2007年 冬

破産手続と高額療養費資金貸付金の清算について

Question

当市では、国民健康保険の被保険者が高額療養費(国民健康保険57条の2)の支給対象となる療養を受けたものの、生活困窮により医療費の支払いが困難な場合、被保険者の属する世帯の世帯主に対し、その高額療養費の9割を限度額として、医療費の支払いに充てるための資金貸付を条例によって行っています。

貸付金の償還は、市長が、貸付申込み時に被保険者から高額療養費の受領に関する権限の委任を受け、後日高額療養費の支給決定(手続き上、貸付申込みの約3か月後に支給決定されます。)がされた際、当該高額療養費と貸付金とを清算することにより行っています。貸付金との清算後、支給決定された高額療養費の残り1割は、本人の銀行口座に直接振込んで支給しています。

市が貸付をした後、貸付を受けた本人が、破産してしまいました。破産手続開始決定後に、高額療養費の支給決定がされ、市が高額療養費と貸付金とを清算し、かかる清算通知を本人宛に送付したところ、破産管財人から清算することは破産法上問題があるのではないかとの指摘を受けました。高額療養費と貸付金とを清算することはできないのでしょうか?
(1)の回答へ
貸付金との清算後の高額療養費の残り1割は、破産者本人が受給することができるのでしょうか?それとも破産管財人の管理下におかれるのでしょうか?
(2)の回答へ
破産手続開始決定後、当該破産者が再度、高額療養費資金貸付の申込にきました。破産手続中でも新たに高額療養費資金を貸付けることはできるのでしょうか?
(3)の回答へ

Answer

1 設問①について

貸付金と高額療養費を清算しても破産法上問題はないと考えます。

高額療養費を受ける権利は、差し押えることができないとされています(国民健康保険法67条)。このような差押禁止財産は、破産法上も破産財団に属しない自由財産とされており(破産法34条3項2号)、破産者が、破産手続によらず自由に処分してよいものとされています。破産管財人に対しては、この旨、説明すればよいでしょう。

なお、自由財産であっても、破産者との関係で貸付金の清算が弁済の強制にあたる場合には、かかる清算(弁済)は許されないとする最高裁判例があります(最高裁判所平成18年1月23日判決、民集60巻1号228頁)。しかし、本人が貸付申込時に、高額療養費の受領に関する権限を市長に委任し、後日支給決定される高額療養費と清算されることを十分承知の上、貸付を申込んでいるのであれば、弁済の強制にはあたらない、すなわち任意の弁済と解されますので、この点についても特に問題はないと解されます。

上へ戻る

2 設問②について

設問①でも回答しましたとおり、高額療養費など保険給付を受ける権利は差押禁止財産です。したがって、清算後の残り1割についても破産財団に属しませんから、破産管財人はこれを管理することはできません。

もっとも、1割相当額が、破産手続開始前に本人の銀行口座に振込まれた場合には、その他の預金債権と同様、破産財団に組み入れられ(破産法34条1項)、破産管財人の管理下におかれることになります。

上へ戻る

3 設問③について

条例上、破産者が高額療養費資金貸付申込の欠格事由とされていない限り、従来どおり、新たに高額療養費資金貸付けを行い、その後清算しても特に問題はないと考えます。

破産手続開始決定後に、高額療養費の9割相当額までの貸付をしても、その貸付金が医療費の自己負担分の支払いに充てられる限りにおいては、後日決定・支給される高額療養費による清算、回収が可能です。借受申込人が破産者であっても、貸付金として交付された金員が他の目的に費消されてしまう恐れがあると判断される場合以外は、従来どおり、貸付けをしても差支えないものと解されます。

上へ戻る