マナー条例

(令和6年1月18日更新)

【はじめに】

〇 マナー条例と呼ばれる条例がある。住民等に対して他者の迷惑となる行為をしないよう、マナーの遵守を求めることを内容とする条例である。条例の名称に「マナー」という言葉を使用するものもあれば、条例の通称が「マナー条例」等とされているものもある。本稿では、こうしたマナー条例を紹介する。

〇 一般的には、マナーとは「行儀、作法」(広辞苑第7版)とされており、個人の自発的意思に基づく心掛けや振舞いを指すものであり、法令で規制された行為規範とは異なるものと考えられる。

 「マナー条例」は、こうしたマナーの遵守について条例で定めていることとなる。基本理念、自治体や住民の責務、自治体の基本的施策、住民の努力義務等を定めているが、下記で見るように、違反行為に対して罰則を科すこととしているものもある。

〇 なお、東京都千代田区は、平成14年に「安全で快適な千代田区の生活環境の整備に関する条例」を制定し、従前は努力義務であった路上での喫煙や吸い殻のポイ捨てに罰則を科すこととしたが、その際「『マナーからルールへ。』とマナーの問題にあえて罰則というルールを設けました」(千代田区HP「千代田区生活環境条例のあらまし」)としている。

 また、 平成30年に「健康増進法」の一部が改正され、受動喫煙の防止のため、屋内は原則として禁煙とされ、罰則規定も置かれたが、その際厚生労働省は「なくそう!望まない受動喫煙。マナーからルールへ」(厚生労働省HP「なくそう!望まない受動喫煙。マナーからルールへ」)との標語を掲げている。

 

【条例名に「マナー」を使用している条例】

〇 まず、条例の名称に「マナー」という言葉を使用している条例を見てみる。

 令和6年1月1日時点で確認できるのは、以下の13条例である。鎌倉市は、2条例を制定をしている。

石川県小松市

正しい駐車マナーに関する市民条例

平成6年6月27日公布

平成6年9月1日施行

大阪府八尾市

八尾市路上喫煙マナーの向上を市民とともに推進する条例

平成22年3月31日公布

平成22年5月1日施行

山口県宇部市

宇部市空き缶等のポイ捨て、飼い犬等のふん害及び落書きの防止

並びに公共の場所における喫煙のマナーの向上に関する条例

平成24年6月26日公布

平成24年10月1日施行

大阪府大東市

大東市マナー条例

平成25年3月25日公布

平成25年10月1日施行

神奈川県鎌倉市

鎌倉市海水浴場のマナーの向上に関する条例

平成26年6月30日公布

平成26年6月30日施行

愛知県安城市

安城市さわやかマナーまちづくり条例

平成26年12月24日公布

平成27年4月1日施行

京都市

京都市動物との共生に向けたマナー等に関する条例

平成27年3月27日公布

平成27年7月1日施行

大阪府門真市

門真市自転車安全利用に関するマナー条例

平成27年9月29日公布

平成28年1月1日施行

栃木県栃木市

栃木市路上喫煙に関するマナー推進条例

平成29年12月20日公布

平成30年4月1日施行

奈良県河合町

河合町マナーアップ推進基本条例

平成31年3月19日公布

令和1年8月1日施行

神奈川県鎌倉市

鎌倉市公共の場所におけるマナーの向上に関する条例

平成31年3月25日公布

平成31年4月1日施行

東京都大田区

大田区屋外における喫煙マナー等に関する条例

令和1年10月1日公布

令和2年4月1日施行

奈良県東吉野村

東吉野村環境保全等マナー向上条例

令和2年3月13日公布

令和2年4月1日施行

 

〇 小松市及び門真市の条例は駐車・自転車利用に関するマナーについて、八尾市条例、宇部市条例、栃木市条例及び大田区条例は路上等における喫煙に関するマナーについて、「鎌倉市海水浴場のマナーの向上に関する条例」(以下「鎌倉市海水浴場マナー条例」という。)は海水浴場の利用に関するマナーについて、京都市条例は動物の取扱いに関するマナーについて、それぞれ規定している。

