自治法96条1項12号の規定による議会の議決

次の各事例において、自治法96条1項12号の規定による議会の議決が必要か否かについて、ご教示ください。

1 市の処分が違法であることを理由として、行政事件訴訟法に基づく処分の取消しの訴えに国家賠償法に基づく損害賠償請求が併合して提起されました。次のそれぞれの場合で、市が上訴するときに、議会の議決が必要でしょうか。  
訴訟の全部について、市が敗訴したとき。
 
行政事件訴訟法に基づく処分取消の訴えにかかる部分についてのみ市が敗訴した場合。
 
国家賠償法に基づく損害賠償請求にかかる部分についてのみ市が敗訴した場合。
2 自治法242条の2第1項4号の規定に基づく住民訴訟において、執行機関である市長(被告)が敗訴したとき。

自治法96条1項12号は、普通地方公共団体が当事者となる訴えの提起については、議会の議決が必要である旨を規定し、訴えの提起については、1審被告事件について敗訴した場合の控訴の提起、控訴審敗訴の場合の上告の提起も含まれるものと解されています(附帯控訴につき、昭和52年12月12日行政実例があります。なお東京都では、応訴事件にかかる上訴については議会の議決を不要とする取扱いをし、裁判所においてもかかる取扱いを認めていましたが、最近、東京都はその取扱いを変更しています。)。

平成16年改正前の行政事件訴訟法は、取消訴訟の被告適格を「処分取消の訴えは、処分をした行政庁を、裁決取消の訴えは、裁決をした裁決庁を被告として提起しなければならない。」と規定していましたので、取消訴訟において、地方公共団体が当事者となることは原則としてありませんでした(なお、例外として、道路法に基づき、道路管理者が行った処分については、処分庁が地方公共団体となることがありました。)。したがって、取消訴訟においては、上訴するときに、議会の議決を必要としませんでした。実質的にも行政処分の適法性が争われているのですから、上訴審の判断を仰ぐか否かを議会に議決に委ねることは適当ではありません。

しかし、平成16年に改正された行政事件訴訟法11条は、取消訴訟の被告適格を「処分又は裁決をした行政庁(……省略……)が国又は公共団体に所属する場合には、取消訴訟は、次の各号に掲げる訴えの区分に応じてそれぞれ当該各号に定める者を被告として提起しなければならない」とし、処分取消の訴えについては「当該処分をした行政庁の所属する国又は公共団体」を、裁決取消の訴えについては「当該裁決をした行政庁の所属する国又は公共団体」を被告とする旨を規定しました。このように、行政事件訴訟法11条について、取消訴訟における被告を地方公共団体にした場合、自治法96条1項10号を改正しないでおくと、取消訴訟において上訴する場合にも、議会の議決を必要とすることとなってしまいます。今まで、議会の議決を必要としなかったにもかかわらず、行政事件訴訟法11条の改正により取消訴訟の上訴についても議会の議決を必要とする理由もなく、また、行政処分の適法性判断を議会の判断に委ねることは適当ではありません。そこで、自治法96条1項12号も、行政事件訴訟の改正にあわせて改正されました。すなわち、「訴えの提起」のあとに括弧書きで「行政庁の処分又は裁決(……省略……)に係る同法第11条第1項(……省略……)の規定による普通地方公共団体を被告とする訴訟(……省略……)に係るものを除く。」という規定を挿入し、取消訴訟の場合には、訴えの提起について議会の議決を必要としないことを明文をもって明らかにしました。

以上を前提に、ご質問に回答します。

1 取消訴訟とそれに併合された国家賠償請求訴訟

(1)取消訴訟とそれに併合された国家賠償請求訴訟のいずれにも市が敗訴した場合、取消訴訟については、上訴するについて議会の議決は必要としませんが、国家賠償請求事件については、地方公共団体を当事者とする訴訟ですから、上訴するには、議会の議決が必要ということになります。ただし、議会に上程する議案においては、事案の概要を明らかにする関係上、取消訴訟についても触れざるを得ません。
(2)処分取消の訴えにかかる部分についてのみ、市が敗訴した場合は、上訴するについて議会の議決は必要としません。
(3)国家賠償請求にかかる部分のみ敗訴した場合は、議会の議決を必要とします。

2 住民訴訟

自治法242条の2第1項4号の請求(いわゆる4号請求)の被告は、地方公共団体の執行機関又は職員とされ、地方公共団体が当事者となっているわけでありませんので、議会の議決を必要としません。なお、住民訴訟においては、1号及び3号の請求は、4号の請求と同じく執行機関又は職員が被告となりますから、上訴するときに議会の議決は必要ありません。また、2号請求については、地方公共団体が被告となりますが、これは行政事件訴訟法11条1項が準用される結果ですから(行政事件訴訟法43条1項、2項)、議会の議決は不要です。