2006年 秋

指定管理者の診療に係る債権

Question

当県では、児童福祉法上の重症心身障害児施設の管理及び運営を指定管理者に行わせています。その業務の範囲は、同法43条の4に規定する業務すべてにわたっており、治療行為も含まれています。さらに、その診療にかかる債権については「公の施設の使用料」であるとの前提で、利用料金制を採用し、指定管理者の収入として収受させています。

最高裁判所は、平成17年11月21日の判決で、公立病院の診療報酬債権についてその時効消滅期間を自治法236条1項所定の5年ではなく、民法170条1号により3年と解すべきであるとしました。この最高裁判所の判例を踏まえて次の点についてお答えください。

(1)診療に係る債権については「公の施設の使用料」であるとの前提で、利用料金制を採用し、指定管理者の収入として収受させている取扱いを改める必要がありますか。
(2)改める必要があるとしてその方法は、利用料金制を止め、いったん県の収入として収受した上で、別途委託料を支払う方法に改める必要があるのでしょうか。
(3)重症心身障害児施設における診療に係る債権を「公の施設の使用料」であるとの前提でその額は条例で定めておりますが、使用料ではないとすれば、今後その必要性はなくなったと考えてよいでしょうか。
(4)条例で定める必要性はなくなったとしても、県が有する私法上の債権の額を定める約款的なものを条例で定めることは差し支えないという理解のもとに、現にある使用料の部分をあえて削除する改正は必要ないと考えてよいのでしょうか。
<参考条例>
(指定管理者による管理)
第7条 知事は、地方自治法(昭和22年法律第67号)第244条の2第3項の規定に基づき、法人その他の団体で知事が指定するもの(以下「指定管理者」という。)に、センターの管理に関する業務を行わせるものとする。
2 前項のセンターの管理に関する業務の範囲は、次に掲げるとおりとする。
(1)入所措置を受けた者又は法第63条の3第1項の規定により入所の措置を受けた者を保護するとともに、治療及び日常生活の指導を行うこと。
(2)短期入所を行うこと。
(3)診療を行うこと。
(4)センターの維持管理に関する業務
(5)前各号に掲げるもののほか、センターの管理に関して知事が必要と認める業務(利用料金の納付)
第11条 センターにおいて診療を受けた者は、指定管理者に対し利用料金(地方自治法第244条の2第8項の利用料金をいう。以下同じ。)を指定管理者が別に定める日までに納付しなければならない。

2 利用料金の額は、次に掲げる額とする。
(1)診療報酬の算定方法(平成18年厚生労働省告示第92号)に定めのあるものについては、同告示第1号及び第2号の規定により算定した額
(2)入院時食事療養費に係る食事療養の費用の額の算定に関する基準(平成18年厚生労働省告示第99号)に定めのあるものについては、同告示の規定により算定した額
(3)前2号に定めがないもの及び前2号により難いものについては、別に知事が定める額

3 生活保護法(昭和25年法律第144号)、健康保険法(大正11年法律第70号)、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)その他の法令等によりその額を定められたものの診療に係る利用料金の額は、前項の規定にかかわらず、当該法令等の定めるところによる。

4  センターの利用料金は、指定管理者の収入とする

Answer

1 公の施設の使用料の性質

公の施設の使用料は公法上の債権であり、したがって、地方自治法236条1項の規定により、その消滅時効の期間は5年であり、時効の援用を待つまでもなく消滅するというのが、行政実務家の一般的な理解でした。そのため、質問者ご指摘の公立病院の診療報酬債権は、公立病院が公の施設である以上、公法上の債権であるとの理解に何の疑問も感じてこなかったものと思います。しかしながら、「公の施設の使用料=公法上の債権」という公式が成り立ちうるのか、最近、回答者も疑問を感じ始めております。そのため、今回の回答は、このような考え方もありうるというものとして理解してください。

最高裁判所は平成17年11月21日、「公立病院において行われる診療は、私立病院において行われる診療と本質的な差違はなく、その診療に関する法律関係は本質上私法関係というべきであるから、公立病院の診療に関する債権の消滅時効期間は、地方自治法236条1項所定の5年ではなく、民法170条1号により3年と解すべきである」としました。この判例は、病院と患者との間の診療契約に基づき発生する債権であるから、私法上の債権であると理解することが可能です。

また、最高裁判所は、平成15年10月10日、水道料金の消滅時効について、民法173条1号を適用して消滅時効期間を2年とする決定を行いました。この場合、水の供給は、水道事業者と給水を受けるものとの間の契約により行われることから(水道法15条)、公法上の債権ではなく、私法上の債権と理解することができ、かつ、水道事業は地方公共団体以外の者も経営することができますから(水道法6条)、公立病院の診療に関する債権と同様に、私法上の債権であると理解することができます。

このように理解することにより、公の施設の使用料ではないとすれば、これまでの「公の施設の使用料=公法上の債権」という公式に反することはありません。しかし、公立病院、水道施設が公の施設であることについては、疑問の余地がないと思います(特に、水道に関しては、平成18年7月14日に最高裁判所は公の施設であることを前提にその利用(具体的には水道料金の設定)について合理的な理由なく差別的取扱いをすることは違法であると判決を出しています。)。すなわち、公立病院は、住民に医療を提供するための公の施設ですから、住民が診療を受ける行為は公の施設を利用する行為としか考えようがないのではないでしょうか。同様に、水道は、住民に水を提供するための公の施設ですから、住民が給水を受ける行為はやはり公の施設を利用する行為と考えるしかないものと思います。

さらに、公営住宅も公の施設ですが、その利用関係については民間の賃貸住宅と同様の旧借家法又は借地・借家法の適用があると判例上考えられていますから、最高裁の判例はありませんが、その使用料(賃料)債権については、公法上の債権でないと考える方が素直です。

そうすると、「公の施設の使用料=公法上の債権」という公式は、維持すべきではないと考える方がよいのではないでしょうか。このような考え方に従えば、公の施設であっても、利用関係が私法上の契約関係と本質的に変わらず、かつ、民間企業、民間施設との競合がありうるものについては、その使用料は、私法上の債権と位置づけることができます。

上へ戻る

2 質問に対する回答

(1)公の施設の使用料であっても、私法上の債権であるものの存在を認めるとすれば、利用料金制を採用し、指定管理者の収入として利用料金を収受させる取扱いを変更する必要はなくなります。したがって、以下の質問は、考える必要はなくなります。

これに対して、「公の施設の使用料=公法上の債権」という公式を維持するとすれば、診療に係る債権は、公の施設の利用関係とは、別の契約関係から発生する債権ということになりますから、利用料金制の対象とはなり得ないこととなります。

(2)「公の施設の使用料=公法上の債権」という公式を維持するとすれば、診療に係る債権は、公の施設の使用料ではありませんから、利用料金制は廃止せざるを得なくなります。その場合には、指定管理者に管理委託料を支払うこととなるでしょう。
(3)「公の施設の使用料=公法上の債権」という公式を維持するとすれば、診療に関する債権は、公の施設に使用料ではなくなりますから、必ずしも条例で制定する必要はなくなります。
(4)前記(3)の場合は、診療契約に関する標準約款を条例で定めることには問題はありません。しかし、現行の条例をそのままの形で残せるかは、検討を必要とするものと思います。

上へ戻る