園の設置等に関する条例、(福岡県)豊前市ペット霊園の設置等に関する条例
(栃木県)鹿沼市ペットの管理及びペット愛護等施設の設置に関する条例
(愛知県)尾張旭市ペット霊園の新設等に係る計画の事前公開等に関する条例

平成19年

(沖縄県)北中城村ペット霊園の設置、管理、運営等に関する条例、(埼玉県)桶川市ペット霊園の設置等に関する条例
(滋賀県)彦根市ペット葬祭施設の設置等に関する条例 

平成20年

(埼玉県)ときがわ町ペット霊園の設置等に関する条例、千葉市ペット霊園の設置の許可等に関する条例
(埼玉県)伊奈町ペット霊園の設置等に関する条例、(茨城県)五霞町ペット霊園等の設置の適正化に関する条例
(岐阜県)富加町ペット霊園の設置等に関する条例、(茨城県)取手市ペット霊園の設置等に関する条例

平成21年

(栃木県)真岡市ペット霊園施設の設置等に関する条例、(埼玉県)長瀞町ペット霊園の設置等に関する条例
(富山県)入善町ペット霊園の設置等に関する条例、(埼玉県)川島町ペット霊園の設置等に関する条例
(埼玉県)本庄市ペット霊園の設置等の適正化に関する条例、(千葉県)流山市ペット霊園の設置の許可等に関する条例
(埼玉県)行田市ペット霊園の設置等に関する条例、(埼玉県)羽生市ペット霊園の設置の基準等に関する条例
(茨城県)東海村ペット霊園の設置の許可等に関する条例、(和歌山県)日高町ペット霊園の設置等に関する条例
(新潟県)胎内市ペット霊園の設置等に関する条例、(埼玉県)横瀬町ペット霊園の設置の許可等に関する条例
(新潟県)南魚沼市ペット葬祭施設の設置等に関する条例、(埼玉県)皆野町ペット霊園の設置等に関する条例
(茨城県)守谷市ペット霊園の設置の許可等に関する条例、相模原市ペット霊園の設置等に伴う生活環境の保全に関する条例
(三重県)伊賀市ペット霊園の設置等に関する条例、(埼玉県)吉川市ペット霊園の設置及び管理の基準に関する条例

平成22年

(埼玉県)小鹿野町ペット霊園の設置等に関する条例、(群馬県)太田市ペット霊園の設置の許可等に関する条例
(長崎県)壱岐市ペット霊園条例、(埼玉県)加須市ペット霊園等の設置等に関する条例
(埼玉県)深谷市ペット霊園の設置の許可等に関する条例、(埼玉県)熊谷市ペット霊園の設置の許可等に関する条例
(千葉県)我孫子市ペット霊園の設置の許可等に関する条例、(埼玉県)美里町ペット霊園の設置等の適正化に関する条例
(埼玉県)春日部市ペット霊園の設置の許可等に関する条例、(東京都)日野市ペット霊園等の設置等に関する条例

平成23年

(秋田県)美郷町ペット霊園の設置等に関する条例、(埼玉県)草加市ペット霊園等の設置及び管理に関する条例
(岐阜県)坂祝町ペット霊園の設置等に関する条例、(奈良県)橿原市ペット霊園の設置の許可等に関する条例
(埼玉県)志木市ペット霊園の設置の許可等に関する条例、(岡山県)新見市ペット霊園の設置の許可等に関する条例
(兵庫県)洲本市ペット霊園の設置等に関する条例、(岐阜県)可児市ペット霊園の設置の許可等に関する条例
(福岡県)糸島市ペット霊園の設置の許可等に関する条例、(埼玉県)三郷市ペット霊園の設置の許可等に関する条例
(秋田県)五城目町ペット霊園の設置の適正化に関する条例

