再生可能エネルギー発電設備に対する法定外税条例

(令和6年2月5日更新)

【条例の制定状況】

〇 太陽光発電設備等の再生可能エネルギー発電設備に対して法定外税を課する条例として、令和5年12月19日時点で、次のものが確認できる。

 すなわち、

岡山県美作市

美作市事業用発電パネル税条例

令和3年12月21日公布

総務大臣同意日から3か月経過し、

1年内の規則で定める日施行

宮城県

再生可能エネルギー地域共生促進税条例

令和5年7月11日公布

総務大臣同意日から6月以内の

規則で定める日(令和6年4月1日)施行

である。

〇 美作市条例は地方税法5条7項に基づき法定外目的税である事業用発電パネル税を、宮城県条例は地方税法4条3項に基づき法定外普通税である再生可能エネルギー地域共生促進税を新設しようとするものである。

〇 地方団体が法定外税を新設しようとする場合、あらかじめ総務大臣と協議し、同意を得なければならず(法定外目的税―地方税法731条2項、都道府県法定外普通税―地方税法259条1項)、総務大臣は同意をする場合は、地方財政審議会の意見を聴かなければならない(法定外目的税―地方税法732条の2、都道府県法定外普通税―地方税法260条の2)。

 総務大臣は、①国税又は他の地方税と課税標準を同じくし、かつ、住民の負担が著しく過重となること、②地方団体間における物の流通に重大な障害を与えること、③国の経済施策に照らして適当でないことのいずれかが該当すると認める場合を除き、同意しなければならない(法定外目的税―地方税法733条、都道府県法定外普通税―地方税法261条)。

 なお、特定の納税義務者に係る税収割合が高い場合(特定納税義務者―当該納税義務者に対して課すべき法定外税の課税標準の合計が、その法定外税の課税標準の合計の10分の1を継続的に超えると見込まれる者)は、議会において条例制定前にその納税義務者の意見を聴くものとする(法定外目的税―地方税法731条3項、都道府県法定外普通税―地方税法259条2項)とされている。

 法定外税については、総務省HP「法定外税」を参照されたい、

〇 上記の2条例については、西本卓司「再生可能エネルギー発電事業者への課税条例制定の動き― 岡山県美作市及び宮城県の事例から ―」(立法と調査 462号(2023年12月))を参照されたい。

 

【美作市の条例】

〇 美作市条例は、「安心安全な環境の保全を目的とし、防災対策、生活環境対策及び自然環境対策のための施策に要する費用に充てるため、地方税法(・・・)第5条第7項の規定に基づき、事業用発電パネル税を課する。」(1条)とし、地方税法5条7項に基づき法定外目的税である事業用発電パネル税を新設し、同税を課すこととしている。

〇 事業用発電パネル税新設の理由として、美作市は「太陽光発電事業は、発電設備に広く太陽光発電パネルを設置する必要があり、発電パネル面積が広いほど、大規模発電ができるため、こうした立地開発による土地の形態の変化が、市民の生活環境において、新たな災害発生や鳥獣被害、 事業者による売電事業終了後の土地の荒廃の危惧など少なからぬ影響を与えています。・・・本来の土地の状態から太陽光発電設備用地への急激な形態の変化においては、下流域への土砂災害、河川洪水などが懸念されます。 こうした背景から、防災対策をはじめ、生活環境対策、自然環境対策のための施策に要する費用に充てるため、法定外目的税として「事業用発電パネル税」を導入するものです。」(美作市資料「事業用発電パネル税導入について 」)としている。

 すなわち、事業用発電パネル税は、太陽光発電設備の設置により土砂災害等の影響があり、防災対策、生活環境対策及び自然環境対策のための施策に要する費用に充てるためのものとしている。

〇 事業用発電パネル税の概要は、以下の通りである。

課税客体

市の区域内に設置された太陽光発電設備を使用し発電を行う事業

納税義務者

発電事業者

課税標準

太陽光発電設備のパネルの総面積

 ただし、FIT認定出力が、50㎾以上の事業者はパネル総発電容量1㎾に6を乗じて得た値、50㎾未満の事業者は

発電認定容量1㎾に6を乗じて得た値を総面積(㎡を単位とする値)とみなすことができる

税率

1㎡あたり50円

非課税事項等

1 建築物の屋根その他の当該建築物を構成する部分に設置した太陽光発電設備による発電事業

2 発電認定容量が10㎾未満の太陽光発電設備による発電事業

3 発電認定容量が50㎾未満の太陽光発電設備による発電事業で、その事業区域に砂防指定地、地すべり防止区域、

 急傾斜地崩壊危険区域、土砂災害警戒区域及び土砂災害特別警戒区域のいずれも含まないもの

4 太陽光発電事業者が地域住民等に対し、円滑な関係を維持するため、寄附金を支出した場合には、税額の20%を

 上限として、その寄附金相当額を税額控除する。

課税期間等

施行後5年ごとに、必要がある場合は、条例に検討を加え所要の措置を講ずる。

税の使途

防災対策、生活環境対策及び自然環境対策のための施策に要する費用

〇 事業用発電パネル税については、令和5年12月1日時点で、総務大臣の同意は得られていない。

 地方財政審議会は、令和4年6月7日、「先日、美作市と特定納税義務者より意見の聴取を行ったが、両者の主張に開きがあり、話し合いが不足しているのではないかと考えられる。一方で、両者ともに、できる限り調整したいとの意向をもっていることが確認できた。」、「そこで、美作市に対し、特定納税義務者と再度協議を尽くすよう総務省から要請してはどうかと考える。また、特定納税義務者に対しても、美作市との協議に適切に対応するよう総務省から伝達をしてはどうかと考える。」(令和4年度地方財政審議会(6月7日)議事要旨)としている。

