取消訴訟に関する教示

個別法で取消訴訟を提起する際に、行政不服審査を前置しなければならない旨の規定がある場合であって、さらに、決定又は裁決をすべき期間の定めがあるときの教示については、行政事件訴訟法8条2項1号に規定する「3箇月」を個別法に規定する期間に置き換えるべきでしょうか。

平成16年に改正された行政事件訴訟法46条は、「行政庁は、取消訴訟を提起することができる処分又は裁決をする場合には、当該処分又は裁決の相手方に対し、次に掲げる事項を書面で教示しなければならない」とし、新たな教示制度を設けました。同条において、教示すべきとしている事項は、①当該処分又は裁決に係る取消訴訟の被告とすべき者、②当該処分又は裁決に係る取消訴訟の出訴期間、③法律に当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消しの訴えを提起することができない旨の定めがあるときの3事項です。

多くの地方公共団体では、行政事件訴訟法の改正を受けて、取消訴訟を提起することができる処分又は裁決をする際に教示する標準的な教示文を規則で定めています。

例えば、東京都の「行政不服審査法及び行政事件訴訟法の規定に基づく教示の文の標準を定める規則」(平成16年12月28日規則345号)では、法律に当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消しの訴えを提起することができない旨の定めがあるときの教示文として次のように規定しています。

「1 この決定に不服がある場合には、この決定があったことを知った日の翌日から起算して60日以内に、東京都知事に対して審査請求をすることができます(なお、この決定があったことを知った日の翌日から起算して60日以内であっても、この決定の日の翌日から起算して1年を経過すると審査請求をすることができなくなります。)。

2 上記1の審査請求に対する裁決を経た場合に限り、当該審査請求に対する裁決があったことを知った日の翌日から起算して6箇月以内に、東京都を被告として(訴訟において東京都を代表する者は東京都知事となります。)、処分の取消しの訴えを提起することができます。ただし、次の①から③までのいずれかに該当するときは、審査請求に対する裁決を経ないで処分の取消しの訴えを提起することができます。①審査請求があった日の翌日から起算して3箇月を経過しても裁決がないとき。②処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる著しい損害を避けるため緊急の必要があるとき。③その他裁決を経ないことにつき正当な理由があるとき。」

ご質問は、上記教示文書のうち、2①の「審査請求があった日の翌日から起算して3箇月を経過しても裁決がないとき」に関するものです。

ところで、行政事件訴訟法8条2項1号において、審査請求前置の定めがある場合でも、審査請求のあった日から3か月を経過しても裁決がないときは、裁決を経ないで処分取消の訴訟を提起できると規定しています。しかしながら、例えば生活保護法65条は、「保護の決定及び実施に関する処分についての審査請求があつたときは、50日以内に、当該審査請求に対する裁決をしなければならない」と規定し、審査請求の申立てから裁決までの期間を定めています。同様に、審査請求の申立てから裁決までの期間を定める法律として、都市計画法50条2項、地方税法19条の9第2項等の規定があります。

これらの期間の定めについては、生活保護法65条のように「前項の期間内に裁決がないときは、厚生労働大臣又は都道府県知事が審査請求を棄却したものとみなすことができる」旨の特別規定をおいている場合と、都市計画法、地方税法のように特別な規定をおいていない場合とでは効力を異にします。生活保護法の場合には、50日の期間経過により、審査請求を棄却したとみなすことができますから、50日を経過すれば棄却裁決があったものとして直ちに取消訴訟を提起することができます。

これに対し、都市計画法、地方税法のように、裁決をすべき期間の定めはあるものの、期間内に裁決がなされなかった場合についての特別な規定がない場合には、その規定は訓示規定と解されています。地方税法19条の9に関しては、下級審ですが判例があります(東京地裁昭和44年12月4日判決、判例時報610号42頁)。

いずれの場合であっても、審査請求の申立てから裁決までの期間の定めがあることにより、行政事件訴訟法8条2項1号に定められた「3箇月」という期間に変更はありませんから、教示文は原則のとおりでよいこととなります。ただ、生活保護法の場合には、さらに50日を経過した場合には、棄却裁決があったものとみなし、50日を経過した日の翌日から6か月以内に取消訴訟を提起することができる旨も教示する必要があります。