平成24年

(埼玉県)松伏町ペット霊園の設置等に関する条例、(埼玉県)新座市ペット霊園の設置の許可等に関する条例
(三重県)名張市ペット霊園の設置の許可等に関する条例、(京都府)大山崎町ペット霊園の設置の許可等に関する条例
(新潟県)燕市ペット霊園の設置等に関する条例、(埼玉県)鶴ヶ島市ペット霊園の設置許可等に関する条例
(岐阜県)美濃加茂市ペット霊園の設置許可等に関する条例、(埼玉県)和光市ペット霊園等の設置及び管理に関する条
(茨城県)阿見町ペット霊園の設置の許可等に関する条例

平成25年

(埼玉県)狭山市ペット霊園の設置の許可等に関する条例、(高知県)南国市ペット霊園の設置の許可等に関する条例
(茨城県)かすみがうら市ペット霊園の設置の許可等に関する条例
(静岡県)藤枝市ペット霊園等の設置及び管理に関する条例、(大阪府)高槻市ペット霊園の設置の許可等に関する条例
(兵庫県)丹波市ペット霊園の設置及び管理に関する条例、(大阪府)箕面市ペット霊園の設置の許可等に関する条例

平成26年

(和歌山県)由良町ペット霊園の設置等に関する条例、(茨城県)古河市ペット霊園の設置の許可等に関する条例
 新潟市ペット霊園の設置等に関する条例、(岐阜県)八百津町ペット霊園の設置の許可等に関する条例
(大分県)佐伯市ペット霊園の設置の許可等に関する条例、(京都府)井手町ペット霊園の設置の許可等に関する条例 

平成27年

 京都市ペット霊園の設置等に関する条例、(秋田県)秋田市ペット霊園の設置等に関する条例
 岡山市ペット霊園等の設置等に関する条例

平成28年

(茨城県)河内町ペット火葬場等の新設等に関する条例、(埼玉県)蓮田市ペット霊園の設置等に関する条例
(茨城県)那珂市ペット霊園の設置等に関する条例

平成29年

(茨城県)土浦市ペット霊園の設置の許可等に関する条例

平成30年

(大阪府)枚方市ペット霊園の設置等に関する条例

平成31年

(埼玉県)ふじみ野市ペット霊園の設置の許可等に関する条例、(茨城県)稲敷市ペット霊園の設置の許可等に関する条例
(茨城県)日立市ペット霊園の設置の許可等に関する条例

令和元年

(群馬県)館林市ペット霊園の設置の許可等に関する条例

令和3年

(茨城県)行方市ペット霊園等の設置の許可等に関する条例堺市ペット霊園の設置等に関する条例
(岡山県)玉野市ペット霊園等の設置の許可等に関する条例

令和4年

(京都府)京田辺市ペット霊園の設置等に関する条例、(京都府)木津川市ペット霊園の設置等に関する条例

令和5年

(大阪府)寝屋川市ペット霊園の設置等に関する条例

 

(制定時期・制定団体)

〇 119条例は、平成10年代後半から平成20年代半ばにかけて多く制定されているが、平成30年以降さらに令和の時代に入っても制定されている。なお、現在施行されている条例のうちでは、平成12年制定の市原市条例が最も古いが、安中市条例(平成18年)は市町村合併後により制定されており、合併前の旧松井田町は平成6年に「松井田町ペット火葬場及びペット霊園墓地設置に関する条例」を制定していたことが確認できる。

〇 119条例は、すべて市区町村により制定されているが、そのうち、34条例は埼玉県の市町村により、16条例は茨城県の市町村により、制定されている。

 

(対象施設)

〇 これらの条例の対象施設の名称は、そのほとんどは「ペット霊園」であるが、「ペット火葬場等」や「ペット葬祭施設」とするものもある。

 「ペット霊園」の定義は、例えば、市原市条例(平成12年)は「犬、猫その他人に飼養されていた動物の死骸の火葬に要する焼却炉の設備を有する施設、当該死骸を埋葬し又は焼骨を納骨するための設備を有する施設及びこれらの設備を併せ有する施設」(2条)とし、火葬施設、埋葬・納骨施設又はこれらを併設する施設としている。

