地方公共団体の公の施設の利用

地方自治法第244条第1項は、「公の施設」を「住民の福祉を増進する目的をもってその利用に供するための施設」と定義しています。この定義からすれば、地方公共団体は、その設置している公の施設を利用することができないとの結論になるのでしょうか。仮に、地方公共団体が公の施設を利用できるとした場合において、現実に公の施設を利用した場合には、使用料を支払わなければならないのでしょうか。このような場合、一般会計間にあっては使用料を支払わなくてよいが、会計が異なるときは使用料を支払うのが適当という見解を読んだことがあります。しかし、このような場合には、民法第520条本文の適用により債権・債務が消滅するため、使用料を支払う必要はないと考えるのではないでしょうか。

まず、地方公共団体自身も自ら設置した公の施設を利用することができます。

公の施設とは、例えば、公園、運動場、道路、学校、図書館、公民館、公会堂、病院、公営住宅、保育所、給水事業、下水道事業などがあります。

地方公共団体が道路や上下水道を利用できることは当然のことと思われますが、それ以外であっても利用できます。すなわち、地方公共団体の活動は「住民福祉の増進を図ること」(地方自治法第1条の2)を基本として行われますから、地方公共団体が公の施設を利用するということは、すなわち「住民の福祉を増進する目的」をもって住民の利用に供するものだからです。例えば、地方公共団体主催で、成人式や敬老のお祝いの会で市・町・村民ホールを使う場合、市・町・村民体育大会でスポーツ施設を使う場合を考えてみて下さい。これらは、地方公共団体が公の施設を利用して、住民の福祉増進のために住民の利用に供していることは明らかです。むしろ、住民個人、住民の団体が公の施設を利用する場合よりも、より多くの住民福祉の増大とより多くの住民の利用に供することができますから、公の施設の設置目的に適するといえます。昭和41年11月21日の行政実例も、県の施設である会館を利用して県が自主興業を行うことは、一般私人と同様の立場に立って会館を利用して興業を行うものとし、当然に、県は、自ら設置する公の施設を利用できることを前提としています。

通常、公の施設の設置管理条例においては、地方公共団体の長、教育委員会等に利用方法の例外を認める規定をおき、この規定に基づき、公共団体自身の優先利用を行っています。

もし、地方公共団体が、住民福祉の増進を図ることを目的としない活動を行ったとすれば、その活動そのものの適否が問われることになり、またそのような目的のために利用は、公の施設の設置目的に反し許されないこととなります。

次に、使用料については、理論上は支払うこととなりますが、各公の施設の設置管理条例において、使用料の減免を定めておくべきです。

地方公共団体は、公の施設については使用料を徴収することができ(地方自治法第225条)、使用料に関する事項については、条例でこれを定めることとされています(地方自治法第228条)。現実には、公の施設の設置及び管理に関する条例において、使用料に関する事項も規定します。その規定に、一定額の使用料を徴することができる旨の定めのみ有り、これを減免することができる旨の定めがなければ、たとえ、利用者が当該公の施設を設置している地方公共団体自身であったとしても、使用料を徴収しなければならなくなります。

ただ、使用料についての債権債務のいずれもが同一地方公共団体に帰属するため、現実には、現金が移動することはなく、会計処理上の問題となるに過ぎないこと、民法的に考えれば、債権債務が同一人に属し混同が生じているとも考えられること及び地方公共団体による公の施設の利用が、個々の住民、住民団体の利用に比して住民福祉の増進に役立つこと、使用料条例において減免の規定を設け、減免申請に基づき、減免することにより、使用料の支払義務に関する法律関係を明確にできることという諸点を考慮して、条例において減免規定をおき、公共団体自身がその設置する公の施設を利用する場合には使用料を免除するとしているのが一般的な取扱いと思われます。

このことは、一般会計と特別会計との関係、及び異なる特別会計相互間においても同様に考えることができます。