貧困ビジネスを規制する条例

(令和6年1月21日更新)

【無料低額宿泊所等を巡る「貧困ビジネス」の問題―自治体と政府の対応とその経緯】

〇 本稿では、貧困ビジネスを規制する条例を取り上げる。

 

(貧困ビジネスと無料低額宿泊所等)

〇 「貧困ビジネス」とは、「貧困層をターゲットにしていて、かつ貧困からの脱却に資することなく、貧困を固定化するビジネス」(湯浅誠「貧困ビジネスとは何か」(世界783号(平成20年10月))193頁)とされる。具体的には「法外な金利を取る消費者金融・闇金融、敷金や礼金が無料な反面わずか一日でも家賃を滞納すると鍵を交換して入居者を追い出してしまうゼロゼロ物件、違法な派遣先に労働者を派遣する日雇派遣会社など」があるが、とりわけ「社会問題化しているのが、悪質な無料低額宿泊所」等を巡るもの(山田壮志郎「貧困ビジネスと社会福祉の課題 ~無料低額宿泊所問題を中心に~」(日本社会福祉大学「ふくし新書+F」)とされる。

 日本弁護士会は平成22年6月に「「無料低額宿泊所」問題に関する意見書」を取りまとめているが、「近時、ホームレス状態にある要保護者が生活保護を受給するにあたり、業者が、施設の宿泊料や配食などのサービス料名目で、保護費の大半を差し引くため、本人の手元にはわずかな金員しか残らない、という業態が、いわゆる『貧困ビジネス』として社会問題化している。」としたうえで、「このような業態は、生活困窮者が屋根の下で眠ることと引替えに、対価に見合わない劣悪な居住環境やサービスの利用を事実上強制する結果となっており、看過しがたい人権侵害を引き起こしている。」と指摘している。

 こうした無料低額宿泊所等を巡る「貧困ビジネス」の業態には、「社員寮などを改装した無料低額宿泊所ないしそれに類する施設に入所させる形態である宿泊所型と、一般アパートやマンションを借り上げて転貸する形態のアパート型があるとされる。」とされ、「これら業態は、①生活保護利用者等を対象とすること、②住居のほか食事等の生活上のサービスを提供すること、③サービスの内容に見合わない高額な費用を請求すること、④生活保護費や年金から支払わせて利益を上げていること、といった点で共通する。」(原田啓一郎「無料低額宿泊所といわゆる「貧困ビジネス」」(社会保障研究 第3巻第1号 (平成30年6月))126頁、猪俣正「住居・生活サービス商法被害」(現代消費者法 10号 (平成23年3月))31頁以下参照)とされる。

〇 無料低額宿泊所は、社会福祉法において、「生計困難者のために、無料又は低額な料金で、簡易住宅を貸し付け、又は宿泊所その他の施設を利用させる事業」(2条3項8号)として第2種社会福祉事業の中に位置づけられている。なお、定員が5名に満たない無料低額宿泊所は、(第2種)社会福祉事業には含まれない(2条4項4号)とされる。

 無料低額宿泊所は、後述の令和2年施行の社会福祉法改正前は事後の届出制とされていたが、「社会福祉事業としての届出を行わずに同様の事業を行っている施設も数多くあると言われて」いた(前記山田論文)とされる。また、無料低額宿泊所については、平成15年7月の厚生労働省社会・援護局長通知「社会福祉法第2条第3項に規定する生計困難者のために無料又は低額な料金で宿泊所を利用させる事業を行う施設の設備及び運営について」(平成15年7月31日 社援発第0731008号)により「無料低額宿泊所の設備、運営等に関する指針」が示されていたが、この指針(ガイドライン)は法に基づく基準ではないため、法的拘束力はなく、これを担保する措置も規定されていなかった。そのため、悪質な事業者に対する十分な指導はされなかったとされる。

 

(大阪府等による独自条例の制定)