 「ペット火葬場等」や「ペット葬祭施設」とするものも、基本的にはほぼ同様の定義としている。

〇 なお、遠賀町条例(平成13年)及び芦屋町条例(平成13年)は、火葬場(火葬施設)のみを対象としている。

 また、鹿沼市条例(平成18年)は、ペット霊園以外にも、動物の繁殖施設やドックラン施設も対象にしている。

 

(規制手法)

〇 ペット霊園を規制する手法として、ペット霊園の設置について、①同意制とする条例、②住民への説明と協議を求める条例、③許可制とする条例、④許可制とするとともに、住民への説明や協議を求める条例、の4つに分類をすることができる。

〇 このうち、①同意制とする条例については、遠賀町条例(平成13年)、芦屋町条例(平成13年)及び安中市条例(平成18年)の3条例のみである。いずれも、平成10年代に制定されたものである。

 遠賀町条例及び芦屋町条例は、火葬場のみを対象にし、火葬場を設置する場合は町長の同意を必要とし、町長は、隣接する建物から1000m以内の設置・営業又は焼却炉を搭載した移動式車輌による営業の場合等は、同意をしないとしている。

 安中市条例は、火葬場及び霊園墓地を対象とし、これらを設置する場合は市長の同意を要するとしている。同意基準等は、規定していない。安中市条例は市町村合併により制定されているが、平成6年に制定された合併前の旧松井田町の「松井田町ペット火葬場及びペット霊園墓地設置に関する条例」と同様の内容となっている。

 これらの3条例は、全3条又は全4条のみで構成され、極めてシンプルな規定となっている。

〇 ②住民との協議を求める条例は、龍ヶ崎市条例(平成16年)、牛久市条例(平成18年)、尾張旭市条例(平成18年)及び河内町条例(平成28年)の4条例のみである。平成28年に制定された河内町条例以外は、平成10年代に制定されている。

 いずれの条例も、ⅰ)事業者は、計画地に表示板(標識)を設置し、併せてその旨市町村長に届出、ⅱ)近隣住民に対して、説明会等により説明、ⅲ)近隣住民から申出があったときは、事業者は近隣住民と協議し、その結果を市町村長に報告、ⅳ)説明会等を行わない場合や近隣住民との協議に応じない場合は、市町村長が事業者を指導、ⅴ)市町村長の指導に事業者が応じない場合は、市町村長は事業者に勧告し、公表、という手続きを規定している。

 なお、平成15年制定の板橋区条例は、当初、このタイプの条例であったが、平成21年に改正施行され、許可制を導入し、④のタイプの条例となった。なお、平成15年制定時の板橋区条例について、前記出石解説は「住民調整手続を厚くすることで合意形成を図ろうとしたものと思われる。しかし、命令や罰則がないこともあり、実効性が確保できるかが課題となろう。」(119頁)としていた。

〇 ③許可制とする条例は、市原市条例(平成12年)、日高市条例(平成14年)、八潮市条例(平成14年)など、22条例である。

 住民への説明や協議を求める規定は、置いていない。

 平成17年までに制定されている(12条例)か、または、平成18年以降に制定されているものは首都圏以外の地方の市町村で制定されているものが多い。

〇 ④許可制とするとともに、住民への説明や協議を求める条例は、柏崎市条例(平成15年)、入間市条例(平成17年)、米沢市条例(平成17年)など、90条例を数える。平成18年以降制定される条例のほとんどは、このタイプの条例である。

 住民への説明や協議の求め方として、例えば、柏崎市条例は周辺住民への説明会開催等の努力義務を規定し、米沢市条例は周辺住民への説明会開催を義務づけている。

 他方、例えば、入間市条例は、許可申請前に、市長への事前協議、設置計画場所における標識の設置と市長への届出、近隣住民への説明、近隣住民から申出があった場合の近隣住民との協議、協議内容の市長への報告を、それぞれ義務づけている。

