法定外公共用物の時効取得と所有権保存登記

当市では、平成16年度に、国から譲与された法定外公共物の適正な管理を行うべく、順次、官民境界の確定、所有権保存登記等の手続を行っています。その上で、すでに、法定外公共用物として機能しておらず、かつ、将来的にも公共用物として活用する必要性がないものについては、隣接土地所有者に買い取りを要望しているところです。ところが、官民境界の立ち会いには、協力してくれた住民の方が、昭和44年から、法定外公共用物である赤道を、所有の意思をもって、自宅の敷地として使用しており、使用している土地の範囲も万年塀によって、明確になっているから、時効により赤道の所有権を取得しているとして、当市に対し、無償で、所有権を移転するように主張して、買い取りを拒否しています。このような場合、当市としては、どのように対応すればよいでしょうか。なお、当該赤道については、官民境界を確定した後に、当市の名義で、表示登記及び所有権保存登記は完了しています。

まず、法定外公共用物について、民法の時効取得の規定が適用されるか否かについて、判例は「公共用財産が長年の間事実上公の目的に供されることなく放置され、公共用財産としての形態、機能を全く喪失し、その物の上に他人の平穏かつ公然の占有が継続したが、そのため実際上公の目的が害されるようなこともなく、もはやその物を公共用財産として維持すべき理由がなくなった場合には、右公共用財産については、黙示的に公用が廃止されたものとして、これについて時効取得の成立を妨げないとするのが相当である。」(最高裁昭和51年12月24日判決。民集30巻11号1104頁。判例時報840号55頁)としています。したがって、法定外公共用物についても、民法の取得時効が成立する余地があります。

ご質問の事例においては、赤道を自宅の敷地に取り込んでいたというのですから、上記判例によれば、時効取得が成立していると判断される可能性が極めて高いものと考えられます。

次に、不動産を時効取得した者と、時効完成後に所有権の移転登記を受けた者との関係について、判例は「私権の目的となりうる不動産の取得については、右不動産が未登記であつても、民法177条の適用があり、取得者は、その旨の登記を経なければ、取得後に当該不動産につき権利を取得した第三者に対し、自己の権利の取得を対抗することができないものと解される」(最高裁昭和57年2月18日判決。判例時報1036号68頁)としています。本件においては、占有の開始が昭和44年ということですから、平成元年には、住民の方は、赤道を時効取得していることとなります。したがって、国から当該赤道の譲与を受けた市は、上記判例にいう「取得後に当該不動産につき権利を取得した第三者」となりますから、住民の方は、市に対して、登記なくしては、その所有権を主張(対抗)できません。反対に、市は、既に所有権保存登記を行っておりますから、住民の方に対し、市が赤道を所有していることを主張(対抗)することができます。

最近、名古屋地方裁判所で、類似事案について、住民の地方公共団体に対する所有権移転登記手続き請求を棄却する判決が出ています(平成19年3月20日判決。判例地方自治294号77頁)。ただし、この事案では、被告となった地方公共団体は、未だ表示登記及び保存登記もしていません。その意味で、被告となった地方公共団体も原告に対し所有権を主張できない関係になります。

以上のとおりですから、市としては、住民の方に対し、仮に時効取得が成立していたとしても、時効により取得した所有権は、時効取得後に所有権保存登記を行った市に対し、主張できないことを説明し、買い取りを説得してください。