〇 これらの問題に対応するため、平成21年10月に厚生労働省は「無料低額宿泊施設等のあり方に関する検討チーム」を設置して検討を進め、また、議員立法の動きもあったが、当時、法制度の強化には至っていない。

 そこで、平成22年11月に大阪府は「大阪府被保護者等に対する住居・生活サービス等提供事業の規制に関する条例」を制定し、独自の規制を行うこととした。

 都道府県では、大阪府に次いで、平成25年3月に埼玉県が「埼玉県被保護者等住居・生活サービス提供事業の業務の適正化等に関する条例」を制定し、さらに平成26年3月に茨城県が「茨城県被保護者等に対する住居・生活サービス等提供事業の規制に関する条例」を制定している。なお、大阪府条例は知事提案であるが、埼玉県条例と茨城県条例は議員提案である。

 市町村では、埼玉県条例が指定都市及び中核市を適用除外としていたため、指定都市であるさいたま市が平成25年7月に「さいたま市被保護者等住居・生活・金銭管理サービス提供事業の業務の適正化等に関する条例」を、中核市である川越市、越谷市及び川口市がそれぞれ、平成25年6月に「川越市被保護者等住居・生活サービス提供事業の業務の適正化等に関する条例」、平成26年12月に「越谷市被保護者等住居・生活サービス提供事業の業務の適正化等に関する条例」(越谷市は平成27年4月から中核市に移行)、平成30年3月に「川口市被保護者等住居・生活・金銭管理サービス提供事業の業務の適正化等に関する条例」(川口市は平成30年4月から中核市に移行)を制定している。

 これらの条例の内容等については、後述する。

 

(社会福祉法の改正による規制強化)

〇 厚生労働省は平成28年10月に「生活保護受給者の宿泊施設及び生活支援の在り方に関する意見交換会」を立ち上げ、さらに社会保障審議会は平成29年5月に「生活困窮者自立支援及び生活保護部会」を設置した。同部会は、無料低額宿泊所等の規制についても議題として取り上げ、平成29年12月の「報告書」では、「無料低額宿泊事業については、利用者の自立を助長する適切な支援環境を確保するため、法律に根拠がある最低基準や、事業停止等以外の実効性のある処分権限を設けたり、事前届出制を検討するなど、法令上の規制を強化すべきである。」(29頁)と提言した。

 これを踏まえ、平成30年6月に社会福祉法が改正され(「生活困窮者等の自立を促進するための生活困窮者自立支援法等の一部を改正する法律」)、無料低額宿泊所に関する規制が強化された(令和2年4月1日施行 厚生労働省資料「生活困窮者等の自立を促進するための生活困窮者自立支援法等の一部を改正する法律案の概要」参照)。

 すなわち、無料定額宿泊所を含む住居の用に供するための施設を設置して行う第2種社会福祉事業につき、これらの施設を「社会福祉住居施設」を定義づけた(68条の2第1項)うえで、社会福祉住居施設を設置して第2種社会福祉事業を経営する事業者(国、都道府県、市町村及び社会福祉法人を除く)に対して、都道府県・指定都市・中核市(大都市等特例(150条)により、指定都市及び中核市においては指定都市又は中核市が処理)に事前届出を義務づける(68条の2第2項)とともに、都道府県・指定都市・中核市は、社会福祉住居施設の設備及び運営について、厚生労働省令で定める基準を標準として又は参酌して、条例で基準を定めなければならない(68条の5第1項、第2項)とし、事業者に当該基準の遵守を義務づけ(68条の5第3項)、基準を順守しない事業者に対して都道府県・指定都市・中核市は改善命令を出すことができる(71条)とされた。

 この社会福祉法改正を踏まえ、厚生労働省令「無料低額宿泊所の設備及び運営に関する基準」(以下「厚生労働省令基準」という。)が定められ、また、都道府県・指定都市・中核市は、法68条の5第1項に基づく委任条例の制定等により、条例で無料定額宿泊所の設備及び運営に関する基準を定めている(例えば、東京都は「東京都無料低額宿泊所の設備及び運営の基準に関する条例」を制定)。