 他の④のタイプの条例のほとんどは、入間市条例とほぼ同様の手続きを規定している。

 

(許可基準)

〇 許可制をとる条例の場合、許可基準に関する規定を置いている。

〇 許可基準として、ペット霊園の立地基準や設備基準、火葬施設の構造基準等が設定されている。

 例えば、早い時期に制定された市原市条例(平成12年)は、許可基準として、⑴住居から設置予定地の境界までの距離が、50メートル以上であること。ただし、当該区域に住居がある世帯の代表者の相当数以上の同意があるときは、この限りではない、⑵沼地、河川地等水はけの悪い土地でないこと、⑶境界には障壁又は密植したかん木の垣根等を設けること、⑷出入口には門扉を設けること、⑸適当な排水路を設け、雨水又は汚排水が停留しないようにすること、⑹焼却炉には、防臭、防じん及び防音について十分な能力を有する装置を設けること、を規定している。

 また、最近制定された稲敷市条例(平成31年)は、ペット霊園の敷地の基準として、⑴ペット霊園設置者の所有地であること、⑵学校,病院その他の公共施設又は人家の敷地の境界からペット霊園の敷地の境界までが110m以上離れていること、⑶地下水を汚染するおそれのない土地であること、⑷安定した地盤であること等を、ペット霊園の施設及び設備の基準として、⑴出入口に施錠可能な門扉が設けられていること、⑵敷地の境界には,その内側に緩衝帯として緑地が設けられ、かつ、障壁、密植したかん木の垣根その他の構造物が設けられていること、⑶駐車場、ごみ集積設備、給水設備及び排水設備が設けられていること、⑷ペット霊園内には、動物の死体が腐敗して悪臭が発生しないよう、密閉された保管施設が設けられていること等を、焼却施設の設備の基準として、⑴防臭、防じん及び防音について十分な能力を有するものであること、⑵空気取入口及び煙突の先端以外に燃焼室内と外気とが接することがないこと、⑶燃焼ガスの温度が摂氏800度以上の状態で動物の死体を焼却することができるものであること、⑷燃焼に必要な量の空気の通風が行われるものであること、⑸燃焼室内において動物の死体が燃焼しているときに、燃焼室に動物の死体を投入する場合には、外気と遮断された状態で、定量ずつ動物の死体を燃焼室に投入することができるものであること、⑹燃焼室中の燃焼ガスの温度を測定するための装置が設けられていること、⑺燃焼ガスの温度を保つために必要な助燃装置が設けられていること等を規定している。

〇 これらの許可基準について、ほとんどの条例は、立地基準の一つとして、住宅、学校・公共施設等からの距離制限を設けている。

 その内容は条例によって異なる。住宅からの距離を基準とするもの、住宅、学校・公共施設からの距離を基準とするもの、住宅、学校・公共施設、店舗からの距離を基準とするもの等に分かれ、制限距離は50m、100m、110m、120m、150m、200m、250m、300m、400m、500m等様々であり、また、火葬施設を含む場合と含まない場合に異なる制限距離を設けるものも少なくない。

 距離制限について、当該区域内の住民の同意があれば、解除するものがある。例えば、市原市条例(平成12年)は住宅から50m以上を距離制限とするが、当該区域にある世帯の代表者の相当数以上の同意があるときはこの限りではないとし、鎌ヶ谷市条例(平成17年)は住宅、学校・公共施設から、埋葬施設等の場合は50m以上、火葬施設の場合は100m以上を距離制限とするが、当該区域にある住宅の代表者の3分の2以上の同意を得たときはこの限りでないとし、鴻巣市条例(平成18年)は住宅、学校・公共施設から、焼却炉を含む場合は概ね150m以上、それ以外の場合は100m以上を距離制限とするが、住居の場合は世帯の代表者全員の同意を得たときはこの限りでない、としている。