 一方、大東市条例、安城市条例、「鎌倉市公共の場所におけるマナーの向上に関する条例」(以下「鎌倉市公共場所マナー条例」という。)及び東吉野村条例は、幅広い事項に関するマナー(条例本文又は別表において、数項目から十数項目を明記)について規定している。

 例えば、大東市条例は、マナーに反する迷惑行為として、①ごみを投棄すること、②ペットのふんの放置その他のペットの管理を怠ること、③自転車等の放置および他人に迷惑を及ぼす自転車の運転をすること、④他人に迷惑を及ぼす喫煙をすること、⑤他人に迷惑を及ぼす花火をすること、⑥危険なボール遊びをすること、⑦自動車を放置すること、⑧スケートボード等を使用すること、⑨落書きをすること、⑩土地および建物の管理を怠ること、⑪定められた方法でのごみの排出を怠ること、⑫他人に迷惑を及ぼす自動車の駐車をすること、⑬野良犬、野良猫、カラス、鳩等に対して給餌をすることの13項目を規定している(別表)。

 また、河合町条例は、基本条例としており、特定の項目に関するマナーについて定めているものではなく、マナーアップの推進について基本理念や町・議会・町民の責務等を規定している。

〇 マナーの遵守について、小松市条例、大東市条例、鎌倉市屋外場所マナー条例及び東吉野町条例は努力義務を課しているが、八尾市条例、宇部市条例、鎌倉市海水浴場マナー条例、安城市条例、京都市条例、門真市条例、栃木市条例及び大田区条例は義務づけており、このうち八尾市条例、京都市条例及び大田区条例は罰則規定(過料)を置いている。

 

〇 京都市条例は、当初の条例案では条例名は「京都市動物による迷惑等の防止に関する条例」とされていたが、「動物が迷惑」との誤解を招きかねないとして、議会で修正され「京都市動物との共生に向けたマナー等に関する条例」とされた(京都市HP「京都市動物との共生に向けたマナー等に関する条例(野良猫への適切な給餌の基準等,条例に関する情報のまとめページ)」及び自治体法務研究2016年春号CLOSEUP先進・ユニーク条例「京都市動物との共生に向けたマナー等に関する条例」参照)。

 また、鎌倉市公共場所マナー条例は、当初ハイキングコースにおける走行の禁止や規制を行う内容の条例が検討されたが、実効性の担保が困難であるため妥当ではないとされ、様々な場面におけるマナーの遵守を促すことを内容とする条例として制定された(自治体法務研究2019年夏号CLOSEUP先進・ユニーク条例「鎌倉市公共の場所におけるマナーの向上に関する条例」参照)。「歩きながら食べることを含む一部の行為やスポーツを禁止、規制するものではなく、まずは迷惑行為を規定し、誰もが気持ち良く過ごすことができる場所であるために、マナーを呼びかけることで意識啓発を図ることとしています」(鎌倉市HP「鎌倉市公共の場所におけるマナーの向上に関する条例について」)としている。

〇 13条例は、いずれも条例の名称や本文において「マナー」という言葉を使用しているが、「マナー」についての定義規定は置いていない。

 但し、河合町条例は、「マナーアップ」を「従来は町内の地域コミュニティにおいて、従来のルール、不文律及び習慣で解決していた事柄の中で、個人の権利が重んじられるようになり、また、価値観の多様化により、解決できなくなっている、あるいはなるであることが予想される事柄の対策」(1条)と定義づけている。

 また、鎌倉市資料「「鎌倉市公共の場所におけるマナーの向上に関する条例」解説」は、「マナー」とは「他者に不要な不快感を引き起こさない所作や振る舞いを心掛けること」であるとしている。

 なお、国の法令では、「マナー」という用語は使用されていない。

 