 

【大阪府、埼玉県及び茨城県並びにさいたま市、川越市、越谷市及び川口市の条例】

〇 前述の通り、大阪府、埼玉県及び茨城県の1府2県並びにさいたま市、川越市、越谷市及び川口市の埼玉県下の4市は、令和2年4月1日施行の社会福祉法改正の以前から、貧困ビジネスを規制する独自条例を制定していた。

 これらの団体のうち、社会福祉法改正に伴い、大阪府、茨城県及び川口市は従前の独自条例(川口市は、独自条例を一部改正)とは別に法68条の5第1項に基づく委任条例(以下「委任条例」という)を新たに制定している。他方、埼玉県、さいたま市及び越谷市は従前の独自条例を全部改正して独自事項と法委任事項の両方を規定する条例(以下「統合条例」という。)を制定し、川越市は従前の独自条例を廃止したうえで新たに統合条例を制定している。

 これら条例を一覧にすると、以下のとおりである。なお、条例名の前の「〇」は独自条例、「☆」は委任条例、「◎」は統合条例を意味する。

大阪府

大阪府被保護者等に対する住居・生活サービス等提供事業の規制

に関する条例

平成22年11月4日公布

平成23年2月1日施行

大阪府無料低額宿泊所の設備及び運営に関する基準を定める条例

令和2年3月27日公布

令和2年4月1日施行

埼玉県

被保護者等住居・生活サービス提供事業の業務の適正化等

に関する条例(全部改正前)

平成25年3月29日公布

平成25年10月1日施行

埼玉県被保護者等住居・生活サービス提供事業の業務の適正化等

に関する条例(全部改正後)

令和元年12月24日公布

令和2年4月1日施行

茨城県

茨城県被保護者等に対する住居・生活サービス等提供事業の規制

に関する条例

平成26年3月26日公布

平成26年10月1日施行

社会福祉法に基づき無料低額宿泊所の設備及び運営に関する基準

を定める条例

令和元年12月25日公布

令和2年4月1日施行

さいたま市

○さいたま市被保護者等住居・生活・金銭管理サービス提供事業の

業務の適正化等に関する条例(全部改正前)

平成25年7月9日公布

平成25年10月1日施行

さいたま市被保護者等住居・生活サービス提供事業の業務の

適正化等に関する条例(全部改正後)

令和元年12月27日公布

令和2年4月1日施行

川越市

川越市被保護者等住居・生活サービス提供事業の業務の適正化等

に関する条例(廃止)

平成25年6月27日公布

平成25年10月1日施行

川越市無料低額宿泊所等の設備及び運営に関する基準等を

定める条例

令和2年3月25日公布

令和2年4月1日施行

越谷市

○越谷市被保護者等住居・生活サービス提供事業の業務の適正化等

に関する条例(全部改正前)

平成26年12月22日公布

平成27年11月1日施行

越谷市被保護者等住居・生活サービス提供事業の業務の適正化等

に関する条例(全部改正後)

令和2年3月24日公布

令和2年4月1日施行

川口市

川口市被保護者等住居・生活・金銭管理サービス提供事業の業務

の適正化等に関する条例(一部改正後)

平成30年3月29日公布

令和元年12月24日改正公布

平成30年4月1日施行

令和2年4月1日改正施行

川口市無料低額宿泊所の設備及び運営に関する基準を定める条例

令和元年12月24日公布

令和2年4月1日施行

 

(大阪府の条例)