 なお、京都市条例(平成27年)は、ペット霊園設置の禁止地域を設定している。すなわち、第1種低層住居専用地域、第2種低層住居専用地域、第1種中高層住居専用地域、第2種中高層住居専用地域、第1種住居地域、第2種住居地域及び準住居地域(納骨堂にあっては準住居地域を、葬儀場にあっては第1種住居地域、第2種住居地域及び準住居地域を除く。)において、ペット霊園を設置することを禁止している。

〇 少なからぬ条例は、近隣住民や自治会等の同意を、許可基準の一つとしている。

 近隣住民や自治会等の同意を許可基準、許可要件とすることについては、学説上は否定的な見解が強い。例えば、前記斎藤解説は「財産権の行使に対する過度な制限であると同時に、公衆衛生・生活環境保全が条例の目的であるとすれば、現在居住している住民の同意によって、その水準を切り下げることにもなるものであって、認められないと解される。」(6384頁)としている。また、北村喜宣「自治体環境行政法(第8版)」(第一法規 平成30年10月)は、柏崎市条例(平成15年)や彦根市条例(平成19年)を例にして、「私有財産の使用収益を他人の拒否権にかからしめる制度の合憲性には疑問がある。・・・結果的に、設置者に対して不可能を強いることになるからである。」(219頁)としている。

 前記出石解説によると、こうした近隣住民や自治会等の同意を許可基準の一つとする条例は、平成13年に制定された和歌山県旧橋本市の「橋本市ペット霊園の設置等に関する条例」(平成18年に市町村合併により同名の条例が制定されている)が全国で最初であり、それ以降制定が顕著となり、柏崎市条例(平成15年)、入間市条例(平成17年)、鎌ヶ谷市条例(平成17年)等でも住民同意制が維持されたが、米沢市条例(平成17年)、上尾市条例(平成17年)、北本市条例(平成18年)は住民同意制を廃した、としている(119頁)。

 しかし、現在施行されている条例を見ると、それ以降も、住民同意制を規定する条例の制定は、少なくない。

 住民同意制をとる場合、⑴隣接の隣接の土地所有者(条例によっては、使用者等を含む)の同意を必要とするものと、⑵それに加えて地元自治会(町内会)の同意を必要とするものとに分かれる。

 入間市条例や鎌ヶ谷市条例は、⑴タイプである。数として⑵タイプよりかなり多く、全国の市町村の条例で見られるが、数としては埼玉県の市町村の条例が多い。最近制定されたものとしては、蓮田市条例(平成28年)、ふじみ野市条例(平成31年)、行方市条例(令和3年)等がある。行方市条例は300m以内の建築物の所有者、管理者又は占有者の同意も必要としている。なお、熊谷市条例(平成22年)は、隣接の土地所有者の3分の2以上の同意を得ていることを要件としている。

 橋本市条例や柏崎市条例は、⑵タイプであり、このタイプの条例は、他に和歌山県、沖縄県、三重県等の市町村の条例で見られる。北中城村条例(平成19年)、名張市条例(平成24年)、由良町条例(平成26年)等である。

〇 数は少ないものの、設置者や管理者の資質等を許可基準とするものもある。洲本市条例(平成23年)、佐伯市条例(平成26年)、館林市条例(令和元年)等であり、経営を的確に行うことができる知識・技能。経理的基礎等を要件としている。

 藤枝市条例(平成25年)は、ペット霊園の経営者は市内に一定期間事務所を有し、かつ、永続的にペット霊園等を経営することができる見込みのある者でなければならないとしている。

〇 火葬施設を設置する場合は、許可をしてはならないとするものもある(羽生市条例(平成21年)、加須市条例(平成22年)、深谷市条例(平成22年))。ペットの火葬は公営の火葬炉に限定しているものと考えられる(前記箕輪論文211頁、214頁)。

 丹波市条例(平成25年)は、ペットの火葬は市営斎場に限定するとしている。

〇 なお、許可基準ではないが、ペット霊園においてペットの死体を土中に葬ってはならないとするものもある(我孫子市条例(平成22年)、狭山市条例(平成25年)、京都市条例(平成27年)、堺市条例(令和3年)、寝屋川市条例(令和5年)等)。