【条例の通称が「マナー条例」等とされている条例】

〇 次に、条例の名称や本文において「マナー」という言葉を使用していないものの、条例の通称が「マナー条例」等とされているものもとして、次のような条例が確認できる。

福岡市

人に優しく安全で快適なまち福岡をつくる条例

(モラル・マナー条例)

平成14年12月19日公布

平成15年8月1日施行

浜松市

浜松市快適で良好な生活環境を確保する条例(市民マナー条例)

平成15年3月25日公布

平成15年7月1日施行

千葉県市川市

市川市市民等の健康と安全で清潔な生活環境の保持に関する条例

(市民マナー条例)

平成15年9月22日公布

平成16年4月1日施行

兵庫県芦屋市

芦屋市清潔で安全・快適な生活環境の確保に関する条例

(市民マナー条例)

平成19年3月20日公布

平成19年6月1日施行

北九州市

北九州市迷惑行為のない快適な生活環境の確保に関する条例

(モラル・マナーアップ関連条例)

平成20年3月25日公布

平成20年4月1日施行

静岡県湖西市

湖西市美しい生活環境を確保する条例(マナー条例)

平成22年3月19日公布

平成22年5月30日施行

長野県白馬村

美しい村と快適な生活環境を守る条例(マナー条例)

平成27年12月18日公布

平成27年12月18日施行

静岡県富士市

富士市誰もが快適に過ごすことができる美しいまちづくりの推進

に関する条例(マナー条例)

平成28年3月29日公布

平成28年6月1日施行

 

〇 これらの条例は、いずれも、地域の良好な生活環境を確保するため、空き缶、吸い殻等のポイ捨て、落書き、路上喫煙、犬等のふんの放置等の迷惑行為を禁止している。条例名は「良好な(快適な、清潔な、美しい)生活環境を確保する条例」等としているが、その趣旨をわかりやすくするため、通称・略称として「マナー条例」、「市民マナー条例」等としているものと考えられる。

〇 これらの条例は、北九州市条例を除き、いずれも禁止規定を置いている(条例によっては、一部の行為を努力義務とするものもある)。また。福岡市条例、市川市条例及び芦屋市条例の条例は、罰則規定(過料)も置いている。

 北九州市は、「北九州市迷惑行為のない快適な生活環境の確保に関する条例」を迷惑行為の防止の推進のための基本条例として位置付けており、具体の規制措置については「北九州市公共の場所における喫煙の防止に関する条例」、「北九州市落書きの防止に関する条例」、「北九州市動物の愛護及び管理に関する条例」、「北九州市空き缶等の散乱の防止に関する条例」等の個別の規制条例で規定している(北九州市HP「モラル・マナーアップ関連条例がスタート」)。

〇 福岡市条例については福岡市HP「モラル・マナー条例が改正されました」、浜松市条例については浜松市HP「浜松市快適で良好な生活を確保する条例(市民マナー条例)」、市川市条例については市川市HP「市民マナー条例」、芦屋市条例については芦屋市HP「芦屋市清潔で安全・快適な生活環境の確保に関する条例(通称:市民マナー条例)」、北九州市条例については北九州市HP「モラル・マナーアップ関連条例がスタート」、湖西市条例については湖西市HP「湖西市美しい生活環境を確保する条例(通称:マナー条例)」、白馬村条例については白馬村HP「「美しい村と快適な生活環境を守る条例(通称:マナー条例)」周知にご協力ください」を、富士市条例については富士市HP「マナー条例・美化活動」を、それぞれ参照されたい。

 

【条例名に「エチケット」を使用している条例】

〇 条例の名称に「エチケット」という言葉を使用している条例が、1条例だけであるが、制定されている。

長野県宮田村

宮田村マスク着用エチケット条例

令和2年8月19日公布

令和2年8月19日施行

である。

〇 宮田村条例は、感染症の予防、拡大防止を図るため、マスクの着用について努力義務を規定している。



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