〇 大阪府では、平成21年夏ごろから、特に大阪市や堺市などで、生活保護受給者に住居と食事等の生活サービスを併せて提供し、サービスに見合わない利用料を徴収するなど、生活保護費から不当な利益を上げる貧困ビジネスの事象が多発しており、こうした状況を受けて、平成22年3月、大阪府知事は府議会において貧困ビジネスについて条例規制を含むルール化を行う意向を表明した。当時、議員立法の動き等もあったが、法制度の強化には至っておらず、他方で、こうした問題に対しては緊急に対応すべきであり、また、問題事案の類型が、関東・中部地方では無料低額宿泊所を活用した施設処遇型であるのに対して、大阪ではワンルーム・マンションを含む住居提供に生活サービスを付加する事業手法が中心であるため、法制度の強化を待たずに条例制定を目指し(自治体法務研究2011年夏号CLOSEUP先進・ユニーク条例「悪質な『貧困ビジネス』事業者の排除を目指して~大阪府被保護者等に対する住居・生活サービス等提供事業の規制に関する条例~」59頁以下)、平成22年11月、「大阪府被保護者等に対する住居・生活サービス等提供事業の規制に関する条例」(以下「大阪府独自条例」という。)を制定した。

〇 大阪府独自条例は、規制対象事業を「被保護者等住居・生活サービス等提供事業」(2人以上の生活保護受給者に対し、①住居等(住宅又は宿泊所その他の居住の用に供する施設)の提供に、②生活サービス(被服、寝具、食事、洗濯、掃除の提供等日常生活を営むために必要なサービスであって、1月を超えて継続的に提供されるもの)又は③金銭等管理サービス(生活保護費又は生活保護費が払い込まれる預貯金等の口座を管理するサービス)を併せて提供する事業 2条2項)としている。他方、社会福祉各法に基づく法的位置づけのある事業は規制対象外事業(2条2項)としており、社会福祉法の適用を受ける無料低額宿泊所も規制対象外となっている。

 そのうえで、当該事業を営む者に知事への事前届出を義務づけている(3条)。併せて、事業者と生活保護受給者との間の契約について解約のルール(4条)を定めるとともに、契約前の重要事項の説明(5条)や契約締結時の書面交付(6条)を事業者に義務づけ、これらの規定に違反した者に対して知事は報告徴収(7条)、勧告・命令(8条)、公表(9条)ができるとしている。また、命令に違反した者に罰則を科している(12条、13条)。

 本条例の内容等については、大阪府HP「大阪府被保護者等に対する住居・生活サービス等提供事業の規制に関する条例」及び前記自治体法務研究2011年夏号解説を参照されたい。

〇 令和2年4月1日施行の社会福祉法改正に伴い、大阪府は、委任条例である「大阪府無料低額宿泊所の設備及び運営に関する基準を定める条例」(以下「大阪府委任条例」という。)を制定した。大阪府独自条例は、社会福祉法の適用を受ける無料低額宿泊所は規制対象外としているため、特段の改正はされていない。

 大阪府委任条例の内容等については、大阪府HP「無料低額宿泊所について」を参照されたい。

 

(埼玉県の条例)

〇 埼玉県は、平成25年3月に議員提案により、「被保護者等住居・生活サービス提供事業の業務の適正化等に関する条例」(以下「埼玉県独自条例」という。)を制定した。

 埼玉県独自条例は、規制対象事業を「被保護者等住居・生活サービス等提供事業」(2人以上の生活保護受給者に対し、①住居等(住宅又は宿泊所その他の居住の用に供する施設)の提供に、②生活サービス(衣服、食材、食事の提供等生活に関するサービス)を併せて提供する事業 2条3項)としている。他方、社会福祉各法に基づく法的位置づけのある事業は規制対象外としているものの、社会福祉法2条3項8号の事業は規制対象外事業から除外(2条3項)としており、社会福祉法の適用を受ける無料低額宿泊所は本条例の規制対象としている。また、金銭管理等サービスは規制対象としていない。これらの点は、大阪府独自条例と異なる。