 

(実効性確保措置)

〇 許可制をとる条例の場合、多くの条例は、規制事項の実効性を確保するため、許可の取消しのほか、報告の徴収・立入検査、改善勧告、改善命令、使用禁止命令、公表等を規定している。

 使用禁止命令違反に対して、ペットの焼骨や死体の除去命令について規定する条例もある(相模原市条例(平成21年)、可児市条例(平成23年)、ふじみ野市条例(平成31年)、寝屋川市条例(令和5年)等)。

〇 他方で、罰則規定を置くものは、少ない。柏崎市条例(平成15年)、鹿沼市条例(平成18年 罰則は平成19年に追加)、彦根市条例(平成19年)、志木市条例(平成23年)、和光市条例(平成24年)、古河市条例(平成26年)及び京都市条例(平成27年)の6条例である。使用禁止命令違反に対して、柏崎市条例及び彦根市条例は50万以下の罰金、鹿沼市条例は20万円以下の罰金を科し、志木市条例、和光市条例、古河市条例及び京都市条例は5万円以下の過料を科し、京都市条例は禁止地域への設置、報告徴収・立入調査拒否等に対しても5万円以下の過料を科している。

 

(維持管理、運営)

〇 維持管理に関する規定を置く条例は少なくないが、その多くは、適正に維持管理をしなければならない、とするなど簡単で抽象的な規定に留まっている。

〇 しかし、一部の条例では、維持管理や運営について具体的な規定を置いている。

 例えば、洲本市条例は(平成23年)は、維持管理基準として、ペットの死骸の密閉容器の収納や冷暗所・冷蔵保管庫の保管、燃焼中における管理者の常時配置、焼却物の混在プラスチック類の分別、火葬施設におけるガス・灯油等の良質な燃料の使用、火葬施設における焼却灰・未燃焼物等の飛散防止等を規定し、狭山市条例(平成25年)は、事業者の遵守事項として、火葬炉から発生した灰の適正処理、火葬炉から排出したばい煙等の量、濃度又は汚染状態の測定・記録、近隣住民等との良好な関係の保持、墓石等の倒壊防止等の安全措置、施設の老朽化・破損時における速やかな修復等を規定している。

 また、京都市条例(平成27年)、枚方市条例(平成30年)、堺市条例(令和3年)、京田辺市条例(令和4年)、木津川市条例(令和4年)及び寝屋川市条例(令和5年)は、利用者の保護も条例の目的としているが、こうした観点から、事業者の遵守事項として、ペットの死体及び遺骨の丁寧な取扱い・衛生的な管理、利用者に対する利用条件・手続・料金・役務の提供内容等の説明、書類の作成・保管を規定している。また、これらの条例は、利用者保護の観点から、ペット霊園の廃止する場合には、あらかじめ、市長に届出をし、また、利用者に説明しなければならないとするとともに、利用者の心情に配慮した対応に努めなければならない等としている。

 

(移動火葬車)

〇 ペット霊園の火葬施設には、固定式のものと移動式のものがある。後者は、焼却炉を搭載した車両(移動火葬車)で、依頼者のもとに出向き、自宅敷地内等で火葬を行うものである(前記箕輪論文201、202頁参照)。

〇 移動式のものの取扱いについては、条例によって異なる。移動式のものについて、条例で特に言及していないもの(市原市条例(平成12年)、上尾市条例(平成17年)等)、条例で移動式車両による営業について町長は同意しないことができるとするもの(遠賀町条例(平成13年)、芦屋町条例(平成13年))、条例で規制対象の火葬施設には移動式のものを除外することを明記するもの(鎌ヶ谷市条例(平成17年)、藤枝市条例(平成25年)等)、条例で火葬施設に移動式のものが含まれることを明記し、固定式火葬施設と同様の規制とするもの(熊谷市条例(平成22年)、名張市条例(平成24年)等)等がある。

