市税等の時効

地方公共団体における市税・市税外収入等の時効期間は、次のとおりの取扱いで適正ですか?

収入の種類 時効期間 根拠法令・判例・解説
1 市民税 5年 地方税法18条 地方税の徴収権は法定納期限の翌日から起算して5年間行使しないことによって、時効により消滅する。
2 国民健康保険税 5年 国民健康保険法79条の2 市町村が徴収する保険料その他この法律の規定による徴収金は地方自治法231条の3第3項に規定する法律で定める歳入となる。保険料は時効に関し特段に法律の定めがないことによって自治法236条の消滅時効の適用を受ける。
3 介護保険料 2年 介護保険法200条1項 徴収金の徴収は、2年間経過したときは、時効により消滅する。
4 保育料 実施児 5年 児童福祉法56条3項に規定する保育の実施に要する保育費用にかかる保護者負担金の法的性格は、自治法231条の3第3項に規定する「その他の地方公共団体の歳人」に当たるため、この負担金は公法上の債権として自治法236条の消滅時効の適用を受け、児童福祉法に特別の定めがないことによって、時効は5年間である。時効の援用も不要である。よって、自治法上の規定に基づく督促後から5年間経過したものについては消滅する。
私的契約児 5年 自治法236条 時効に関し、他の法律に定めがあるものを除くほか、5年間これを行わないときは、時効により消滅する。
5 学校給食費 5年 民法173条 「生産者・卸売商人・小売商人の代金債権・居職人・製造人仕事に対する債権」の規定が適用され短期消減時効にかかる債権である。このように時効により権利が消滅している場合には「議決を得るべき放棄すべき権利」というものがなくなっている状態にあるので議会の議決を得る必要がない。
6 市営住宅使用料 消滅時効 なし (現行5年) 民法の適用となり.公法上の営造物使用料ではなく、賃貸借契約上の賃料に過ぎないことから、時効成立は債務者からの時効の採用が必要となる。仮に、一定期に不能欠損を行うならば、自治法96条1項10号による権利を放棄する議決が必要となる。
7 水道料 2年 (現行5年) 平成15年10月10日最高裁判例 従来水道料金は公の施設の使用料であると考えられ、自治法236条を適用してきたが、今回の判決により水道供給契約によって供給される水は、民法173条1号所定の「生産者が売却した産物」となり時効は2年となる。よって、時効の成立には援用が必要となり、また権利の放棄には議会の議決が必要となる。
8 下水道事業受益者負担金 5年 都市計画法75条7項 負担金及び滞納金を徴収する権利は、5年間これを行わないときは、時効により消滅する。
9 下水道使用料 5年 自治法附則6条の規定により、同法231条の3の歳入となり、同法236条の消滅時効の適用を受ける

地方自治法236条1項及び2項によれば、普通地方公共団体を当事者とする金銭債権及び金銭債務は、「他の法律に定めがあるものを除くほか」援用を要せず、5年の時効により消滅するものとされています。同項に規定する「他の法律」には、民法も含まれます。その実質的な理由として、民法をはじめとする各種の実体法において、債権債務の消滅時効に関する規定は、それぞれの権利関係の性質に適合する期間を定めたものと考えられますが、債権債務の当事者に普通地方公共団体が加わることにより、消滅時効の期間を5年とする積極的な理由がないことがあげられます。この結果、私法上の金銭債権債務については、民法、商法等が適用され、自治法の規定は適用されないこととなります。

次に、自治法96条1項によれば、法律もしくはこれに基づく政令又は条例に特別の定めがある場合を除くほか、普通地方公共団体の有する権利を放棄する場合には、議会の議決を必要とするものとされています。そして、自治法240条3項によれば、普通地方公共団体の長は、金銭債権について、政令の定めるところにより債権(同条4項に規定する債権を除く。)にかかる債務の免除をすることができることとされています。同項の規定を受けて施行令171条の7は、議会の議決を要さずに金銭債務の免除をすることができる場合を定めています。この施行令171条の7は、自治法96条1項10号に規定する「法律若しくはこれに基づく政令」にあたります。