 そのうえで、当該事業を営む者に知事への事前届出を義務づけている(3条)。併せて、利用の申込み時の説明(4条)、契約締結時の書面交付(5条)、契約書等の知事への提出(7条)、被保護者等の虐待防止及び自立支援(10条)を事業者に義務づけるとともに、事業者と生活保護受給者との間の契約の解除等の制限(6条)等を定めている。知事は、報告徴収・立入検査(11条)をすることができるとし、また、これらの規定に違反した者に対して停止命令等(12条)、勧告(13条)、公表(14条)ができるとしている。また、命令に違反した者に罰則を科している(18条、19条)。

 ただし、社会福祉法の適用を受ける無料低額宿泊所については、社会福祉法の規定との抵触を避ける観点から、3条、4条の一部、5条、11条の一部、12条、18条、19条は適用除外(16条1項)としている。

 また、社会福祉事業に関する事務は大都市等特例(150条)により指定都市及び中核市が処理するとされているため、本条例は指定都市及び中核市は適用除外(16条3項)としている。

 本条例の制定経緯、内容等については、田村琢実「議員提案条例で貧困ビジネスにNo!~埼玉県議会」(地方自治職員研修2014年6月号)を参照されたい。

〇 令和2年4月1日施行の社会福祉法改正に伴い、埼玉県独自条例は全部改正され、統合条例(以下「埼玉県統合条例」という。)となった。

 すなわち、条例の対象を①社会福祉法2条3項8号の無料低額宿泊所及び②無料低額宿泊事業と同様のサービスを提供する定員が2人以上4人以下の住宅又は宿泊所その他の居住の用に供する施設の両方(2条3項)としたうえで、①の無料低額宿泊所については厚生労働省基準を踏まえた設備及び運営に関する基準を定め(3条~34条)、②の施設については①の無料低額宿泊所の設備及び運営に関する基準の規定を準用する(35条)とともに、施設が基準に適合しない場合には知事は改善命令をすることができる(40条)としている。

 また、②の施設について、知事への事前届出(36条)、管理者の設置(37条)及び契約締結時の書面交付(38条)を事業者に義務づけ、違反した者に対して知事は停止命令等(41条)をすることができるとし、命令に違反した者に罰則を科している(48条、49条)。

 さらに、①の無料低額宿泊所及び②の施設について、知事は報告徴収・立入検査(44条)をすることができるとするとともに、被保護者等の虐待防止(39条)を事業者に義務づけ、違反した者に対して知事は勧告(42条)、公表(43条)をすることができるとしている。

 指定都市及び中核市は、適用除外(46条2項)としている。

 埼玉県統合条例の内容等については、埼玉県HP「議員提出議案「埼玉県被保護者等住居・生活サービス提供事業の業務の適正化等に関する条例」を可決」及び「無料低額宿泊所について」を参照されたい。

 

(茨城県の条例)

〇 茨城県は、平成26年3月に議員提案により、「茨城県被保護者等に対する住居・生活サービス等提供事業の規制に関する条例」(以下「茨城県独自条例」という。)を制定した。

 茨城県独自条例、大阪府独自条例と同様に社会福祉法の適用を受ける無料低額宿泊所は規制対象外としており、基本的には大阪府独自条例と同趣旨の内容を定めている。ただし、大阪府独自条例と異なり、被保護者の虐待防止及び自立支援(7条)、知事の立入検査(8条)及び事業の停止等(9条)の規定を置いている。

 茨城県独自条例の内容等については、茨城県HP「被保護者等に対する住居・生活サービス等提供事業の規制に関する条例」を参照されたい。

〇 令和2年4月1日施行の社会福祉法改正に伴い、茨城県は、委任条例である「社会福祉法に基づき無料低額宿泊所の設備及び運営に関する基準を定める条例」(以下「茨城県委任条例」という。)を制定した。茨城県独自条例は、社会福祉法の適用を受ける無料低額宿泊所は規制対象外としているため、特段の改正はされていない。

 茨城県委任条例の内容等については、茨城県HP「無料低額宿泊所」を参照されたい。

 

(さいたま市、川越市、越谷市及び川口市の条例)