 また、条例で移動火葬車について明記するとともに、固定式火葬施設とは別に規制をするものがあり、この場合は、届出制にするもの(我孫子市条例(平成22年)、新座市条例(平成24年)、堺市条例(令和3年)等)と、許可制にするもの(志木市条例(平成23年)、京都市条例(平成27年)、玉野市条例(令和3年)、寝屋川市条例(令和5年)等)とに分かれる。これらの条例は、火葬炉の構造基準について固定式火葬施設のものを準用し、また、遵守事項等として、焼却行為の場所や方法の制限、移動火葬車である旨の表示、車両保管場所の制限等を規定するものが多い。

 

【生活環境条例、まちづくり条例、土地利用調整条例等で、ペット霊園を規制するもの】

〇 生活環境条例、まちづくり条例、土地利用調整条例等で、ペット霊園を規制するものも、少なくない。

〇 まず、生活環境条例等において、ペット霊園の設置について、市町村長に届出、許可、同意等を義務づけるものとして、東京都あきる野市「あきる野市都市環境条例」(平成7年制定 平成14年改正)、東京都八王子市「八王子市民の生活環境を守る条例」(昭和47年制定 平成18年改正)、岐阜県白川町「白川町環境条例」(平成21年制定)等がある。

 あきる野市条例は、ペット霊園を設置する場合には、あらかじめ市長の同意が必要である(20条1項3号)とするとともに、住宅、学校・公共施設からの100m以内は設置できない(21条)等としている。

 八王子市条例は、ペット霊園の設置する場合は、市長に届出なければならないとするとともに、近隣住民に説明しなければならない等(19条)としている。

 白川町条例は、ペット霊園の設置する場合は、町長の許可を得なければならない(23条)とするとともに、自治会等に対して説明会を開催し、自治会等及び隣接土地所有者の同意を得なければならない(25条)等としている。

〇 まちづくり条例や土地利用調整条例等で、ペット霊園の設置について、地域住民との調整手続きを規定し、又は、施設の基準等を規定するものとして、東京都練馬区「練馬区まちづくり条例」(平成17年制定)、神奈川県平塚市「平塚市まちづくり条例」(平成19年制定)、東京都国分寺市「国分寺市まちづくり条例」(平成16年制定、平成23年改正)、東京都武蔵村山市「武蔵村山市まちづくり条例」(平成23年制定)、石川県金沢市「金沢市における土地利用の適正化に関する条例」(以下、「金沢市土地利用条例」という。)及び「金沢市における市民参画によるまちづくりの推進に関する条例」(以下、「金沢市まちづくり条例」という。両条例ともに平成12年制定、平成24年改正)等がある。

 練馬区条例は、ペット火葬施設等の設置する場合は、区長に届出なければならない(51条、89条1項5号)とするとともに、条例で定める基準に従わなければならない(113条の2)とするほか、紛争調整の手続(98条~102条)等を規定している。

 平塚市条例は、ペット霊園について、立地基準及び構造基準を規定している(50条、別表第2 7)。

 国分寺市条例は、ペット霊園の整備基準を規定する(50条、70条、71条、別表第2、第3)とともに、一定規模以上のペット霊園の設置する場合の住民調整手続、事前調整手続等を定めている。

 武蔵村山市条例は、500㎡以上のペット霊園の設置に関して、市長との事前協議(52条1項6号、53条)、近隣住民に対する説明等(55条)、市長への事業の承認申請(59条)等を事業者に義務付けている。

 金沢市条例(2条例)は、ペット霊園の設置する場合は、市長に事業計画の届出、標識の設置、近隣住民等から問合せがあった場合の説明会の開催等をしなければならない(金沢市土地利用条例6条、金沢市まちづくり条例14条)とするとともに、事業者と近隣住民等との間の意見の調整を要請により市長が行う(金沢市土地利用条例6条の2、金沢市まちづくり条例14条の2)等としている。 



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