2007年 夏

利用申請を拒否する場合の教示の要否

Question

当市では、児童福祉法6条の2第3項に規定する子育て短期支援事業を、要綱によって行っています。利用対象者からの利用申請を拒否するときに、当該拒否通知書に行政不服審査法57条及び行政事件訴訟法46条に規定する教示文を記載する必要はありますか。
法令に規定されている事業を市町村長が実施する場合に、利用対象者からの利用申請行為を契約の申込みとして考えるのか、それとも行政処分を受けるための申請行為と考えるのかを悩んでいます。

Answer

1 子育て短期支援事業の概要

子育て短期支援事業は、短期入所生活援助(ショートステイ)事業・夜間養護等(トワイライトステイ)事業などの形で行われ、保護者の疾病、育児疲れや経済的理由、恒常的な残業などの場合に一定期間、児童養護施設その他の児童福祉法施行規則に定める実施施設で児童の一時的な預かりを行うことにより、児童及びその家庭の福祉の向上を図ることを目的とする事業です(児童福祉法6条の2第3項・21条の9・34条の8、児童福祉法施行規則1条ないし1条の4、平成15年6月18日付厚生労働省雇用均等・児童家庭局長通達等)。

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2 利用申請に対する決定の性質と教示の要否

児童福祉法21条の9によれば、「市町村は、児童の健全な育成に資するため、その区域内において…子育て短期支援事業…が着実に実施されるよう、必要な措置の実施に努めなければならない。」と規定し、子育て短期支援事業の実施については、市町村の努力義務としています。また、同法34条の8は「市町村は、厚生労働省令で定めるところにより、子育て短期支援事業を行うことができる。」と規定し、市町村に子育て短期支援事業を行い得る権限を付与しています。そして、同法34条の8に基づき制定された児童福祉法施行規則1条から1条の3は子育て支援事業の種類及びその内容を規定し、同1条の4は同事業を行う施設(実施施設)を規定するにとどまっています。

これの法及び省令の規定からすれば、市町村が子育て短期支援事業を行うか否か、行う場合に、どのように制度設計をするのかについては、市町村の判断に委ねられているものと解されます。したがって、子育て支援事業を行うこととした市町村が、条例を制定し、子育て支援事業の制度設計を行い、条例により、子育て支援事業の対象となる住民に対し、実施施設の利用請求権を認めることも可能ですし、また、あくまでも市町村が子育て支援事業の対象となる住民に対するサービスと位置づけることも可能です。後者の場合には、制度設計を必ずしも条例で行う必要はなく、要綱等により制度設計を行うことも考えられます。

質問者の市では、要綱に基づき子育て短期事業を行っているとのことですから、同事業の対象者に対し、実施施設の利用請求権を認めたわけではなく、同事業の対象者から申込みを受けた場合には、児童福祉法施行規則及び要綱に定める要件を充足する申込みに対しては、施設の余裕がある限り、承諾をすることにより、契約が成立すると考えるべきです。

これに対し、条例を制定し、同事業の対象者に対し、施設の利用請求権を認めた場合には、実施施設の利用は、利用者の申請に対する市町村長の利用決定によって可能となりますが、市町村長の決定は、条例に基づく優越的な地位に基づき、条例上認められた実施施設利用権を具体化ないしは制限するものとなりますから、処分(行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(行政不服審査法2条1項・行政事件訴訟法3条2項))に該当します。したがって、当該(却下)決定は、不服申立ての対象となり、行政不服審査法57条・行政事件訴訟法46条に定める不服申立ての教示の対象となります。

実際上の取扱いでは、実施施設の利用決定(却下)通知書に教示文を記載しない例もみられるようですが、行政不服審査法・行政事件訴訟法上、教示の必要があると解されます。

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3 教示に誤りがある場合等の効果

教示がなされなかった場合、または、誤った教示がなされた場合であっても、当該決定処分自体が取り消されうるものとなったり、無効となったりするものではありませんが、行政不服審査法においては、誤って法定の期間よりも長い期間を審査請求期間として教示した場合、その教示された期間内になされた審査請求は法定の期間内にされたものとみなされます(行政不服審査法19条)。行政事件訴訟法には同様の規定はありませんが、必要な教示がなされなかった事実は、出訴期間等の訴訟要件を欠いた場合の救済の必要性に関する判断において、重要な要素になると解されています。

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4 近時の動き等

なお、近時の裁判例においては、児童福祉法24条1項(保育所における保育)に関して、保育園への入園承諾の義務付けが肯定された事例や(東京地判平成18・10・25。仮の義務付け決定は平成18・1・25)、従来、行政指導であると解されてきた勧告が抗告訴訟の対象となる行政処分であるとされた事例(最判平成17・7・15)などがあり、児童福祉等の具体的場面における処分の適法性や、処分性一般に関する裁判例の動きには留意が必要です。

また、平成18年3月に公表された、行政不服審査制度研究会による「行政不服審査制度研究会報告書」においては、利益処分の義務付けの裁決の明文化や、「教示等申立てを利用しやすくする措置」として行政指導等についても処分と同様に教示を義務付け、教示の具体的方法についてガイドラインを示すことなどが提言されており、今後の法令等の改正を含めた動向についても、留意が必要であると考えられます。

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