したがって、他の法律で特別の定めがない場合に、施行令171条の7に規定によらず、金銭債務を免除する場合には、条例で特別の定めをするか、議会の議決を得る必要があります。すなわち、権利放棄には債権の放棄が含まれ、債権の放棄と債務の免除は同じだからです。なお、金銭債務を免除する条例は、施行令171条の7との関係で、これと抵触することは許されないものと考えられていますが(自治法14条1項)、経済的に無価値と評価できる債権にかかる債務を免除することは施行令171条の7に抵触しないとの考えもあり条例化に際しては、充分な調査・検討が必要です。

以上を前提として、ご質問の各債権について検討します。

1.市民税

地方税法18条は、自治法236条1項に規定する「他の法律」に当たりますから、ご質問者のお考えのとおり、原則として、法定納期限の翌日から起算して5年が、市民税をはじめとする地方税の徴収権にかかる債権の消滅時効期間となります。

2.国民健康保険税

国民健康保険税については、地方税法の適用となります。したがって、前記1になります。これに対し、税としてではなく、国民健康保険料として徴収している場合には、この徴収権にかかる債権は、公法上の債権です。そして、国民健康保険法110条1項の適用を受け、消滅時効期間は2年となります。

国民健康保険料は、自治法231条の3第3項に規定する法律で定める歳入とされていますので(国民健康保険法79条の2)、強制徴収により徴する債権となります。したがって、その免除については、施行令171条の7の適用はありません。国民健康保険法77条の規定に基づく条例により減免することができることとなります。条例に規定した理由以外で、減免しようとする場合には、自治法96条1項10号による議会の議決が必要となります。

3.介護保険料

介護保険法200条の規定は、自治法236条1項に規定する「他の法律」に当たりますから、ご質問者のお考えのとおり、保険料等の徴収金の消滅時効は2年間となります。

介護保険料の強制徴収及び減免については、国民健康保険料と同じです(介護保険法144条、142条)。

4.保育料

保育の実施に要する保育費用を支弁した市町村の長は、本人又はその扶養義務者から当該保育費用を徴収することができます(児童福祉法56条3項)。この費用の徴収にかかる債権は公法上の債権で、児童福祉法上特別の定めがありませんから自治法236条の適用があり、消滅時効期間は5年となります。

なお、この費用については、児童福祉法56条9項により地方税の滞納処分の例により処分することができますから、地方自治法231条の3第3項に規定される「その他の普通地方公共団体の歳入」には当たりません。また、強制徴収により徴する債権になりますから、施行令171条の7の適用はありません。したがって、保育料の減免については、条例で定めれば行えますが、条例で定める要件に該当しないにもかかわらず保育費用の徴収にかかる債権を免除しようとする場合には、自治法96条1項10号による議会の議決が必要となります。

なお、ご質問に私的契約児の保育料がありますが、その意味するところは、公立の保育園において、保育に欠ける児童に対し保育を実施し、なお受け入れ余力のある場合に、児童福祉法に基づかずに、普通地方公共団体と児童の保護者との間で契約により受け入れる場合と思われますが、この場合には、公の施設の使用料となり、自治法236条1項及び2項に該当するものと考えられ、消滅時効の期間は5年、援用は不要となります。

ただし、この場合には、公の施設としての利用ではなく、私法上の契約に基づく保育と考え民法173条3号が適用され、2年間の短期消滅時効となると考える余地があります。しかし、同じ保育園を利用しながら、消滅時効の期間を異にするという考えには疑問が残りますので、消滅時効は5年と考えるべきです。

5.学校給食費

学校給食法6条2項によれば、学校給食費は、学校給食を受ける児童又は生徒の保護者の負担とするとしか規定されていません。したがって、学校給食費については、普通地方公共団体の収入ではありません。各地方公共団体によって、取扱いに違いがあるかと思いますが、多くの場合、給食を実施する学校か、あるいは財団等の公益法人が、児童生徒の保護者から、事実上、学校給食費を集金し、これで食費等を購入しているものと思います。学校設置者である市町村が、児童又は生徒の保護者に対し、債権を有しているわけではありません。