〇 埼玉県独自条例は、指定都市及び中核市を適用除外としていたため、指定都市であるさいたま市は平成25年7月に「さいたま市被保護者等住居・生活・金銭管理サービス提供事業の業務の適正化等に関する条例」(以下「さいたま市独自条例」という。)を、中核市である川越市、越谷市及び川口市はそれぞれ、平成25年6月に「川越市被保護者等住居・生活サービス提供事業の業務の適正化等に関する条例」(以下「川越市独自条例」という。)、平成26年12月に「越谷市被保護者等住居・生活サービス提供事業の業務の適正化等に関する条例」((以下「越谷市独自条例」という。)、平成30年3月に「川口市被保護者等住居・生活・金銭管理サービス提供事業の業務の適正化等に関する条例」(以下「川口市独自条例」という。)を制定した。

〇 さいたま市独自条例、川越市独自条例、越谷市独自条例及び川口市独自条例は、埼玉県独自条例と同様、社会福祉法の適用を受ける無料低額宿泊所も規制対象に含めていた。

 さいたま市独自条例の内容等については、戸島よし子「貧困ビジネス規制条例を制定(さいたま市)」(議会と自治体第185号 平成25年9月)を参照されたい。また、さいたま市独自条例、川越市独自条例及び越谷市独自条例の内容については、大阪府独自条例、埼玉県独自条例及び茨城県独自条例も含めて、山田壮志郎「無料低額宿泊所の研究ー貧困ビジネスから社会福祉事業へ」(明石書店 平成28年)75頁以下が整理をしている。

〇 令和2年4月1日施行の社会福祉法改正に伴い、さいたま市独自条例及び越谷市独自条例は全部改正され、それぞれ統合条例となり、川越市独自条例は廃止され、新たに統合条例が制定された。

 統合条例である「さいたま市被保護者等住居・生活サービス提供事業の業務の適正化等に関する条例」(以下「さいたま市統合条例」という。)、「川越市無料低額宿泊所等の設備及び運営に関する基準等を定める条例」(以下「川越市統合条例」という。)及び「越谷市被保護者等住居・生活サービス提供事業の業務の適正化等に関する条例」(以下「越谷市統合条例」という。)は、細部の規定は異なるものの、基本的には埼玉県統合条例と同様の考え方に立って制定されている。

 ただし、さいたま市統合条例は、社会福祉法68条の2の規定による届出をしていない無料低額宿泊所に関する条例の適用については、無料低額宿泊事業と同様のサービスを提供する定員が2人以上4人以下の住宅又は宿泊所その他の居住の用に供する施設(2条3項2号)と同様の扱いをし(46条)、また、災害予防のための措置について無料低額宿泊所を含む事業者に対して義務づけている(38条)。川越市統合条例は、住居・生活サービス提供事業に係る契約締結時の書面交付の事業者に対する義務づけの規定は置いていない。さいたま市統合条例及び越谷市統合条例は、事業者に対する市長の指導・助言の規定(さいたま市統合条例40条、越谷市統合条例40条)を置いている。

〇 令和2年4月1日施行の社会福祉法改正に伴い、川口市独自条例は一部改正され、規制対象から社会福祉住居施設(無料低額宿泊所)が除外されるとともに、新たに委任条例である「川口市無料低額宿泊所の設備及び運営に関する基準を定める条例」(以下「川口市委任条例」という)が制定された。

 川口市は、川口市委任条例を制定したことに伴い、川口市独自条例について「規制対象を調整するために一部改正を行いました。当条例の規制対象から社会福祉住居施設(無料低額宿泊所)を除き、改正後は主に小規模の事業者を規制する条例となります。社会福祉法が改正され、事業開始時の届出が『事後提出制』から『事前届出制』に改められました。その改正にならい、当条例も『事前届出制』を導入し、事業開始前に条例不適合事項がある場合には是正を促します。」(川口市HP「川口市被保護者等住居・生活・金銭管理サービス提供事業の業務の適正化等に関する条例」)としている。



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