 なお、一般社団法人太陽光発電協会は、事業用発電パネル税に対して断固反対である旨の意見を表明している(太陽光発電協会HP「美作市による太陽光発電への法定外目的税導入について」)。

〇 事業用発電パネル税の内容等については、美作市HP「美作市事業用発電パネル税条例を公布しました」及び地方財政審議会総務省説明資料「事業用パネル税の概要」を参照されたい。

 

【宮城県の条例】

〇 宮城県条例は、「県は、大規模森林開発を伴う再生可能エネルギー発電事業を巡る状況を踏まえ、再生可能エネルギー発電事業の地域との共生の促進に向けて、地方税法(・・・)第4条第3項の規定に基づき、再生可能エネルギー地域共生促進税を課する。」とし、地方税法4条3項に基づき法定外普通税である再生可能エネルギー地域共生促進税を新設し、同税を課すこととしている。

〇 再生可能エネルギー地域共生促進税新設の理由として、宮城県は「脱炭素社会の実現に向けて積極的な導入が重要となる再生可能エネルギー発電設備については、特に森林に設置される場合、土砂災害や景観、環境への影響等の懸念から、地域住民との調整に課題を抱える例も少なくありません。県では、これまでも太陽光発電施設の設置等に関する条例や、環境影響評価制度等の適切な運用に取り組んできましたが、再生可能エネルギーの最大限の導入と環境保全の両立のための新たな取組として、再生可能エネルギー発電事業の地域との共生の促進に向けた税を導入することとしました。」(宮城県HP「再生可能エネルギー地域共生促進税について」)としている。

 すなわち、再生可能エネルギー地域共生促進税は、森林に設置される再生可能エネルギー発電設備が土砂災害、景観、環境への影響等の懸念から地域住民との調整に課題を抱える例も少なくなく、再生可能エネルギーの最大限の導入と環境保全の両立のためのものとしている。

〇 再生可能エネルギー地域共生促進税の概要は、以下の通りである。

課税客体

0.5haを超える森林の開発行為を行った区域内に設置し、発電事業の用に供することができる再生可能エネルギー発電設備

(太陽光発電設備・風力発電設備・バイオマス発電設備)

 ただし、施行日時点で、稼働済み及び着工済み(一部例外あり)の施設は対象外

納税義務者

再生可能エネルギー発電設備の所有者

課税標準

再生可能エネルギー発電設備の総発電出力(㎾)

税率

再生可能エネルギー発電設備の種類により、税率を設定(営業利益の20%程度に相当)

1 太陽光発電設備:620円/㎾ (FIT認定設備で、税抜調達価格が10円以上の場合は当該額に応じて別に定める税率)

2 風力発電設備:2470円/㎾(FIT認定設備で、税抜調達価格が16円以上の場合は当該額に応じて別に定める税率)

3 バイオマス発電設備:1050円/㎾

非課税事項

1 国又は地方公共団体が所有するもの

2 国、地方公共団体又は土地開発公社により開発行為が行われた区域に設置されたもの

3 太陽光を再生可能エネルギー源とするものであって、家屋(住家、店舗、工場等)の屋根等にパワーコンディショナ

 を除く全部が設置されたもの

4 地球温暖化対策の推進に関する法律に規定する認定地域脱炭素化促進事業計画に基づき使用されるもの

5 農林漁業の健全な発展と調和のとれた再生可能エネルギー電気の発電の促進に関する法律に規定する認定設備整備計画

 に基づき使用される場合のもの

6 4、5に準ずるものとして市町村長が認め、知事が認定した事業計画に基づき使用されるもの

課税期間

5年間

〇 再生可能エネルギー地域共生促進税に対し、総務大臣は、令和5年11月17日に同意した(総務省報道資料「宮城県「再生可能エネルギー地域共生促進税」の新設」)。

 地方財政審議会は、令和5年11月10日、「本税は、地域との共生が図られている事業については非課税となることや、仮に本税が課税される場合であっても、再生可能エネルギー発電事業が必ず実施不可能になる程度まで過重であるとはいえない水準と考えられることから、『著しく過重な負担』には当たらないのではないか。」、「経産省・環境省は、地域と共生した再生可能エネルギー発電事業を推進している。本税は、再生可能エネルギー発電事業と地域との共生促進を図ることを目的とするものであり、『国の経済施策に照らして適当でないこと』には該当しないのではないか。」として、同税の新設を了承した(「令和5年度地方財政審議会(11月10日)議事要旨」、同意要件との関係については地方財政審議会総務省説明資料「宮城県再生可能エネルギー地域共生促進税の新設について」参照)。

 宮城県と特定納税義務者との調整状況について、総務省は地方財政審議会において「本税に係る特定納税義務者2社のうち1社は『本条例を遵守して事業を推進』する旨の意見書を宮城県議会に提出したが、もう1社は本税への疑義を呈する意見書を提出した。宮城県によれば、その後同社に対し説明を重ねた結果、条例の趣旨についての理解と、県の協力を得ながら地域共生を進めていく旨の意向が示されていると聞いている。」と説明している(令和5年度地方財政審議会(11月1日)議事要旨)。

 なお、一般社団法人太陽光発電協会、一般社団法人日本風力発電協会及び一般社団法人再生可能エネルギー長期安定電源推進協会は、令和5年3月6日時点で、再生可能エネルギー地域共生促進税に対して、基本的に法定外税の導入には反対であるものの法定外税を誘導施策として導入するには具体的な促進地域の提示と導入計画が示されることが必要である旨の意見を表明している(太陽光発電協会HP「宮城県「森林開発抑制に向けた新たな対策」新税検討について」)。

〇 再生可能エネルギー地域共生促進税の内容等については、宮城県HP「再生可能エネルギー地域共生促進税について」を参照されたい。



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