6.市営住宅使用料

公営住宅の使用料に関する消滅時効の期間については、これまで、判例はありません。公の施設の使用料であるとして自治法236条1項及び2に該当するとの考え方もあり得ます。しかし、公営住宅の使用関係については、借家法の一般的な適用があるとするのが判例ですので(最高裁平成2年6月22日判決、判例時報1357号75頁)、使用料についても、実質賃料としての性質を有していることから、民法の適用を受け、消滅時効の期間は、民法169条が適用され、5年となり、時効の援用が必要となるものと考えます。

使用料の減免については、公営住宅法16条4項、18条2項に減免の規定があり、この規定を具体化する条例の定めるところとなります。条例の規定する減免要件に当たらない使用料を免除しようとする場合には、自治法96条1項10号に基づく議決が必要となります。

7.水道料

水道料については、ご質問者が指摘されるとおり、最高裁平成15年10月10日の決定により、民法173条1号の適用を受け、時効期間は2年とされました。これは、水の供給は、水道事業者と給水を受ける者との間の契約により行われるからです(水道法15条)。したがって、水道料金債権が時効により消滅するためには、債務者による時効の援用が必要です。

また、水道料金債権は、私法上の債権と考えると、施行令171条の7の規定による免除をすることができます。この要件に当たらない場合に免除をするには、自治法96条1項10号に基づく議会の議決が必要となります。

8.下水道事業受益者負担金

都市計画法75条1項及び2項によれば、都市計画事業により著しく利益を受ける者があるときは、その利益を受ける限度において、当該事業に要する費用の一部を当該利益を受ける者に負担させることができ、その負担の徴収を受ける者の範囲及び徴収方法については条例で定めるものとされています。この負担金にかかる債権は、公法上の債権ではありますが、都市計画法75条7項において5年という時効期間を定めていますから、この規定は自治法236条1項の「他の法律」にあたり、自治法236条1項の規定は適用されません。

また、都市計画法には受益者負担金の減免規定がありませんが、徴収方法について条例で定めることができるとされておりますので(都市計画法75条2項)、条例で減免規定を置けば、条例に基づき受益者負担金を減免することができます。条例の規定に該当しないにもかかわらず、受益者負担金を免除する場合には、自治法96条1項10号に基づく議会の議決が必要となります。

9.下水道使用料

下水道法10条によれば、公共下水道の供用が開始された場合には、当該公共下水道の排水区域内の土地の所有者、使用者又は占有者はその土地の下水を下水道に流入させるために必要な排水設備の設置を義務づけられています。水道法が水の供給契約により、水を供給することとしているのと大きく異なるところです。下水道管理者は条例で定めるところにより公共下水道の使用者から使用料を徴収することができるとされ(下水道法20条)、これは公の施設の使用料ですからその使用料債権は、公法上の債権です。下水道法は使用料金債権の消滅時効に関し特別の定めをしていませんので、自治法236条1項及び2項が適用されます。

また、自治法附則6条によれば、下水道使用料については、自治法231条の3第3項に規定する法律で定める使用料その他の普通地方公共団体の歳入とされていますから、強制徴収により徴収する債権となります。したがって、施行令171条の7の規定は適用にはなりません。下水道に関する条例により減免の規定を置くことにより、下水道使用料について減免を行うことができます。条例に定める要件に該当しない場合に、下水道使用料を減免するには、自治法96条1項10号に基づく議会の議決が必要となります。

収入の種類 時効期間 根拠法令
1 市民税 5年 地方税法18条
2 国民健康 保険税 5年 地方税法18条
保険料 2年 国民健康保険法110条1項
3 介護保険料 2年 介護保険法200条1項
4 保育料 実施児 5年 地方自治法236条
私的契約児 5年 地方自治法236条(公の施設の使用料と考える。)
6 市営住宅使用料 10年 民法167条1項
7 水道料 2年 民法173条1号
8 下水道事業受益者負担金 5年 都市計画法75条7項
9 下水道使用料 5年 地方自治法236条